言葉の題

 

 62:鳥籠のなか / 小さな世界 

(CZ:『End of the World』より:神賀 旭)

 

 

End of the World

      -Endless Snow-

 

 

 

【-Episode 0-】

 

 

「…………っ…う……」

 

男は泣いていた

涙が頬を伝い、ぽたりぽたりと彼女のプラチナブロンドの髪に落ちていく

 

「梓………っ」

 

男が“彼女”の名を呼ぶ

「……っ」と、喉を詰まらせたような声が彼女の薄紅色の唇から洩れた

 

声が出せないのだ

何故なら、男の手が彼女の首に掛かっているから

 

“梓”と呼ばれたプラチナブロンドの彼女は、そのライラックの瞳をゆっくりと細めた

そして、そっと自分の首を泣きながら締める男の頬に触れる

 

「なか…ない、で……?」

 

そう言って、ゆっくりと微笑む

 

無理だ

と言う風に、男は首を振った

 

ガラガラと、壁が崩れ落ちる

大きな瓦礫の破片が、男と彼女のすぐ傍に落ちてきた

 

塔が――――崩れかかっているのだ

 

空が軋む音が聴こえた

不気味なほど真っ赤な空が、悲鳴を上げている

 

“崩壊”

 

しかかっているのだ

 

“彼女”が存在する事により、時間が、世界が、“崩壊”へと時を刻む

それを止める手段はただ一つ

そう―――分かっている

分かっているのだ

 

そして……

その“原因”を作ったのも”誰“なのか”分かっている“

全ては、9年前のあの事故

きっかけは、些細な事故だった

 

九楼撫子

彼女が中学生に上がった頃、その“事故”は起きた

昏睡状態――――

生きているのか、死んでいるのか それすら分からない

 

撫子がその状態に陥ってからというもの、男は研究に没頭した

中学生とはいえ、博士号も取得していた彼の専攻は生物学

生物学とは、総合科学なので分野の敷居が低い

男は、生物学・医学・人体蘇生・人工生命

望みがありそうなものは全て学んだ

だが…彼女は…撫子は目覚めなかった

 

次に考えたのは時空転移だった

物質の時間を意図的に操作する事だ

 

だが、それは過去へ飛び“事故”を無かったものにするのではない

今眠り続けている撫子の身体に過去の“撫子”の意識を飛ばす―――――という手段だった

 

何故なら、たとえ過去を変えたとしても

必ず、“似たような事柄”が起き、元の道筋へ戻ろうとする様に力が作用するからだ

人はそれを“歴史の修正力”と言う

 

それが分かっていたから、男はその手段は捨てた

 

そして、研究に没頭した

表向きはただの製薬会社

だが、裏では【人体蘇生】と【量子エネルギー】の研究をしていた

理論は直ぐに完成した

だが、どうしても座標指定とエネルギーの収束が上手くいかなかった

 

そんな時だ、“彼女”―――梓と出逢ったのは

梓は、男よりも5つ程年上の大変優秀な科学者だった

 

梓は男とは違う理論を持っていた

それは、男にとって大変興味深いものだった

 

梓の協力もあって実験と研究を繰り返した

だが、どうしても最後のピースが埋まらない

時だけが過ぎていく

 

そんな時、梓が言った

「自分を使え」と

 

自分を使って、“人体実験”をしろと言ってきたのだ

 

勿論、男は断ろうとした

だが―――――……

もしかしたら、撫子がこれで目を覚ますかもしれない…

 

その“誘惑”には勝てなかった

 

男は梓を撫子と見立てて実験を行った

実験は成功に思えた

しかし―――――………

 

瞬間、世界に亀裂が走った

 

時空が歪んだのだ

 

そしてそれが元で最終的に起きたのが、あの量子エネルギーの爆発だった

―――結果、“世界”は“壊れた”

 

人間に害のある爆発では無かったが、世界の在り方が一変してしまった

量子変化によって、世界が組み替えられてしまったのだ

 

木々は枯れ、水は枯渇し、空は割れた

風ひとつ吹かない真っ赤な空に、蒼い月

まるで、全ての“時間”が“止まった“様に――――――……

 

そして何よりも―――――梓が消えた

 

男は必死になって梓を探した

だが、どうしても見つける事が出来なかった

 

それに、壊れてしまった世界をそのままにもしておけなかった

混乱を極めた世界で力を持ったのは純粋な科学力だった

 

その頃、男の家―――海棠グループは国内最大規模になっていた

そんなグループ傘下の研究機関を母体に新たな“政府”が作られたのだ

 

それが“CLOCK ZERO”

そして、その総帥になったのが男だった

 

だが、男は後悔すれども感謝もした

そのお陰で実験が“完成“したのだ

 

世界は壊れた

撫子も眠り続け、梓も消えた

 

しかし、男の手には“手段”が残った

これさえあれば、全てを取り戻せる

 

そう確信していたのだ

 

それに、こんな理不尽な世の中など要らないと思った

護りたい人も護れず、ただひとりすら目覚めさせられない

 

ならば……“理想の世界”にすればいいと思った

理不尽に命が散っていく事のない平和な世界

それこそが、“理想の世界”だと思った

 

そして、それは少しずつだが実現へと近づいていた

そんな時だった

 

 

彼女を――――梓を見つけたのは

 

 

最初は別人かと思った

何故なら、梓の姿は男の知っている“それ”とは異なっていたからだ

 

艶やかな漆黒の髪も、菫色の瞳も、その“彼女”は持ち合わせていなかったからだ

流れる様な銀糸にも見えるプラチナブロンドの髪

美しいライラックの瞳

そして――――……

 

何よりも違ったのが、年上だった筈の彼女が男よりも年下にしか見えなかったことだった

 

瞬間、世界が―――――動いた

 

風ひとつない世界に、一陣の風が吹いたと思った刹那

空が――――動き出したのだ

夕焼けが徐々に星空に変わっていく頃……男はようやく彼女に声を掛けた

 

最初、彼女―――梓はぼんやりと空を眺めていた

男に声を掛けられた瞬間、やっとその存在に気付いた様にライラックの瞳を細めにっこりと微笑み……

 

「こんにちは」

 

と言った

 

彼女は――――男の事を…

 

 

              覚えていなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これは――――……

 

かつては、世界の王として

この壊れた世界を支配していた哀しい男と

 

“王の最愛”、“唯一の理解者”として

短いながらも、その傍らにいた“プラチナ”の

 

             物   語―――……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ついに、開始しましたCZ

といっても、これはお題用なので…連載じゃないよ~

 

とか言ってみるwww

殆ど、説明で終わっちまったぜ(((;°▽°))

 

結局、男のままで進行wwww

 

2016/01/09