肆ノ題 目を閉じて貴方を想った

 

◆ 03:鼓動の原動力。

 (アルゴナ:『猫と私と”あなた”』より:旭那由多)

 

 

  猫と私と”あなた”2

 

 

 

 

「名前は――――」

 

 

 

夕夏は、構内の一番暖かそうな南の木陰に来ていた

ここは、日差しも暑すぎず、寒すぎず

夕夏にとって、絶好の「読書」スポットだった

 

その白い猫が、ここにいるとは限らないが―――――

やはり、猫もこういうところが好きなんじゃないだろうか

 

という気がしたので、来てみたはいいものの・・・・・・

そんなあっさり見つかるはずがなく

 

「いない、かな・・・・・・?」

 

そんな風に思いつつも、その教えてもらった名前を呼ぶ

 

「にゃんこたろう――――?」

 

口にはして見たものの、変わった名前だなぁ・・・・・と、改めて思う

 

猫だから?

でも、この名はこの名で、可愛らしく思えた

 

きっと、里塚の言っていた飼い主さんも「可愛い人」なのかもしれない

 

その時だった、どこからか「にゃぁ・・・・・」と、小さな鳴き声が聴こえてきた

 

「あ・・・・・・」

 

もしかして、にゃんこたろう・・・・・・?

 

そんな気がして、辺りを見渡す

すると、また小さな声で「にゃぁ・・・・・・」と聴こえてきた

 

夕夏は、驚かせない様に、そっと声のする方に向かった

向かった先は南の木陰の中でも、夕夏の一番のお気に入りの大きなイチョウの木がある場所だった

 

そこにいたのは――――・・・・・・

 

 

「あ・・・・・」

 

 

ふわふわの真っ白な猫と、イチョウの木に寄り掛かって寝ている銀髪の青年だった

 

「にゃぁ・・・・・・」

 

小さな白い猫が、夕夏に気付き、足元にすり寄ってくる

なんだか、毛並みがふわふわなせいか、少しくすぐったい

 

夕夏は、ゆっくりとしゃがむと、その猫の頭を撫でた

 

「お前が、にゃんこたろう・・・・・・?」

 

そう尋ねると、その白い猫は「にゃぁ」と、答えた

なんだか、本当に返事をされたような気がして嬉しくなる

 

夕夏はそっと、その白い猫――――にゃんこたろうを抱き上げた

 

「うにゃ?」

 

にゃんこたろうが、可愛らしく首を傾げる

その仕草があまりにも可愛くて、思わず夕夏が顔を綻ばせた

 

「里塚さんが、探していたわよ? 飼い主さんの彼女さんも心配しているだろうし――――帰ろう?」

 

そう、にゃんこたろうに語りかける

すると、にゃんこたろうは、「にゃぁ」と一声 なくと、するっと夕夏の手をすり抜けて、タタタ・・・・・・と、イチョウの木に寄り掛かって寝ている銀髪の青年の方に駆けっていった

 

「あ! にゃんこたろう・・・・・・!!」

 

夕夏が慌てて追いかける

ここで見失っては、大変だ

 

だが、そんな夕夏の思いとは裏腹に にゃんこたろうは、その寝ている銀髪の青年の足にすり寄ると、まるで定位置とでもいう様に、その場でまるくなった

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

夕夏が少し困った様に、躊躇いつつもそっと、その寝ている青年に近づいた

青年は熟睡していて、起きる気配すらない

 

にゃんこたろうも、青年に寄り添ってすやすやと寝始めてしまった

 

この展開には、流石の夕夏も困った

里塚に、にゃんこたろうを探すように頼まれたというのに、肝心のにゃんこたろうは、帰る気ゼロの様である

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

夕夏は少し考えた後、自身もそのイチョウの木の寄り掛かるように座り込んだ

それを見た、にゃんこたろうが一度だけ「にゃぁ・・・・・・」と鳴いた

 

その仕草が余りにも愛らしく、夕夏はやっぱり笑ってしまった

そっと手を伸ばし、にゃんこたろうの頭を撫でる

 

「お前は、この人が好きなのね・・・・・・」

 

何故かはわからないが、そう思った

空を見上げると、そよそよと心地よい風が頬を撫でてくる

 

夕夏は、ゆっくりと息を吸うと、そのままゆっくりとその瑠璃色の瞳を閉じた

昨夜、遅くまでレポートをやっていたせいだろうか

 

ここにいると、うとうととしてしまう

 

そして、いつの間にかそのまま眠りの淵に落ちていったのだった―――――・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――い」

 

 

 

「ん・・・・・・」

 

何処からか、誰かの声がした

だが、風が心地よくて、目を開けたくない

 

 

「――――――おい」

 

 

聞いた事のない声――――な、気がした

 

だ、れ・・・・・・?

 

ぼんやりする意識の中で、何とかその瑠璃色の瞳を開けようとする

が、まだ頭が覚醒していないのか、意識がはっきりしない

 

「にゃぁ・・・・・・」

 

不意に、猫の泣き声が聴こえてきた

 

あ・・・・・・そういえば――――・・・・・・

 

自分は、里塚に頼まれて白い猫を探しに来ていたことを思い出す

 

「にゃんこ、た、ろう・・・・・・?」

 

ぼんやりする頭で、その猫の名を呼ぶ

すると、耳元で「にゃぁ・・・・・・」という声が聴こえてきた

 

良かった、まだここにいた

その事に、ほっとするも――――昨夜のレポートが響いて意識がまだまどろみから覚醒しない

 

起きなきゃ――――と思うのに、まぶたが・・・・・・重い

 

その時だった

誰かが夕夏の髪に触れた様な気がした

 

それが酷く心地よい

 

「ん・・・・・・」

 

ゆっくりと、頭を撫でられる

 

だ、れ・・・・・・?

 

重い瞼をゆっくりと開ける

視界に入ったのは―――――銀色の髪に、綺麗な赤色の瞳をした不機嫌そうな青年だった

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

―――――――――――え!!?

 

 

 

 

一気に意識が覚醒する

慌ててがばっと起き上がろうとした瞬間―――――

 

「きゃっ・・・・・・」

 

不安定だった手元が滑り、倒れそうになった

 

「・・・・・・・・・・・ちっ」

 

瞬間――――ぐいっと、大きな腕に引き寄せられた

 

「あ・・・・・・」

 

気が付けば、その青年の腕の中にいた

突然の出来事に夕夏の心臓が早鐘の様に鳴り響く

 

「おい」

 

「は、はい!」

 

頭上から、怒気の混じった声が聴こえて、夕夏が慌てて顔を上げる

 

「重い、どけ」

 

「す、すすす、すみませんっ!!!」

 

言われて、夕夏が慌てて離れた

 

「――――ったく、めんどくせぇ・・・・・・」

 

青年が吐き捨てる様に、そう洩らした

もはや、夕夏の頭のなかはパニック状態だった

 

なにがどうなっているのか

さっぱりわからない

 

わかっているのは、目の前の青年が超絶不機嫌そうだという事だけ―――――

 

ざぁ・・・・・・と、風が吹く

夕夏の長い漆黒の髪が揺れた

 

 

 

 

「貴方・・・・・・だ、れ?」

 

 

 

 

今更の様な夕夏のその問いに、青年が「あ?」と、眉間に皺を寄せた

 

「―――にゃぁ」

 

と、にゃんこたろうの鳴き声が聞こえる

 

それが――――――・・・・・・

 

 

 

 後に知ることとなる、「GYROAXIA」のボーカル

 

 

         旭 那由多との出逢いだった――――・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一度作ったのに、ページ・・・・・・

ミスって全部消えたわwwww

作り直し中や~~~~~!!!!!!

 

※元々、ぷらいべったーに掲載していたものです

 

 

べったー掲載:2021.02.26

本館掲載:2022.12.14