㭭ノ題 言葉の題

 

35:ねぇ、笑って / 耳元で囁く

 (アイナナ:『Reine weiße Blumen』より、九条天)

 

 

 

――――某TV局・TRIGGER楽屋

 

 

「・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

何故かあやねは“現代の天使”こと、“TRIGGER”のセンターを務める九条天と二人きりで向かい合わせに座っていた

 

目の前のテーブルには、あやねが持ってきたアップルパイと、ご丁寧に淹れ立てのダージリンの紅茶が出されていた

 

「ねぇ」

 

不意に、それまで黙っていた天が口を開いた

あやねが、びくっとして思わず肩を震わせる

 

緊張しているあやねの姿を見て、天は一瞬驚いた様にその瞳を瞬かせたが――――・・・・・・

すぐに、何でもない事の様に

 

「それ、飲まないの? 冷めるけど」

 

「え・・・・・・? あ・・・・」

 

出していただいたのにひと口も飲んでいないダージリンを指摘されて、あやねが慌ててソーサーとカップを手に取る

 

「・・・・頂きます」

 

そうひと言いうと、そっとカップに口付けた

 

「あ、これ・・・・・・」

 

色と香りでも思ったが・・・・・・

 

「あ、気づいた? それ、ダージリンのセカンドフラッシュなんだよね」

 

「はい・・・・・・」

 

ダージリンは基本、春・夏・秋の3回摘まれる

春摘みの茶葉はファーストフラッシュと呼ばれ、

花々を思わせる爽やかな香り、時に緑茶を思わせる青みのある風味が特徴である

 

セカンドフラッシュとは、夏摘みの茶葉で

ファーストフラッシュと比較して、熟した果実のような香気とコクのある円熟した風味

そして、深い紅色にカップの中で輝くお茶の色味から別名「紅茶の女王」と呼ばれる

 

最後の、秋摘みのオータムナルは1年で最も甘みが際立つ味わいであり、

適度な低温と乾いた空気の中でゆっくりと成長していくため、甘み成分がぎゅっと凝縮されている

愛好家は勿論、初めて飲む人にもおすすめの茶葉だ

 

「一般的には秋摘みのオータムナルなんだろうけど、ボクはこっちの方が好きなんだ。 でも、楽と龍にはその差が全然わからないらしくてね」

 

天のその言葉に、思わずあやねがくすっと笑う

 

何となく想像付いてしまう

龍之介は、お茶とは無縁そうだし

楽は楽で「どれも一緒だろ」とか言っていそうだ

 

あやねのその様子に、天が少しだけほっとした様に

 

「緊張、解けた?」

 

「え? あ・・・・・」

 

言われてみれば、あれだけ緊張していたのに

いつの間にか、硬くなっていた身体から力が抜けていた

 

「なんか、ボクだとそんなに緊張する?」

 

「あ、いえ・・・・・九条様に限った事ではなくて、皆様の前だと少し・・・・・・」

 

「ふぅん? 楽の前でも?」

 

「え・・・・・・?」

 

一瞬、何を問われているのか分からず、あやねがその海色の瞳を瞬かせた

それからややあって

 

「楽さんは・・・・・・その・・・」

 

なんと言ったらいいのだろうか

緊張しないと言ったら嘘になる

むしろ、緊張する

 

でも、それと同時に安心もする

何故かと問われると、分からないのだが・・・・・・

 

それに――――・・・・・・

 

『――――あやね』

 

楽が笑って自分の名を呼んでくれる

今では家のもの以外呼ぶことのない「名」

それを彼は最初に――――・・・・・・

 

そう思うと、知らず頬に熱が籠もる

 

あやねのその様子を見て、天が面白そうに笑った

 

「へぇ、楽はボクと龍とは何か違うみたいだね」

 

「あ、い、いえ! そういう訳では――――・・・・・・」

 

あやねが慌てて否定しようとするが

天は「ははっ」と、声を出して笑った

 

「知ってた? こういう時、むきになるのは肯定しているようなものだって」

 

「そ、それは――――・・・・・・」

 

天の言わんとする事は分かる

分かるが――――・・・・・・

 

「あ、あのっ!!」

 

これ以上ここ居たら、もっと墓穴を掘ってしまいそうになる

そう思ったあやねは鞄から必要な楽譜を取り出すと、すっとテーブルに置き

 

「あ、あの、この楽譜を楽さんに渡して下さいっ。 頼まれていた楽譜だと言えば伝わると思うので――――で、では、私はこれで失礼――――」

 

そう言って、慌てて立ち上がった瞬間――――

足がもつれたのか、視界がぐらっと揺れた

 

「きゃっ・・・・・・」

 

倒れる――――

あやねは、次に来る衝撃に耐えるかのようにぎゅっと目をつぶった

 

が・・・・・・

 

あ、あれ・・・・・・?

倒れて、な、い・・・・・・?

 

来るはずの衝撃が来ない事に疑問を持ちそっと目を開けると

 

「・・・・・・まったく、キミって案外そそっかしいんだね」

 

「く、くく、九条さ――――」

 

気が付けば、天から後ろから抱きすくめられる形で支えられていた

 

「あ・・・・・・」

 

「大丈夫? 立てる?」

 

「は、はい・・・・・・すみません」

 

なんとか、自分の足で立つが

未だ心臓がバクバク言っている

 

顔が熱い

 

そんなあやねを見て、天が「ふぅん?」と、含みのある笑みを浮かべた

そして

 

「・・・・・・なんか、楽の気持ち少し分かったかも」

 

「え?」

 

その時だった

 

「あ~疲れた」

 

「本当だね~、今日は俺も流石に疲れたかな」

 

と、楽と龍之介が楽屋へ戻って来た

 

「あ・・・・・・」

 

「あやね?」

 

楽がいち早くあやねに気付き、駆け寄ってくる

 

「どうしたんだ? こんな所で会えるのは嬉しいが――――そうだ! この後時間あるか? あるなら飯に一緒に行かないか?」

 

「え・・・・・・? あ、あの・・・・・・っ」

 

「二人ともお疲れ。 ほら、楽は先に着替えてきたら?」

 

天が呆れたようにそう声を掛ける

言われて楽が「分かってるって」と言いながら、カーテンの方へ行く

 

楽がカーテンの奥に行くのを見計らってからか、不意に天がそっとあやねに耳打ちする様に

 

「さっきのは、二人には内緒、ね?」

 

「・・・・・・・・っ」

 

あやねが真っ赤になり慌てて耳を抑えて離れるが――――

天は、にっこりと微笑んだままだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リク消化きかーーーーん!!

上から順に消化します!!!

たまに、入れ替わるかもwww

 

 

2022.12.12