水月華-二十四節気-
◆ 03:啓蟄・桃の花 「遅くなったVD.」
(鬼灯の冷徹 『紅蓮の炎 揺れる鳥籠』より:鬼灯)
―――――2月14日・閻魔庁
その日は、何故かひときわあの世は・・・・・・
いや、あの世だけではない、現世もあの世も天国も、皆 やたらそわそわしていた
正確には、数日前からそわそわしていた
仕事をしていると、やたらと視線を感じたり、男の獄卒に声を掛けられたり、閻魔大王に至っては何故か、とてもうきうきしていた
「・・・・・・・・・・・・?」
ちなみに、紅々莉 伽耶はというと・・・・・・
そんな空気を一切無視した様に、普段と変わらず押し付けられた業務をこなしていた
いつも通りに、書類に目を通し
いつも通りに、視察に行き
いつも通りに、鬼灯に遊ばれ
とにもかくも、普段とまったくこれっぽっちも変わらず過ごしていた
だから、2月14日が近くなったとしても、伽耶にとっては普通の日で特に気にも止めてなかった
で、当日
朝起きて、出勤すると閻魔庁に入るまでにも散々何故か挨拶され、閻魔庁に入っても声を掛けられ、挙句の果てに・・・・・・
「ねぇ~紅々莉ちゃん、わしに何かあるなら言ってくれよ?」
と、にたにたした閻魔大王に言われた
ので、伽耶は
「え? ああ、仕事の書類が用意出来次第、お伺いします」
と、いつも通りに答えたのに・・・・・・
その言葉に、閻魔大王は慌てて
「いや、ほら! 今日はあれだし!! わしに何か用あったりするでしょ!?」
「・・・・・・・・・・? あれ?」
とは、何の事だろうか・・・・・・?
本気で首を傾げた伽耶に、閻魔大王は愕然とした
「も、もしかして、紅々莉ちゃん・・・・・・わしのは無い、の?」
今にも泣きそうな声でそう言われるが
伽耶には何の事かさっぱり分からず・・・・・
「えっと・・・・・・?」
伽耶が困惑した様に、首を傾げていると
「伽耶」
不意に、後ろから聞き覚えのある声が聴こえてきた
振り返ると、鬼灯が大きな袋を抱えて歩いて来た
「・・・・・・鬼灯様?」
まるで、サンタクロースの様な袋に伽耶が首を傾げる
「・・・・・・なんですか? その大きな袋」
思わず突っ込んでしまう
すると、鬼灯はやれやれという風に
「毎年の恒例行事ですよ。 まったく、お返しする身にもなってもらいたいです」
そう言いながら、どさっとその抱えていた袋を置いた
気のせいか、何やら甘ったるい匂いが充満する
それを見た瞬間―――――
「ああああああ!!! 鬼灯君、ずるいよぉ――――!!!」
そう言って、閻魔大王があの大きな巨体をじたばたさせる
ので、心なしか閻魔庁がぐらぐらしている気がした
しかし、鬼灯はしれっとしたまま
「別に、私がくれと言ったわけではありませんが、返すのも面倒くさくなってきたので、袋に放り込んでるだけです」
「むきいいいいいい!!! 嫌味だよ!! 鬼灯君!! 私モテますんでアピール!!!?」
「さぁ? どうでしょうか」
などと、謎の攻防が繰り広げられているのを余所に、伽耶はきょとんとしていた
(何か、あったかしら・・・・・・? 今日)
と、その時だった
「あら、鬼灯様に閻魔大王様。 こちらにいらしたのね?」
そう言って現れたのは、衆合地獄の主任補佐のお香だった
まさに、地獄のナンバー1美女と言っても過言ではないお香の登場に、閻魔大王がぱぁっと顔を明るくさせる
「もしかして――――」
と、わくわくと閻魔大王が身を乗り出す
すると、お香はにっこりと微笑み
「はい、鬼灯様」
そう言って、閻魔大王の目の前で大王ではなく、鬼灯に何かを渡した
すると、鬼灯もいつもの様に
「ああ、毎年ご苦労さまです」
そう言って、素直に受け取る
それを見た、閻魔大王がむき――――!!! っと、吠えた
「ちょっ!!! 鬼灯君ばっかりずるいよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
「・・・うふふ」
お香が、明らかに遊んでいるのが見て取れた
が・・・・・・
肝心の伽耶は、状況がまったく理解できず首を傾げていた
「あの、お香さん・・・・・・。 今日何かの日でしょうか?」
思わず、そう尋ねる
すると、お香は「あら」と声を上げ
「紅々莉ちゃんは、何の日が分からないの?」
そう尋ねるお香に、伽耶はきっぱりはっきり
「ええ、まったく」
と、答えた
それを見た、お香はにっこり微笑み
「今日は、現世で言う2月14日よ?」
「2月14日・・・・・・?」
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「レオン・バッティスタ・アルベルティの誕生日?」
「れお・・・・・・? 誰それ」
呪文の様な名前に閻魔大王が首を傾げる
すると、鬼灯が
「レオン・バッティスタ・アルベルティは、初期ルネサンスの人文主義者であり、建築理論家でもあり、建築家でもあった人物ですよ」
「そんな人知らないよ!!!」
今は、そんな話をしているんじゃないと言わんばかりに、閻魔大王はばんっと机を叩いた
「わしも、ほしぃい~~~、チョコほしいいいいい!!!!」
と、子供の様にじたばた暴れながらわめき始めた
「チョコ・・・・・・?」
ちょこ・・・・・・?
「・・・・・・・・・・・・????? ああ!」
そこで何かを思い出したのか、伽耶がぽんっと手を叩いた」
「バレンタインデーですね。 そういえば。 あまり興味なかったので、すっかり忘れていました」
「忘れてたの!!?」
がーんっと、閻魔大王がショックを受ける
すると、伽耶はまるで営業スマイルの様に にっこりと微笑み
「はい」
と、語尾にハートマークでも飛びそうなぐらい満面の笑みで答えた
だが、知ってしまった手前、流石に用意しないといけない気がしまう
こんな事なら、最後まで気づかないフリでもしておくべきだったと、若干後悔した
とはいえ、今から買いに行っても、もう残り物程度しかないだろう
しかし、手作りするには、材料が――――・・・・・・
と、はたっとお香と目があった
すると、お香はにっこりと微笑み
「材料なら、分けてあげるわよ?」
「あ、本当ですか? 助かります」
と、なると後は時間なのだが・・・・・・
ちらっと、鬼灯を見ると
鬼灯はやれやれという風に
「伽耶、とりあえずでいいので、大王のをお願いします。 このままでは仕事になりません」
「・・・・・・ですね。 すみません、鬼灯様のは後日改めてでも宜しいでしょうか?」
伽耶がそう尋ねると、鬼灯は真顔で
「シャルロット・オ・ショコラと、ティラミスで手を打ちましょう。 あ、大王のは時短で出来るトリュフ辺りで」
「わかりました」
「ちょっとおおおおおおおお!!! 何その差!!!?」
鬼灯からのリクエストに、閻魔大王がまた駄々をこね始めた
瞬間―――――
ごすうううう!!! という、凄まじい音と共に、閻魔大王の頬に鬼灯の金棒がクリーンヒットした
「わがまま言わない」
「いたい、いたい、いたいいいいいいいい!!!」
そんなこんなで、閻魔大王にトリュフを時短で作って渡して事なきを得たのだった
後日―――――
鬼灯のリクエスト通り、シャルロット・オ・ショコラと、ティラミスと一緒に
こっそりと、オペラとマカロンも付けたのは秘密である
こちらは、本館連載中の鬼灯の冷徹のVD小話になります
遅くなりました・・・・・・
とりあえず、駄々こねる大王に簡単なトリュフあてがうwww
鬼灯用は手間かかるのをチョイスしてます😇😇
※元々、ぷらいべったーに掲載していたものです
べったー掲載:2022.02.17
本館掲載:2022.11.10