桜散る頃 外章
   -櫻花異聞-

 

 短編参:仔犬がやってきた

 

 

 

「……………」

 

趙雲はこっそりと城の自分の執務室に向かっていた

手元には何やらもそもそと動く物体・・・

 

あと1歩という角に差し掛かった時だった

 

ドン

 

「お?悪い」

 

運悪く、馬超にぶつかった

よりにもよって馬超にぶつかるとは・・・自分の不運を呪う

 

「ば・・・ばばばば馬超!?」

 

「何だよ?んんー?お前、何持ってるんだ?」

 

「な、何でもない!」

 

「何でもなくはないだろう・・・って、おい、動いてるぞ?」

 

「じゃ、じゃぁな!」

 

だーと趙雲は自室に走り逃げた

慌てて、自室に入り、バタン!と勢いよく戸を閉める

 

「はぁはぁはぁ・・・はぁ」

 

どっと疲れが出た

一呼吸置き、趙雲はそっと手元の布を除けた

 

「わん」

 

「こら!吼えるな!」

 

小声で注意する

そこには、可愛らしい黒い毛色をした仔犬が はっ、はっと息をしながら 居た

その子を見ていると、次第に笑顔になる

 

「おい、趙雲」

 

「うわぁ!」

 

不意に扉をノック無しで開けられ、趙雲は素っ頓狂な声を上げてしまった

口元をぱっと押さえ、そろ~と後ろを振り返った

そこには、頭に疑問符を浮かべた馬超の姿があった

 

「ば、ばばばば馬超…な、何か用か・・・?」

 

平静を装をおうとするが、もろに動揺が顔に出ていた

 

「今、変な声が・・・・・・って、お前、それ!」

 

「あ!」

 

仔犬を隠すのを忘れていた

 

趙雲が慌てて隠そうとするが、後の祭りだ

 

「おーわんこ!」

 

「あ!こら!手荒に扱うな!」

 

馬超がバッと仔犬を抱き上げる

 

「どうしたんだ?お前、これ」

 

わはははははと笑いながら、馬超が仔犬を高い高いした

 

「………買ってきた」

 

へ?」

 

「何でもない!」

 

趙雲がプイッとそっぽを向いた

馬超はにや~とした

そこに姜維が通りかかった

 

「お、姜維!わんこだわんこ!」

 

「こ、こら!」

 

「えーどうしたんですか?」

 

姜維が駆け寄ってくる

 

「何事だ?」

 

すると、後ろの方から劉備と諸葛亮も現れた

 

「と、殿!!」

 

趙雲はぎょっとしたが、既に時遅し

 

「おお、仔犬ではないか!」

 

劉備は嬉しそうに、仔犬を撫でた

 

「これは、可愛らしい仔犬ですね」

 

諸葛亮も羽扇をバサッとしながら、呟いた

 

「これはどうしたのだ?」

 

「趙雲が買ってきたそうです」

 

「ほほう、趙雲が?」

 

「馬超!」

 

「そうかそうか・・・趙雲の邸に行けば、会えるのだな?」

 

「殿・・・子供の居ない夫婦の邸に仔犬(犬)が来るという事は・・・」

 

「おお!そうであったな!諸葛亮」

 

何かを納得、した様に劉備はほくほく顔で趙雲に向き直った

趙雲は意味が分からず、首を傾げる

 

「?」

 

「趙雲」

 

「は、はい」

 

「頑張るのだぞ?」

 

「は、はぁ・・・」

 

何のことだ・・・?

 

 

 

 

******

 

 

 

 

 

後日―――

 

「名前は決まったのか?」

 

馬超が執務の合間にやって来た

 

「……は?」

 

一瞬、何を問われているのは分からず、趙雲が首を傾げる

 

「だ~か~ら!この前のわんこ!

 

「あ、ああ…黒曜と言う」

 

「……また、大層な名前付けたな~」

 

馬超が、少し感心した様にそうぼやいた

 

「お前が名づけたのか?」

 

「いや?紗羅殿だが?」

 

「おお姫さんか~!それなら納得」

 

「?」

 

意味が分からず、趙雲が首を傾げる

馬超は、人差し指を立てながら

 

「だって、それってあれだろ?なんか黒い石の名前だろ?」

 

「そうなのか?」

 

「ええっと、なんだっけ…?確か、火山岩の一種でそれを加工した宝石の事だったと思うぞ」

 

「……よく知ってるな」

 

少し感心した様に趙雲が呟いた

 

「……お前、姫さんに装飾贈る時とか困らねぇか?」

 

「紗羅殿に?いや……とりあえず、見て判断すれば良いと思うが……」

 

「だ―――!分かってない!分かってない!!」

 

馬超が地団駄を踏む様に、首を横に振った

 

「あのな!宝石にも花言葉と同じく、石言葉ってのがあるんだよ!その意味を理解して贈らなきゃ魅力半減だろうが!」

 

「……そうなのか?」

 

「特に、指輪はだなーまたどの指にするかの意味があって……」

 

「……なんだか、難しそうだな」

 

「今日はみっちり俺様が講義してやる!!」

 

そう言って、延々と馬超の講義が始まるのであった

 

趙雲が解放されたのは、夜半過ぎだったとか、そうでないとか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

仔犬(犬)が、家に来るという事は・・・?

って、知ってる方が大半かと(笑)

 

というか仔犬の話が何故か石言葉に・・・

ちなみに、黒曜石の石言葉は”摩訶不思議”とか”柔軟”です

 

本編:<月下の舞姫と誓いの宴>4.5話です

※これはweb拍手に加筆した物です

 

2010/06/06