桜散る頃-紅櫻花- 

 

 桜花 1

 

 

 

「え?」

 

それは晴れた日の午後

趙雲の一言で始まった

 

「桜を見に行きませんか?」

 

「桜?」

 

紗羅が首を傾ける

 

「はい。と言っても遠出は出来ませんから庭の桜ですけど」

 

趙雲が照れながら言う

窓の外を見ると満開の桜の花びらがひらひらと舞っていた

紗羅は少し顔をほころばせ小さく「……はい」と答えた

 

 

「あの…じゃぁ、失礼して……」

 

「え!?」

 

次の瞬間、いきなりひょいっと趙雲に横抱きに抱き上げられた

 

「あのっ!趙雲様!?」

 

紗羅は必死に趙雲に訴えた

余りにも突然すぎて困惑してしまう

 

「その足では不便でしょうから、このまま行きましょう」

 

「で…でも…」

 

「大丈夫ですよ」

 

趙雲はにっこり笑い

 

「すぐそこですから、落としたりしませんよ」

 

そういう事じゃなくて……っ!!

 

紗羅の困惑の理由とは裏腹に、趙雲は上機嫌で部屋の扉を開けた

その瞬間、心地の良い風がふわ…と入ってきた

 

「………わぁ…」

 

思わず声が漏れた

春の日差しが紗羅と趙雲を照らした

庭の樹木が視界に入ってくる

 

「外に出るのは久しぶりでしょう?どうですか?」

 

風が紗羅と趙雲の髪を揺らし、頬を撫でた

紗羅は目を瞑り、風を感じる

 

「気持ち良いです……」

 

趙雲はその答えに満足したのか、頷き微笑んだ

趙雲は足元に気を付けながらそのまま庭に降り、ゆっくりと屋敷の中央にある庭に足運んだ

そこは屋敷のどの角度からも見える所で、屋敷の中央部分ともいえた

 

満開に咲き誇る桜の樹の下にやって来る

紗羅はそっと桜の樹に触れ、ほぅ…と顔をほころばせた

 

「……素敵…」

 

言葉が漏れる

花のような笑みを浮かべ紗羅は桜の樹を見上げた

 

「――――っ!」

 

趙雲は目を見開いた

息を飲む

 

「……? どうかなされましたか?」

 

紗羅が不思議そうに首を傾け、趙雲を見る

 

「いえ……その…」

 

どうもはっきりしない

紗羅は大きく首を傾けた

その姿が可愛らしくツボに嵌ったのか、趙雲は顔を赤らめ下を向いた

 

そっと、下から紗羅を見る

紗羅は意味が分からないといった風にキョトンとしていた

そして、にっこりと微笑む

 

「紗羅殿……」

 

趙雲にも笑みがこぼれる

 

「……初めて私の前で笑って下さいましたね。嬉しいです」

 

趙雲は微笑み、紗羅を見る

紗羅は頬を赤く染め少しだけ照れたように俯いた

 

「そ…そうでしたか?」

 

「はい…やっと見れました。ずっと見たいと思ってたんです」

 

趙雲は嬉しそうに顔をほころばせた

 

「そうやってこれからも笑った顔を見せて下さい。笑ってくれた方が私も嬉しいです」

 

紗羅は恥ずかしさのあまり、顔を上げられずにいた

そして、小さく「はい…」と答えた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

趙雲は紗羅を桜の樹の下に座らせ、自らも隣に腰を下ろした

2人して桜を見上げる

 

「この桜の樹は、この屋敷を賜った時に劉備様から頂いた樹なんです」

 

「そうなんですか…見事な樹ですね」

 

屋敷の何処からでも見渡せる位置にあり、屋敷の中心に位置する桜

そこで話が途切れた

でも、不思議と気まずさは無く心地よかった

気持ちの良い風が2人の頬を撫でる

 

 

 

どれくらいそうしていただろう

不意に趙雲がごろんと寝転がった

腕を広げ紗羅の方を見る

 

「気持ち良いですよ。紗羅殿もどうですか?」

 

「え…でも……」

 

ちょいちょいと趙雲が自分の腕を指す

そこに寝ろというのか

 

紗羅は少し戸惑いながら

 

「えっ…と……では、失礼して――――…」

 

おずおずと趙雲の腕に頭をやって横になる

心臓の音が聞こえはすまいかと心配になるが、趙雲はそんな紗羅を知ってか知らずか、にっこりと満足そうに微笑んだ

 

う…腕枕してもらってしまった…

 

紗羅は恥ずかしさのあまり俯いた

すると、趙雲がちょんちょんと紗羅の肩を叩いた

 

「?」

 

紗羅は赤い顔を上げる

趙雲は上を指差し「上」と耳打ちしてきた

趙雲の息が耳に掛かる

 

ドキン…と鼓動が早くなる

 

近いです…っ!!

 

趙雲がもう一度「上、見て」と耳打ちしてくる

紗羅は不思議に思い、顔を赤らめたまま桜の樹を見上げた

 

「……っ!」

 

思わず声が漏れる

 

下から見上げる満開の桜は絶景だった

花びらがひらひらと降ってくる様に舞っている

手を伸ばせば、花に手が届きそうなぐらい近く感じた

 

「すごいでしょう?この角度から見る桜が一番綺麗なんです」

 

「はい……すごいです…」

 

感動の余り、瞳が涙で滲む

紗羅は口を手で押さえ、桜をじっと見つめた

 

「趙雲様……」

 

趙雲が「ん?」と紗羅の方を見る

紗羅も趙雲の方を見た

 

 

「私…桜、好きです………凄く…」

 

 

  貴方が…好きです――――……

 

 

「はい…私も、好きですよ……桜」

 

紗羅はにっこりと微笑みそして、ゆっくりと目を閉じた

腕から趙雲の体温を感じる…

 

そよそよと心地の良い風を感じる

 

 

 このまま時間が止まってしまえばいいのに――――……

 

 

 趙雲様……

 

 

 

風が吹き、紗羅の頬を撫でた――――……

 

 

 

 

 

 

 

 

一体、どのくらいそうしていただろう…

 

「紗羅殿?」

 

動かない紗羅に趙雲は問いかけた

返事は無く、規則正しい吐息が聞こえてくる

 

「寝てしまわれたか」

 

趙雲は目を細め、そっと紗羅の顔に掛かっていた髪に触れた

柔らかい髪が趙雲の指に絡まり、さらさらと落ちていく


髪をそっと避け、趙雲は寝ている紗羅を起さない様に 寒くない様に…表着を掛け、そっと抱き寄せた

 

「ん………」

 

紗羅が声を漏らす

 

起きたか?と思ったが、ス-スーと寝息を立てながら紗羅は幸せそうに笑った

幸せな夢でも見ているのだろうか…

彼女の幸せそうな寝顔を見ると、趙雲も不思議と幸せな気持ちになった

この気持ちが何なのか…

 

 

 心が 満たされる……

 

さらさらと風が吹いた――――……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まぁ……」

 

たまたま通りかかった佳葉は、半ば呆れた様な顔でそれを見ていた

 

桜の樹の下で仲良く寄り添いながら寝ている主、2人――――

その寝顔はとても幸せそうで、起すのには忍びなかった

 

 

佳葉はくすくすと笑い

 

「仕方のないお方達ですわね」

 

と呟いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      ◆      ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、その様に手配します。宜しいですね?」

 

宮殿の一室で諸葛亮は劉備に訊ねた

劉備は「うむ」と答え満足そうに頷

 

「楽しみだな?孔明」

 

劉備がにっこりと笑いながら言う

諸葛亮はふぅ…とため息を付き

 

「準備が大変ですがね…」

 

とぼやいた

 

「まぁ、そう言うな。私は楽しみだ」

 

にこにこしながら言う劉備は上機嫌だ

 

そりゃぁ、準備するのはこっちですから と突っ込みたくなる

 

「殿が楽しいならそれで良いですよ」

 

そう呟き、諸葛亮は羽扇をパサリと鳴らした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今回は趙雲マンセーで

やっと夢らしくなった( ;・∀・)

が、まだまだですね!!!

 

殿と先生が何か企んでます(笑)

それは、また次回

 

2008/06/05