◆ 我は欲す 闇夜の瞳を 4
『――――あの娘を、助けてやれ』
曹丕は確かにそう言った
でも――――・・・・・・
突然、降って湧いたような陶謙の孫娘
もともと、曹丕に遣わされた娘だった
それを、何故 私が?
と、思わなくもないが―――――・・・・・・
ちらりと、茶器でお茶を注ぐ愛鈴を見る
まるで何も知らない、普通の娘だ
「・・・・・・・・・・はぁ」
朔夜がたまらず溜息を洩らす
なんというか、こう・・・・・・
面倒事を押し付けられたような・・・・・・そんな気がするのは気のせいだろうか?
そもそも、元々悪いのはその曹嵩を殺した陶謙の部下であって、陶謙ではない
でも――――――
部下の監督責任を問われたら、曹操が陶謙を恨むのは当然だ
それが、人の上に立つという事だ
しかも、徐州を攻められたのを逆恨みして、自分の娘を放つ陶謙の息子って一体・・・・・・
それも、暗示をかけてまでする? 実の娘に?
到底、朔夜には理解しがたかった
ふと、ある事を思い出した
それは、朔夜が丁度生まれるより前の話だ
黄巾族の反乱の折に、頭角をみせた董卓という男がいた
その後、霊帝が崩御して少帝が帝位につと、宮中の混乱に乗じ董卓が朝廷の実験を握ったのだ
董卓は少帝を排し、献帝が新たに帝位につかせる
最早、帝など飾りに等しかったという
朝廷の全権を掌握した董卓の独裁の始まりだ
官僚たちは董卓に付くか、もしくは反董卓派に二分されたという
だが、表立って董卓に反発しようという人物はいなかった
なぜならば、董卓の傍には猛将といわれる呂布がいたからだ
呂奉先
呂布は、腕力が常人よりも遥かに強く、弓術・馬術にも秀でていたた
その為、前漢の李広になぞらえて飛将と呼ばれたほどだ
董卓に逆らったものは、皆 呂布の手によって殺されていた
その為、誰も董卓に逆らえなかったという
しかし、ここである官僚が「連環の計」を使って、董卓と呂布を仲違いさせて、呂布に董卓を討たせたのだ
「連環の計」
それは、義理の娘である絶世の美女・貂蝉を使った、王允の行った謀だ
あれは確か―――――・・・・・・
最初に呂布に貂蝉を娶らせると約束しておきながら、董卓に献上したのよね・・・・・・
それで、激怒した呂布が王允邸に怒鳴り込んできて、王允は無理やり董卓に貂蝉を差し出す様に言われたといって、その怒りの矛先を董卓に向けさせた
結果、呂布は董卓を殺すわけだけど―――――・・・・・・
「ん――――・・・・・・」
朔夜は唸りながら腕を組んだ
この場合、曹丕が万が一にも愛鈴を気にいれば、傍に置くだろう
自然と、曹操の耳にも入るはずだ
となると―――――曹操は「愛鈴」がどんな美女が気になりだすはず
曹操が好色なのは有名な話だ
それが、実の息子の嫁であっても例外はないだろう
曹操は曹丕のいない合間に愛鈴に接触しようとする
それを、曹丕が知れば・・・・・・上手くすれば、曹丕と曹操を仲違い――――――欲を言えば、同士討ちさせられる
「・・・・・・・・・・・・」
ちらりと、愛鈴を見る
丁度、お茶を淹れ終わった愛鈴が、こちらに笑顔でやってきた
「朔夜様、お待たせいたしました」
そう言って、丁寧な動作ですっと朔夜の前にお茶を差し出す
「ありがとう、愛鈴」
朔夜はそう言って、彼女の淹れたお茶を見た
もし、愛鈴が暗示にかかっていて 父である陶商や陶応達の思惑通り動く「駒」ならば、このお茶は飲むべきではない――――のかもしれないが・・・・・・
そもそも、彼らにとって朔夜の存在は予定外な筈だ
本来の彼らの予定では、愛鈴は曹丕に近づく手はずだった筈である
が・・・・・・
実際は、そうはならなかった
この時点で彼らの考え抜いた「作戦」は失敗しているようなもの
というか・・・・・・
思わず、愛鈴をじっと見る
それに気づいた愛鈴がにっこりと微笑んだ
それ以前に、愛鈴を使った時点で意味ない気が・・・・・・
董卓と呂布の時は、餌となる絶世の美女――――つまりは、貂蝉だからこその策である
申し訳ないが―――――それを愛鈴に求めるのは無理がある気がした
勿論、愛鈴が醜いという意味ではない
愛鈴はどちらかというと、こう可愛い系の構ってあげたくなる様な子だ
それに比べ、貂蝉はすべてを魅了するほどの絶世の美女だったと聞く
その愛鈴に貂蝉の役をやらせるとか・・・・・・・・
どう考えても無理があるでしょ!!!!!
馬鹿なの!?
やはり、官吏にもなれなかった無能な陶謙の息子たち・・・・・・
何処まで行っても、馬鹿だとしかいいようがないわ!!!
第一、本当に娘が可愛いなら、こんな暗示をかけてまでの手駒にはしない
どこまでも、浅はかで愚かなやつの考えそうな事だった
朔夜はぐいっと愛鈴の淹れてくれた茶を飲み干すと
がしっと愛鈴の手を握った
「愛鈴!!」
「は、はい・・・・・・?」
突然の、朔夜からの声に、一瞬 愛鈴が躊躇する
が、朔夜は気にも止めず
「絶対、助けてあげるから!!」
この時、朔夜の中で「絶対に愛鈴を助ける!!」という使命感が生まれたのは言うまでもない
**** ****
「・・・・・・・・・・・・」
夕刻、部屋に突然きた曹丕に朔夜は首を傾げた
なにか、陶商や陶応達の動きが分かったのかと思ったが・・・・・・
曹丕は、呑気に茶を飲んでいた
流石に、捕虜とはいえ、格別の待遇でこの部屋に置いて貰っている身なので
拒否権はない
が・・・・・・
なんだろう
こう、この人が自分の前で無防備にお茶を飲んでいる姿に、苛っとした
普通、捕虜の前で呑気に茶を飲むだろうか
否、普通はしない
ここで、私が彼に毒を盛るとは考えないのか・・・・・・
多分、曹丕は朔夜には出来ないと高を括っているのだ
それが、無性に腹立だしい
まぁ、実際出来ないのだが・・・・・・
というより、そういう卑怯な真似はしたくない
朔夜は小さく息を吐くと、曹丕の空いた器に茶を注いだ
本当ならば、こういう仕事は侍女がするのだが・・・・・・
生憎、朔夜の侍女は愛鈴しかいない
それはそうだろう
誰が好んで、捕虜の面倒を見たがるというのだ
朔夜が曹魏の人間でない事は明白であり―――――
あの夜、人質として来たのはこの城のものならば、誰でも知る事だ
何故ならば、曹丕の愛馬に一緒に乗って入城したのだから―――――・・・・・・
そうれは、もう
周りの反応が凄かったのを今でも覚えている
消すことが可能なら、消してしまいたい過去だ
きっと、曹操の耳にも入っているだろう
そう考えると、この部屋に不必要に誰も近づかないのも頷ける
「敵国から連れてこられた、愛人」
そう噂されているには、なんとなく耳に入っている
実際は、「愛人」でもなんでもないのだが・・・・・・
だから、部屋の前にいる兵士も、護衛半分、監視半分
と言った所だろう―――――・・・・・・
まぁ、英雄色を好むとはよく言ったものだ
曹操は、まぎれもなくそちら側の人間だろう
そして、その曹操の息子の曹丕も――――――そうだと思ってもおかしくない
が・・・・・・
ここで一つ、疑問が残る
普通、この場合「絶世の美女」とか「経国の美女」など、とにかく「美しさ」が重要になってくるはずである
勿論、相手の好みにもよるが
少なくとも、曹操は「美人の人妻」に特に興味を示すという
ならば、曹丕は・・・・・・?
残念ながら、朔夜は自分が彼らの言う「美人」に該当しないことぐらい分かっている
そんなもの、鏡を見れば一目瞭然だ
毎日、鍛錬に明け暮れ 一日たりとも「槍」を手放した事のない「戦う物の手」
着飾る事よりも、動きやすさ重視で選ぶ「衣」
美しさを出すための「化粧」も「気品」も朔夜には不要のものだった
ただ、我が主、我が師の為だけに、槍を振るう―――――
それだけの為に、生きてきたし
これからもそうするつもりだった
それなのに―――――――・・・・・・
「・・・・・・・・・・・・」
なぜ、私はこんな所で生き恥を晒しているのだろうか・・・・・・
本当ならば、あの日 あの夜
魏軍が約束通り撤退し、蜀軍と距離を取って離れれば―――――
自害すべきだった
生きていても、蜀の―――我が主・劉備様の足枷にしかならない
朔夜を盾にされれば、心優しい劉備も、師である趙雲も・・・・・・
魏軍――――ひいては曹丕に手が出せないだろう
だから、自ら命を絶つべきだった
なのに・・・・・・
こうしてのうのうと生きているなんて・・・・・・
裏切り行為で以外、なにものでもない――――――・・・・・・
「・・・・・・・・・・・・っ」
くやしい―――――・・・・・・
死ぬことすら、出来ないなんて
なんて、自分が臆病なのだろうと、思い知らされる
いざ、「死」を直面して、「恐れている」―――――・・・・・・
躊躇してしまった
いっそのこと、尋問でも拷問でもされれば、楽に「死」を選ぶことが出来たのに
それなのに―――――・・・・・・
目の前の曹丕を見る
この男は、それをしない
まるで、二度と出られない綺麗な黄金の鳥籠の中に閉じ込められた哀れな雀と同じだ―――――・・・・・・
大空に羽ばたいて逃げることも、自ら命を絶つことを出来ない
鳥籠に似つかわしく無い、哀れな雀・・・・・・
ふいに、かたん・・・という音が聴こえたかと思うと、曹丕が器を置き立ち上がった
朔夜がそれに気づき、顔を上げる
つと、いつの間にか曹丕が目の前にいた
「・・・・・・・・・・・・っ」
ぎくっと、朔夜の顔が強張る
ぎし・・・・・と、椅子が軋む音が聴こえたかと思うと、曹丕が朔夜の座っていた椅子に足を掛けた
そして、そのままくいっと彼女の顎を上へと持ち上げる
「・・・・・・・・・・・・っ」
突然の曹丕のその行動に、朔夜が一瞬、動揺の色を示す
「な、なに、を――――・・・・・・」
その全てを見通すかのような曹丕の蒼紫色の瞳が、朔夜を捕らえていた
ごくりと、喉が音を立てる
曹丕は、無言のままじっと朔夜を見た
気付かれる――――――・・・・・・
そう思った瞬間、朔夜は曹丕から視線をそらしてしまった
が、曹丕がそれを許すはずもなく
そのままぐいっと、朔夜の腰をかき抱いたかと思うと、そのままぐいっと抱き上げられた
「ちょっ・・・・・・!」
まさかの曹丕の行動に、朔夜が思わず抗議の声を上げそうになる
だが、曹丕は全く気に留めた様子もなく、すたすたと歩き始めた
まさか・・・・・・っ
“それ”を見た瞬間、朔夜がぎくりと顔を強張らせた
そこには、朔夜が使っている天蓋の付いている寝台があった
う、うそでしょ!!?
これから、起こるかもしれないであろう、行為に朔夜が慌てて曹丕を見る
瞬間、曹丕の蒼紫の瞳と目があった
微かに、その口元に笑みが浮かぶ
逃げなきゃ―――――
そう思うのに、逃げる隙すらない
そうしている内に、そのまま寝台にどさっと降ろされた
それとほぼ同時に、曹丕が朔夜の両の手を頭の上で羽交い絞めにした
「はな・・・・・・っ」
「・・・・・・何を考えていた」
「離して!」という前に、曹丕のその言葉は遮られた
曹丕のその問いに、朔夜がぎくりとする
どくん・・・・・・、どくん・・・・・・、と、心臓が鳴り響く
「な、なに、も・・・・・・」
動揺して言葉が上手く紡げない
一瞬、曹丕の蒼紫の瞳が鋭くなった気がした
不意に、曹丕の手が朔夜の顎にかかった
そのまま、曹丕の方を向かせられる
「・・・・・・前にも言ったと思うが」
ぐいっと、顎を持ち上げられたかと思うと、強引にそのまま口付けられた
「・・・・・・っぁ・・・」
突然の口付けに、朔夜が動揺する
駄目
動揺すれば、曹丕の思うつぼだ―――――!!
けれど・・・・・・
「んん・・・・・・ぁ、や・・・・だ、め・・・・・・っ」
「ふっ・・・・・・駄目は、なしだ」
そう言って、さらに口付けが深くなる
徐々に激しくなっていく口付けに、流石の朔夜も抵抗する力が抜けていった
駄目だと分かっているのに
相手は、敵国のそれも曹家の嫡男だというのに――――
こんな、こんな・・・・・・っ
じわりと、悔しくて涙が込み上げてくる
それでも、曹丕は止まらなかった
「ぁ・・・・・・んっ・・・・」
不意に、耳元に曹丕の息がかかる
「覚えていないのか・・・・・・?」
な、に・・・・・・?
「言ったであろう――――・・・・・・。 “女を吐かすには寝屋が一番”だと――――」
「・・・・・・っ!!?」
曹丕のその言葉に、朔夜がびくっとする
「・・・・・・許さぬ」
曹丕の蒼紫の瞳が朔夜を捕らえる
そして―――――・・・・・・
「お前が自ら命を断てば―――――やつらを皆殺しにする」
「――――っ!!!?」
気付かれているっ
曹丕の言う「やつら」が誰の事を指しているのかは明白だった
劉備様っ、子龍様・・・・・・っ
死ぬことも
逃げることも許されない
それなら・・・・・・
それならば、私はどうすれば―――――・・・・・・っ
続
久々に無双書いたわ~~~( ;´・ω・)
だって~~~~~
ゲームPray出来ないんだもんんんん~~~~(´Д⊂ヽ
モチベが・・・・・・な
あ、アプリの無双はやりません
爽快感を感じられると思えないので!!( ・`ω・´)キリッ
前:2008.09.18
※改:2021.11.04