櫻姫抄乱
 ~散りゆく華の如く~

 

 一章 疑心 2 

 

 

 

さくらはふぅ…と小さく息を吐き、障子の戸を開け、外を眺めた

庭には満開の桜がさらさらと舞っていた

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

『桜姫』

 

そう呼ばれていた事を思い出す

 

もう一度、息を吐きやっぱり部屋に戻ろうと踵を返したその時だった

 

「お、やっぱりここに居たか」

 

不意に呼ばれ振り返ると、赤褐色の髪をした青年が手を振りながらこちらに向かって来ていた

 

「さくら、ちょっといいか?」

 

青年はにこっと笑いながらさくらに話しかけた

 

「・・・・・・・・・・・・?」

 

さくらはきょとんとし、大きな真紅の瞳をぱちくりさせた

 

誰・・・・・・だったかしら・・・・

 

思い出そうとするが、思い出せない

 

さくらが少し困ったように、眉を寄せると青年は何か気が付いたのか

ちょっとびっくりした様な表情をした後、苦笑いを浮かべて

 

「さくら、もしかして俺の事忘れてる?」

 

「あ・・・・えっと・・・・・・

 

さくらは気まずそうにもごもごと口を動かし

上目使いでちらっと青年を見て

 

「お姿は覚えてますけど、名前は・・・・・・」

 

「ああ、名前が思い出せないのか」

 

青年は気にした様子も無く、にこっと笑った

 

「左之助だよ、 原田左 之助」

 

原田はニッと笑いながらもう一度自己紹介をした

さくらは、機嫌を損ねてしまわないか心配だったが、原田にはそんな様子も無くほっとする

 

「憶えたか?」

 

「・・・・・・原田、さん」

 

「そうそう、左之助でも良いぜ」

 

原田は機嫌を悪くした様子も無く、ニッと笑って人差し指を立てってそう言った

 

「・・・・・・その、原田さんは何かご用ですか?

 

さくらは原田の発言をあっさり流すと、本題を切り出した

原田は「あ!」と思い出したようにポンッと手を叩き

 

「そうだ、お前全然飯食ってないんだって?」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

さくらは答えなかった

答える代わりに、少し目を伏せ

 

「別に・・・・食べなくても問題ないですから・・・・・・」

 

それに、食べてしまうと……

 

 

「馬鹿野郎! 食わないで良い訳あるか!!」

 

 

ビクッとさくらが肩を震わせ、目を瞑った

いきなり原田に怒鳴られた

 

さくらは、そっと目を開け、原田を見た

原田は怒っているのか、顔を怒りの形相に変え、さくらを見ていた

 

「・・・・・・・・・・・・っ」

 

さくらが一瞬怯えた様な表情になる

 

原田はふーと息を吐き

 

「いや、怒鳴って悪い」

 

手を挙げ、自分を落ち着かせる

原田は少し、怯え気味なさくらを優しく促すように

 

「でも、飯は食わないと駄目だぜ。 何たって飯食っとかないと人間動けなくなるし、生きていけないからな。 体調も体力も落ちる、そんなとこを狙われてもしてみろ、ひとたまりもない。 戦えるものも戦えないからな」

 

「・・・・・・私は戦わないわ」

 

「それでも、だ。 世の中には食いたくても食えない奴だって居るんだぞ? 食える環境があるだけ感謝するべきだ」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

原田の言う事は理に叶っている

間違ってない

今の時世 食べる事も叶わず死ぬ者もいる

食する事が出来ると言うのは、素晴らしい事だ

それはさくらだって分かっている

でも――――

 

一口、食を共にしてしまえば・・・・・・

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

さくらはギュッと着物の裾を掴んだ

そして、目線を原田から逸らし

 

「別に、お腹空いてはいませんから・・・・・・」

 

と言い掛けた時だった

小さく控えめだが何かの音が鳴った

 

「・・・・・・・・・・・・っ!」

 

かぁっとさくらが赤くなり、パッとお腹を押さえた

 

「こ・・・・これは・・・・・・! そのっ!」

 

原田は一瞬きょとんとしていたが、次の瞬間

 

「ぷ・・・はっ・・・・はははははははは」

 

「わ・・・・笑わないで下さい!!」

 

さくらは茹でたこの様に益々赤くなり抗議した

原田はお腹を抱えて、半分涙目になりながらひーひー言っている

 

「これは・・・・! しょ・・・消化した音で・・・・! 決してお腹が空いている訳ではっ・・・・・・!!」

 

言い訳にも苦しかった

 

「原田さん!!」

 

「あ、悪い悪い。 いや、正直な腹だな」

 

まだお腹を抱えながら、原田は片手を上げて謝罪した

 

さくらは唇を尖がらせながらむっとして原田を睨んだ

原田はくすくす笑いながら、「悪い悪い」と言いつつぽんぽんとさくらの頭を叩いた

そして、懐から包みを取り出すとさくらの手に乗せた

 

「ほら、これ食えよ」

 

「ですから! 私は――――・・・・っ!」

 

「安心しろ、店で買ってきたものだ。 毒なんて入ってねぇぜ?」

 

「・・・・・・別に、毒の心配をしている訳では・・・」

 

そう言って、じっとさくらは手の中にすっぽり収まっている包みを見た

 

「何にも食べないで倒れられちゃ叶わねぇからな」

 

原田はぽんぽんっとさくらの頭を叩くと、「じゃぁな」と手を振って踵を返した

 

「あ・・・・・・」

 

さくらが声を掛けようとするが、その言葉を待たずに、原田は行ってしまった

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

さくらは貰った包みをじっと眺めた

部屋に戻り、そっと包みを開ける

中には粽が3つ入っていた

 

本当は食べたくなど無かった

食欲もない

でも、さくらの身体は食べ物を欲していた

再びお腹がきゅ~と鳴る

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

さくらはじっと粽を眺め、1つ手に取った

 

これは、仕方なくなのだと自分に言い聞かせる

買ってきた物だし、皆と一緒の物を食べてる訳じゃないわ

 

笹を取ると中の餅が姿を現した

それをそっと口に運ぶ

一口 それを食べた

 

「・・・・・・美味しい・・・」

 

何日ぶりかに食べる食事はとても美味しいものだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

原田さんいらっしゃるかしら・・・・

 

さくらは屯所内を当ても無く歩いていた

本当は、知らない隊士達に見つかると面倒だから、屯所内は歩き回らない(そもそも部屋から出ない)様に土方に申し付かっていたのだが、目的の人物が都合よく部屋に現れるとも限らず、さくらは仕方なく探しに来たのだ

隊士に見つかりそうになりながらも、何とか今の所誰にも見つかってない

 

さっき言いそこなったお礼を言おうと思ったのだが

予想以上に難攻していた

 

居ない・・・・・・

 

原田所か幹部連中の姿すら見当たらなかった

 

どこかに集まっていると考えるのが妥当だろうか

そうなると、原田もそこに居る可能性が高かった

 

土方さんはまだ大阪だよね・・・・・・

 

ならこうして歩いている所を見咎められてもそこまで怒られないかもしれない

そう思いながら、大部屋に差し掛かった時だった

 

「それは本当なのか!?」

 

不意に探し人の声が聞こえて来た

 

あ・・・・この部屋にいらっしゃるのかしら・・・・・・

 

さくらはその部屋に入ろうとして、思わず、身を隠した

部屋には何ともいえない緊迫した空気が漂っていたのだ

幹部連中が一同に集まり、皆険しい顔をしている

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

さくらはごくっと息を飲み、そっと部屋の中を覗いた

 

「大阪に居る土方さんから手紙が届いたんだが、山南さんが隊務中に重症を負ったらしい」

 

「・・・・・・・・・・・・!?」

 

井上さんの言葉に部屋中の人が一斉に息を飲んだ

 

さくらは、じっと聞き耳を立てた

 

どうやら、大阪のある呉服屋に浪士達が無理矢理押し入ったらしい

駆けつけた山南達は何とか浪士達を退けたらしいが、その時に怪我を負ったらしい

 

「それで、山南さんは・・・・・・?」

 

「相当の深手だと手紙には書いてあるけど、傷は左腕との事だ。 剣を握るのは難しいが、命に別状はないらしい」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

命に別状はない

その言葉にほっとする者は居なかった

 

皆、厳しい表情のまま押し黙っている

 

嫌な空気だった

 

左腕……

 

さくらはギュと自らの左腕を掴んだ

 

「数日中に屯所に帰り着くんじゃないかな。 ・・・・・・それじゃぁ、私は近藤さんと話があるから」

 

そう言って、井上は皆に背を向けた

そのまま、部屋を出て行く

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

山南は左利きではない

だから、不便はあるだろうが剣を握れないという事にはないらないのではないだろうか

さくらはそう思った

だが、重苦しい、沈黙を破った斎藤の言葉は違った

 

「刀は片腕で容易に扱える物ではない。最悪、山南さんは二度と真剣は振るえまい」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

その瞬間、皆の憂うものが何か分かった気がした

 

山南は命は助かったのかもしれない

だが、剣を握れない山南は・・・・・・武士としては死んでしまったのかもしれない

 

「片腕で扱えば、刀の威力は損なわれる。そして、つば迫り合いになれば確実に負ける」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

両腕で刀を持つ人が相手なら、そう簡単に片腕で押し勝てる筈がない

 

ふぅ・・・・と沖田がため息を付いた

 

「薬でも何でも使ってもらうしかないですかね。 山南さんも納得してくれるんじゃないかなぁ」

 

薬って・・・・まさか・・・・・・・・・

 

 

 

「駄目!!」

 

 

 

思わずさくらは飛び出していた

皆の視線が一気にさくらに注がれる

 

「あの薬を使うんでしょ!? あれは使っては駄目よ!!」

 

そこまで言い掛けてハッとする

 

しまった・・・・っ! 私はまた余計な事を・・・・!?

だが、返って来たのは想像とは違う言葉だった

 

「だよなぁ~流石にまずいよなぁ~」

 

藤堂がうーんと唸る

 

「総司。 ・・・・・・滅多な事言うもんじゃぁねぇ。 幹部が『羅刹』入りしてどうするんだよ」

 

永倉が沖田を窘める様に言った

 

「ら、せつ・・・・・・?」

 

さくらは思わず耳を疑った

 

「な…なにを言ってるの・・・・・・?」

 

意味が分からない

 

まるで、”あれ”を何かの常備薬の様に言うその”普通”に、眩暈がした

すると、藤堂が空中に指で文字を書く真似をしながら

 

「ああーー・・・・・・、『羅刹』ってのは――――」

 

 

 

 

「平助!!」

 

 

 

 

「!?」

 

さくらは完全に硬直してしまった

原田は叫ぶと同時に、問答無用とばかりに、突如藤堂を殴り飛ばしたのだ

 

「いってぇ……」

 

「ちょ…原田さん!?」

 

さくらは躊躇いがちに藤堂と殴った原田を見た

ふぅ・・・・と永倉が疲れた様に息を吐いた

 

「やりすぎだぞ、左之。 平助も、こいつの事考えてやってくれ」

 

いつに無く真面目な顔をした永倉は、そう言ってさくらに視線を向けた

 

「・・・・・・悪かったな」

 

原田が短く謝ると、藤堂は曖昧な苦笑いを浮かべた

 

「いや、今のはオレも悪かったけど・・・・・・。 ったく、左之さん直ぐ手が出るんだからなぁ」

 

今のはかなり痛そうだった

それが日常茶飯事であるかの様な皆の反応に、さくらは戸惑いを隠せなかった

 

「さくらちゃん。 今の話は君に聞かせられるぎりぎりの所だ。 そりゃぁ、さくらちゃんはもしかしたら俺等よりも詳しくあれについて知ってるかもしれぇ。 でも、知らない事もある筈だ。 だから、これ以上は教えられねぇんだ。 気になるだろうけど、何も聞かないでくれ」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

さくらは何も答えなかった

 

何だか、釈然としなかった

1人1人皆を見回すが、誰1人話してはくれなさそうだった

 

「『羅刹』っていうのは、可哀想な子達の事だよ」

 

不意に聞こえたのは、沖田の冷たい声だった

彼の瞳は、底冷えするほど暗い色をしていた

 

何も、言えなくなってしまったさくらに、永倉が取り成す様な口振りで

 

「お前は何も気にしなくていいんだって。だからそんな顔するなよ」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

自分は今、どんな顔をしているのだろうと 思った

さくらは俯き、目を伏せた

 

自分は別に新選組隊士ではない

新選組の秘密なんて知らなくていい

知れば、引き返せられなくなる――――

 

でも、多分私は知っている

恐らく、あの事・・・・・・

それがこの人達の”秘密”なのだと気が付いている

 

だが、さくらは何も口にしなかった

 

「忘れろ。 深く踏み込めば、お前の生き死ににも関わりかねん」

 

斎藤の言葉にさくらは唇を噛んだ

 

越えられない壁――――

皆との間にある、高い壁がある事を実感する

 

いや、違う

壁を作っているのは己だ

私が 私自身が壁を高くしている・・・・・・

 

その壁は乗り越えられそうにないほど高く、打ち破れそうにないほど厚い物だった――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

さくらは布団に入りながらぼぅ…と考えていた

頭の中を、色々な事がぐるぐると回っている

 

「らせつ・・・・・・」

 

さくらが存在を知っているのは『羅刹』という”まがい物”だった

でも、藤堂の言い分から察するに新選組にはその、『羅刹』が やはり存在するらしい

 

脳裏に浮かぶのは、助手をしていた時の”先生”の苦悩に満ちた顔だけだった

”先生”はいつも苦しんでいた

『こんな人道に外れたことをするのが、”幕府”の意向なのか――――・・・・・・』 と

 

・・・・・・・・・・・・

「・・・・・・やめよう」

さくらは考えるのをやめてもそっと布団に潜った

 

もう、これ以上余計な事は考えたくなかった

今の現状でさえ、打開出来てないのにこれ以上余計な事を知れば、本当に命に関わりかねない

 

さくらは はぁ・・・とため息を付いた

 

「我が身を呪うわ・・・・・・」

 

そう呟いてさくらは眠りの淵に落ちていった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さくらは桜の大樹の前に来ていた

空には真っ白な満月が出ている

 

さくらはつと、桜の大樹を眺めた

 

風が吹き、桜の花びらが舞う――――

サラッ・・・・とさくらの長い漆黒の髪が揺れた

 

何処からか沈丁花の香がした

 

不意に、ああ・・・・これは夢だ と実感する

 

今、新選組に囚われている身の自分がこんな所に来れる筈が無い

 

さくらは、そっと、桜の大樹に触れた

とくん とくんと桜の鼓動を感じる

 

「さくら」

 

不意に誰かに呼ばれた

 

「あ………」

 

その声は懐かしい彼の人を思い出させた

いつも、幼き頃からさくらの傍に居て、兄代わりであり、友であり、最愛の人

 

「千景!!」

 

さくらは声のする方に駆け出していた

 

「千景? 何処・・・・・・?」

 

確かに、彼の声がした 気がした

だが、何処を探しても彼の人の姿を見つける事は出来なかった

 

「・・・千景・・・・・・」

 

何処なの・・・・・・

 

やはり、そう都合よく現れてはくれないらしい

夢ですら 会えない

 

涙が 出そうになる

さくらはギュッと我慢し、瞳を擦った

 

「――――・・・・・・」

 

不意にまた声が聞こえた

 

「千景・・・・・・?」

 

声のした方を見た

ザァ・・・・と桜が一斉に散り始めた

 

誰かが近づいてくる

顔が・・・見えない・・・・・・

 

桜が視界を遮り、前がはっきり見えなかった

さくらは、手で桜を遮った

 

「――――・・・・・・土方・・・さ、ん」

 

そこに居たのは土方だった

脇には愛刀・和泉守兼定

鳳凰と牡丹の意匠

黒く艶光したそれは異質な物に見えた

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

土方はそのまま、さくらの居る桜の大樹の所まで歩いてきた

 

「お前・・・・何をしている」

 

「え・・・? 何って・・・・・・」

 

何と言われても困る

さくら自身自分の意志でここに居る訳ではないのだから

 

「俺は、屯所から出るなと命じた筈だ」

 

「・・・・・・それは・・・・」

 

夢の中でも出てはいけないのだろうか

 

どうしていいのか分からずさくらが目を伏せたその時だった

不意に、土方の手が伸びてきて、さくらの細い首を掴んだ

 

「・・・・・・・・・・・・!?」

 

ぐっとそのまま、桜の大樹に押し付けられ、持ち上げられru

足が宙に浮いた

 

「・・・・・・う・・・ぁ・・っ」

 

ぎりぎりと締め上げられ、さくらは苦しさのあまり、土方の着物の裾を握り締めた

もう片方の手で、土方手を掴み、爪を立てる

 

じゃりっと爪が皮膚に食い込むのが分かった

血の匂いがする

 

「そんなに俺が嫌いか」

 

土方の悲愴な押し殺したような声が聞こえて来た

 

「・・・・・・? ・・・え・・・・・・っ?」

 

な・・・に・・・・・・?

 

思考が纏まらなかった

不意に、土方の手が緩み、ふっと手が離れる

 

地に足が付き、急に呼吸が出来る様になる

 

「・・・・・げほっ・・・・・・げほ・・・・っ!」

 

さくらは急に入って来た空気に驚き、咳き込んだ

涙目になりながら土方を見る

 

土方はふっと苦しそうに笑みを作り、そっとさくらの方に手を伸ばしてきた

また首を絞められるのかと思い、さくらがビクッとする

だが、土方の手はさくらの髪に触れ 止まった

 

「そんなに、俺に触れられるのが嫌か・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・?」

 

一瞬、土方の悲しそうな顔が目に入った

 

不意に、さくらの顔に影が落ちた

 

「ひじ・・・・・・」

 

名を呼ぼうとし、それは遮られた

 

土方の唇によって――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――・・・・・・っ!!」

 

ガバッとさくらは飛び起きた

はぁはぁと肩で息をし、心臓がバクバクいっている

 

「な、に・・・・・・今の・・・・」

 

え・・・・・・え??

 

ハラッと髪が顔に掛かった

手が汗でぐっしょり濡れている

 

小窓の外からそれとは裏腹に小鳥に囀りが聴こえて来た

 

「夢・・・・・・よ、ね・・・・・・・・・・?」

 

あまりの衝撃に、夢か現か混乱する

 

え? 私―――・・・・土方さんと・・・・・・・・・・・・っ

 

かぁーと一気にさくらの頬が赤くなった

口を押さえ布団に蹲る

 

な、なんて夢を見てるのよ・・・私・・・・・・

 

あのひとと? ありえないありえないと自分に言い聞かせる

 

「・・・・・・起きよう」

 

顔を洗ってすっきりしよう

 

顔を洗って部屋に戻る途中それは起きた

最初の日以降、一度として会わなかった土方が、いつの間に大阪から戻ったのか、向こうからやってくるではないか

 

「……………っ」

 

どきっとしてさくらは慌てて隠れる所を探した

だが、ここは廊下 隠れる所など何処にもない

 

どうしよう・・・来ちゃう・・・・・・

 

さくらはくるっと向きを変え、来た道を戻ろうと決心したその時だった

 

「お前・・・人の顔見るなり、向きを変えるたぁどういう了見だ」

 

「あ・・・・・・」

 

いつの間にか、土方が既に背後まで来ていた

 

「あ・・・えっと・・・その―――・・・・・・」

 

さくらはしどろもどろになりながら、視線を泳がせた

 

「・・・・・・・・・・・・?」

 

土方が訝しげにさくらを見る

 

「なんだ、おめぇは挨拶の1つも出来ないのか?」

 

そう言われて、朝の挨拶をしていない事に気が付き、さくらは慌てて頭を下げた

 

「あ・・・お早う・・・・・・御座います」

 

「おう」

 

短い返事が返ってくる

「・・・・・・・・・・・・」

 

沈黙が重い・・・・・・

 

さくらはちらっと黙ったまま何も言わない土方を見た

不意に、目が合う

 

「・・・・・・・・・・・・っ」

 

不意に夢の事を思い出し、かぁーとさくらの頬が赤くなった

 

「・・・・・・ん?」

 

土方が不思議そうにさくらを見た

 

「何だ? お前熱でもあるのか?」

 

スッと手を伸ばしてくる

 

「さ・・・・触らないで!」

 

さくらは咄嗟に、反射的に彼の手を弾いた

土方が驚いた顔をする

 

「あ・・・・・・」

 

しまったっと思うがもう遅い
さくらは視線を逸らし

 

「し・・・失礼します!」

 

そう言って、足早に土方の横をすり抜けようとしたその時だった

不意に視界が歪み、揺れた

 

――――・・・・・・っ!?

 

「おい!」

 

土方の声が遠くに響く様に聞こえる――――

 

あ、れ・・・・私・・・・・・・・・

 

ぐにゃっと視界かは揺れ 目で追うものが逆さに見えた

意識が 遠のいていく――――

 

 

 

「さくら!」

 

 

 

土方の声だけが、木霊する様に聞こえていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夢主、ぶっ倒れました

原因は、アレです

そりゃぁ、何日も食べなかったら倒れるよねー

 

夢の土方さん・・・何つー事を!!

突っ込みはご遠慮下さい(-_-)

 

 

2009/06/23