桜散る頃 外章
   -櫻花異聞-

 

時の迷宮 地の狭間 後編

 

 

 

ドドドドドド……

 

騎馬の大群が趙雲に襲い掛かる

趙雲は、槍を駆使してそれを凌いでいた

 

シュ…

 

槍が撓り、1人また1人と敵を倒していく

 

「はぁ…はぁ…はぁ……くっ!」

 

ぐるんっと槍を回し、そのまま襲い掛かってくる敵に突き刺した

1人…また打ち負かす

 

だが、襲い掛かる敵は途切れる事無く、次か次へと襲い掛かってきた

 

「奴は1人だ!仕留めろ!!」

 

また、敵がその牙を向いてきた

 

「く……っ!」

 

趙雲は馬上にありながらも、あたかも地上に居るかの様に槍を振るっていた

ブン!と槍が撓り、敵を打ち払う

 

何故、矢で狙わないのか

それは分からない

 

だが、それは幸いだった

もし、後ろから矢で狙われたら…

打ち払っても打ち払っても逃げ切れる可能性は低くなる

 

「はぁ…はぁ…はぁ…」

 

あれからどのくらい経ったのか

阿斗を保護し、1人で駆ってどのくらいの時間が経ったのか…

 

もう、時間の感覚は無くなっていた

 

だが、”時間”は確実に趙雲の体力を蝕んでいた

疲労が体力を奪い、流れ出る汗で視界が霞む

浴びた返り血の匂いが感覚を麻痺させていった

槍を持つ腕は鉛の様に重く、上げる事も振るう事も、もう限界に近かった

息は上がり、肩が上下に揺れる

 

ただ1つ、幸いだったのは胸元に入れた阿斗が大人しい事だった

泣く事も無く、暴れる事も無く、すやすや寝息を立てている

 

趙雲はそっとその阿斗に触れた

 

その瞬間だけ、趙雲の表情が穏やかになる

 

「阿斗様、もう少しですからね」

 

そう語りかけ、趙雲はキッと前方を睨んだ

その趙雲目掛けて敵が襲い掛かってくる

 

「行く手を阻む者は斬る!!」

 

趙雲はブンッと腕を振り回し、襲い来る敵に槍を薙ぎ払った

すかさず、逆から襲い来る敵に槍を突き刺す

 

「回り込め!」

 

敵が趙雲を囲むように、周りに展開しだした

囲まれれば抜けるのが困難になる

 

「はっ!」

 

趙雲は馬腹を蹴り、その囲みを突破しようとした

だが、疲労した愛馬ではやはり限界があった

趙雲同様、愛馬もずっと走っているのだ

その疲労は尋常では無い筈

 

展開した敵の方が早く、趙雲は瞬く間に囲まれてしまった

だが、趙雲は手綱を力強く持ち、更に馬腹を蹴り速度を上げた

 

このまま突破しようというのか

だが、ここで止まる事は捕縛される事と一緒だった

 

何だ…気のせいか…?

 

違和感を感じ、趙雲はちらっと後方を見た

 

この場合、感じても良い殺意を感じないのだ

むしろ、生かして捕らえ様としているかの様に思える

 

捕縛しようとしている…?

 

もし、そうなら矢を射掛けないのも納得いく

無傷…とまではいかないとしても、生かして捕らえ様としているのなら矢は射てこない

 

だが、それは幸か不幸か、趙雲に取っては運が良かった

もし、捕縛しようというなら、無茶な攻撃はしてこない筈

 

それが、曹操の指示なのかは不明だが、捕縛して阿斗を亡き者にする気なのか

はたまた、趙雲を捕らえるのが目的なのか

そんな事どうでも良かった

 

言える事は1つ――――

捕まる気は無い――――という事だった

 

これが、自分1人なら諦めていたかもしれない

だが、今は違うのだ

胸元に居るは劉備が嫡子・阿斗 

捕まるわけにはいかなかった

阿斗を劉備の元に届けるまでは、捕まる訳にはいかないのだ

 

「よし!取り押さえろ!!」

 

魏兵の歓声にも似た声が木霊する

わぁ…!と一気に敵兵が趙雲目掛けて襲い掛かってきた

 

すると趙雲は、一点目掛けて槍を投げた

槍がビュン!と勢い良く飛び、敵兵の喉下に突き刺さる

 

その瞬間、グラッと囲みの一角が崩れた

趙雲はその崩れた一角を目指して、馬を走らせた

 

その時だった

 

背後から「わぁぁ!」という掛け声と共に、敵兵の1人が襲い掛かってきた

 

その敵兵からは殺意を感じた

 

「く………っ!!」

 

今、背後から攻撃されれば致命傷を負いかねない

趙雲は、横に近づいてきた敵兵の腹を蹴り飛ばした

 

「ぐぁ……!」

 

敵兵が吹っ飛び、持っていた剣が宙に浮く

趙雲は素早く、その剣を奪った

そのまま、流れる様に、後方から襲ってきた敵兵の槍を受ける

 

ギイン……!

 

力強く受けてしまったせいか、はたまた剣が脆かったのか

受けた、剣にビシッと亀裂が入った

 

「………!?」

 

折れる!!

 

ガキン!という音と共に、剣が2つに折れた

 

「くそ………!!」

 

趙雲はその折れた剣を素早く、捨てて、受けていた槍をその手で掴んだ

そのまま、前方に引っ張る

敵兵が槍と一緒に自分の傍まで来た

そして、反転して今度は後方に槍を突き刺した

付いて来ていた敵兵が反動で後方に吹っ飛ぶ

1兵に気を取られている内に気がつけば、また囲みが戻っていた

 

「ち………っ!」

 

趙雲は馬の手綱を引き、その歩みを止めた

どう考えても馬を走らせられる状況ではなかったからだ

 

その瞬間、敵兵が「わぁ…!」と趙雲目掛けて襲い掛かってくる

趙雲は馬上に居るまま、槍を構えた

 

馬から降りて戦えば楽だったかもしれない

だが、それでは逃げる時に逃げる事が出来ない

だから、その選択肢は捨てた

 

趙雲は槍をブンッと振り回すと、そのまま一気に敵兵を薙ぎ払った

横に近づいていた敵兵が後方に吹っ飛ぶ

今度は、背を使い槍を逆に持ち替えるとそのまま、横から後ろに振り回す

反動を使い、前方の敵をその流れで打ち払った

そして、前方の一点目掛けて槍を投げ飛ばす

 

「ぐぁぁ……!」

 

数人の敵兵がその槍によって打ち払われた

 

「今だ……!」

 

武器を持っていない趙雲目掛けて敵兵が襲い掛かってきた

だが、趙雲は臆する事無く、今度は馬腹を力強く蹴った

 

そして、愛馬が甲高く嘶くと一気に走り出した

 

急に走り出した馬に驚き、敵兵が後退る

 

その瞬間を趙雲は見逃さなかった

 

「は……っ!!」

 

手綱を撓らせ、速度を上げる

 

馬は一気に加速し、敵兵の囲みを走り抜けた

そのまま、囲みを突破するかと思われたその時だった

痺れを切らしたのか、横の高台から1本の矢が趙雲目掛けて射られた

後方からならまだしも、横からだ

趙雲は手綱を使い馬で避け様とも試みたが上手くいかない

 

当たる……!と思われたその時だった

 

 

 

 

「趙雲様!!」

 

 

 

 

凛とした声と共に、1本の剣が趙雲目掛けて投げられて来た

趙雲は素早くその剣を受け取ると、射られて来た矢を打ち払った

 

シュンッと風を斬る音が響く

 

「これは………」

 

その剣は今までに類を見ない程の斬れ味だった

研ぎ澄まされた銀色の剣先が光る――――

 

その瞬間、月毛色の馬に乗った1人の少女が現れた

蒼に銀の刺繍の入った戦袍を纏ったその少女は風の様に趙雲の傍までやって来ると、そのまま持っていた剣で群がっていた敵を打ち払った

 

ドオォォン……

 

濛々と土煙が上がる

 

サラッ…と趙雲の目の前で彼女の漆黒の髪が揺れた

 

一瞬

ほんの一瞬

趙雲はその少女の姿に目を奪われた

いや、趙雲以外の誰しもが目を奪われていた

 

舞う様に剣を振るう少女はまるで、戦女神の様で

戦う姿はさながら仙女が降臨したかの様に、少女は剣を振るうとその蒼い両の瞳を趙雲に向けた

 

少女――――紗羅は踵を返すと

 

「趙雲様お早く!!」

 

急かされてハッと我に返る

 

「そ…そなたは………」

 

「今は詮索なき様に!」

 

そう言い終わるや否や、紗羅は趙雲の馬腹を蹴った

趙雲の馬が嘶くと一気に走り出した

 

そのまま、敵陣の中に突っ込んで行く

紗羅は先行すると、趙雲の前の敵を打ち払った

 

道を作る

 

そのまま、2頭の馬は一気に走りぬけて行った――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

趙雲は九死に一生を得た気分だった

敵兵は追ってきていない

 

紗羅の登場に驚き、それ所では無かった――――というべきかもしれない

 

かく言う趙雲も驚きを隠せなかった

 

風体から言って明らかに味方――――蜀軍の兵ではないのは明らかだった

どう見ても、彼女は魏に属する者

その者が何故己を助けるのか

皆目見当がつかなかった

 

両者は馬を走らせる

 

ちらっと趙雲は先行する紗羅を見た

 

美しい少女だった――――

 

漆黒の髪が風に揺れる

蒼い戦袍からのぞく白い四肢が際立っていた

前方を見据える蒼い瞳が趙雲の目を捕らえて離さなかった

 

「……………」

 

両者無言のまま馬を走らせる

 

 

どのくらいそうしていただろうか…

 

「待ってくれ……!」

 

沈黙を破ったのは趙雲の方だった

 

紗羅は少し、辺りを見回すと敵が居ない事を確認したのか、趙雲の傍まで馬を後退させた

 

そして、戦袍を深くかぶり直すと、蒼い両の瞳が趙雲を捕らえた

瞳と瞳が合った

 

「詮索はなき様に――――とお願いした筈ですが」

 

紗羅はつと前方を見た

周りに気を張っている様だった

 

剣の立ち捌き、気の巡らせ方、馬の操り方――――全てが常軌を逸していた

常人ではない事を物語っている

紗羅は分かっているのか、少し息を吐くと趙雲を見据えた

 

「私が、助けたいから助けただけ――――です」

 

一呼吸置き

 

「敵側の者が助けるなど、不服でしょうか?」

 

少しだけ、紗羅の瞳が悲しそうに揺れた

 

「いや……そんな事は無いが……」

 

趙雲はただそう言う事しか出来なかった

 

明らかな拒絶――――

彼女から発せられる全てが、趙雲が疑問を投げかける事を拒絶していた

 

ふと、紗羅が反応した

趙雲もピクッと何かに呼応するかの様に反応する

 

敵が――――近くに居る

 

それも、かなりの手練の者の気配だ

 

「私が行きます。趙雲様は先に――――」

 

「何を言うか!そなた1人行かす訳には――――っ!!」

 

紗羅は趙雲の言葉を剣を翳し遮った

 

そして微かに笑ってみせると、片方に逸れたわき道を指差した

 

「あちらから敵に会わず下れます。向こうに気付かれる前にお早く」

 

そう言い残すと自らの馬の手綱を引っ張ろうとした

 

「待つのだ!」

 

趙雲は瞬間的に彼女の馬の手綱を引っ張った

 

がくんっと引っ張られ紗羅の馬がその歩みを止める

 

「何を――――」

 

「そなた1人で行っては危険だ!相手は剛の者やも知れぬ。危険を冒さぬ道があるなら一緒に――――」

 

「駄目です!!」

 

紗羅の言葉が趙雲の言葉を遮った

 

「それは…無理です。元譲様はお気づきになる……!」

 

「元譲……?」

 

紗羅は自分の失言にハッとして口を手で覆った

 

「そなたの知り合いか?」

 

「……………」

 

紗羅は答えなかった

 

答える代わりに「趙雲様……」と呟いた

 

「貴方様には守るべき者がおありの筈――――ここで無駄な戦闘は避けるべきです。違いますか?」

 

その言葉に趙雲はハッとした

 

胸元に居る和子――――劉備の子

趙雲には守らねばならぬ存在がいる事を

 

「し、しかし……」

 

紗羅はふっと口元に笑みを浮かべ

 

「私は大丈夫です。信じてください――――と言うのも痴がましいですが……」

 

そこまで言って、紗羅は趙雲を見た

 

「ご安心下さい。和子様共々必ず劉備様の元に送り届けてみせます」

 

「……………」

 

趙雲はもう何も言えなかった

趙雲は一度目を伏せ

 

「………分かった。正し、必ず再び会うと約束してくれ。必ず生きて逢う――――と」

 

紗羅はにっこり微笑んだ

そして、そのまま馬を走らせて行ってしまった

 

「はい」とは言わずに――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紗羅は戦袍を深く被り直すと、一気に速度を上げた

 

そして、前方に見える一団に突入する

 

突如襲われた一団は慌てふためき、散り散りになった

その時だった――――

 

 

 

「動揺するな!」

 

 

 

地を唸らせるような怒声が響いた

 

紗羅は無言のまま声のした方を見た

そこに居たのは隻眼の将――――夏侯惇元譲

 

夏侯惇は眉を上げ、紗羅を見据えた

 

「お前………」

 

何か言い掛けた夏侯惇を遮るかの様に紗羅は彼目掛けて斬り掛かった

 

ギィィィィン!!

 

 一合

 

 

ギィン!

 

 二合

 

 

剣と剣がぶつかり合う

 

「お前……!こんな所で何をしている!?莉維!!」

 

「……………っ!」

 

 

ギイイン

 

紗羅の剣が弾かれた

 

紗羅は咄嗟に距離を取り、はぁ…と息を吐いた

 

そして、頭から被っていた戦袍を取る

サラッ…と高く結い上げた漆黒の髪が揺れた

 

「元譲様………」

 

そう呟くと、スッと剣を下ろした

 

「……俺はあそこに居ろと言った筈だが?」

 

夏侯惇の低い 怒りにも似た声が響いた

 

「見逃してください」

 

「なに……?」

 

紗羅の言葉に夏侯惇の片眉が上がる

 

「見逃してください」

 

「俺にあの男を見逃せと言うのか?」

 

「……………」

 

紗羅は返事をしなかった

 

「自分が何を言っているのか分かっているのか」

 

夏侯惇の怒りにも似た声が紗羅の脳裏に焼きつく

 

「……………」

 

彼女はやはり何も答えなかった

 

分かっている

自分がどれだけ、夏侯惇にとって無理難題を吹っ掛けているか

見逃す――――それは曹操の意向に背く事

今、彼は曹操の言葉に従っているのだ

彼女の言葉を受けるという事は、つまりそういう事だ

 

「……………」

 

夏侯惇はじっと紗羅を見据えた

そして、はぁ…と大きなため息を漏らすと、ポンッと紗羅の頭に手を置いた

 

「元譲様……?」

 

「今回だけ…だからな」

 

そう言い残すと、踵を返した

 

兵から不満の声が上がるが、夏侯惇はそれを一喝して軍を退かせる

 

「有難う御座います」

 

紗羅は頭を深く下げると、踵を返しその場から去って行った

 

「さて、孟徳に何て言い訳するかな」

 

そうぼやくと剣の柄を肩に置いて

 

「己の信念を貫け、莉維」

 

と呟いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「無事だったか!」

 

趙雲と紗羅が合流し、趙雲に安堵の息が漏れる

 

それから、何度か敵と遭遇したが、2人で打ち負かしていった

何度目かの遭遇の後、急に開けた場所に到達した

 

紗羅が手綱を引いて馬を止める

趙雲も続く様に馬を止めた

 

前方見ると橋が架かっており、その橋の上で奮闘する人影が見えた

 

「あれは…張飛殿!」

 

それは張飛だった

という事は、あの後方に蜀軍が居る

 

「ここまで来れたのもそなたのお陰だ。感謝する」

 

趙雲は顔に笑みを浮かべ、紗羅を見た

 

「……名を聞いても良いだろうか?私は趙子龍という」

 

「……………っ」

 

一瞬、紗羅の顔が強張った

 

紗羅は寂しそうに、少しだけ笑みを浮かべると、ぷるっと首を振り

 

「……あの先に、貴方様の求めるお方がいらっしゃいます。さぁ、お早く」

 

そう促したが、趙雲は行きかけてその歩みを止めた

 

何かを考える仕草をみせると、紗羅の方に振る返りスッと手を差し出した

 

「……………?」

 

意味が分からず紗羅は首を傾げた

 

「そなたも一緒に行かぬか?」

 

「………え?」

 

それは思いがけない言葉だった

 

な…に………?

 

一瞬、紗羅が動揺の表情を浮かべる

 

趙雲はそれでも真っ直ぐに紗羅を見据え

 

「このままそなたを残しては行けぬ」

 

「……………」

 

ああ…この人は………

 

趙雲の言わんとする意味を悟り、紗羅は泣きそうになるのをぐっと堪えた

趙雲に味方した自分が魏に留まればどうなるか――――趙雲は紗羅の身を案じているのだ

 

どこまでも優しい人――――

 

紗羅は微かに、笑みを作り

 

「――――その剣は”青釭”と言います。私の持つ剣”倚天”の双子剣です。代わりにそれをお持ち下さい」

 

「――――え?」

 

問い掛け様としたその時だった

 

 

 

「おおーい!趙雲――――!!」

 

 

 

張飛の声が聞こえて来た

 

思わず、そっちの方を振り返る

張飛がこっちに向かって走って来ていた

 

「張飛殿」

 

「趙雲。心配したんだぜ」

 

「すみません。阿斗様もご無事です」

 

「そうか!早く兄者に見せてやらねーとな。それにしても、良く無事だったな!」

 

「ああ、それはこの方が――――」

 

そこまで言いかけて趙雲は動きを止めた

 

「この方?どの方だよ?」

 

張飛が眉を寄せて趙雲の翳す手の方を見た

 

 

 

そこには、誰も居なかった――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

蜀軍が船で去って行くのが見える――――

 

紗羅は馬上にありながら、その姿を見送っていた

 

「…………莉維」

 

不意に呼ばれそちらの方を振り返る

 

「………元譲様」

 

そこには夏侯惇が居た

夏侯惇は馬を紗羅の隣に寄せ

 

「奴等、行ったか」

 

「………はい」

 

「そうか」

 

不意にグイッと引き寄せられ、視界を手で覆われた

 

「………元譲様?」

 

「……よく、我慢したな」

 

「……………っ」

 

突然掛けられた優しい声に、触発される様に我慢していた涙が零れた

ボロボロと次から次へと零れ落ちていく

 

「………私は、笑えて…いたで、しょうか……」

 

「………ああ」

 

「………そう、ですか……良かっ……」

 

紗羅の声は呟く様に消えた

 

涙で肩が震える

 

 

紗羅は声を殺して泣いた

 

泣いて、泣いて泣き続けた――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これで、長坂の話は終了です

 

中々、微妙な終わり方になってしまったが・・・

元からここで完結予定だったので、許して下さいねw

ここで付いて行ってたらまた話が変わったでしょうがねー

 

※これは本編前の話になります

 

2009/06/07