MARIKA

-Blue rose and Eternal vow-

 

  Act. Ⅰ 海上レストラン 27

 

 

 

「サンジさん、放して!!」

 

レウリアがサンジの手を振り払うと、止めるのも聞かずに海へ飛び込んだ

 

「リアさん!!?」

 

ぎょっとして、慌ててサンジがそちらを見る

サンジは、止める事も出来ずただ唖然とその様子を見ていた

 

何故、レウリアはあそこまで慌てるのか

ルフィが義弟だからか?

 

いや、違う…と、サンジは思った

では、何故だ

放っておいても、あいつならけろっとした顔をして姿を現すだろう―――そう思った

 

その時だった

 

「ぼーっとしてる暇があるなら、さっさと行ってあの小僧を助けてやれ」

 

「……?」

 

「あいつは浮いちゃこねぇぞ」

 

「何!?」

 

ゼフの言葉に、サンジがぎょっとする

普通の人間ならば海に浮く筈だ

なのに、ゼフは浮いては来ないという

 

「悪魔の実の能力者は海に嫌われカナヅチになるんだ」

 

「……!! バ…バカ野郎!!! 早くそれを言えよ、クソジジイ!!! 手遅れになったらどうするんだ!!!」

 

だから、レウリアは慌てて海に飛び込んだのか

サンジも靴と表着を脱ぎ捨てると、レウリアを追う様に慌てて海に飛び込んだ

 

ザン…!という音と共に、海に飛び込んだサンジは辺りを見渡した

何処かに、ルフィとレウリアが居る筈だ

 

奥へ奥へと潜っていく

辺りはガレオン船とヒレの木屑で溢れていて、とても視界が良いとは言えなかった

それでも、サンジは辺りを見渡した

 

何処に行った……!?

 

見ても見ても、木屑ばかりで人の影ひとつない

だが、ルフィはあの鉄の鎖という重しをを付けたまま沈んでいるのだ

絶対に、何処かに居る筈である

 

それに、レウリアの状態も懸念された

あの怪我で潜ればただでは済まない

第一、 彼女も能力者ではないのか

もし、そうだとしたら……

 

くっそ……っ!

 

サンジは、更に奥底へと潜って行った

 

瞬間、ごぼっ…と息が吐き出され苦しさが込み上げてくる

サンジは、必死に口元を押さえた

 

一度、息を吸いに戻るべきか…

そう思った時だった

 

奥の木屑に鎖が引っかかったままのルフィがいたのだ

そのルフィに、意識はない

 

そして、その鎖を外そうと必死にレウリアがもがいている

そのわき腹からは、赤い血が海に溶け込む様に流れ出ていた

 

サンジは、慌てて2人の側へ行くと、レウリアの肩を叩いた

瞬間、真っ青になったレウリアがハッとした様にこちらを見る

 

(リアさん、自分が!)

そう訴える様にレウリアを見ると、彼女はある一方を指さした

その先を見た瞬間、サンジ顔を顰めた

 

あの鉄の鎖ががんじがらめになって、木屑に絡みついていたのだ

 

サンジは自身を指さすと、レウリアが位置をずれた

と、同時に、鎖を引きちぎろうとサンジが絡まったそれに手を伸ばす

 

だが、引っ張っても引っ張っても鎖は切れなかった

 

「おい!しっかりしろ!!」

 

思わず、ルフィに向かってサンジが叫ぶ

だが、ルフィから反応は返ってこない

 

おめェ、死なねェんだろ!?

それが、おめェの“信念“なんだろう!!?

 

あの時の光景が脳裏を過ぎる

 

クリークの槍を抜きながらルフィが言った言葉―――――

 

 

『死なねえぇよ…!ここは、おれの死に場所じゃねェ!』

 

 

レウリアは言った

 

『ルフィは、死なないわよ。絶対勝つわ』

 

ったくよぉ……

サンジが、ずる…ずる…と、鉄の鎖の中からルフィを引きずり出す

 

自分が負けたと知った時、潔くミホークの刀を受けたゾロ

 

死ぬくらいなら、野望を捨てろよ!

簡単だろう!!?野望を捨てるぐらい!!

 

そう思った

 

だが、あの男も違った

やっと、ルフィを鎖から解き放ち、片手でレウリアの腰を掴むと、片手でルフィを肩に抱き一気に浮上していく

 

どいつもこいつも

 

『……さァね…分からねェ……、おれにも分からねェんだけどよ……今、ここを一歩でも退いちまったら……何か大事な今までの誓いとか、約束とか……いろんなモンはヘシ折れて、もう二度とこの場所へは帰って来れねェような気がする……』

 

そう言って、心臓を手前をひと付きされても、一歩も引かなかったゾロ

 

『……ふざけないで。エースが死んだ?……馬鹿な話も大概にしないさいよ。どんな噂を聞いてそう判断しているのか知らないけれど……それ以上、エースを侮辱するのは許さないわ!!!』

 

レウリアが特別に思っているという、エースという男

その男の為に、本気で怒ったレウリア

 

何故なんだ

何故、どいつもこいつも、そこまでする

 

その時、あの時のゼフの言葉が脳裏を過ぎった

 

『腹にくくった“一本の槍”にゃ、敵わねェ事もある……下らねェ理由で、その槍を噛み殺している馬鹿をおれは知っているがな……』

 

一本の槍……

 

「……がはっ……」

 

サンジの息が洩れた

 

視界が霞む

息が苦しい

 

水面が、あんなに遠くに見える

キラキラと光っていて…そして――――……

 

 

「――――――っ」

 

 

瞬間、サンジは幻を見た

4つの海の魚が一同に集まる場所

 

美しい魚たちの群れ

 

 

“オールブルー“

 

 

その果てには、サンジの夢見た“オールブルー”があった

 

瞬間、ザバァッ!と海面に出た

 

「ぶはぁ……!!」

 

ぜぇぜぇと、肩で息をして思いっきり息を吸う

と、同時に、「はっ……」とレウリアも顔を出した

 

「ルフィ!!!」

 

脇から滲み出る血など露ほどにも思っていないのか、自分の事など無視した様にルフィを揺さぶった

じわりじわりと、レウリアの周りの海が赤く染まっていく

 

「リアさん、怪我が……!」

 

「そんなのどうでもいいわ!ルフィは無事なの!?」

 

「ですが……!」

 

尋常でない位、レウリアの顔は真っ青だった

完全に、血の気が消えている

 

サンジは、ルフィとレウリアを担いだままバラティエに向かって泳いだ

 

一方――――

海賊達の中には、どうしようもないぐらいの動揺が走っていた

 

首領(ドン)!どうしたんですかァ!!!」

 

「なんで、首領(ドン)がァ!!!」

 

未だに、クリークが負けた事が信じられないのか

泣き叫ぶ様にそう口々に叫んだ

 

首領(ドン)・クリークが負けた……?そんなバカな事あるかよ……!あの男は、東の海(イーストブルー)の覇者だぜ……?」

 

その言葉は、ギンにとっては信じられないものだった

口から血を吐いたまま、ギンはバラティエの2階の柵にもたれ掛りそう呟いた

 

「あの男は…あの男は……あの男は………っ」

 

信じたくない

クリークが負けたなどと信じたくない

 

その思いが、ギンの心の中を支配していく

 

「そんなコト言ったてよ、おめェ見てみろよ、あれ」

 

「あいつの自慢のあの鋼のヨロイだってコナゴナで伸びてるぜ、おい!」

 

「派手なやられっぷりだ、見ねェのか?」

 

パティとカルネが口々にそう言う

だが、やはりギンには信じられなかった

 

首領(ドン・クリーク

 

「唯一人……おれの憧れた男だ……!!最強だと、信じてた……!!」

 

ずっとずっと、信じていた

首領(ドン)・クリークは、最強なのだと

誰にも、負けないのだと

 

信じていた

 

吐き捨てる様にそう呟くと、ギンがゆっくりと立ち上がった

それを見たパティとカルネがぎょっとして止めに入る

 

「ばっ…、待てって下っ端!動くと身体の毒が……回るぞ!

 

「寝てろよ、おい!」

 

だが、ギンは2人の制止も聞かずにスタスタと階段を降りて行った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒレになんとかあがったサンジは、意識のないルフィに必死に呼びかけた

 

「おい、雑用!死ぬんじゃねェぞ!!おめェには、まだやる事があるんだろうが!!」

 

「ルフィ……っ!」

 

レウリアも、心配そうにルフィに呼びかける

だが、ルフィはぴくりとも動かなかった

 

「おい、死ぬんじゃねェ!雑用!なんとか言ってみろ!!!おい!!」

 

「起きてルフィ!お願いよ!!!」

 

「雑用!死ぬなァ!!」

 

「ルフィ!!」

 

その時だった、2人の声に反応する様にぴくりとルフィが微かに動いかと思うと

 

「ん…あ、ぐぅ――――――」

 

「ん?」

 

「え……」

 

思わず、サンジとレウリアが顔を見合す

そして、もう一度ルフィを見た

 

「がぁー、がぁー」

 

「……………寝息…?」

 

寝てるの………?

 

そう思った瞬間、一気に身体の力が抜けた

なんとも、ルフィらしい

 

「もう…驚かせないでよ……」

 

レウリアが、ほっとした様にその場にへたり込んだ

サンジも、はぁ…と溜息を付くと、ぽかっとルフィの頭を殴った

 

「ったく、おめェは……!」

 

心配掛けたと思ったらこれだ

騒いでいたのは周りだけで、当の本人は呑気に熟睡中ときた

 

これが、呆れずにいられようか

 

「心配しただけ損な気分ね……いたっ」

 

そこまで言い掛けた瞬間、レウリアがわき腹を押さえた

その手から、じわりと血が滲み出ている

 

サンジは慌ててレウリアに駆け寄った

 

「リアさん、傷が開いたんじゃ……!」

 

その言葉に、レウリアが慌てて首を振る

 

「へ、平気よ。少しほっとしたから気が抜けただけ……」

 

「ですが……」

 

レウリアはそう言うが、どう見ても尋常でない量の血を流している

きっと、意識を失ってもおかしくないレベルだ

それを、彼女は気力で保っているのだ

 

その時だった

 

 

 

 

「おれが、最強だァ!!!!!」

 

 

 

 

突然、けたたましい叫び声が聴こえてくる

はっとして、そちらの方を見ると、クリークが起き上がり叫んでいた

 

「おれが…!おれが勝ち!おれの武力に敵う者はないんだァ!!!!」

 

そう叫ぶ、クリークには意識は無かった

 

首領(ドン)!止めて下さい!!」

 

「抑えろ!もう、意識がねェ!!!」

 

海賊達が必死に止めるが、クリークは止まらなかった

 

 

「おれは勝ち…ガ……勝ち”…続ガ……ア!!!勝ち……!!!」

 

 

「止めて下さい、首領(ドン)!!」

 

 

「おれは、最強の男だァ!!!!」

 

 

首領(ドン)!!!!」

 

海賊達が必死に止めるも、クリークは手足を振り回し、仲間である彼等さえもを振り払った

それでも、海賊達はクリークを止めようと、必死にしがみついた

 

その時だった

 

 

 

 

ドスッ!!!

 

 

 

 

 

誰もが己の目を疑った

クリークが意識のない目を大きく見開く

 

首領(ドン)・クリーク」

 

その腹には、一本の拳がめり込んでいた

それをしたのは――――……

 

「ギン…さん……?」

 

毒に冒されている筈の、ギンだった

ギンは、クリークに最後の一撃を食らわすと、完全にその意識を失わせた

そのままドサッと肩に担ぎあげると

 

「おれ達は、敗けました。潔く退いて、ゼロから出直しましょう」

 

「総隊長……!!」

 

ギンの登場に、海賊達が声をそろえて叫ぶ

 

ギンは、サンジを一度だけ見た後、そのまま背を向けた

 

「世話になったな、サンジさん……」

 

「おォ…おとといき来やがれ」

 

「翔風…あんたにも、迷惑かけちまったな……」

 

「本当よ……」

 

サンジとレウリアの言葉に、ギンが微かに笑みを浮かべる

そして、真っ直ぐ前を見据えたまま

 

「サンジさん…その人が、目ェ覚ましたら言っといてくれるかい?“偉大なる航路(グランドライン)”で“また会おう”ってよ」

 

「え………」

 

「お前……」

 

ギンの言葉に、レウリアとサンジが大きく目を見開く

だが、ギンの心の中は穏やかだった

 

そうだ、間違っていない

 

「よく考えてみたら、おれのやりてェ事は、それしかねェんだ。いつの間にか、首領(ドン)・クリークの野望は、おれの野望になってたらしい……ごほっ…ごほっ」

 

瞬間、ギンが血を吐きながら咽た

 

「………………」

 

それでも、やはりギンの心の中は穏やかだった

 

「もしかしたら…おれは後数時間の命かも知れねェな……時間がねェから覚悟が決まるってのも、間抜けな話だが……今度はおれの意思でやってみようと思う…好きな様に。そしたらもう、逃げ場はねェだろう?」

 

「………………」

 

「何が、首領(ドン)への忠義だ!おれは今まで、首領(ドン)・クリークの名を“盾”に逃げてただけだ。覚悟決めりゃあ、敵が恐ェだの、てめェが、傷付かねェ方法だの、くだらねェ事考えなくて済む事をその人に教えてもらったよ……!!」

 

その言葉に、サンジは微かに笑みを浮かべた

そして、降りてきたパティとカルネに向かって

 

「パテェ!カルネ!こいつらに、買い出し用の船をやれ!」

 

その言葉に驚いたのは、他ならぬパティとカルネだった

 

「何ィ!!?バカか、てめェは!!」

 

「何勝手に攻めてきやがった海賊に、船を提供しなきゃいけねェんだ!!泳ぎゃイイんだよ、こんな奴ら!!!」

 

「おれ達の、買い出しはどうすんだよバカ野郎!!!」

と、口々に叫んだが……

 

 

 

 

「いいから、出せ!!!!!」

 

 

 

 

 

「わかったよぉ~」

 

「どなるなよぉーだすよぉ~」

 

サンジの凄い剣幕に、パティとカルネが涙を流しながら慌てて船を取りに戻った

 

「いいの?サンジさん」

 

レウリアの言葉に、サンジはふっと笑みを浮かべた

 

「折角の門出に、船がなきゃ話にならないじゃないですか」

 

そう言ったサンジの顔はとても満足気だった

 

 

 

 

 

ずし…と小さな買い出し用の船に全員が乗るには難しく

団子状態で山積みになっていた

海賊達が「押すなよ」と叫びながらわらわらと群がっていく

その様子をサンジとギンは、穏やかな顔で見ていた

 

「今まで、何に気を使って躊躇っていたのか……そんな自分がバカバカしく思えて来るぜ……その人を見てるとよ……」

 

そう言って、ルフィを見る

ルフィは、相変わらず爆睡していた

周りなど、お構いなしに

 

それを見て、3人が笑みを浮かべる

 

「じゃぁな、ありがたく貰って行くよ。返さなくてもいいんだろ?この船」

 

ギンのその言葉に、サンジはニッと笑みを浮かべた

 

「ああ…返しに来る勇気があったら来てみろよ、ザコ野郎」

 

その時だった

パティが一歩前に躍り出て

 

「おーよ!脳みそに叩きこんどけ!!ここは戦う海上レストラン“バラティエ”だ!!!」

 

パティの声に、後ろのコック達が「うおー!!!」と叫び声を上げる

 

それを見たギンがくっと笑みを浮かべた

 

「おっかねェ、レストランだな」

 

その時だった、レウリアが何かを思い出した様に「あ」と声を洩らした

 

「ギンさん、行く前に一つ聞きたい事があるの」

 

「いいぜ、おれに答えられる事ならな」

 

もしかしたら、最悪な答えかもしれない

それでも、聞かずにはいられなかった

 

「エースという男の噂を知っている?」

 

「エース……?」

 

ギンが少し考えた後、「ああ…」と声を洩らした

 

「火拳の事かい?悪いな翔風、おれは何も知らねェんだ……権蔵は何か知ってたみたいだが――――そいつはあんたがのしちまったんだろ?」

 

ギンのその言葉にレウリアは、「そう……」とだけ、答えた

 

それだけ言うと、ギン達の船はどんどん進んでいったのだ

 

 

 

いつか出会うかもしれない、“偉大なる航路(グランドライン)”に向かう為の再出発の為に――――――………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ついに、ここまで来た……!

後は、サンジを勧誘するだけだぜ!!

1~2話で話で、バラティエともオサラバですな!

 

エースの事は、分からず仕舞いですがねー( ;・∀・)

 

2013/11/10