㭭ノ題 言葉の題

 

◆ 12:残酷なあなたへ / 愚かなわたしへ

 (アルゴナ:『猫と私と”あなた”』より:旭那由多)

 

 

  猫と私と”あなた”4

 

 

 

「言ってなかったな、この猫の飼い主は彼――――那由多なんだ」

 

 

 

「―――――――え?」

 

 

 

里塚の言葉が、ぐるぐる頭の中で回る

が・・・・・・

そこで、はっと我に返った

 

え・・・・・・待って・・・・・・・・・

 

もし、この銀髪の彼が飼い主だとすると・・・・・・

自分は、その飼い主に対して・・・・・・

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

さぁ・・・・と、顔から血の気が引いた気がした

 

「あ・・・・・・」

 

自分が彼に対して、散々浴びせた言葉が蘇る

私は、なんという失礼を――――――・・・・・・・・

 

「た・・・・・・」

 

 

 

 

「大変失礼しました―――――!!!!!!」

 

 

 

 

と、土下座でもするのではないかという程の勢いで、夕夏が頭を下げた

 

「・・・・・・・・・」

 

銀髪の彼がこちらを睨んでいるのがわかる

視線が痛すぎて、顔が上げられない

 

と、その時だった

 

突然、里塚が くつくつと笑いだした

 

「里塚?」

 

銀髪の彼がいぶかし気に、そちらを見る

すると、里塚は半分目に涙を浮かべながら

 

「いやいや、棗君は面白いな・・・・・・と思ってな。 ――――そうは思わないか? 那由多」

 

そう言って、那由多の肩に手を乗せる

すると、銀髪の彼は一瞬だけ夕夏を見た後、興味無さそうに「ちっ」と舌打ちをした

 

「――――んなことは、どうでもいい。 それより」

 

銀髪の彼はそう吐き捨てると、ぐいっとにゃんこたろうの首根っこを捕まえて里塚に差し出した

 

「こいつ、見てろ」

 

「・・・・・・? 連れて帰らないのか?」

 

里塚がそう尋ねると、銀髪の彼は小さく息を吐き

 

「・・・・・・講義に出てくる」

 

確かに、教室に猫は連れ込めないだろう

だが、里塚もまだ授業が残っていた

と、なると・・・・・・

 

二人の視線が夕夏に向けられる

 

「え・・・・・・」

 

なんとなく、嫌な予感がして夕夏が顔を引き攣りそうになるが――――

 

「棗君」

 

極上の笑みで里塚が、夕夏に話しかけてきた

 

「あ、あの、私は―――――」

 

そこまで言いかけたが、里塚の方が一歩早かった

 

「棗君、にゃんこたろうも君には懐いているようだし、頼めるかな? 今度、きちんと礼はしよう」

 

「いや、だから、あの・・・・・・」

 

 

「宜しく頼んだよ」

 

 

そう言って、里塚が有無を言わさない笑顔を見せる

顔は笑顔なのに、声が怖い

 

 

結局――――――・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

里塚と、銀髪の彼が去った後

夕夏は、ず――――んと、力なくその場に、手を付いた

 

こ・・・・・断れなかった・・・・・・・・・・・・

 

いつもなら、きっぱりはっきり言えるのに

あの「里塚」という人は笑っているが、なんだか曲者の様な気がして・・・・・・

何かが、「逆らってはいけない」と訴えていた

 

「はぁ~~~~~~」

 

夕夏が大きな溜息を同時に、大きなイチョウの木に寄り掛かった

すると、にゃんこたろうが「にゃぁ」と鳴きながら、とことこと夕夏の傍にやってきて顔を摺り寄せてくる

 

そんな、にゃんこたろうを見ていたら、怒るに怒れない

 

夕夏は小さく息を吐くと、にゃんこたろうを優しく撫でた

 

「お前は、いいわね・・・・・楽しそうで」

 

ぽつりと、そんな事を猫相手に呟いてしまう

すると、にゃんこたろうが嬉しそうに「にゃぁ」と応えた

 

それから、くるっと身体を丸めて夕夏の傍ですやすやと眠り始めた

 

「・・・・・・猫、か・・・・・・・・・」

 

大学が東京に決まり、地元を出る時に「あの子」ともさよならをしてきた事を思い出す

今思えば、連れてきてもよかったかもしれないが――――・・・・・・

 

そこまで考えて夕夏は小さくかぶりを振った

 

大学生活でほぼ学校に行ったりしていてマンションにいないのに、その部屋に子猫を放置するのは酷すぎる

そうよ――――

 

これでよかったのよ・・・・・・・・・・・・

 

まるでそう自分に言い聞かす様に、その灰青の瞳を閉じた

 

脳裏に、その子猫を抱いた少年が思い出される―――――・・・・・・

何かに反抗する様に、綺麗な浅黄色の髪にメッシュを入れた、青年

 

彼が最後に夕夏に向かって放った言葉

 

 

 

『結局、あんたも俺を捨てるんだ・・・・・・・夕夏姉・・・・』

 

 

 

胸を突きさされたかのような、言葉―――――

違うのだと、言いたかった

だが、それと同時に、あの状況の彼を置いて東京へ進学する夕夏には、その言葉を返す資格はなかった

 

彼の碧色の瞳が揺れているのに気づいたのに

何も返す言葉を持たなかった

 

「・・・・・・・・・・・・っ」

 

夕夏が辛そうにその灰青の瞳を隠す様に手で覆う

 

もし、あの時――――――・・・・・・

 

いや、「もし」なんて仮定の話はないのだ

あるのは、「自分」が「彼」を傷つけてしまったという「事実」だけだ

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・遥・・・・、ごめんね・・・・・・」

 

 

 

 

呟く様にそう口にした夕夏の瞳から一滴の涙が零れた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれ??? 名乗ってないやん那由多wwww

そして、私的 里塚像=「食えない人」です

 

最後の方に、ちらっと遥の名前が😇

 

※元々、ぷらいべったーに掲載していたものです

 

 

べったー掲載:2021.04.18

本館掲載:2022.12.14