CRYSTAL GATE

  -The Goddess of Light-

 

 

 第四夜 霧の団 7

 

白亜宮の宮殿内をとたとたと、小さな足音が響き渡る

ゆらゆらと揺れる母親似のストロベリー・ブロンドの髪がゆれる

 

「あら、姫様」

 

ふと、珍しく黒秤塔から出てきていたヤムライハが彼女を見て、そう呼ぶ

すると、その小さな少女は、琥珀色の目をきらきらさせて

 

「ヤム!!」

 

ヤムライハを見つけた少女が、そう叫んで嬉しそうに駆け寄る

どんっと、ヤムライハにしがみ付くと

 

「ママ、知らない?」

 

「まぁ、エリスですか? エリスなら確か先ほど庭先でシンドバッド王と一緒に―――――」

 

そこまで言いかけた瞬間、少女が「えええ~~~~~!!!」と叫んだ

 

「もう!! また、パパがママを独り占めしてるのね!!」

 

むぅ・・・・・・! と、少女は頬膨らませた

 

「文句言ってやるんだから!!!」

 

「あ、姫様!?」

 

ヤムライハが少女を止めようとしたが、少女はあっという間に行ってしまった

ヤムライハは小さく息を吐くと、「姫様、1人では危ないです!」と、言って慌てて後を追い掛けた

 

ほどなくして、白亜宮の中央庭園に続く、柱の陰に少女を見つけた

彼女は、何かをじ―――――と、見ていた

 

「姫様?」

 

ヤムライハがそう話しかけると、少女が小声で「し―――」と人差し指を口に当てて言った

 

「?」

 

不思議に思ったヤムライハが首を傾げつつ、少女の見ている方を見ると―――――

 

そこには、中央の噴水の横に座って片手で水面に触れている、少女と同じストロベリー・ブロンドの髪の美しい女性がいた

 

エリスティアだ

 

白いドレスに、そのドレスから垣間見える美しい四肢

そして、柔らかなアクアマリンの瞳が彼女の美しさを一層引き立てていた

 

ふと、エリスティアが何かに気付いた様に、顔を上げると

視線の先からシンドバッドが歩いてきていた

 

そのままエリスティアの柔らかな髪に手を添えると、そっと、彼女の髪を口付けた

そして、何気ない仕草で彼女を自身の膝の上に座らせると、そのまま彼女の唇に自分の唇を重ねた

 

「(わ・・・・・・っ)」

 

思わず、ヤムライハが見てはいけないものを見た様に、手で顔を覆う

だが、少女は じ――――と、難しそうな顔をしてその様子を見ていた

 

「ひ、姫様、行きましょ―――――」

 

ヤムライハが「行きましょう」と言い掛けた瞬間――――――

 

 

 

 

「パパ! ママ!!!」

 

 

 

 

そう叫ぶな否や、エリスティア達の方へ駆けっていった

 

「ひ、姫様!!!」

 

ヤムライハが止める間もなかった

だが、少女に気付いたシンドバッドがくすっと笑みを浮かべ、来い来いと手招いてきた

それに気づいたエリスティアが、少女の方を見る

 

そして、そのアクアマリンの瞳に少女を捕らえると、やわらかく微笑み―――――

 

「――――――」

 

彼女の名を呼んだ

名前を呼ばれた少女は、嬉しそうの顔を綻ばせ

 

「ママ!!」

 

そう叫びながらエリスティアに抱き付いた

 

「どうしたの? ―――――」

 

エリスティアが腕の中の少女に語りかける

すると、少女はぎゅ~~~と、エリスティアにしがみ付いたまま

 

「パパばっかりずるい!!」

 

そう言って、シンドバッドの方を見た

すると、シンドバッドは「はは!」と、声を上げて笑いながら

 

「―――――、それは仕方ないだろう、パパはママが大好きなんだ」

 

そう返すと、負けじと少女が

 

「私の方が、ママの事好きだもん!!」

 

そう言って、ぎゅぎゅ~~と、エリスティアにしがみ付く手に力を籠める

見兼ねたエリスティアが、少女の頭を撫でながら

 

「もう、2人とも訳の分からない、喧嘩はやめて頂戴」

 

そうなだめるも―――――

逆効果だったのか、少女とシンドバッドの取り合い(?)はヒートアップしていき――――・・・・・・

 

気が付けば、ギャラリーがあっという間に増えていて

 

「姫様いいぞ――――!!」

 

とか

 

「王も頑張れ――――!」

 

などと言う始末である

 

半ば、勝者の商品扱いになったエリスティアが、呆れた様に溜息を洩らしていた

 

いつも見る

いつものやり取り

 

この時間がいつまでも続けばいいと―――――

そう―――――願いそうになる

 

けれど

 

 

 

 

『忘れるな―――使命を果たせ』

 

 

 

 

誰かも分からない

男の声が脳裏に響いた

 

そう―――――

わたし、は・・・・・・・・・・

 

 

 

『君は、“ルシ”だ。 全てを“知る者”であり、“全ての源”でもある――――』

 

 

 

分かっている

私は、“ルシ”

 

私は、“エリスティア”でもあり、“ルシ”でもある

この命は、全て――――――

 

 

 

 

――――― 誰かのものにはなってはならない ・・・・・・・・・・・・・・・――――――

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

ゆっくりと、目を開けると

見覚えのある天蓋が視界に入った

 

エリスティアは、重い身体を何とか起こす

そして、掛けられていたシーツを身にまとうと、ベッドから立ち上がった

 

辺りはしん・・・・・・としていて、静かな部屋に虫の鳴き声だけが聞こえる

 

「・・・・・・・・・シン?」

 

部屋を見渡してみるが、シンドバッドの姿はなかった

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

エリスティアは、そのままの恰好で大きなバルコニーの方を見た

空は既に日が沈み、星がきらきらと瞬いている

 

バルコニーに出てみると、街の明かりがいたるところに灯されていた

 

そうだわ・・・・・・ここは・・・・・・・・・

 

シンドリアではない

バルバッド――――――

 

かつて、賢王と名高い ラシッド・サルージャ王が治め栄えさせた 大海洋都市国家・バルバッド王国

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

さぁ・・・・・っと 風が吹き、エリスティアのストロベリー・ブロンド髪を揺らした

 

エリスティアが、小さく息を吐き そのままバルコニーにもたれ掛かる

そして、頭を押さえると、また息を吐いた

 

さっきの夢・・・・・・

 

夢にしては、あまりにも“鮮明”過ぎた

自分と同じ髪の色に、シンドバッドの瞳の色――――

 

名前は・・・・・・思い出せないが、あの幼い少女は自分たちの事を「パパ」「ママ」と呼んでいた

 

ありもしない夢だ

 

そう――――あり得る筈のない、夢だった

きっと、シンドバッドの言葉に影響されただけに違いない

 

「・・・・・・急に、あんな事言うから―――――・・・・・・」

 

脳裏に浮かぶ――――彼の言葉が

 

 

『お前が望めは、その“夢” は、直ぐに “現実” に変えてやれる――――俺は、待っているんだ、エリス』

『ああ、何なら今すぐに叶えてやってもいい―――――。 俺は、お前と共に歩む未来しか見えない。 お前が願えば、すべて“現実”になる。 ――――そうだろう?』

 

 

そう――――彼の言う事は正しい

私がそう望めば・・・・・・・、叶えられない“願い”ではないのかもしれない――――

 

けれど

 

それは、望めない

望んではいけない

 

そう―――――全て 私が“ルシ”である限り望めない――――――

 

で、も・・・・・・

 

夢の中の少女を思い出す

可愛らしい女の子だった

 

どことなく、シンドバッドに似ていた

 

「子供・・・・か・・・・・・・・」

 

もし、彼の子を産めたならば

夢の中に出てきたような、可愛らしい子が生まれるのだろうか?

 

エリスティアが、何度目か分からない溜息を付いた時だった

 

「エリス? 起きたのか」

 

不意に、背後からシンドバッドの声が聞こえてきた

振り返ると、片手にどっさりと果実を乗せた金の器を持ったシンドバッドが戻ってきていた

 

「シン・・・・・・? それは?」

 

「ん? ああ、腹が減っただろう?」

 

そう言って、果実の乗った金の器をサイドテーブルの上に置く

 

「言ってくれれば、取りに行ったのに・・・・・・」

 

エリスティアがそう言うと、シンドバッドがくすっと笑みを浮かべ

 

「疲れてるんだから、無理をするな。 こういう時こそ、頼っていいんだぞ?」

 

「・・・・・・疲れさせたのは、誰よ・・・・」

 

半分、皮肉めいた風に言うと、シンドバッドが「はは」っと笑った

 

「まぁ、俺とエリスじゃ体力が違うからな。 ――――ほら、おいで」

 

そう言って、ベッドサイドに座ると、エリスティアを呼んだ

一瞬、エリスティアがむっとするが、バルコニーで夜風に当たって寒くなってきたのも事実だったので、言われた通りに素直に従う

 

シンドバッドの座るベッドサイドに行くと、ぽんぽんと膝を叩かれた

そこに座れという事だろうか

 

あ・・・・・・・・

 

一瞬――――

その姿が、夢の中のシンドバッドと重なった

 

なんとなく、気恥ずかしくなり

エリスティアは、シンドバッドの膝ではなく横に座ろうとするが――――

 

不意に、伸びてきた手がエリスティアの腰をあっという間に絡め捕った

 

「きゃっ・・・・・・」

 

そのまま、半ば強引に膝の上に座らせられる

 

「ちょ、ちょっと、シン―――――」

 

抗議しようとしたが、シンドバッドは器用に空いている片手でブドウの皮をむくと、そのままエリスティアの口に持っていった

 

「ほら、口開けろ」

 

言われるがままに、口を開けると

その中にブドウの果実が入ってきた

 

お世辞抜きで、瑞々しくてとても甘かった

 

「・・・・・・自分で、食べられるのに・・・・・・・・・」

 

エリスティアが少し、むっとしてそうぼやくと

シンドバッドは気にした様子もなく、ひょいっと自分の口にブドウの果実を入れると――――

 

「エリス、こっち向け」

 

「え? 何――――――んん」

 

不意に、シンドバッドから口付けが降ってきた

突然の、口付けに一瞬 エリスティアがぴくっと肩を震わせる

 

「あ・・・・・・」

 

口の中に、シンドバッドが食べた筈のブドウが入ってきた

 

「ちょっ・・・・、待っ・・・・・・」

 

「待って」と言おうとするも、そのままなし崩しにベッドに押し倒される

 

「シ、シン・・・・・・っ」

 

「ほら、もっと食べるか?」

 

そう言って、シンドバッドがもう一粒ブドウを口に含むと、エリスティアに口付けた

 

「ん・・・・・・っ」

 

抵抗する力も出なくて、なされるがままになってしまう―――――

 

「あ・・・・、はぁ・・・・・・」

 

やっと解放されたのは、3粒ぐらい食べさせられた後だった

 

「もう! 自分で食べられるって言っているのに・・・・・・」

 

そう抗議すると、シンドバッドは何でもない事の様に

 

「俺が、お前に食べさせたかったんだ」

 

そう言って、器に入っていたリンゴをしゃくりと齧る

そんな風に言われたら、怒るに怒れなくて、エリスティアは小さく息を吐いた

 

瞬間―――――

夢の中のシンドバッドと、今のシンドバッドが重なって見えた

 

あ・・・・・・・・・・

 

 

 

『―――――、それは仕方ないだろう、パパはママが大好きなんだ』

 

 

 

夢の中のは、そう言っていた

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

もし・・・・・・

 

「エリス?」

 

急に、静かになったエリスティアに気付き、シンドバッドがこちらを見る

 

「ねぇ・・・・シン・・・・・・・・・」

 

もしも・・・・・・

 

 

 

 

 

 

「私が・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

貴方との子が欲しいと言ったら・・・・・・

 

 

 

 

 

     貴方は、どんな反応を返してくれる・・・・・・・・・?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれ・・・・・・?

ぜんっぜん、話が進まなかったwwww

まぁ、あれだよ・・・・・・

子供いたらどうなる? 的な感じ???

 

 

2022.04.21