㭭ノ題 言葉の題

 

◆ 43:聴こえてくるのは / 君の歌

 (アルゴナ:『猫と私と”あなた”』より:二条遥)

 

 

  猫と私と”あなた”5

 

 

 

―――― 一年前・京都

 

 

 

「夕夏!!!」

 

 

 

高校からの帰り道

自分を呼び止める声に、夕夏振り返った

 

「・・・・・・遥?」

 

そこにいたのは、幼馴染の二条遥だった

年は夕夏より下だが、親同士が仲良かったこともあり

自然と、幼いころは、遥や遥の双子の弟・奏と一緒にいることが多かった

 

特に、遥とは気が合ったのか仲が良く

二人で遊ぶことも多かった

 

それは、高校になっても変わらなかった

遥は中学時代から音楽に興味を示し、バンド活動をしていた

そんな遥を、夕夏は純粋に応援していた

 

でも―――――・・・・・・

 

いつからだろう、気づいたのは

 

夕夏の前では隠している風だったので、気づかないフリをしていたが・・・・・・

遥の態度が徐々に変わっていたのは――――奏に対して

いや、違う

奏がゆっくりと遥の周囲を壊していったのは――――――・・・・・・

 

気が付けば、遥はいつも一人になっていた

大切にしていたバンドもやめて、ベースもやめて

 

高校に上がる頃は、夕夏の前だけでギターを弾いていた

 

一度、何故かと聞いた事があったが

遥は一言

 

『――――夕夏さえ、わかってくれればいい』

 

と言っていた

夕夏は、その言葉に違和感を覚えた

だが、遥は何も教えてくれなかった

 

そんなある日、ふとした拍子に両親が話している言葉を聞いていしまった

 

『――――奏君が・・・・・・』

 

と、奏の話をしていた

一瞬、何? と思い、思わず隠れたが、そっと聴き耳を立てた

いけない事だと思ったのに、どうしても気になったのだ

 

それですべてが分かった

 

遥が変わってしまった理由

奏が変わってしまった理由

 

昔はあんなに仲の良かった兄弟だったのに

今では、目も合わせない

ギスギスした関係

 

いや、正確には奏が遥の周り壊していく事に、何も気づかない周囲が

遥を孤立させていった

そう―――愛想を振り撒き、周りの目を自分に向けさせ、遥には自分しかいないのだと思わせる様に、優しく、そして、酷く壊していった

 

あんなに一生懸命だった中学のバンドも

ベースも

なにもかも壊した

 

全ては、遥を孤立させ、遥の理解者は自分だけだと思わせる為―――――・・・・・・

 

そして、その矛先は夕夏にも向けられた

おそらく、奏にとって一番邪魔の存在――――それが、夕夏だ

 

奏は周りに向ける様な愛想笑いをしながら、遥が一緒の時に夕夏に近づいてきてこう言った

 

『夕夏姉ちゃん、兄貴といて大丈夫? 酷い事されてない? 兄貴ってば、直ぐ怒るからさ―――夕夏姉ちゃんも気を付けた方が―――――』

 

 

 

―――― ぱぁん!!!

 

 

 

気がつけば、奏が全てを言い終わる前に、夕夏は奏の頬を叩いていた

言ってやりたかった

 

そうしたのは、そうさせているのは誰なのか、と

全て、奏のせいじゃないか―――――――と

 

だが、知っていた

そう言わせることにより、奏が有利に立とうとしているのだと

 

だから、言わない

 

まさか、そこで頬を叩かれるとは思っていなかったのか・・・・・・

奏が唖然としているのを余所に、夕夏は一瞥だけ奏に送ると、遥を連れてその場を去った

 

その後の事はよく覚えていない

ただ、遥が珍しく大声で笑っていたことは覚えている

 

そんなある日、学校の帰り蜜に小さな子猫を拾った

青みがかった銀色の毛に青い瞳の小さな子猫だ

捨て猫だったのか、そこ子猫は酷く弱っていた

 

時期としては、高校3年の秋

受験も控えている時期だしと、両親は反対したが・・・・・・

夕夏には、どうしても放っておけなかった

 

勉強の合間に、出来る限りの世話をした

次第に、子猫が元気になってくると、夕夏も嬉しかった

 

学校に行っていても、友人と会話していても、ついつい“あの子猫は、今どうしているだろう・・・・・・?”と気になった

 

高いとこから落ちていないか、とか

ミルクはちゃんと飲めたか、とか

誰かに迷惑をかけていないか、とか

 

それを聞いた遥がひと言

 

「まるで、親バカだな」

 

と、笑った

 

「だって、放っておけなくて―――――だって、まるであの子が・・・・・・」

 

 

 

 

“―――――――遥のように見えたから”

 

 

 

 

その先は、言葉にならなかった

思わず、黙った夕夏に遥がいぶかし気に首を傾げた

 

「・・・・・・? なんだよ」

 

「あ、ううん、ちょっと・・・・・・ね」

 

まさか、「遥かに似ているから」などと口が裂けても言えなかった

 

「ふぅん?」

 

遥が意味ありげに、そう呟くと頭の後ろで手を組み

 

「ま、夕夏が言いたくないなら、無理に言わなくてもいいんじゃねーか?」

 

そう言って、流してくれた

そんな遥の気づかいが、身に染みた

 

だから、失念していた――――――・・・・・・

そう――――大学の合格発表の日まで

 

 

 

 

――――――受けた大学は、“東京”の大学だという事に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ほぼ、過去話で終わりましたwwww

今回、那由多と里塚出番なしwww

その代わり、遥沢山😄

 

ちなみに、捨て猫ちゃんは私的遥のイメージで「ロシアンブルー」です🤣🤣

 

※元々、ぷらいべったーに掲載していたものです

 

 

べったー掲載:2021.04.29

本館掲載:2022.12.14