色彩の題

 

 08:緋色の情熱 / 炎に似て 

(マギ:『CRYSTAL GATE』より:練 紅炎)

 

 

 

水が流れる様な不思議な感覚に、紅炎は囚われた

さらさらと、穏やかな澄んだ空気が紅炎を捕えて離さない

 

これは何だろうか……

今まで生きて来てこんな気持ちになった事などなかった

 

書庫で歴史書に没頭していても、ここまで穏やかな気持ちになった事など無い

これは、誰が作り出した空間だろうか……

 

そう思い、ゆっくりと瞳を開ける

木々の間から木漏れ日が差し込み、緑と花の香りが漂ってくる

 

ふと、右肩に重みを感じそちらを見た瞬間、紅炎はくすりと笑みを浮かべた

そこには、愛しくて愛しくてやまない彼女がすぅ…すぅ…と寝息を立てて眠っていた

 

エリスティアだ

 

気持ちよさそうに自分の肩に寄り掛かって眠るエリスティアを見ているだけで、自然と笑みが零れた

 

ああ…この空間は彼女が作り出していたのか

 

エリスティア

 

シンドバッドのルシで、世界唯一のルシ

だが、紅炎にはそんな事どうでもよかった

 

ルシだからじゃない

彼女だからこそ、愛しいと思えた

 

「エリス……」

 

名を呼び、そっと彼女を抱き寄せる

ふわりと、エリスティアから花の香りが漂ってきた

鈴蘭だろうか……

 

愛しい

愛しくて堪らない

 

なのに、彼女は他の者の物だという

だが、そんな事紅炎にはどうでも良かった

 

彼女が欲しい

この腕にある、彼女の温もりだけが欲しい

 

他のものなど要らない

 

彼女――――エリスティアだけが欲しいのだ

 

「ん………」

 

不意に、エリスティアがもそりと動いた

どうやら、目を覚ましたようだ

 

「起きたのか?」

 

「え……」

 

優しげにそう語りかけると、エリスティアはゆっくりとその美しいアクアマリンの瞳を開いた

が、次の瞬間ぎょっとした様に表情を変えた

 

「あ、あの……な、なんで!?」

 

それはそうだろう

 

今、エリスティアは紅炎の腕の中にいるのだ

それは驚きもするだろう

 

だが、紅炎は離してやる気はなかった

 

さらに、エリスティアを抱く手に力を込めると、そのままその髪に口付けをおとした

これにはさすがのエリスティアも、顔を真っ赤にした

 

「ちょ…ちょっと、炎! 離し――――」

 

「嫌だといったら?」

 

「ええ!?」

 

意地悪くそう言うと、エリスティアが更に顔を真っ赤にして口をぱくぱくさせた

その仕草が可愛らしく思えて、紅炎は更にエリスティアを抱く手に力を込めた

 

「離したくないな」

 

「え…あの………っ」

 

「このままずっと――――離したくない」

 

そう言って、エリスティアの肩に自身の顔を埋める

紅炎のその様子に、エリスティアが少しだけ首を傾げた

 

「炎?」

 

「……ん?」

 

「どうか…したの?」

 

心配する様にそう尋ねてくる彼女が、たまらなく愛おしく感じる

こんな自分を心配してくれるのだ

 

ああ…どうして、彼女は既に他の者のものなのだろうか

何故、神は先に自分に引き合わせなかった

 

どうかしている

この俺が神に祈るなど

 

だが、出逢ってしまった

彼女に――――エリスティアに出逢ってしまった

 

これも全てルフの導きなのだ

 

「エリス―――――……」

 

名を呼び彼女の顔を確かめる

 

大きな美しいアクアマリンの瞳

透き通る様な肌

少し紅をさした、形の良い唇

そして、絹糸の様な美しいストロベリーブロンドの髪

 

どれをとっても、魅惑的で魅力的にしか見えなかった

いっそこのまま自分の物に出来たならばどんなに楽か

 

無理矢理にでも抱いて、自分の物に出来たならば――――

 

だが、そうはしたくなかった

 

大切にしたい

愛しいからこそ、大事にしたい

 

身体だけの関係など、要らない

 

彼女の――エリスの心が欲しい

エリス以外の女などに興味はない

欲しいのは、エリスだけだ

 

自分の中にこんなにも熱い想いがあるとは思わなかった

炎よりも、もっとずっと熱い

 

彼女だけが欲しいのだ―――――

 

「エリス……」

 

もう一度名を呼ぶ

 

彼女の美しい瞳が、自分だけをうつす日を信じて――――……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある日の一コマ

ぐらいに、思って下さい

 

2014/02/15