水月華-二十四節気-
◆ 13:立秋・蛍草「たったひと言が・・・」
(アイナナ:『Reine weiße Blumen』より:八乙女楽)
―――――8月15日
「――――え?」
あやねは、驚きのあまりその海色の瞳を瞬かせた
あやねのその反応に、龍之介と天が逆に驚く
「あれ? 知らなかった・・・・・・の?」
龍之介が、冷や汗をかきながら こそっと天に耳打ちする
「・・・・・・もしかして、楽・・・あやねちゃんに言ってないのかな?」
「言ってないでしょ、あの反応はどうみても」
そう―――明日の、8月16日は“TRIGGER”の八乙女楽の誕生日なのだ
“TRIGGER”や、八乙女楽に興味があれば知らない筈がない
が・・・・・・
白閖あやねは、知らなかったようだ
それはつまり・・・・・・
“TRIGGER”にも、“八乙女楽”にも興味がない―――――と言う事を意味しないだろうか?
などと、口が裂けても言えず・・・・・・龍之介と天が押し黙る
その時だった
ガチャと言う扉の開く音と共に、楽と姉鷺が楽屋に入ってきた
「・・・・・・んもう! 楽!! 分かってると思うけど―――――」
「あ~はいはい、分かってるよ。 明日は大人しく―――――って、あやね?」
楽屋にいる筈のない、あやねを見つけて一瞬楽が驚くが
次の瞬間、嬉しそうに顔を綻ばせ
「あやね、どうした? 何か、俺に用か?」
そう言ってあやねに駆け寄る
あやねが、一瞬戸惑った様に、苦笑いを浮かべる
「あ、その・・・・・・頼まれていた資料を届けに――――・・・・・・」
そう言って、頼まれていた楽譜を渡す
「楽? あやねちゃんに何か頼んでたのか?」
不思議に思った龍之介が首を傾げる
その言葉に、楽が「ああ」と声を洩らし
「・・・・・・今、撮影の映画に使う楽譜なんだ。 探したけど見つからなくてさ、あやねに聞いたら持ってるって言うから―――・・・・・・って、あやね?」
「・・・・・・え・・・?」
あやねの異変に気付いたのか、楽が心配そうにあやねを覗き込んでくる
そして、そのまますっと彼女の額に手を当てた
「あ、あの・・・・・・?」
「熱は・・・・・・ないみたいだな」
「あ、えっと・・・・・・」
「一応、病院行っておくか? 付き添いなら俺が―――――」
と、楽がそこまで言いかけた時だった
「はい! そこまでよ!!」
ぱんぱんっと、姉鷺が手を叩いた
それから、あやねと楽の間に入って
「まったく~、楽はあやねちゃんの事になるとすぐこれだから」
「んだよ、これって」
「言葉の通りよ? 周り、全然見えてなかったでしょう?」
はっとして、辺りを見渡す
開いたままだった楽屋の扉の向こうに人が通る気配がある
楽屋の中では龍之介と天が唖然としている
やべ・・・・・っ、またやったか・・・・・・?
一瞬、楽が「しまった」と言う顔をするが・・・・・・
周りの反応は、いたって普通だった
姉鷺が冷静に扉を閉める
瞬間、龍之介が楽の腕を引っ張った
「楽、ちょっといいかな?」
「お、おい!」
すると今度は、ぐいっと天が楽の反対の腕を引く
「いいから来て」
「は? んだよ」
と、二人に取り囲まれて楽が一瞬身の危険を感じる
すると、二人は楽を取り囲んで
「ねぇ、あやねちゃんに何も言ってなかったの?」
「な、なんの話だよ」
「だから~、楽の誕生日が明日だって事だよ」
「・・・・・・言ってねぇけど・・・」
「「なんで!!?」」
二人の声がハモった
「や、それは――――・・・・・・」
そこまで楽が口を開きかけた時、天が何かに気付いたかの様に
「ああ、分かった。 どうせ、楽の事だから 『かっこ悪くて、言えねぇ』とか、思ってんでしょ?」
「あ~楽いいそうだよね。 あやねちゃんにかっこ悪い所見せたくないんだよね?」
「いや、それは――――」
「別に、今から言えば?」
「んな事、言える訳――――」
「そうだよね! 今から言おうよ!!」
「や、だから俺の話を―――――」
その時だった
「それでは、失礼致します」
「ご苦労様」
気付くと、あやねが姉鷺に挨拶して帰ろうとしていた
「ま・・・待っ・・・・・・」
今逃せばきっと言えない
そんな気持ちが楽の背中を押したのか―――――・・・・・・
思わず、言葉より身体が動いた
扉を開けようとしたあやねを防ぐように、ばんっと後ろから手を伸ばした
突然伸びてきた楽の手に、あやねがびくりっと肩を震わせた後、ゆっくりと振り返った
「が、楽、さん・・・・・・?」
あやねが、戸惑った様に言葉を紡ぐ
楽がもう片方の手で、ドアノブに伸ばしていたあやねの手を握る
「あ、あの、よ・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・?」
「その・・・・・・」
後ろで「楽!いけ!!」と小声で聞こえて来るのが、無駄に煩く聞こえる
「楽、さん・・・・・・?」
楽が恥ずかしそうに、少し頬を赤く染め
「そ、その・・・・・・俺さ、明日・・・、た、誕生日、なんだよ・・・・・・」
「・・・・・・はい」
それは、先ほど聞いた話だ
彼の誕生日が明日の8月16日だと
「それで―――その・・・・・・」
そこまで言い掛けて、楽が言葉を切った
その先が出て来ないのか、言い出せないのか、押し黙る
し――――――ん・・・・・・と、部屋の中が静まり返る
どくん、どくん と心臓の音が早くなる
周りに聞こえそうなぐらい、音が響いて聴こえる気がする
「・・・・・・あ・・・明日・・・・」
「明日・・・・・・?」
ごくりと、周りが息を呑む
どくん どくん・・・・・・
どくん どくん・・・・・・
心臓がはち切れそうなぐらい緊張している
きっと、初めてオーディション受けた時よりも
ずっと、もっと
いつもなら簡単に言える言葉フレーズなのに、それが出ない
「――――・・・・・・」
言え!
心の中で誰かが囁く
言うんだ!!
今を逃せばもう、言えない!!
そう――――この時間(チャンス)を逃せば、きっと言えない――――・・・・・・
楽はぐっと唇を嚙みしめると――――
「あ、明日・・・・・・時間、あるか!!?」
「・・・・・・え? あ、はい・・・」
あやねがそう答えると、楽が 「はぁ・・・・・・」と息を吐いてそのままあやねの肩に顔を埋める
「あ、あの・・・・・・?」
戸惑った様にあやねが姉鷺達の方を見る
が、姉鷺は両手を上げて首を振った
「・・・・・・楽、さん? 具合でも悪いのですか?」
あやねがそう楽に問いかけて、そっと背に手を当てる
瞬間、ぴくっと楽の肩が震えた
すると、楽がゆっくりと顔を上げて
「なぁ、明日――――俺の為に、あやねの時間をくれないか?」
「え・・・・・・?」
「一緒に―――いたい。 駄目、か?」
「・・・・・・・・・」
一瞬、何を言われたのか分からず、あやねがその海色の瞳を瞬かせた
「その、明日は楽さんのお誕生日、なんです、よね? そんな貴重なお時間を私が頂いても
――――」
「あんたが! ・・・・・・あやねが、いいんだ。 あやねと一緒にいたい」
すると、それをフォローする様に、姉鷺が
「楽、明日はオフの日よ」
そう言って、姉鷺が笑う
「あやねちゃんさえよければだけど、楽の事お願いしてもいい?」
「・・・・・・・・・・・・」
姉鷺にそう言われた後、楽の方を見る
楽は少し俯いていたが、その顔は耳まで真っ赤だった
「あ、ただし、スキャンダルになるような事だけは駄目だからね」
「・・・・・・わかってるよ」
楽はそうぼやくと、もう一度あやねを見た
そして
「・・・・・・俺の時間をお前に・・・あやねに、やる。 だから、あやねの時間も俺にくれ」
「・・・・・・・・・・っ」
楽からのストレートな「告白」に、あやねが息を呑んだ
それと同時に知らぬ間に顔に熱を帯びるのを感じた
「あ・・・・・・」
「無言は肯定と取るけど、いいか?」
「・・・・・・・・・・」
「肯定で、いい?」
「・・・・・・・・・・」
ゆっくりと楽の顔があやねに近づいてくる
吐息が近くに感じる
時間が、ゆっくりと流れるような――――
そのまま、そう―――ゆっくりと・・・・・・・・・・
「んん、ごほん!」
突如、後ろから姉鷺の咳払いが聞こえてきた
「楽~? そういうの・・・・・は、二人っきりの時にして頂戴。 後、ゴシップだけはホントに禁止だからね!」
「あ・・・・・・」
瞬間、慌ててあやねから離れる
「わ、悪い!」
「あ、い、いえ・・・・・・」
二人して赤くなって黙りこくってしまう
それを見た、龍之介と天が呆れた様に、息を洩らし
「こういう時って、何て言うんだっけ?」
「・・・・・・ごちそうさま?」
「そう、それ! 二人とも、ごちそうさま!!」
と、元気よく言う龍之介に、楽が顔を顰めながら
「・・・・・・見世物じゃねえよ!」
楽がそう言って、あやねの肩を護る様に抱くと、他のギャラリーを追い払う様にしっしと手を振った
「あ、あの・・・・・・っ」
急に肩を抱かれたあやねが、顔を真っ赤に染める
だが、それとは真反対に、その手に力が込められた
「俺の今日の仕事はもう終わりだよな?」
姉鷺にそう確認取ると、姉鷺がスケジュール帳を一応確認して
「そうね、もう今日は上りでいいわよ」
「よっしゃ! あやね、待っててくれ。 すぐ着替えてくる!」
「え・・・・!? あ、あの・・・・・・」
あやねが止める間もなく、楽がカーテンの向こうへ行く
「・・・・・・・・・」
あやねが、思わず姉鷺を見る
すると、姉鷺は軽く溜息を洩らしながら
「・・・・・・ああ言いだしたらもう止められないわよ。 あやねちゃん、楽の事宜しくね」
こうして―――――・・・・・・
八乙女楽最高のバースデイが始まったのだった
本番はありません!!笑
ここで、終わりでーすwww
まあ、バースデイの内容は本編で ふふ・・・・・・
※元々、ぷらいべったーに掲載していたものです
べったー掲載:2022.08.16
本館掲載:2022.11.11