肆ノ題 目を閉じて貴方を想った

 

◆ 02:胸に手を当てて。

 (アルゴナ:『猫と私と”あなた”』より:旭那由多)

 

 

  猫と私と”あなた”3

 

 

 

ざぁ・・・・・・

 

風が吹いた

夕夏の長い漆黒の髪が揺れた

 

 

 

『貴方・・・・・・だ、れ?』

 

 

 

何気ない、ひと言

そう―――――夕夏にとっては、思わず出た言葉だった

 

すると、目の前の銀髪の青年は不機嫌そうに眉を寄せた

 

「・・・・・・なので、お前にそんな事教えなきゃならねぇ」

 

そう言われて、夕夏がはっと我に返る

慌てて、自分の失言に口を押えた

 

そ、そう・・・よね

見知らぬ女に、いきなり「誰かと」問われて、気分が良いわけがない

 

夕夏はなんだか、いたたまれなくなり

そっと静かに、青年から視線を逸らした

 

「その・・・・すみません。 失礼な事を―――――」

 

そう言って、頭を下げようとした時だった

 

「にゃあ・・・・・・」

 

不意に、にゃんこたろうが夕夏にすり寄ってきた

まるで、夕夏を慰めるかの様に――――・・・・・・

 

にゃんこたろうの、その仕草に思わず夕夏が笑みを浮かべる

 

「慰めてくれるの・・・・・・? ありがとう」

 

そう言って、にゃんこたろうの頭を撫でる

すると、にゃんこたろうは嬉しそうに、「にゃぁ」と答えた

 

「・・・・・・・・・・・おい」

 

その時だった、不意に目の前の銀髪の青年が不機嫌そうにこちらを見た

 

「・・・・・・え?」

 

彼が不機嫌になった理由がわからず、夕夏が困惑の色を見せる

すると、目の前の青年は「ちっ」と舌打ちしたかと思うと

 

「・・・・・・こい」

 

そう言って、顎をしゃくった

夕夏は、一瞬自分に言われたのかと思い、慌てて立ち上がろうとすると

横にいた、にゃんこたろうが彼に応えたかの様に「にゃぁ」と言って、青年の方に向かっていった

 

それを一度だけ確認すると、青年はそのまま にゃんこたろうを伴ってその場から、去ろうとしていた

 

驚いたのは、夕夏だ

折角、探し回って「にゃんこたろう」らしき猫を見つけたのに・・・・・・

この謎の青年に連れていかれたらたまったものではない

 

「ちょっ――――、ちょっと待ってください!!」

 

気が付いたら、大声で叫んでいた

すると、青年が「あ?」と、不機嫌そうに振り返る

 

その不機嫌そうな赤い瞳に、一瞬ぐっと言葉を詰まらせそうになるが

夕夏は小さく息を吐くと、まっ直ぐにその青年を見据えた

 

「その子は、・・・・・・その、私がある方に頼まれて捜していた子なのです。 だから・・・・・・その」

 

言わないとここで、見失う事になる・・・・・・っ

それだけは、避けなくてはならない

 

「だから・・・・・・っ! 連れていかれたら困るのです!!」

 

言った!!!

 

なんとか、勇気を振り絞って、最後まで言い切った

ぐっと握っている手が熱い

全身が緊張する

出来る事ならば、このままこの場を去りたい

 

でも―――――・・・・・・

 

里塚は、夕夏を信じて頼んできたのだ

その期待を裏切る訳にはいかない

 

だから、ここで引き下がれないのだ

 

一瞬、夕夏の言葉に、目の前の青年が更に眉を寄せた

 

「あぁ? だからなんだ」

 

と、一瞥だけして夕夏の話はまったく聞き入れる気はなさそうだった

そのまま無視して去ろうとする青年に、流石の夕夏もむっとした

 

 

 

「――――――待ちなさいよ」

 

 

 

わなわなと膨れ上がっていく怒りを抑えるかのように、夕夏が口を開いた

 

「貴方様が、どこのどなたかは知りませんけど・・・・・・その子は連れていかないでと言っているのよ! 大体、何の権利があって貴方が連れていくのよ!!!?」

 

一瞬、自分に啖呵を切ってきた少女に、銀髪青年が少しだけ驚いたように、その赤い瞳を一度だけ瞬かせた

が――――――・・・・・・

 

次の瞬間、面相くさそうに舌打ちをした

 

青年のその態度に、夕夏が更にむっとする

 

「――――貴方様には用はありません!! どこでも好きな所へ行くといいわ。 でも、その子は連れていかないで!!!」

 

「・・・・・・なんで、そんな事 お前に指図されなきゃならねぇ」

 

一等低い声で、青年がそうぼやいた

その怒気の混じった低い声音に一瞬、夕夏が怯みそうになる

だが、ここでは引けない

引くわけにないかない

 

「―――――何度も言わせないで!!! その子は――――――」

 

 

 

「はい、そこまでにしてもらおうか」

 

 

 

不意に、ぱんっと手を叩いた音が聴こえたかと思うと、そこには眼鏡をかけた赤銅色の髪の青年――――里塚が立っていた

 

 

 

「「里塚(さん)」」

 

 

一瞬、夕夏と銀髪の青年の声が重なる

が、その事に二人して驚いたように、お互いを見た

 

その様子に、里塚がくつくつと笑いながら

 

「すまない、那由多に啖呵切る女子が珍しすぎて、傍観してしまっていたよ」

 

「・・・・・・え?」

 

彼は何を言っているのだろうか?

そんな夕夏とは裏腹に、里塚が那由多と呼ばれた銀髪の青年の肩を叩いた

 

「お前もそうだろう? 那由多。 こんなの自分に喰いつきた女は初めてで、興味が沸いただろう?」

 

里塚の言葉に、銀髪の青年が「ちっ」と舌打ちをして、夕夏から視線を逸らす

 

え?

 

一体、何が起きて、何がどうなっているのか

夕夏にはさっぱりわからなかった

 

すると、見兼ねた里塚が

 

「棗君、ありがとう。 猫探し助かったよ。 那由多の傍に居たなら問題はない」

 

「・・・・・・え? あの、それは、どういう――――」

 

意味――――と聞く前に、里塚がくすっと微笑んで

 

「言ってなかったな、この猫の飼い主は彼――――那由多なんだ」

 

そう言って、里塚が銀髪の青年の肩を叩く

 

 

「え」

 

 

今、彼は何と言ったか・・・・・・

にゃんこたろうの飼い主・・・・さん・・・・・・?

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 

 

ええええええええ!!!!!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まだ、名乗ってませんwww

とりあえず、次回辺りは名乗るかとwww

 

那由多書きやすいけど、反応が一緒すぎて困るわ~~~

 

※元々、ぷらいべったーに掲載していたものです

 

 

べったー掲載:2021.04.04

本館掲載:2022.12.14