㭭ノ題 言葉の題

 

◆ 52:夏天の雪花 / 幻夢

 (マギ 『CRYSTAL GATE』:練紅炎)

 

 

あれは、“夢”だったのだろうか――――・・・・・・

 

「エリス! ちょと、エリス? 聞いてる?」

 

世話になっている蘭朱に呼ばれてはっとする

 

「あ・・・・・・」

 

見れば手元の鍋が沸騰していた

エリスティアが慌てて鍋を下ろす

 

「ありがとう、蘭朱。 薬湯がダメになる所だったわ」

 

そう礼を言うと、蘭朱は半分呆れた様な顔をして

 

「まったく~エリスは・・・・・・。 そういう所が、まぁ放っておけないんだろうけど」

 

と、何かについて言っている様だった

エリスティアが首を傾げると、蘭朱はにやりと笑みを浮かべ

 

「昨夜、紅炎様と出かけてから様子がおかしいじゃない? これは、何かあったな~と」

 

蘭朱の鋭い突っ込みに、エリスティアがぎくりと顔を強張らせた

それを見逃す蘭朱ではなかった

 

「ははーん、その様だと・・・・・・」

 

「な、なに?」

 

にやりと蘭朱が笑い

 

「ずばり! 紅炎様に求婚されたんでしょう!?」

 

「・・・・・・・・・っ」

 

瞬間的に、エリスティアがかぁぁっと、顔を真っ赤にさせた

それを見て、蘭朱が「やっぱり~」と笑う

 

「で? で、で? エリスはなんて答えたの!!?」

 

興味津々という風に、蘭朱が詰め寄ってくる

 

「そ、それは・・・・・・」

 

「ああ~紅炎様からの求婚か~。 すっごく素敵な場所でだろうなぁ~憧れる」

 

「・・・・・・場所は、そう、ね」

 

あの白い雪の様な花弁が舞うのは、絶景だった

美しいと、人は言うだろう

 

それぐらい、「綺麗」な場所だった

 

でも・・・・・・

 

「それでエリスは、そんな素敵な場所でこの国の一番の優良株からの求婚を・・・・・・やっぱ、断っちゃったのかな」

 

と、蘭朱が少し寂しそうに呟いた

 

「蘭朱・・・・・・」

 

「あ、ううん! いいのよ! エリスの意思だもの!! ただ、もしエリスが紅炎様と一緒になったら、エリスはこの国の人になるのになって、ちょっと思っただけ」

 

そう言って、笑う蘭朱がとても見ていて辛かった

 

「ごめんね、蘭朱」

 

エリスティアが申し訳なさそうに謝ると、蘭朱は何でもない事の様に

 

「なんで、エリスが謝るの? エリスが決めた事だもん。 反対する気はないよ」

 

「蘭朱・・・・・・」

 

「でも、よく断れたね? 紅炎様と言ったら皇族だもん。 皇族からの求婚断るのって大変じゃないの? や、その皇族から求婚される事も凄い事なんだけど・・・・・・」

 

「それは・・・・・・」

 

確かに、紅炎からの求婚も断った

理由はシンドバッドの時と同じだ

 

先の時間を共に過ごす約束は出来ないから――――・・・・・・

 

紅炎の求婚を受け入れるという事は、この国の第一皇子―――つまりは、彼が帝位についた時、その皇后の座するという事を意味する

煌帝国No.2の座に就くという事だ

 

そんな事、“ルシ”である自分が出来る筈がない――――

 

だか、シンドバッドからの求婚も断った

誰から言われても、それは“不可能”なのだ

 

私に、その“資格”はない

私が“ルシ”の呪縛から解かれない限り 一生あり得ないだろう

 

そして、私が“ルシ”の呪縛から解かれるという事は――――・・・・・・

私は、もう・・・・・・

 

「・・・・・・・・・」

 

そこで黙りこくってしまったエリスティアに蘭朱が首を傾げる

 

「エリス? 無理に言わなくてもいいんだよ?」

 

そう言って、そっと蘭朱が手拭いを差し出す

 

「え? あ・・・・・・」

 

言われて気付いた

自分が泣いていた事に――――・・・・・・

 

「ごめん、蘭朱・・・・・・。 ありがとう」

 

先の事は分からない

でも、彼らは私を解放する為に、その方法を探してくれている

そんなもの、存在しないのに・・・・・・

 

でも、今だけは・・・・・・

 

そう――――願わずにはいられなかった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紅炎から求婚あった後の蘭朱との話です

本当は、紅炎側を書こうかと思ったのですが・・・・・・

よく考えたら、それ「黄昏の乙女」でやるな・・・・・・とwww

という訳で、逆サイドになりましたww

 

2022.12.30