㭭ノ題 言葉の題

 

◆ 83:放課後の約束 / 騒ぐ胸

 (アルゴナ:『猫と私と”あなた”』より:旭那由多)

 

 

  猫と私と”あなた”7

 

 

 

「えっと、あの・・・・・・」

 

夕夏は、困った様に銀髪の彼を見た

とても冗談を言う人には見えない

 

という事は、本当に・・・・・・?

 

教室の場所が分からないって・・・・・・

入学式から大分経つ

それまではどうしていたのかという、疑問が浮かぶ

 

が、ふと先ほど友人が話していた話を思い出す

最近、転入してきたかっこいい人がいると言っていた

 

もしかしたら、彼はその内の一人なのかもしれない――――・・・・・・

彼の外見だけいえば、確かに噂になっていてもおかしくない

それに、もし入学式から学校に来ていたのなら、もっと早い段階で噂になっていた筈だ

 

とりあえず――――・・・・・・

 

彼が突き付けてきた時間割表を見る

この講義・・・・・・

 

「あの・・・・・・申し上げにくいのですが・・・・・・」

 

「あ?」

 

「教室までご案内するのは構いません。 ただ・・・・・・」

 

煮え切らない、夕夏に青年が痺れを切らしたようにイラついた声で

 

「・・・・・・はっきりしろっ」

 

う・・・・・・・・・っ

そんなに、すごまないで欲しい・・・・・・

 

「え、えっと、まず今日の講義の時間は終わっています」

 

「だから、なんだ」

 

そんな事、分かっている

という風に、青年が返してきた

 

夕夏は思わず、苦笑いを浮かべそうになるのを必死でこらえた

 

「それと、もう一つ。 この講義、今日で終わりなので――――・・・・・・、この科目の単位を取るには必須レポートを出すしかありません」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

青年が、唖然とした顔でこちらを見ていた

 

夕夏は心の中で

そうよね、そう思うわよね・・・・・・と、思った

 

数秒もしない内に、青年が「・・・・ちっ」と舌打ちをしたかと思うと、夕夏の手にあった時間割表を奪った

そして、その時間割表を見て、眉間に皺を寄せて考え込む

 

どうしよう・・・・・・

余計な事かもしれないけれど・・・・・・

 

「あの・・・・・・」

 

そろりと、後ろから夕夏が時間割表を覗く

 

「これと・・・・・・、これと、これ。 後、これも――――法学部なら最低取っておかないといけない科目なのですが・・・・・・。 後、どれを取ってないのですか?」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

返事がない

夕夏が少し戸惑ったように

 

「えっと、あの・・・・・・、私の声、聴こえています?」

 

「・・・・・・ねぇ・・・」

 

ぼそりと、青年がぼやいた

が、何を言っているのか、夕夏には残念ながら聴き取れなかった

 

「あの・・・・・・?」

 

「・・・・・・全部、取ってねぇ」

 

「え・・・・・・」

 

夕夏は、一瞬耳を疑った

全部? 今、全部と言った???

 

って・・・・・・

編入してから、何してたの!!? この人っ!!!!

 

と、突っ込みたいが・・・・・・

怖くてできない

 

これだと、全単位落とすことになる

それは、まずいのでは・・・・・・?

夏休みは補習でいっぱいになるだろうし・・・・・・、そもそも今期の単位が・・・・・・

 

うーん、と夕夏は少し悩んだ後

 

「えっと・・・・・・」

 

夕夏は、持っていたペンを取り出すと

 

「こちらと、こちらの科目に関しては簡単なレポート提出で、なんとかなります。 それから――――こちらは、来週末のテストで高成績取ればいけると思います。 後・・・・・・」

 

と、次々とメモって行く

 

ざっと見ても、6~7数科目は軽くあった

必須がどうしても、取れない科目がいくつかあるので、必然的に補助科目を取るしかない

この分だと、恐らく出席日数も危うい気がする

となると、保険でもう数科目取っておくほうが無難だ

 

「これくらい、ですかね?」

 

と、一通りメモをした後、ペンを仕舞った

が、青年はその大量に書かれたメモを見て、更に眉間に皺を寄せた

 

「・・・・・・多すぎだろ」

 

「出席日数で稼げない部分も含めると、少なめに効率の良い科目を選びました。 ・・・・・・これでも、一応」

 

殆ど印を付けたものは、レポートとテストでどうにかなるものばかりだ

そこまで難易度は高くない

 

青年が、難しい顔をしたまま、夕夏の書いたメモと時間割表を睨んでいた

その横で、にゃんこたろうが心配そうに「にゃぁ・・・・・・」と、鳴いた

 

う・・・・・・

 

にゃんこたろうが、こっちを見ている

まるで「助けてあげて」と言わんばかりに・・・・・・

 

小動物を使うなんて、卑怯な・・・・・・っ

と、思うも、怖くて口には出来ない

 

一応、「なんでもする」と言った手前もある

それに・・・・・・

 

ちらっと、青年を見た

怖そうだが、やっぱり困った様子がうかがえた

 

中途半端に関わっつぃまったし、ここで「後は、頑張って」と言って逃げるのも気が引けた

夕夏は、小さく気づかれない様に息を吐くと

 

「まだ、少し時間はありますし・・・・・・今からやれば何とか間に合いますよ。 その―――私も協力しますので。 も、勿論、貴方がお嫌じゃなければ・・・・・・です、けど・・・・」

 

そう言って、青年を見ると

青年は、一瞬驚いた顔をした後、「ちっ」と舌打ちした

 

その舌打ちに、なんだか夕夏はカチンっときた

 

「あ、必要ないのでしたら、私はこれで―――――」

 

そう言って、立ち上がると立ち去ろうとした

が――――

 

「にゃあ!!」

 

突然、にゃんこたろうが鳴いた

そして、夕夏の足下に纏わりついてきた

 

「え? ちょっ・・・・・・っ」

 

足に纏わりつかれたら、動くに動けない

夕夏は小さく溜息を洩らすと、その場にしゃがんだ

 

「にゃんこたろう? 離れてくれないと、私行けないでしょ?」

 

そう言って、にゃんこたろうの頭を撫でると

にゃんこたろうが、気持ちよさそうにすり寄ってきた

 

うう・・・・可愛い・・・・・・

 

そう思いつつも、これ以上ここにても気まずい

後ろの彼からの威圧感が凄まじい

 

早く、去りたいのに・・・・・・

 

そう思うも、にゃんこたろうは夕夏の意思とは裏腹にじゃれついてきた

まったく離れそうにない

 

まるで、にゃんこたろうが引き止めているようだ

 

「・・・・・・・・・・・・はぁ」

 

今度こそ、後ろの彼にも聴こえるぐらいの大きな溜息を洩らした

 

「も――――、わかった! わかりました!!」

 

そう言って、夕夏が振り返る

そして、にゃんこたろうを抱き上げると、ずかずかと青年の方に歩いて行き――――

 

「名前、何て言うのですか? あ、この子じゃなくて、貴方の名前です」

 

すると、青年が驚いたように大きくその紅い瞳を大きく見開いた

そして、少し考えた後

 

「旭 那由多」

 

と答えた

夕夏は一瞬、考えてみたが・・・・・・やはり、初めて聞く名前だった

 

「旭さんですね。 ・・・・・・私は同じ法学部一年の 棗夕夏です」

 

そう答えた瞬間、彼は小さな声で

 

「―—―――― 知ってる」

 

と、言った

 

一瞬、夕夏が首を傾げるが――――・・・・・・

今は、そんな事どうでもいい

 

「この子に免じて今回は手伝いますから――――単位取れる様に。 あ、貴方に拒否権はありません」

 

きっぱりと、夕夏がそう言うと

ふと、微かに彼が笑った様な気がした

 

すっと、手が伸びてきたかと思うと、夕夏の手の中にいた にゃんこたろうの首根っこを掴んで自分の方に引き寄せた

 

そして、そのまま夕夏の横を通り過ぎて行きながら

 

「――――好きにしろ。 それから、“那由多”でいい―――夕夏」

 

そう言って、そのまま歩いて行く

 

「・・・・・・なんか、腹立だしいなぁ・・・」

 

夕夏が那由多の背を見てぽつりと呟いたのは言うまでもない

 

ここに、那由多と夕夏の奇妙な関係が築かれたのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やっと、那由多の名前が出てきたwww

ここまで無駄に時間食ったぜwww

 

余談

なぜ、那由多が知っているかは、その内出ますwwww

 

※元々、ぷらいべったーに掲載していたものです

 

 

べったー掲載:2021.12.11

本館掲載:2022.12.14