MARIKA

-Blue rose and Eternal vow-

 

  Act. Ⅱ アーロンパーク 11

 

 

 

 

「おい、ゾロのアニキ!! あんた達、一体何考えてんだ!? あのイカレ女はあの通り!! ウソップの兄貴も殺された!!」

 

「おれ達ァ、アーロンに命狙われてるんっすよ!? なのに、何で逃げねェんす!!?」

 

「ナミがあんな女だって分かった今、この島に残る理由はこれっぽっちも無い筈だ!!」

 

ジョニーとヨサクがレウリア達に向かってそう叫ぶ

はっきり言ってしまえば、正論だった

確かに、自分達はナミを連れ戻す為にこのコノミ諸島にやってきた

しかし、当のナミは戻るどころか、ジョニーの話だとウソップを殺したという

 

正直、信じられる話では無かったが

ナミが本気でレウリア達をこの島から追い出そうとしているのはよく分かった

 

分かったが……

 

はぁ…とレウリアは、小さく溜息を付いて道端で大の字になって寝ているルフィを見た

肝心の船長はこのありさまだし、かといってナミを放っておくのも何だか気が引けた

 

何か…理由がある

そんな気がしてならなかったのだ

きっと、このまま島を出れば後悔する

予知能力など無いが、何かがそう囁いていた

 

すると、地べたに座り込んでいたゾロが、小さく息を吐きながら

 

「この島に残る理由? あるさ」

 

そう言って、大の字で寝るルフィを見た

 

「あいつが、ここに残ってる」

 

その言葉に、ヨサクが慌てて口を開いた

 

「まさか! ゾロのアニキまでナミの姉貴を仲間にしようなんて――――」

 

「おれには、どうでもいいことさ」

 

そう言って、もう一度ルフィを見た

そして、微かに笑みを浮かべる

それを見て、レウリアもくすっと笑みを浮かべた

 

「そうね、誰を航海士にするかは、船長であるルフィが決める事だもの。私達はそれに従うまでよ?」

 

そう言って、寝ているルフィの頭を撫でた

 

「アニキ…姐御……」

 

ジョニーが、ギリッと奥歯を噛み締めた

それから何かをぐっと飲み込む様な仕草をした後

 

「そ、そうっすか、わかりやした。 短ェ付き合いだったが、おれ達の案内役はここまでっす」

 

「あっしも、同じだ! みすみす、殺されたくはねェっすからね」

 

ジョニーとヨサクの言葉に、ゾロは淡々としたまま

 

「おう、元気でな」

 

と一声だけ掛けた

 

「ジョニーさん、ヨサクさん、ここまでありがとう」

 

レウリアの言葉に、2人が小さく頷く

 

「じゃ、またいつか会う日まで!」

 

「アニキ達も、お達者でー」

 

そう言って去って行くジョニーとヨサクに、レウリアはゆっくりと頭を下げた

 

ザザ……と風が吹いた

レウリアは顔を上げると、サンジが座っている日陰の方に歩いて行った

 

ジョニーとヨサクの背がどんどん小さくなっていく

その様子を、ただ誰も言葉を発さずに見ていた

 

風に揺れ、レウリアの金にも似た銀糸の髪がさらさらと揺れる

その時だった、レウリアの隣でタバコを吹かしていたサンジがぽつりと呟いた

 

「何故、ナミさんは泣いてたんだろうな……」

 

「え……?」

 

「あ?」

 

突然発せられたその言葉は、レウリアの中ですとんと落ちてきた

 

「あの、女が泣いてた…?」

 

「ああ」

 

ナミが泣いていた……?

そうだ……泣いていた

ずっと、彼女は泣いていた

 

―――――心の中で

 

ずっとずっと、泣き叫んでいた

助けて欲しい―――――と

 

でも、きっとそれは言葉にする事は出来ない“言葉”なのだ

 

ナミ――――………

 

レウリアがぎゅっと、掴んでいた腕を握り締めた

 

だが、ゾロにはその意味が通じなかったのか

通じたのか、けっと鼻で笑うと

 

「案外、ウソップを殺した懺悔の涙じゃねェか?」

 

その言葉に、サンジがにやりと笑みを浮かべた

 

「ほぉ…まさか、お前本気か?」

 

「ん?」

 

「本気でナミさんが、あの長っ鼻を殺したと?」

 

ぴり……

 

一瞬、なんだか今あってはならない様な空気が辺り一帯を張りつめた

まかさ、この状態で喧嘩をする気なのだろうか、この2人は……

 

レウリアの中に、何だかいや~な予感がひしひしと伝わって来た

 

まさか…ね………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ…はぁ…はぁ……」

 

その影は、息が切れる程走っていた

長い鼻が、頭からすっぽりかぶった布から覗き出ている

 

だが、そんな事構っている余裕などなかった

早くしなければ、取り返しのつかない事になってしまう

 

あの時――――

 

 

『私の、ビジネスの為よ――――こうするしかなかったの!』

 

 

そう言って、ナミは自分を刺した

いや、刺した様に見せかけてナミは自身の手の甲を刺したのだ

 

ナミがああしてくれなければ、自分は確実にアーロンに殺されていただろう

 

どうする? 男としてこのまま助けられたまま引き下がるわけにはいかない

とにもかくも、まずはゾロを見つけないと―――――

 

そう思った時だった、目の前にゾロらしき人物がいたのだ

 

あれは―――――――!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ナミは、殺してねェ…そう言いてェのか?」

 

「違うか?」

 

「私も、ナミは殺してないと思うわ」

 

どう考えても、ナミがウソップを殺したなどとは思えなかった

きっと、何か裏がある筈だ

 

すると、ゾロはふんっと鼻を鳴らし

 

「どうかねェ、おれはあの女に“人1人も見殺しに出来ねェ小物”ってハッパ掛けちまったから勢いで殺っちまったかもな」

 

その時だった

 

「何ィ! 小物!?」

 

「え“? サンジさん!?」

 

突如サンジが切れたかと思うと―――――

 

 

 

「ナミさんの胸のどこが小物だァ!!!!」

 

 

 

 

と、叫ぶなり蹴りをさく裂したのだ

 

「ちょっ……ちょっとぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」

 

慌ててレウリアが止めに入ろうとするが、間に合わず

今度はゾロが防戦する様に剣を振りかざした

 

「てめェの頭はそういう……!!!」

 

「も―――――!! こんな時に、やめないさいよ!!!」

 

と、レウリアの鉄拳制裁が炸裂する様に振り上げられた

激突する―――――

そう思われた瞬間―――――

 

 

「うおおお~~~~~い!!! お前、まだアーロンパークに……」

 

「あ……」

 

 

 

 

 

 

 

ボゴオオオン!!!!

 

 

 

 

「ぶごぉッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

「え」

 

「う……」

 

「う…そ…」

 

サンジの蹴りと、ゾロの刀と、レウリアの手刀の間に見事に挟まっていたのは……

 

「ウ、ウソップ……」

 

それは、死んだと思われていたウソップだったのだ…が……

 

「生きてたよ」

 

「いや、死んだぜこりゃ……」

 

「縁起でもない事言わないで……」

 

3人からのミラクル攻撃に見事にウソップが撃沈したのであった

シャレにならない程に顔が変形するほど……

 

 

 

 

 

 

 

 

********

 

 

 

 

 

 

「ウソップ―――――――――っ!!!! お前、これナミにやられたのか!!!?」

 

その後、起きたルフィが半分死んでいるウソップを見てそう叫んだのは言うまでもない

 

その後ろでゾロとサンジとレウリアが苦笑いを浮かべながら

 

「いや、すまん。それはこいつとおれが……」

 

「お前だよ!」

 

「あ、はは……ごめんなさい」

 

なんだか、トドメをさしてしまった罪悪感が、胸を痛めるが…

とりあえず、生きていてよかったとほっとするのだった

 

瞬間、はっとウソップが目を覚ました

 

「ルフィ? お前、来てたのか」

 

「ああ」

 

そう答えるルフィの横でサンジがにこっと微笑みながら

 

「あ、おれも来たぜーよろしくな」

 

「てめェ! いつか殺す!!」

 

と、ウソップが叫んだのは勿論だったが、サンジは気にした様子もなく

ぽんっと、ウソップの肩に手を乗せると

 

「なんだ、結構大丈夫なもんなんだな」

 

「うるせェ!!!」

 

「あ…あの……、ごめんね? 長っ鼻君。私も来ました」

 

と、一応挨拶をすると、ウソップは「おお!」と声を上げて嬉しそうに笑った

 

「リア! お前も来たのか!! って、長っ鼻じゃねェ!!!」

 

「ええ――」

 

「“ええ――”、じゃねェよ!!!」

 

予想外に元気だ

それを見たレウリアは、サンジとゾロを見比べて

 

「意外と丈夫ね? これなら、安心かも」

 

「でしょ? リアさん」

 

と、にっこり笑うサンジに対し、ゾロは

 

「ああ、打たれ強いってのは便利だな」

 

などとぼやいていたが

当の本人は

 

 

「お~ま~え~らぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

 

 

と、叫んでいた

その時だった

ゾロが、すぱっと

 

「そういやぁ、お前殺されたんだってな、ナミの奴に」

 

「うえ!?」

 

「ちょっと、マリモさん。率直に聞きすぎ」

 

ゾロの単刀直入な問いに、ウソップがぎょっとするのと、レウリアが鋭く突っ込むのは同時だった

 

すると、ルフィが4人の間に割って入る様ににゅっと顔をだし

 

「くっそー、やっぱりジョニーの奴デタラメだったんじゃねェか!」

 

そう場が和む様な言い方をしたが、ウソップはごくりと息を飲み静かに頷いた

 

「いや…ある意味ウソじゃねェが…いや、逆だ! おれはナミに命を救われた」

 

「………………」

 

 

命を…救われた………?

 

 

ジョニーは、ウソップはナミに殺されたと言った

だが、本人はナミに命を救われたという

 

 

これは一体…どういう事……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      ◆      ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ノジコは、裏のみかん畑でいつも通りみかんの採取をしていた

その時だった

家の方から突然、ガシャン!! ドカン!! ガラガラガッシャーン!!

という激しい物音が響いて来た

 

それをみた、ノジコは、はぁ…と溜息を付くと、

籠を持って家の中に入った

 

家の中はぐちゃぐちゃだった

割れた窓ガラス

壊れた食器

倒れた椅子にテーブル

 

その中心に、よく見知った少女が机に突っ伏していた

 

それを見たノジコはやっぱり溜息を洩らすと

 

「あーあ、派手に荒らしてくれたね…。 ナミ、どうした?」

 

そこに居たのはナミだった

ナミはぷるっと一度だけ首を横に振ると吐き捨てる様に

 

「別に! ちょっと休みに来ただけ」

 

ノジコは、また溜息を洩らすと籠を置き倒れた椅子を起こした

 

「ちょっと休みに来ただけでいちいちガラスや家具壊されたんじゃたまんないよ」

 

そう言いながら、椅子に座るとナミの前に開かれたボロボロの地図を見て小さく息を吐いた

 

「何でもないのに、あんたがその宝の地図を開く?」

 

「ちょっと頭に来る事があっただけよ!!」

 

その言葉に、ノジコは小さくまた息を吐いた

 

「あいつらね…何者なの?」

 

「………っ! 会ったの?」

 

ノジコのその言葉に、ナミがはっと顔を上げる

すると、ノジコは少しだけ笑みを浮かべて

 

「ああ、キャプテンとかいう奴にね…ちょっとウソっぽい奴だけど」

 

その言葉でナミには誰か分かったのか、また顔が曇った

だが、ノジコは話を続けた

 

「聞いたよ? あんた、一緒に旅してる時楽しそうに笑ってたって。 あんたのそんな姿、何年も見てないのにね」

 

「………………」

 

ナミは、目を伏せたままノジコを見ようとしなかった

だが、ノジコは引き下がらなかった

 

「話して! あの連中は何者?」

 

「………………」

 

「あたしには、何でも話すって約束だろう?」

 

「………………っ」

 

ぴくんっとナミの肩が揺れた

 

息のを飲み、目を何度も伏せながらぎゅっと拳を握りしめた

まるで何かに耐えるかの様に――――

 

「………あいつらの事、忘れるつもりだった……」

 

そう――――心の中から、消したつもりだった………

 

楽しかったあの日々も

慌ただしかったけど、面白かった日々も

全部、全部――――……

 

「だけど、消そうとすればするほど、思い出した……」

 

辛い事も、楽しい事も

苦しい事も、何もかも

 

「私ね、自分の背負った運命をひと時忘れたことがあったわ――――……」

 

あの時ルフィの言った言葉……

ウソップの村を守る戦いで、仲間を蔑にするキャプテン・クロに言った言葉

 

 

 

『お前は、仲間をなんだと思ってるんだ――――――!!!』

 

 

はっとした

 

 “仲間”

 

そんなもの、今までの自分にはなかったものだったから……

 

「出来る事なら、この連中とずっと一緒にいたいって…本気で思ってた…」

本気で—————………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「成程ね……そりゃ、荒れもするわ。 本気でこの子を迎えに来てくれる奴らが現れたなんて…」

 

すーすーと、静かに眠るナミの手にはあの地図があった

ナミにとって大切な“宝の地図”

 

「“仲間”か……」

 

ぐしゃりと、髪をかき上げる

 

「この娘には…一番……辛い言葉だ」

 

そう言ったノジコの顔には微かに笑みが零れ落ちていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やっと、次回からナミの過去話に入れそうですよー

この辺は、ウソップの扱いが酷いなww

 

2014/07/13