桜散る頃 外章
   -櫻花異聞-

 

 短編肆:戯れて 

 

 

 

「おーわんこ!元気だったか!」

 

馬超が、わははははと笑いながら黒曜を抱き上げた

黒曜は、わんわんと吼えながら馬超からの抱擁を受けていた

 

ここは、趙雲の邸

今日は、馬超が尋ねて来ている……というか、夕餉を食べに来ているのだった

 

趙雲、は椅子に座り、暢気にお茶を飲んでいる

馬超は、黒曜の頭をぐりぐりぐりと撫でながら

 

「おい、趙雲。何か投げる物ないか?」

 

「は?」

 

「投げる物だよ。投げる物」

 

「はぁ…じゃぁこれで」

 

と言って、趙雲が1つの球を差し出す

黒曜の遊び道具として以前、買って来ていた物だ

 

「おー」

 

馬超はそれを受け取ると、力一杯庭に向かって投げた

 

「そーれ取ってこーい」

 

「くぅ?」

 

黒曜が、首を傾げた

 

「”くぅ?”じゃねぇよ。ほら、わんこ取って来い」

 

「くぅ……???」

 

やはり首を傾げる

 

投げた球は虚しく、そのまま放置である

 

「趙雲」

 

「何だ?」

 

趙雲が不思議そうに馬超を見た

 

「……………」

 

馬超は、振り向かず、前を見たまま

 

「もしかして、”取って来い”出来ないのか?」

 

「……さぁ。私はあまり構ってやれてないからな。殆ど紗羅殿と居る事の方が多いし」

 

「………取って来い?」

 

もう一度、馬超が、球を投げた方を黒曜に向かって指差した

 

「わん」

 

黒曜はそう吼えると、何故か馬超の指差した手にじゃれ付いた

 

「こ…!こら!違ぁう!!」

 

伸ばした、手にじゃれ付かれて、馬超は「こらー」と言いながら黒曜をシッシッとした

それが、遊んでくれていると思ったのか、更に黒曜が足下にまでじゃれてくる

 

「趙雲!どーいう躾してるんだ!」

 

「餌の時は大人しいらしいぞ?」

 

「飯の時だけ、良い子でもそれは躾と言わーん!」

 

「わんわんわん」

 

「こら、じゃれるな!」

 

黒曜が千切れんばかりに尻尾を振って、馬超にじゃれ付く

その様子が可笑しくて、趙雲は笑ってしまった

 

「趙雲。笑い事じゃないぞ!何とかしろ!」

 

「馬超は、良く懐かれてるな」

 

くつくつと笑いながら、趙雲は暢気にお茶を飲んでいる

 

「馬超様、いらっしゃいませ」

 

その時、紗羅が現れた

 

すると、黒曜はターと紗羅の傍に駆け寄ると、ちょこんと座り、尻尾をブンブン振った

 

紗羅はその場に、しゃがみ込み黒曜の頭を撫でた

 

「黒曜。良い子にしてた?」

 

「わん!」

 

と、そうですとも言わんばかりに返事をする

 

「こいつ……姫さんにばっかり良い顔しやがって……!」

 

馬超は、黒曜をキッと睨み付けた

黒曜は、「くぅ?」と首を傾げトトト…と紗羅の後に続いた

 

「趙雲様、お帰りなさいませ。お出迎え出来ずにすみません」

 

「いいえ、良いですよ。気になさらないで下さい」

 

趙雲がそう微笑みながら言うと、紗羅はほっとして微笑んだ

 

何ともいえないほのぼのとした空気が流れる

何だか、恋人を通り越して、夫婦の様ではないか

 

「俺様の事も忘れないでくれよ?」

 

馬超は、ぬっと2人の間に入り、一言忠告する

 

その瞬間、紗羅の頬がサッと赤くなった

 

野暮天大王の趙雲もその意味を悟ったのか、サッと赤くなる

 

馬超は、むーとして、その場に、しゃがみ込むと黒曜の頭をわしわしと撫でた

 

「いいよなーわんこ。俺ら2人だけで楽しもうぜ。お2人の邪魔をする程野暮じゃねぇよ。なー?」

 

「くぅ……」

 

「ば、馬超!!」

 

趙雲が、顔を真っ赤にさせて慌てて立ち上がった

馬超は、べーっと舌を出すと、黒曜を抱き上げ

 

「さー遊びに行こうぜー」

 

「馬超!」

 

趙雲の静止も聞かず、馬超は室の外に出た

趙雲はふーと溜息を付いた

 

「すいません、馬超が変な事を……」

 

「いえ……」

 

「「……………」」

 

思わず、沈黙してしまう

 

なんだか、気恥ずかしい

 

「「あ、あの……」」

 

同時に言葉が出た

 

「あ……紗羅殿からどうそ」

 

「いえ…趙雲様から……」

 

「「……………」」

 

思わず、再び沈黙してしまう

 

馬超が居たら、「何だ!?この甘酸っぱい空気は!」と突っ込んだに違いない

 

「え、えっと……」

 

先に口を開いたのは紗羅だった

 

「仲が宜しいんですね」

 

「……はい?」

 

「ですから、趙雲様と馬超様。仲が宜しいんだなぁと。羨ましいです」

 

「そ、そうですか?単に年が近いからですよ?」

 

趙雲がいつにも増して、少し早口で言う

その様子がおかしくて、紗羅は笑ってしまった

 

「ふふ、そういう事にしておきます」

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

庭に出て黒曜を下ろす

そして、さっき投げた球を拾い、ころころと転がした

すると、黒曜がそれにじゃれ付く

 

「俺も彼女作ろうかな……」

 

などと、馬超がぼやいていた事は誰も知らない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

馬超…黒曜に完全になめられてます!

いいんです、彼?の中での位置付けは

自分>>>(越えられない壁)>>馬超なのでww

 

本編:<月下の舞姫と誓いの宴>4.6話です

※これはweb拍手に加筆した物です

 

2010/06/06