◆ 短編参:仔犬がやってきた
「……………」
趙雲はこっそりと城の自分の執務室に向かっていた
手元には何やらもそもそと動く物体・・・
あと1歩という角に差し掛かった時だった
ドン
「お?悪い」
運悪く、馬超にぶつかった
よりにもよって馬超にぶつかるとは・・・自分の不運を呪う
「ば・・・ばばばば馬超!?」
「何だよ?んんー?お前、何持ってるんだ?」
「な、何でもない!」
「何でもなくはないだろう・・・って、おい、動いてるぞ?」
「じゃ、じゃぁな!」
だーと趙雲は自室に走り逃げた
慌てて、自室に入り、バタン!と勢いよく戸を閉める
「はぁはぁはぁ・・・はぁ」
どっと疲れが出た
一呼吸置き、趙雲はそっと手元の布を除けた
「わん」
「こら!吼えるな!」
小声で注意する
そこには、可愛らしい黒い毛色をした仔犬が はっ、はっと息をしながら 居た
その子を見ていると、次第に笑顔になる
「おい、趙雲」
「うわぁ!」
不意に扉をノック無しで開けられ、趙雲は素っ頓狂な声を上げてしまった
口元をぱっと押さえ、そろ~と後ろを振り返った
そこには、頭に疑問符を浮かべた馬超の姿があった
「ば、ばばばば馬超…な、何か用か・・・?」
平静を装をおうとするが、もろに動揺が顔に出ていた
「今、変な声が・・・・・・って、お前、それ!」
「あ!」
仔犬を隠すのを忘れていた
趙雲が慌てて隠そうとするが、後の祭りだ
「おーわんこ!」
「あ!こら!手荒に扱うな!」
馬超がバッと仔犬を抱き上げる
「どうしたんだ?お前、これ」
わはははははと笑いながら、馬超が仔犬を高い高いした
「………買ってきた」
「へ?」
「何でもない!」
趙雲がプイッとそっぽを向いた
馬超はにや~とした
そこに姜維が通りかかった
「お、姜維!わんこだわんこ!」
「こ、こら!」
「えーどうしたんですか?」
姜維が駆け寄ってくる
「何事だ?」
すると、後ろの方から劉備と諸葛亮も現れた
「と、殿!!」
趙雲はぎょっとしたが、既に時遅し
「おお、仔犬ではないか!」
劉備は嬉しそうに、仔犬を撫でた
「これは、可愛らしい仔犬ですね」
諸葛亮も羽扇をバサッとしながら、呟いた
「これはどうしたのだ?」
「趙雲が買ってきたそうです」
「ほほう、趙雲が?」
「馬超!」
「そうかそうか・・・趙雲の邸に行けば、会えるのだな?」
「殿・・・子供の居ない夫婦の邸に仔犬(犬)が来るという事は・・・」
「おお!そうであったな!諸葛亮」
何かを納得、した様に劉備はほくほく顔で趙雲に向き直った
趙雲は意味が分からず、首を傾げる
「?」
「趙雲」
「は、はい」
「頑張るのだぞ?」
「は、はぁ・・・」
何のことだ・・・?
******
後日―――
「名前は決まったのか?」
馬超が執務の合間にやって来た
「……は?」
一瞬、何を問われているのは分からず、趙雲が首を傾げる
「だ~か~ら!この前のわんこ!
「あ、ああ…黒曜と言う」
「……また、大層な名前付けたな~」
馬超が、少し感心した様にそうぼやいた
「お前が名づけたのか?」
「いや?紗羅殿だが?」
「おお姫さんか~!それなら納得」
「?」
意味が分からず、趙雲が首を傾げる
馬超は、人差し指を立てながら
「だって、それってあれだろ?なんか黒い石の名前だろ?」
「そうなのか?」
「ええっと、なんだっけ…?確か、火山岩の一種でそれを加工した宝石の事だったと思うぞ」
「……よく知ってるな」
少し感心した様に趙雲が呟いた
「……お前、姫さんに装飾贈る時とか困らねぇか?」
「紗羅殿に?いや……とりあえず、見て判断すれば良いと思うが……」
「だ―――!分かってない!分かってない!!」
馬超が地団駄を踏む様に、首を横に振った
「あのな!宝石にも花言葉と同じく、石言葉ってのがあるんだよ!その意味を理解して贈らなきゃ魅力半減だろうが!」
「……そうなのか?」
「特に、指輪はだなーまたどの指にするかの意味があって……」
「……なんだか、難しそうだな」
「今日はみっちり俺様が講義してやる!!」
そう言って、延々と馬超の講義が始まるのであった
趙雲が解放されたのは、夜半過ぎだったとか、そうでないとか……
仔犬(犬)が、家に来るという事は・・・?
って、知ってる方が大半かと(笑)
というか仔犬の話が何故か石言葉に・・・
ちなみに、黒曜石の石言葉は”摩訶不思議”とか”柔軟”です
本編:<月下の舞姫と誓いの宴>4.5話です
※これはweb拍手に加筆した物です
2010/06/06