桜散る頃 外章
   -櫻花異聞-

 

 短編1:秘密の話

 

 

 

「趙雲」

 

呼ばれて趙雲は振り返った

向こうの方から馬超と姜維が歩いてくる

またいつもの事か という様に腰に手を当て、ふぅとため息を付き2人が来るのを待った

 

馬超が趙雲の傍に来るなり、がしっと腕を首に回す

 

「趙雲。姫さんとの生活はどうだ?」

 

「またその話か」

 

やれやれといった感じで、趙雲はふぅ…とため息を付いた

”姫さん”とは、最近趙雲の邸でお世話をする様になった紗羅の事である

 

「普通だよ。変わった事は無いが?」

 

「またまたぁ~何か進展ぐらいあったんじゃないのか?」

 

「進展って……」

 

「趙雲殿!隠し立ては無しですよ!」

 

姜維がずずいと迫ってくる

 

「……………」

 

思わず無言になってしまう

 

何故こいつらも殿も皆、同じ事を聞くのだ…

趙雲はついさっき劉備に会って同じ事を聞かれたばかりだった

 

劉備はにこにこ顔で趙雲に彼女とはどうかと聞いてきた

どう…と聞かれても、何も無いので答えようがないのだが……

 

確かに最初の頃より打ち解けてくれた様な気はする

気はするが…

まだ自分は紗羅の本当の笑顔を見ていない様な気がする…

確かに、泣いていたばかりの頃に比べればマシだと思うが…それに――――

先日、紗羅から貰った刺繍を思い出す

 

「………………」

 

無言の趙雲をわくわく顔で2人が見ている

 

「無い」

 

一言そう言うと、趙雲は2人を無視してくるりと向きを変えた

そして、すたすたと歩いていく

 

「あ!こら!逃げるな!!」

 

「往生際が悪いですよ!!」

 

2人の声が聞こえるが無視だ

 

この事を言えばまた話のネタにされるのが目に見えている

この事は自分だけに秘密にしておこう

 

 

*****

 

 

 

「絶対、何かありますね」

 

「だな」

 

趙雲が去った後、馬超と姜維はうんうん頷いた

 

「これは、実行あるのみ…だな!」

 

「そうでうねぇ~」

 

にやりと2人が笑う

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

「……………」

 

趙雲は邸に帰って来るなり硬直した

 

何故…何故こいつらが……?

 

「あ、おかえりなさい!趙雲殿!遅かったですね~」

 

「おう!邪魔してるぜ!」

 

何故か、趙雲の前には姜維と馬超の2人が居た

しかも、紗羅の室に

 

「おかえりなさいませ」

 

紗羅がその横でにっこりと微笑む

 

「………お前ら、ちょっと来い!」

 

趙雲は、否応無しに馬超と姜維2人の衿を掴んで引っ張った

 

「お、おいおい手荒だなー」

 

「そうですよ~」

 

「いいから、来い!」

 

そのまま、紗羅の室を後にする

 

外に出た所で、趙雲はバッと手を離した

 

腕を組み、仁王立ちをする

 

眉間に怒りのマークが見えそうだ

 

「どうしてお前らが居るんだ!?」

 

「そりゃぁ、なぁ?」

 

「ですよね~」

 

「分かる様に説明しろ!!」

 

眉間をひくひくさせながら趙雲がズモモモ~と背後に何かを現す

 

馬超と姜維は顔を見合わせ

 

「ほら、昼間お前に聞いたけど、答えてくれなかったじゃん?」

 

「……だから?」

 

「だから~姫さんに直接聞こうと思ってだな」

 

「……は?」

 

「そしたらさぁ~」

 

「聞いたのか!?」

 

にやりと馬超と姜維が笑った

そして、バンバンと趙雲の背を叩く

 

「いやいや、うんうん。良かったな趙雲!」

 

「僕も欲しいなぁ~」

 

これは完全に知られている……!

 

「あ、誤解の無い様に言っとくけど、姫さんに聞いたんじゃねぇぞ?」

 

「………?。じゃぁ、一体誰に……」

 

「「佳葉」」

 

 

佳葉~~~~~~!!!!

 

 

「あら、そんな所で何をしてるんですか?お三方」

 

そこへ丁度、佳葉が現れた

 

「佳葉!お前っ……!」

 

思わず、趙雲が身を乗り出す

 

「あらあら、お帰りなさいませ。趙雲様」

 

にっこりと佳葉が有無を言わさない感じに微笑む

 

「たまには、もう少し早く帰ってきてもバチは当たりませんのに」

 

「……っう」

 

「紗羅様の寂しがっておいでですわよ~少しはお相手して差し上げても宜しいんじゃありませんこと?」

 

「………うぐっ」

 

ほほほほほと佳葉が笑った

 

事実なだけに言い返せない……

 

「し、仕方ないだろう」

 

「仕方ない?」

 

ピクッと佳葉が反応する

 

「今、”仕方ない”とおっしゃいました?」

 

ピククッと佳葉が眉間を引き攣らせた

 

「紗羅様を放っておいて、”仕方ない”!?」

 

「あ、いや……」

 

佳葉の気迫に、思わずしり込みしてしまう

 

「よくもまぁ…。どの口がほざきますの!?

 

「……すみません」

 

「馬超様も姜維様も、紗羅様のお相手をお願いしましたのに…ここで何を?」

 

にっこりと微笑んだ佳葉の背後に何か別の物が見える

 

「い、いや!俺はだな……!」

 

「ご、誤解です~」

 

 

「お黙りなさい!!」

 

 

「「……すみません」」

 

パンパンと佳葉が手を叩いた

 

「さ、さっさとお戻りあそばせ!」

 

佳葉には逆らうまい

そう心に誓うのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

佳葉強し!

きっと、彼女には誰も逆らえません

本編:<月と桜の理>8.5話です

 

※これはweb拍手に加筆した物です

 

2010/06/06