言葉の題
◆ 19:雨音の狭間 / 耳を澄ませて
(刀剣乱舞:『華ノ嘔戀』より:山姥切国広)
「えっと…後は……」
ぶつぶつとメモを見ながらそう呟く沙紀の横を山姥切国広は歩きながら見ていた
ふと、山姥切国広の視線に気付いた沙紀が顔を上げる
「山姥切さん? どうかなさいました?」
不思議そうに沙紀がちょこんと可愛らしく小首をかしげてそう尋ねてくる
その姿があまりにも可愛らしくて、山姥切国広は一瞬見とれてしまった
が、次の瞬間 我に返り「あ、いや…」と声を洩らした
「その、“めも”と“ぺん”というやつは便利だと思ってな」
「え? ああ、これですか?」
そう言って沙紀が持っていたメモとペンを見せる
それは、山姥切国広には縁のなかった物だった
沙紀の屋敷にいる時も、基本彼女は昔の様に筆と和紙に文字を連ねていた
ただ、時折メモと呼ばれる紙にペンなどで書いていた
それが何なのか、その時の山姥切国広には分からなかったが…
どうやら、ちょっとした事を記すのに便利な品らしい
特にこう買い出しに出た折の買い物りすとなる物を記すには絶好の品だった
「流石に和紙に書くと、持ち運び時に不便ですし…」
と、沙紀がメモとペンを小野瀬に頼んで用意してもらったらしい
お陰で本丸では“めも”と“ぺん”は大人気だった
「山姥切さんも何か書かれてみますか?」
そう言って、メモとペンを渡される
が、どう書けばいいのかいまいち山姥切国広には分からなかった
山姥切国広が考えあぐねている時だった
ぽつ…
ぽつ……
「あ、雨が……」
突然雨が降り始めた
山姥切国広的には濡れても問題なかったが、このままでは沙紀が濡れてしまう
「こっちだ」
山姥切国広は有無を言わさず沙紀の肩を抱くと、そのまま近くの店の軒下に駆け込んだ
はぁ…と、息を吐き 空を見上げる
空はどんどん暗くなり、いつしか小ぶりだった雨がザーザー振りに変わっていた
「困りましたね……」
沙紀はメモを胸元に仕舞うと、空を見上げた
どうにもこうにも止みそうにない
ふと、山姥切国広は隣の沙紀を見た
買い出しと言う事で、いつもの着物姿で来ていたのだが、完全に濡れてしまっている
かと言って、拭くものが傍にある訳でもなく
せいぜい、自分の被っているボロ布ぐらいしかないが…
流石にそれを貸すのは憚られた
「すまない……」
突然、山姥切国広が謝った
驚いたのは沙紀だ
突然謝られ、意味が分からずその躑躅色の瞳を瞬かせる
「山姥切さん?」
すると、山姥切国広は申し訳なさそうに
「あんたが濡れているのに、俺は何もしてやれない…」
山姥切国広がそう答えると、沙紀は「ああ…」と声を洩らした
そして、くすっと笑みを浮かべ
「大丈夫ですよ? そんなに濡れてはいませんし…少ししたら渇きます……くしゅん!」
その時だった、沙紀がくしゃみをした
山姥切国広がはっとして沙紀を見る
沙紀はああいったが、その身体は微かに震えていた
寒いのだ
確かに、気温が先程より下がっている
その上、雨に塗られて 寒くて当たり前だった
「……………」
山姥切国広は戸惑いの色を見せた
暖を取る方法は一つある
あるが…それをやってのける勇気は今の山姥切国広にはなかった
きっと、鶴丸や三日月ならさらっとやってのけただろう
だが、所詮写しの自分がそんな風に主に触れて良いのか…迷う
その時だった
また、沙紀がくしゃみをした
見れば、身体を両の手で摩っている
「……………」
山姥切国広は、もう見ていられなかった
今まで良くしてくれた沙紀が困っている
それを放っておけるほど、山姥切国広は出来た男ではなかった
「なあ……」
「え……?」
つと、沙紀がこちらを見る
その顔色は悪かった
「写しの俺でいいとあんたは言ってくれた、だから――――少しだけ我慢してくれ」
「え? あの……な、にを――――」
と、沙紀が問おうとした時だった
山姥切国広の手が伸びてきたかと思うと、そのまま後ろから沙紀を包み込む様に抱きしめた
「あ……」
突然の抱擁に沙紀が一瞬、動揺の色を示す
「あ、あの……山姥切さん……?」
沙紀が山姥切国広からのまさかの行為にそう尋ねてくるが
山姥切国広はそのままその抱き締める手に力を込めた
「すまない、寒さをしのげればと思ってこうしたんだが…写しの俺にこうされるのが嫌なら言ってくれ」
山姥切国広の言葉に、沙紀が一度だけその躑躅色の瞳を瞬かせた後、小さく笑みを浮かべた
「そんな事ありません。 すみません…気を遣わせてしまったみたいで…御不快だったら離れて頂いても……」
申し訳なさそうにそういう沙紀に、山姥切国広は「あ、いや…」と口籠らせた
「お、俺がそうしたかったからしたまでだ…あんたも寒そうだったし…俺は、嫌じゃ、ない」
ザー――――――
そこで会話は途切れた
雨の音だけが当たりを支配する
不思議だった
こうしていると落ち着く――――
皆が沙紀に惹かれるのが分かる気がした
鶴丸は彼女の事を何と呼んでいたか…
そう、確か―――――
「沙紀……」
「え……?」
不意に呼ばれた気がして、沙紀が顔を上げた
「山姥切さん?」
瞬間、はっと山姥切国広は我に返って口元を押さえた
俺は今何を――――?
「あの……?」
だが、沙紀には聴こえていなかったのか、首を傾げている
山姥切国広が、わざとらしく咳払いをすると「何でもない」と答えた
“沙紀”
それが彼女の名前
それは、山姥切国広の中で波紋の様に広がっていったのだった――――………
まんばとお買いものデート…という名の買い出しで雨宿り~
流石にあのボロ布を掛けるのはどうかと思い、止めましたwww
こちらは、まんば視点でお送りしておりまーすv
2015/08/05