㭭ノ題 言葉の題

 

◆ 25:砂糖菓子と珈琲 / 甘くて苦い

 (アルゴナ:『猫と私と”あなた”』より:二条遥BD)

 

 

  猫と私と”あなた” 挿話(二条 遥BD 2021)

 

 

 

「―――――は?」

 

それは、二条 遥にとって唐突な質問だった

目の前にいる、少女―――――棗 夕夏は、にっこりと微笑むと遥の方を見た

 

「だから、6月16日」

 

さらりと、彼女の美しく長い漆黒の髪が揺れる

灰青の瞳が優しく微笑んでいた

 

「――――欲しいものは、ない?」

 

「欲しいもの?」

 

意味が分からない

何故、突然彼女はこんなことを言い出したのだろうか

 

遥は、「は~~」軽くため息を付くと、歩きながら

 

「別に、ねぇよ」

 

そう言って、そのまま夕夏の横を通り過ぎていく

それを見て、夕夏が

 

「・・・・・・もしかして、覚えてないの?」

 

覚えてない?

何のことを問われているのか分からず、遥が首を傾げる

 

「・・・・・・・・・・? だから、何が―――――「――――6月16日は、誕生日!! でしょう?」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

一瞬、そう言われて、遥が足を止める

振り返って、夕夏を見た

 

夕夏は、じっと遥を見て

 

「――――忘れてしまったの? この日は、お互い都合がつく限りは一緒にお祝いしようって約束していたのに」

 

「誕生日・・・・・・? ああ―――・・・・・・」

 

脳裏に、双子の弟の顔が浮かんだ

この世で一番、関わり合いになりたくない相手―――――

 

そうか、6月16日は・・・・・・

あいつが生まれた日・・・・・・・・・―――――・・・・・・

 

考えただけでも、おぞましい

あんな奴と、一緒に生まれただなんて考えたくもない

 

遥は、ふいっとそっぽを向くと

 

「あいつへのプレゼントなら、あいつに聞けよ」

 

その言葉に、夕夏がむっとした

そして、ずんずんと遥を追いこすかのように歩いてくると、怒った顔で

 

「奏にはもう渡しました!! 私が聞いているのも、約束しているのも、遥だけよ!!」

 

そう言って、ふいっと今度は夕夏がそっぽを向くと、そのまま通り過ぎていった

 

「・・・・・・・・・・・・っ、おい!」

 

思わず、遥の手が夕夏の腕を掴む

だが、夕夏はこちらを向かなかった

 

そっぽを向いたまま、「離してよ・・・・・・」と、呟いた

 

「夕夏・・・・・・・っ、おれ、は――――」

 

思わず咄嗟に出た手

他の相手なら、きっとそのまま通り過ぎていくのを放置していた

だが、夕夏だけは・・・・・・

彼女だけは――――・・・・・・

 

そう――――“拒絶”されたくなかった

皮肉にも双子の弟である“奏”と一緒にされたくなかった

 

彼女だけは違う

そう思いたかった

けれど―――・・・・・・・・・

 

もし、それが自分のエゴだったら?

もし、彼女に奏と一緒にされたら?

もし――――――彼女も、自分を“拒絶”したら?

 

そう考えると、次第に夕夏を掴む手から力が抜けていった

そのまま、手を離そうとした時だった

 

それまで、一度として振り返らなかった夕夏が こちらを見た

ゆっくりとした動作で、その灰青の瞳で遥を捕らえる

 

どくん・・・・・・

 

「・・・・・・・・・・・・っ」

 

遥が、一瞬息を飲んだ

夕日に照らされて、夕夏の黒髪が赤く染まる

 

「遥は―――――・・・・・・」

 

その形の良い唇が言葉を紡ぐ

 

「・・・・・・遥は生まれた日・・・・・・・が、嫌いなの?」

 

「それは――――・・・・・・」

 

その日は、同時にあの“奏”が生まれた日だ

その日を、好きになんて――――なれなかった

 

遥が言葉に詰まると、夕夏は少しだけ微笑み

 

「私は――――この日の遥が・・生まれてきてくれて嬉しいって思っているわ。 ――――だから、一緒にいるの」

 

そう言った彼女の顔はとても嬉しそうだった

 

嬉しい・・・・・・?

あいつも生まれた日なのに・・・・・・?

 

そんな風に言われたのは、初めてだった

 

夕夏が、にっこり微笑む

彼女の顔がほのかに赤く見えるのは夕日のせいだろうか・・・・・・

 

俺は・・・・・・

 

「・・・・・・・・・・・・それなら・・・・」

 

望んでいいのか? “俺の方”が

 

「――――くれよ・・・・・」

 

望んでいいのならば―――――・・・・・・

 

 

 

「これから毎年、この日の夕夏の“時間”――――くれよ」

 

 

 

遥の言葉に、夕夏がその灰青の瞳を大きく見開いた

それから、少しだけ目を細めて――――・・・・・

 

「・・・・・・そんなことでいいの?」

 

優しくそう尋ねてくる

遥は、ふっと微かに笑みをその口元に浮かべると

 

「言っとくけど、キャンセルは効かないぜ? いいのかよ」

 

そう尋ねると、夕夏がくすりと笑いながら

 

「――――望むところよ」

 

そう言って、遥の手を取ったのだった

 

「でも、どうせなら何か渡したいかな――――ギターの新譜か、ストラップか、ケースとか色々考えていたのだけれど・・・・・・」

 

うーん、と夕夏が唸りながらそうぼやく

その様子がなんだか愛おしく感じ、思わず夕夏に手を伸ばして後ろから抱きしめた

 

突然の遥からの抱擁に、一瞬 夕夏が驚く

 

「遥? どうし――――」

 

 

 

「夕夏―――――・・・・・・」

 

 

 

微かに、聴こえる吐息

そして・・・・・・

 

「やっぱ、“今の夕夏”もくれよ―――――・・・・・・」

 

「はる―――――・・・・・・」

 

 

 

夕日の中

誰もいない、通り道―――――

 

 

 

 

   一瞬、重なる影が―――ゆっくりと伸びていっていたのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遥バースデイ・・・・・・16日にバタバタし過ぎて、間に合ってませんwww

すまぬ・・・・・・遥

もう、18日ですわwww

 

ラストは、あえて曖昧に・・・・・・ふふふ

ご想像に、お任せします~~~~~~

 

誕生日、おめでとう! 遥!!

 

 

べったー掲載:2021.06.18

本館掲載:2022.12.14