和風10題

 

 08:流るるままに 

(薄桜鬼:『櫻姫抄乱』より:土方歳三)

 

 

「今日は無礼講だ―――!!!」

 

おおおおおおおおお!!!!

 

仕切り魔、永倉新八の台詞から、何故か屯所の広間で宴会が行われていた

事の始まりはこうだ

 

どうやら、先日(たまたま)捕まえた不貞浪士は

実は、かなりの大物だったらしく……なんと、幕府から報奨金が出たのだった

 

いつもなら、島原へ繰り出すはずなのだが…

今日は、幹部以外の隊士も交えたいという事で、屯所内の広間にて開催されることになったのだ

 

というわけで、酒は買ってくるのだけで済むが、つまみを作る班は大変であった

人数分かつ、種類も色々用意しなければならない

勿論、酒も冷酒から熱燗まで一通り準備をした

 

こんなことを日常茶飯事で行っている島原の料理人はすごいと実感させられる

さくらも、千鶴も朝から厨でずっと料理していた

 

そして、夕刻――――

永倉の掛け声とともに、宴会が開催されたのだっ

 

宴会が始まってもさくら達の仕事は終わらなかった

追加の料理や無くなったお酒の付け足しなど、とにかくぱたぱたと動き回っていた

 

こういう手間があるから、いつも少し高くても島原でやっていたのであろうと

なんとなく、推測できた

 

だが、下の隊士たちも参加させたいという気持ちもわからなくもない

それに、忙しいがこれはこれで楽しくも思えた

 

さくらは、追加の入ったお酒を盆に載せて廊下を歩いていた

外を見ると、もうすっかり日も暮れて空には月が昇っていた

 

綺麗な満月だった

 

思わず、月に見とれてしまう

なんとなく、ぼんやりと月を眺めている時だった

 

「あら、そこにいるのは……さくらちゃんじゃありませんこと?」

 

「え……?」

 

不意に名を呼ばれ、そちらの方を見ると

伊東が少しほろ酔い気分なのか、一人こちらに近づいてきた

 

「………伊東さん、どうかなされたのですか?」

 

そう尋ねると、伊東はんふふふふ~と、笑いながら千鳥足でさくらの所までやってくると

不意に手に持っていた扇でついっとさくらの顎をあげた

 

突然の伊東の行為にさくらが、困惑の色をその真紅の瞳に映す

 

「あ、あの……なに、を――――――」

 

「ねぇ、美しいと思わない?」

 

不意に、不可視な事を聞かれた

思わず、月かと思い「月…ですか?」と、尋ねる

 

すると、伊東は身体を震わせ

 

「んん! もう! 違うわよ~。 綺麗なのは………貴女よ、さくらちゃん」

 

「え………?」

 

一瞬、何を言われたのか分からず、さくらがきょとんとする

すると、ここぞとばかりに伊東の手がさくらの腰に回された

 

「あ………」

 

まさかの伊東の行動に、さくらが困惑する

だが、伊東はお構いなしに

 

「ねぇ……さくらちゃん、今から二人っきりで抜け出さない?」

 

「え……抜け出すって……」

 

「だ・か・ら、二人で抜け出して~私と“いいこと”しないって誘ってるのよ~」

 

いいことって……

何の事を指しているのかに気づき、さくらがさっと顔を赤らめた

 

「な、なに、を―――」

 

「あん、照れることないわよ? 私が―――貴女の知らないことまでぜ~んぶ、教えてあ・げ・る」

 

この人は何を言っているのだろうか

思考が追い付かない

 

だが、伊東がどんどんこちらへと近づいてくる

腰を引き寄せられる

 

「あ………」

 

抵抗したくとも、盆に酒の入った徳利を載せている為、逃げることすら叶わない

 

「さぁ、行きましょ」

 

上機嫌でそう言うって、強引にさくらを連れて行こうとする

 

「ま、まって……くださ――――――」

 

なんとか、抵抗の意思を絞り出したが、全く効果がなかった

ぐいぐいとどんどん引っ張られていく――――……

 

「あ、あの、本当に―――離し――――」

 

と、その時だった

不意にさくらは肩を掴まれたかと思うと、誰かに引き寄せられた

 

「きゃっ……」

 

突然の出来事に、酒を落としそうになる

慌ててそちらの方を見ると、そこにいたのは――――……

 

「ひ……土方さん……?」

 

そこにいたのは、宴席にいた筈の土方だった

 

どうしてここに?

と思う反面、酷く安堵感を感じた

 

「わりぃな、こいつは先約があるからな、あんたの相手はできねーよ」

そう言った、さくらの肩を抱き寄せる

 

え…………?

 

「あ、あの…土方さ……」

 

先約とは何のことだろうか…

そう尋ねようとした瞬間、そっと土方に耳打ちされる

 

「伊東に手籠めにされたくなければ、話を合わせろ」

 

話を合わせろって――――……

 

一体どうしたらいいのか、見当もつかない

土方に抱かれている肩が熱い

さくらの顔が徐々に朱に染まっていく

 

それを見た伊東は、何故か嬉しそうに嬉々とした声を上げた

 

「あら、あらあらあらあら! ま~~~!! やっぱり土方君とさくらちゃんは、“そういう関係”なんですのぉぉ~~~!!?」

 

どうして、それが伊東にとって嬉しいのかわからないが…

何故か喜んでいた、今まで以上に

 

すると、伊東がとんでもない事を言いだした

 

「だったら~三人でいい事するってのはどぉ?」

 

「あ“?」

 

伊東の声に半分怒気の混じった土方の声がした

三人って………

 

一体この人は、何を言っているのだろうか

最早、さくらの理解の範疇を超えていた

 

眩暈がしそうになるのをなんとか堪える

すると、力強く土方に肩を抱き寄せられた

 

「あ……」

 

いつも以上に密着しているせいか、身体がどんどん熱を帯びていく――――……

なんだか、気恥ずかしくなり、さくらは俯いてしまった

 

すると、伊東がくすっと笑みを浮かべ

 

「私はね、“美しいもの”が大好きなの。 だから、土方君もさくらちゃんも、すっごく好みなの」

 

「その二人が身体を合わせる姿…そして、そこに一陣の光の様に入る私!! なんて、素敵なんでしょう…」

 

うっとりと、妄想にふけるように、その瞳がきらきたしていた

 

駄目だ…話が通じない

と、思ったのは、きっとさくらだけではない筈……

 

「それじゃぁ、三人の愛の巣へ―――――」

 

「行くわけねぇだろうが!!!」

 

どきっぱりと言い返す土方に、伊東がくねくねとしながら

 

「ああ…土方君の、そういうところも、す・き」

 

ぞわっと、土方の背筋に悪寒が走ったのは言うまでもない

 

「あ、あの……」

 

大丈夫ですかと言いそうになったが、とても大丈夫そうに見えない

が、土方はさも平然としてる風に顔を引き締めた

 

「悪いが、俺にそっちの気はない。 俺は――……」

 

ふと、さくらを見る

え……?

 

一瞬、土方の菫色の瞳と目が合った

土方さん……?

 

さくらが首を傾げると、土方は、軽く咳払いをし

 

「さくら、行くぞ」

 

そう言って、ぐいっとさくらの肩を抱き寄せた

 

「あ………」

 

そして、そのままさくらと土方が伊東に背を向ける

その時伊東が

「もう、いけずなんだからぁ~」

 

と、くねくねしていたが

誰も、知る由はなかった―――――………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

****   ****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫か? さくら」

 

少し宴席より離れたところで、傍に居るさくらに土方が問いかけた

 

「あ……はい…」

 

何とかそう絞り出す

本当は今でも、土方に聞こえてしまのではないかという位、心臓がどきどき言っている

恥ずかしさのあまり、顔がまだ熱い

 

だが、それを知る由の無い土方は、心配そうにさくらを見た

そして、すっとふいに手を伸ばすと、そっとさくらの頬に触れた

 

「顔もまだこんなに熱い…」

 

「あ………」

 

熱い頬に、土方のひんやりとした手が触れていると、不思議と落ち着いてきた

それに―――――

 

気持ちがいい………

 

その温度差が酷く心地よかった

ゆっくりと真紅の瞳を閉じる

 

「…さくら?」

 

土方がそう問いかけるが……

いつの間にかさくらは土方の肩にその身を置預けたまま、静かに寝息を立てていた

 

それを見た土方は、苦笑いも似た笑みを浮かべ

 

 

「朝から大変だったもんな、ゆっくり休めよ」

 

そう言って、さくらの美しい漆黒の髪を撫でたのだった――――……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

な、なんとか…形になったかな…?

リクとは少し違う気もするが…(自然観がないwww)

 

なにはともあれ、リクエストありがとうございました~~( *・ω・)*_ _))ペコリン

 

 

(※こちらは、リクでした)

 

2020/04/11