色彩の

 

 14:蒼月の誘い / 優しい微睡みに導いて 

(CZ:『End of the World』より:放浪者)

 

 

End of the World

      -Endless Snow-

 

 

 

【-Episode 1-】

 

「あ………」

 

夕焼けが、星空に変わる頃

“彼女”はいつもそこに現れる

 

“眠りの塔”

そう呼ばれる、銀色の塔の最上階

その窓辺に佇む美しいプラチナブロンドの女性―――

 

名前は知らない

 

ただ、この世界では彼女の事を知らない者はいない

 

 

“プラチナ”

 

 

この世界の“王の最愛”であり“唯一の理解者”

その者の事を“プラチナ”と呼ぶ

 

彼女はいつもこの時刻になると、窓辺に佇み空を眺めていた

まるで、その変化を記憶しようとしているかの様に

 

青年は、この塔の警護を任されていた

だから、ここでこの時間 彼女を見かけるのが日課になっていた

 

だが、青年にはやらなければいけない事があった

それは、眠り続けている幼馴染―――九楼撫子の“事故”の原因を取り除く事

その為に、この塔――――“CLOCK ZERO”に潜入していた

“CLOCK ZERO”―――“政府”の持つ“例の物”を入手する為に

それは、撫子を助ける上で必要不可欠な物だった

 

だが、ふと気が付くとあの“プラチナ”と呼ばれる彼女を見ていた

何故だか目が離せなかった

 

きっとそれは、あの珍しい銀糸の様な髪のせいだと思った

この壊れた世界で”銀“は希少であり、稀であった

 

そんな色を持つ“プラチナ”

彼女は一体何者なのか………

 

実際、彼女が現れてからというもの“世界”は動き出した

空も、風も、木々も

息を吹き返したかのように動き出した

 

それは彼女のせいなのか

それとも、彼女が“動かしている”のか

 

それは分からない

 

だが、一部の者の間では“プラチナ”の存在は危険だと言われていた

“プラチナ”の存在が”世界“をも動かす力を持つなど――――……

 

事実、彼女は命を狙われていた

だからこうして、終始警護が付いている

 

だが、青年は違うと思った

 

皆、分からないのだろうか

“世界”が“悲鳴”を上げている事に

 

そして、その事に彼女が憂いでいる事に――――……

 

その時だった、塔の上からひらひらと何かが落ちてきた

 

何だ……?

 

不思議に思い“それ”を拾うと、それは蒼いリボンだった

 

「リボン……」

 

そういえば撫子も白いリボンをいつも身に着けていたな……

 

そんな事を考えていた時だった

ぱたぱたと遠くの方からこちらに近づいてくる足音が聴こえてきた

 

刺客か?

と、思って警戒した時だった

 

「あの……すみません」

 

後の方から鈴の様な声が聴こえてきた

はっとして振り返ると、目の前に居る筈のない人物がいた

 

そう――――つい今しがた“眠りの塔”の最上階の窓辺で空を見ていた“彼女”だった

彼女は、さらりと長いプラチナブロンドの髪をなびかせ

 

「こちらにこれと同じ物が飛んできませんでしたか?」

 

そう言って彼女が見せた品は、先程青年が拾った蒼いリボンと同じ物だった

 

「ああ…これか……?」

 

そう言って、持っていたリボンを見せると

彼女は ほっとしたのか嬉しそうに微笑み

 

「貴方が拾って下さったのですね…ありがとうございます」

 

そう言って頭を下げた

 

ただ拾っただけなのに、そうも丁寧に礼を言われると何だかむず痒くなり

青年は、ばつが悪そうに視線を反らし

 

「いや……大したことはしていない」

 

そう言って、顔を背けたままリボンを差し出す

彼女はにっこりとほほ笑むと、それを受け取った

 

「良かった……無くしてしまったらどうしようかと…」

 

「リボンひとつで大げさだな……」

 

そう言って彼女の方を見た瞬間――――

 

なんだ…?

 

妙な既視感に襲われた

まるで、何処かで彼女を見知っていたかのようなこの感覚……

 

オレは、こいつを何処かで見たことがある…?

 

塔の上にいるのを見ているのとは別に

もっとずっと昔に何処かで――――……

 

だが、考えども目の前の彼女と繋がる人物が思い浮かばなかった

なんだか、もやもやとしてすっきりしない

 

何とも居心地の悪い気分になって、青年が目を伏せた時だった

 

「梓」

 

ふいに、声が聴こえたかと思うと

向こうの方からさらさらの金髪にさわやかそうな男が手を上げながらやってきた

 

キングだ

 

遠めに何度か見た事あるので、ひと目でわかった

青年はさっと少し頭を下げると、一歩後ろへ下がった

 

出来る限りキングとは関わらない様にしてきた

青年の“目的”を知られるのは得策では無いからだ

 

キングは頭が切れる

何処から気付かれるか分からない

 

“梓”と呼ばれた彼女は、キングを見るなり嬉しそうに微笑んだ

 

「珍しいのね、こんな所にまで降りて来るなんて」

 

彼女――――梓がそう言うと、キングは何でもない事の様に

 

「君こそ、出歩くなんて珍しいんじゃないのかな」

 

「…そこを突かれると痛いのだけれど…」

 

と梓がもごもごと口籠った

それを見たキングは、仕方ないなぁという風に笑みを浮かべるとぽんぽんと彼女の頭を撫でた

 

「俺が一緒の時は構わないけれど、くれぐれも一人で出歩かないでくれよ? 外は危険だから」

 

「…ごめんなさい」

 

「わかればよろしい」

 

何だ、この会話は…

彼女に甘いキングの対応に青年は居心地が悪そうに視線を伏せた

その時だった

 

「君、梓の傍に居てくれてありがとう…えっと、ナイトの一人だよね?」

 

「……………」

 

どう返答していいのか分からず、青年が無言のままいるとキングはにっこりと微笑み

 

「うん、よかったら今度話してもらえるかな。 君は信用出来そうだし、口も堅そうだ。 今、梓の専属のナイトを付けようかと思案中なんだ。 君も候補にいれていいかな?」

 

「…………………は?」

 

突然の突拍子もない提案に、思わず素っ頓狂な声を上げてしまう

それを見たキングはやっぱり笑って

 

「考えておいてくれよ」

 

それだけ言うと、当然の様に梓の腰に手を回し引き寄せた

 

「あ…」

 

一瞬、梓がそれに戸惑った様に声を洩らす

それから、少し躊躇いがちに青年の方を見て

 

「あの…ありがとうございました。 ナイト…さん?」

 

それだけ言うと、そのまま二人は何処かへ消えてしまった

それを確認した後、青年は大きく溜息を付いた

 

長めの前髪をかき上げる

 

「なに…言ってるんだ……?」

 

オレに“プラチナ”専属の護衛にならないか…だと

冗談にしては悪すぎる

 

空を見上げればもう蒼い月が高く昇っていた

脳裏に浮かぶのは、梓と呼ばれたプラチナブロンドにライラックの瞳の彼女の微笑んだ顔

 

「くそ……」

 

こんな事ならば、近づかなければよかった

 

そう思うも、もう後には戻れない―――――

そんな、核心が青年の中で渦巻き始めていた――――………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放浪者とプラチナの出逢い編ですなw

正確には一方的には知ってたようですが・・・

 

2016/01/09