◆ 鶴丸国永&大倶利伽羅 「傾悋の咎と、戒めの匣」
―――本丸・竜胆
「は?」
審神者のその言葉に、大倶利伽羅が訝しげに声を上げた。すると、審神者は少し申し訳なさそうにその瞳を俯かせる。それから、言い辛そうにまた口を開いた。
「あの……、ですから政府の指示で、今回はりんさんと大倶利伽羅さんと一緒に来てほしい――と」
「……何故だ」
「それは――私達にもよく……」
そこまで言いかけて、審神者が鶴丸を見る。すると、見かねた鶴丸が口を開いた。
「理由は俺達も知らないんだ。仕方ないだろう? 政府が今回の定期報告は、その二振を連れて来いという指示を出してきただから」
「…………」
納得いかなそうに、大倶利伽羅が眉を寄せた。それはそうだろう。大概、今までは現世へ一緒に護衛として行く場合、鶴丸か近侍の山姥切国広のどちからだった。政府内部とは言え、何があるか分からない。だから、〝審神者〟は護衛として、刀剣男士を一振は最低連れていくことになっている。それが今回に限り、政府上層部が連れてくる刀剣男士を指定してきたのだ。
普通に考えれば、何かあるのでは? と、勘繰ってしまう。勿論、審神者も鶴丸も気付いているだろう。しかし、政府の指示は絶対だ。不審に思うが――行くしかないのだ。
「大倶利伽羅さんには、ご迷惑をお掛けして申し訳ないのですが……」
そう言って、審神者が大倶利伽羅に頭を下げようとした時だった。大倶利伽羅は「はぁ……」と溜息を洩らした後、
「……いい、頭は下げるな」
そう審神者を制すると、持っていた本を置いて立ち上がった。
「大倶利伽羅さん?」
「……行くんだろう? さっさと行って、とっとと帰るぞ」
それだけ言うと、すたすたと転移装置のある外へと向かい始めた。審神者と鶴丸は顔を見合わせた後、その後に続いたのだった。
**** ****
「は……?」
大倶利伽羅が本日二度目の訝しげな声を上げた。あの後——政府機関に着いた途端、いきなり何処かの部屋に通された。ソファがあり、机がある。窓は……ないが、天井が天窓になっており、空が一望できた。造りは至って普通の部屋なのだが……何故だろうか違和感を審神者は感じていた。
すると、官僚の一人だろうか。トレイにグラスを持って入ってきた。
「お疲れ様です。こちらをどうぞ」
そう言ってグラスを、審神者と二振の前に置く。珍しい――と、審神者は思った。普段、飲み物など出してきた事なかったのに、今日に限って出してきたからだ。もしかして、護衛を指定してきた事に関係あるのだろうかと、勘繰ってしまう。思わず、鶴丸を見ると、鶴丸も何か思う所があるのか、審神者を見て小さく頷いた。
――飲むな。と言っているのだ。
その方が、良さそうね……。
審神者はそう思うと、それを大倶利伽羅に伝えようと、そちらを見た時だった。
「大倶利伽羅さ――あ……」
飲まない様に言おうとした時だった。既に大倶利伽羅がグラスの半分以上開けていたのだ。思わず、言葉を失ってしまう。唖然としている審神者を見て、大倶利伽羅がふと、こちらを見た。
「……? なんだ」
「あ、いえ……」
言うべきか、言わざるべきか――。そう迷っていると、大倶利伽羅はそのまま一気にグラスの中身を飲み干してしまった。審神者が言葉を失っていると、審神者を挟んで反対に座っていた鶴丸が慌てて大倶利伽羅に声を掛けた。
「おい、大倶利伽羅!! 身体は平気か!?」
「は? 身体?」
意味が分からないという風に、大倶利伽羅が首を傾げる。その反応は至って〝普通〟に見えた。思わず、審神者は鶴丸と顔を見合わせた後、グラスを見た。
「…………」
単なる、お茶……なの?
勘ぐり過ぎなのだろうか? もう一度、大倶利伽羅の様子を見るが、彼は至って平然としていた。だが、やはり飲むのは躊躇われた。ちらりと後ろを見ると、先程グラスを持ってきた官僚が、まるでこちらを監視するかのように見ていた。飲まないと退出しない――とでもいう風に。
「あ、あの……」
審神者は思い切って、その官僚に話しかけた。
「本日の呼び出しは、どのようなご用件で?」
当たり障りのない、質問を投げかける。すると官僚はにっこりと微笑んで、
「じきに説明があります。今はそちらの飲み物でも飲んでお寛ぎ下さい」
「…………」
取り付く島もないとはこの事をいうのではないだろうか。どうあっても、向こうはこのグラスの中身を飲ませたいらしい。そうなると、中身がますます怪しかった。だが、飲まなければ招集の理由を言いそうになかった。
どう、したら――。
そう思っていた時だった、不意に鶴丸がとんっと肩を寄せてきた。
「……? りんさん?」
どうしたのかと、審神者が首を傾げた時だった。鶴丸が官僚に見えない様に、小さく「しっ」と人差し指を口に当てた。そして小声で、
「あいつは、どうやらこれを飲まないと出ていきそうにない」
「はい……。恐らくですが、招集の理由も飲まなければ聞き出せないかと……」
「だろうな。とりあえず、大倶利伽羅が未だ平気そうな顔をしてる所を見ると、これは即効性のものでは無いらしいな。まぁ、毒ではないだろうが」
「え……っ」
鶴丸の口から出た「毒」という言葉に、審神者が思わず声を上げそうになって、慌てて口を手で塞いだ。
「ど、毒って……」
「あくまでも可能性の一つだから、安心しろ。向こうも貴重な戦力の〝審神者〟を殺そうとはしないだろうが――何か入ってるのは間違いなさそうだな」
だが、大倶利伽羅は相変わらず平然としている時点で、即効性の毒の可能性は限りなく低い。そして、後ろの官僚も動こうとしない。このままでは埒が明かないのだ。
「どうするのですか?」
審神者がそう鶴丸に問うと、鶴丸は一度だけ、官僚と大倶利伽羅を見た後、
「今から俺はこれを飲む。きみは絶対に飲むな」
「で、ですが、飲むだなんて、りんさんが危険では――」
「まぁ、死にはしないだろう」
そう言うなり、鶴丸はテーブルの上のグラスを持った。そしてそのまま一気に煽る。
「りんさん……っ」
思わず、審神者が叫んだ。瞬間、がしゃーんと、鶴丸の持っていたグラスが落ちて割れる。だが鶴丸は素早く、審神者のグラスも取り上げると、一気に飲み干した。
「……っ、は……」
二杯分 全部飲み干した瞬間、鶴丸の身体がぐらりと揺れた。
「りんさん……っ!!」
慌てて審神者が手を伸ばす。流石に鶴丸の異変に気付いた大倶利伽羅が慌て立ち上がろうとした。
「国永……?! おい! お前ら、何……を――っ」
大倶利伽羅が、官僚に詰め寄ろうとした瞬間、彼も頭を押さえて身体をふら付かせた。
「大倶利伽羅さん……っ!?」
審神者が慌てて手を伸ばす。二振を支えながら、審神者が後ろにいる官僚を、きっと睨みつけた。
「何を……お二人に何を飲ませたのですか!?」
そう問い詰めるが、官僚は顔色一つ変えずに、ぱんぱんっと手を叩く。そして、ゆっくりとこちらに近づいてきた。審神者が警戒する様に、二振を庇う様に前に出ようとした。が――、不意に伸びてきた鶴丸の手が審神者の腕を掴んだ。
「りんさん……!?」
審神者が、はっとしてそちらを見る。鶴丸は苦しそうに口元を抑えたまま、掠れた声で、
「きみ、は……に、げろ……」
「そんな……っ。お二人を残しては行けません!!」
そう言って、すぐさま審神者は解毒出来ないか 祓詞を唱えようとした。刹那——、ぐいっと誰かに腕を引っ張られた。はっとして、そちらを見ると、あの官僚がいつの間にか傍まで来ていた。そしてくすっと官僚は笑うと、
「素晴らしい主従愛ですね。〝竜胆の審神者〟殿」
そう言うなり、審神者の腕をぐいっとそのまま引っ張り上げる。
「……っ、ぁ……」
ぎりっと捻り上げられて、審神者が思わず顔を顰めた。
「や、めろ……っ」
鶴丸が苦しそうに、その場に倒れたまま、官僚を止めようと手を伸ばす。だが、その手は届くことなく、宙を切った。すると、官僚は冷めた目で倒れている鶴丸と大倶利伽羅を見ると、ふっとその口元に笑みを浮かべた。
「貴方がたは、自分の心配をしていればいい――」
そう言うなり、ポケットから何かの液体の入った小瓶を取り出した。そして、審神者の目の前で揺らす。
「これが何かわかりますか? 竜胆殿。これは彼らが飲んだ薬の〝原液〟です。これを貴女に飲んでいただきたい」
「え……?」
審神者は官僚が何を言っているのか理解出来なかった。否、理解しようとしても、頭が付いていかなかった。すると、官僚は何でもない事の様に、
「大丈夫、死にはしません」
そう言うなり、ぐいっと審神者の顎を強制的に持ち上げ口を開けさせる。
「……っ」
審神者が、何をされるか察して慌てて抗おうとするが、官僚の力に適う訳もなく――官僚は、小瓶の蓋を器用に片手で開けると、そのまま審神者の口に流し込んだのだ。
「や、めろぉ……っ!!」
「おい……っ!!」
鶴丸と大倶利伽羅の声が木霊する。飲んではいけない――本能的な〝何か〟がそう囁く。だが、そんな意思とは反して、その液は審神者の口から入りそのまま体内へと流れていった。
「……っ、ぁ……」
瞬間、どくん……っと、身体の奥が悲鳴を上げるかの様に叫んだ。視界が揺れて、立っていられなくなる。全身が炎の様に熱くなり、疼いてくる。
な、に……?
思考が上手く回らない。意識を保っているのもやっとで、頭がくらくらする。
「きみ……っ」
鶴丸が今にも倒れそうな審神者に、手を伸ばしかける。審神者が潤んだ瞳で、鶴丸と大倶利伽羅の方を見た。
「り、んさ……。おお、くり、か、ら、さ……っ」
苦しい……。気がおかしくなりそう――。
「は、ぁ……っ」
呼吸が荒くなる。身体が火照り、自分の身体ではない様な錯覚さえ覚える。
「おい、俺達、に……何を、の、ませ――」
大倶利伽羅が声も耐え耐えながら、官僚を睨みつけた。すると、官僚はにっこりと微笑んで、何でもない事の様に。
「ご安心下さい、毒ではありませんよ。ちゃんと〝正しく処方〟すれば、その〝身体の異変〟も収まるでしょう」
「は……?」
意味が分からないという風に、大倶利伽羅が訝しげに声を荒げた。
「では、ご説明します。〝条件をクリアしないと出られない部屋〟という噂を耳にした事は?」
「え……?」
初めて聞くその単語に、審神者が朦朧とする意識の中で声を洩らす。審神者のその反応で、全てを悟ったのか……官僚は「ふむ」とだけ声を洩らすと、
「どうやら、ご存じないようですね。簡単ですよ。条件は様々、その時々で変わります。例えば、ゲームをクリアする。暗号を解くなどです。これらはすべて、〝審神者〟と〝刀剣男士〟の絆の深さを測る実験でもあります。そして今回は――」
不意に官僚はぴっと何かのボタンを押した。瞬間、壁が動き部屋の内装が一気に変わる。そこには、サイドテーブルに水差しとグラスの置かれた、大きな寝台があった。
「鶴丸国永。大倶利伽羅。お二振には、今からあちらのベッドで竜胆殿を抱いて頂きます」
「……え……?」
審神者は、自分の耳を疑った。この官僚は今、何と言っただろうか……。
今から、りんさんと大倶利伽羅さんに、抱かれ、る……?
「……っ」
瞬間、審神者が かぁっと顔を真っ赤に染めた。
「ま、待て……っ、何、ふざけた、事、を――っぁ……」
鶴丸がそう言い掛けた時だった。突然、苦しそうに胸元を抑えた。
「りんさ……っ」
「来るな……っ!!」
慌てて、審神者が鶴丸の傍に行こうとしたが、鶴丸が審神者を止める様に叫んだ。
「頼む……俺に、ちか、よ、るな……っ」
何かに必死で抗おうと、鶴丸が吐き捨てる様に叫ぶ。すると、その様子を見ていた官僚が、またにっこりと微笑む。
「楽になりたければ、彼女を抱きなさい、鶴丸国永。大倶利伽羅。そうすれば、楽になれますよ。そして、竜胆殿。原液を呑んだ貴女は、身体が疼いて仕方ない筈です。彼女を助けたくはないですか? 助けたくば、お抱きなさい。では、ご武運を――」
それだけ言うと、官僚はそのまま扉の方へと歩いて行った。そして、そのまま部屋を出ていく。がしゃーんと錠が閉まる音と同時に、すぅっとその扉が消えていったのだった――。
**** ****
どのくらい時間が経ったのだろうか……。時計の無いこの部屋で、時間を計る事は出来なかった。ただ分かったことは一つ――時間経過では、症状は緩和しないという事だけだった。審神者は離れた場所にいる、鶴丸と大倶利伽羅を見た。二振とも辛そうにしていた。
「…………」
お二人共、私の為に 私から距離を取り 触れないでいてくれている……。
きっと、触れたら最後、抑えられないからだろう。あの官僚に何を飲まされたのか……原液を飲まされた瞬間、気付いた。正確にはラベルを見た。あの小瓶のラベルには「アモルテンシア」と書かれていた。
それが何の名前なのかは、審神者には分からなかったが……鶴丸達の反応を見る限り、おそらく催淫薬か媚薬の系統なのだろう。所謂、性欲や強烈な執着心と愛着を引き起こす薬だ。
でも、そんなものをどうして……。
あの時の官僚の言葉を思い出す。あの人は何と言っていたか……。
『鶴丸国永。大倶利伽羅。お二振には、今からあちらのベッドで竜胆殿を抱いて頂きます』
確かに、あの官僚はそう言っていた。実験だとか、絆を確かめる為だとか言っていたが、正確な詳細は分からない。そして、彼らが自分を抱くことで何を実験させたいのかも分からない。それに……。
多分、何処かに監視モニターかカメラか……「実験」という限りあるのだろう。そんな状況下で見世物の様に抱かれるだなんて――。
「…………っ」
ぎゅっと、審神者が自身の両の手を掴んだ。だが、この部屋から出るには、二振に抱かれるしかないのだ。どう、すれば――。そう思った時だった。
「くっ……」
「はぁ……っ」
鶴丸と大倶利伽羅が、同時に苦しそうに呻いた。薬に抗おうと必死になっているのだ。だが、その努力は空しく……限界を迎えようとしていた。
「りんさん……っ、大倶利伽羅さん……っ!」
審神者が思わず声を上げた。その声に弾かれたように二振がこちらを向く。そして――瞬間、二振共何かに抗う事をやめたかの様に見えた。ゆらりとこちらを向いた二振の瞳の奥に宿った光に審神者は息を呑んだ。
二振の瞳が審神者を射抜いた瞬間――。
――逃げられない。
そう本能的に思った。だが、逃げる事なんて、到底出来ないだろう……。既に二振は限界を迎えているのだから……。
すっと鶴丸と大倶利伽羅が同時に立ち上がって近付いてきた。二振が一歩 近付く度に、どくんっと心臓の鼓動が速くなる。触れられただけで、どうなってしまうのだろう……そう考えただけで、身体が震えた。それは恐怖からのものなのか、期待からのものなのか、薬のせいで分からなかった。その時だった。
「なぁ、きみ」
鶴丸が苦しそうな呼吸のまま、審神者を呼んだ。審神者は肩で息をしながら、「はい……」と小さく返事をした。すると、鶴丸がふっと微笑むと、優しく彼女の頬を撫でた。
「俺達に抱かれるのは嫌か?」
「え……?」
その質問の意図が分からず、審神者は目を見開いた。すると、鶴丸が自虐気味に笑って、
「悪い。こんな風にきみを抱きたくないのに――同じ空間にいるだけで、抑えられそうに、ない、んだ……」
「りんさ……」
すると、今度は大倶利伽羅がぐっと眉間に皺を寄せながら、言葉を発した。
「怖いなら逃げろ……今ならまだ間に合う」
そう言ってくれたがその瞳に宿る 熱情は、もう抑えられないといった風だった。逃げる……彼らを置いて? そんな事、出来る筈がなかった。審神者がそう思った瞬間、鶴丸の手がそっと審神者の手を摑んだ。そして、その手を自分の方へと引き寄せると、その甲に口づけた。
その瞬間、審神者の身体がびくっと跳ねる。かぁっと、知らず顔が高揚していくのが分かった。戸惑いと羞恥が、一緒に襲ってくる。
「あ、あの……っ」
堪らず、審神者が言葉を発しようとした時だった。どくんっと、触れられた箇所が熱を帯びていくのが分かった。
「……ぁ……」
思わず洩らした声に、審神者が慌てて口を手で押さえる。身体の奥から、どんどんと熱がこみ上げてくる。同時に、今まで感じた事の無い感情が押し寄せてきた。
欲しい――と。この熱を鎮めてくれるのは、鶴丸と大倶利伽羅だけ……。その二振だけが欲しいと、本能が叫んでいた。
お二人が欲しい……。お二人の熱で 私をいっぱい満たしてほしい――そう身体が訴えている。それが、薬の所為だと分かっていても……抑え切れない何かがあった。
それと同時に、「違う」と訴える自分もいた。肯定と否定が相混じって、審神者の感情は、もう制御の域を超えていた。
「きみ……っ」
鶴丸が苦しそうに審神者の頬を撫でる。その手がいつもより熱い事に、審神者は気付いていた。もう限界だと、その手が訴えているのだ。
「ん……っ」
撫でられただけなのに、声が漏れてしまう。駄目だ――そう思った時にはもう遅かった。次の瞬間には、二振に抱き締められていた。鶴丸と大倶利伽羅に抱き締められている。そう実感した瞬間、ぞくっと身体が震えた。と同時に、どくんっと身体の奥の熱が増していくのを感じる。
「り、んさ……。おお、くりから……さ、ん……」
声に熱が籠もる。駄目だ、と分かっているのに、身体が言う事を聞かない。そして、熱はどんどんと膨れ上がっていく――。
審神者が熱に浮かされそうになっているのが分かっているのだろう。鶴丸が審神者の耳元で、辛そうに息を吐きながら囁いた。
今だけは――と。
鶴丸の声が耳に届いた瞬間だった。大倶利伽羅の手が伸びてきたかと思うと、そのままぐいっと腕を引っ張っられた。
「きゃっ……」
瞬間、大倶利伽羅の方に倒れるかと思ったが、そのまま鶴丸の方へ審神者の背中を押し出す様にして引き寄せてくると――そのまま鶴丸の腕の中に倒れ込む形になった。その拍子に、大倶利伽羅の手が審神者から離れる。だが、それは、一瞬だった――。
鶴丸の手が審神者の顎を摑み、ぐっと上を向かせると、そのまま自身の顔を近付けてきたのだ。
「りん――」
一瞬、「ごめん……」と聞こえた様な気がした。
だが、次の瞬間、噛みつく様な口付けをされたのだ。突然の事に、審神者の思考が追い付かない。だが、唇に触れた感触に、頭の奥がくらくらするのを感じた。それが鶴丸の唇だと分かると、身体が更に熱を帯びていくのが分かった。
その口付けは、とても荒々しくて……いつもの優しく触れ合う様なそれではなかった。でもそれは決して嫌ではなくて――寧ろ気持ちが良いと思ってしまった。その感情が薬の所為なのか何なのか、もう分からない。ただ今は、鶴丸の事しか考えられなかった――。
唇を割って、鶴丸の舌が口内へ入ってくる。その感触に、びくっと審神者の身体が跳ねた。怖い――反射的にそう思った。だが、次の瞬間には、鶴丸の舌に絡めとられていた。くちゅっという音が室内に響き渡る。
「……っ、ふ、ぁ……り、んさ……っ」
思わず、声が微かな隙間から漏れる。その間も、鶴丸は何度も角度を変えて口付けてきた。淫らな音が鼓膜を揺らすと、ぞくっと背筋に電流が走ったかの様に痺れていくのが分かった。その痺れはやがて全身を駆け巡る様にして伝わっていく――。
それは鶴丸も同じだった様で……「はぁ……っ」という吐息と共に唇が離れた。そして、そのまま鶴丸が審神者の首筋に顔を埋めてくる。熱い舌が首筋を這っていく感覚に、ぴくっと審神者の身体が跳ねた。その瞬間、またぞくぞくとした感覚が身体に走る。
だが、それは審神者だけではなかった様で……大倶利伽羅もまた鶴丸と同じ様に、審神者の首に唇を寄せてきたのだ。しかも、彼はただ優しく口付けるだけではなく、舌を這わせたかと思うと強く吸い付いてきたのだ。
「ぁ……ンンっ」
その刺激に更にぞくっとするのが分かった。
「……あんたの、ここは甘い、な」
熱い吐息が首元に掛かり、審神者がまた「んっ……」と声を漏らした。
二振から同時に責められて、審神者の身体の奥が甘く疼き出す。もっと――もっと欲しいと思ってしまう。
駄目だ、と分かっているのに……鶴丸から与えられる熱に翻弄されていく。そして、大倶利伽羅からも求められているという事実に、審神者の身体が更に熱を帯びていった。
「ぁ……、んっ、は、ぁ……」
堪らず声が洩れる。身体の芯が熱くなって、その熱を解放したくて仕方がなくなった。この熱が何なのか、分かっている筈なのに――分からない。いや、分かりたくなんてなかった。
駄目だと分かっているのに……私は彼らを求めようとしている……っ。そんな浅ましい想いに自分が支配されている事に戸惑いを覚えつつも、その想いは更に加速していった。
「はぁ……っ、あ……」
鶴丸と大倶利伽羅が、交互に審神者の肌に触れる。その感覚がもどかしくて仕方が無かった。早くもっと深い快楽が欲しい――そう思ってしまった瞬間だった。
「……っ」
鶴丸の指がそっと白衣の上から、胸に触れた。そして、ゆっくりと揉みしだかれると、びくんと審神者の身体が跳ねた。
「やぁっ……んっ」
いつもより高い声が出てしまった事に驚きつつも、止められない。その間も大倶利伽羅の手は、脇腹や腰を撫で回している。その度にぞくぞくとした感覚が身体を駆け巡っていった。
やがて鶴丸の指先が、審神者の胸元の合わせをずらした。そして、露になったその胸を優しく揉みしだく様にして触れてくる。
「あぁ……っ、ン……っ、ぁ……」
その瞬間、ぴりっとした刺激が身体を襲い、審神者は堪らず声を上げた。
「声……」
「え……?」
「可愛い……」
突然の鶴丸からの言葉に、審神者が かぁっと、頬を更に赤く染めた。すると、それに便乗するかの様に大倶利伽羅の手が、そっと審神者の頬に触れた。
「あんた……顔。真っ赤だな……」
そう言われたかと思うと、そのまま顔を引寄せられ唇を重ねられる。そして、今度は審神者の口内に大倶利伽羅の舌が入り込んできた。そのまま舌を絡め取られると、ぞくぞくとした感覚が全身を襲う。その感覚に翻弄される審神者を余所に、大倶利伽羅の舌が彼女のそれを絡めとり、吸い上げてくる。
「ん……ぁっ……」
その瞬間、審神者はぴくっと身体を大きく跳ねさせた。頭がぼうっとしていくのが分かる。
駄目——と思っているのに、身体が言う事を聞かない。それどころか、もっと――と、求めてしまっているのだ。薬の所為だと分かっていても……理性で抑える事が出来ない。
「は、ぁ……ンンっ、……おお、くりか、らさ……」
その甘さに溺れてしまいたくなる……だが、そんな審神者の気持ちを見透かすかの様に、大倶利伽羅が唇を離して耳元で囁いてきた。
「……俺達があんたを求めるのは、薬の所為だけじゃない」
「え……?」
思わず目を見開いていると、大倶利伽羅の顔が審神者の顔へと近付いてきた。そして再び耳元に唇を寄せてくると――そのまま耳たぶをぺろっと舐めてきた。
「あんたは……気付いてなかったかも知れないが……」
そして、そのまま唇を重ねてきたかと思うと、舌を絡め取られた。それは優しくて――とても甘い口付けだった。すると、今度は鶴丸の唇が重なり合い、貪る様に口内を暴かれていく。
「んっ、ぁ……ふ、ぁ……っ、りん、さ……ぁ……」
舌が絡み合う音が部屋に響く。その間も鶴丸の手が、審神者の胸を愛撫してくる。その刺激にまた審神者の身体がぴくっと跳ねた。だが、それでも二振は止める事無く、交互に口付けを続けた。
「は、ぁっ……ふぁっ……」
長い口付けの後——ようやく唇が離れたかと思うと、今度は鶴丸の指が審神者の首筋を伝い始める。そして鎖骨まで辿り着くと、そこから更に下へと進んでいき、今度は直接胸に触れてきたかと思うと、指先で先端に触れてきたのだ。
「あっ……」
その瞬間、またぴくんと身体が跳ねた。鶴丸は審神者の反応に気を良くしたのか、そのまま指先で摘まんできたかと思うと、くにくにと弄んできた。その刺激に思わず声が出そうになって、慌てて手で口を塞ぐと、鶴丸が耳元でふっと笑ったのが分かった。
「声、我慢しないでくれ。きみの声が聞きたい――」
「で、ですがっ……」
そう言われても……恥ずかしいものは恥ずかしかった。それに、ここは政府の――。そう思うと、どうしても、声を出す事が躊躇われた。
すると、審神者の手を鶴丸が掴むと、そのまま自身の口元へと持っていく。そして、そのまま指先をぺろりと舐めたのだ。
「んっ、ぁ……」
その瞬間、ぴりっとした感覚が身体を襲い、審神者がぴくっと震えた。だが、そんな審神者の気持ちを他所に、鶴丸はそのまま審神者の指に舌を這わせた。一本一本丁寧に、舌で舐めていく。その姿はどこか妖艶で……見ているだけでぞくっとした感覚が審神者を襲った。
大倶利伽羅もまた、そんな鶴丸の様子を見てか、今度は反対側の掌を舐めてきた。その感触にまた審神者がびくっとして身体を震わせる。だが、それでも二振は止める事無く、今度は手全体を口に含み始めた。そして、指だけではなく、手首や手の甲にまで舌を這わせてくる。
「……っ」
その刺激に思わず声を上げそうになるが――それをぐっと堪えると、代わりに身体が熱くなっていくのを感じた。そして、次第に身体の奥の熱が強くなっていき、審神者の思考を奪っていった。
「んんっ……」
また声が漏れそうになるが、それでも必死に我慢をする。だが、そんな審神者の様子に二振は更に欲情したらしく、それぞれ審神者の手を愛撫し続けた。
やがて二振の手が離れると、今度は首筋をなぞり始めた。そして鎖骨を通り過ぎ、胸元へと降りていく。
「は、ぁっ……」
その瞬間、またぞくぞくとした感覚が襲ってきたかと思うと――次の瞬間には、鶴丸の指が右側の胸に。そして、大倶利伽羅の指が反対側の胸に触れてきたかと思うと、そのまま指と指の間に挟んできた。そしてそのまま何度も動かしていく――。その度に身体がびくびくと反応してしまうのが分かった。
「……ぁっ、ん……あぁ……っ」
耐えきれず声が出る。恥ずかしさに審神者はぎゅっと目を閉じたが、鶴丸の指が胸の先端に触れると、また声が漏れてしまった。そして今度は鶴丸が審神者の胸の先端を口に含むと、舌で転がし始めた。同時に大倶利伽羅もまた反対の胸に舌を這わせる。
「ぁ……は、ぁ……ゃンんっ……あ、だ、だめっ……あぁんっ!」
両方の胸を同時に責められ、審神者は堪らず身体をのけ反らせた。違う刺激が双方から襲ってきて、頭がおかしくなりそうだった。だが、それでも二振の愛撫は止まらない――寧ろ激しさを増していった。
片方の手でもう片方の胸を弄びながら、舌や唇で乳首を愛撫していく――そうやって責め続けられるうちに、段々頭がぼうっとしてきて何も考えられなくなってくる。ただただ与えられる快楽に身をゆだねるしかない――そう思ってしまう程に……。
やがて審神者の胸を愛撫していた二振の手が、身体のラインをなぞり始めたかと思うと、ゆっくり腰紐を解かれ、下腹部へと降りていく。そして、鶴丸の手が太腿に触れたかと思うと、そのまま内側を撫でてきた。
「は、ぁ……ンンっ……」
その瞬間、ぞくっとした感覚が全身を駆け巡ったのが分かった。それと同時に身体が勝手に反応する――まるで早く触って欲しいと言わんばかりに……。だが、それでも理性が邪魔をするのか……審神者はぐっと唇を噛んで耐えていた。だが、そんな審神者の心情を察したのか、鶴丸の手が太腿の内側を優しく撫でてきた。
「ぁ……待っ……」
なんとか、その手を止めようと、審神者が鶴丸の手を抑えるが、力が上手く入らない。すると、鶴丸がそっと、耳元で囁くように、
「悪い、待ってやれそうにない――」
熱くそう言われたかと思うと、再び唇を重ねられた。そして、そのまま舌が入り込んでくる。審神者は、もう何が何だか分からなくなっていた。ただひたすらに与えられる快楽に身を委ねるしかなかった。
鶴丸の舌が口内を蹂躙していく。歯列をなぞられ、舌同士を絡ませ合う。互いの唾液が混じり合い、審神者の口から飲み込みきれないそれが零れ落ちた。それでも鶴丸は止める事をせず、何度も何度も深い口付けを繰り返してくる。
唇の端から零れる銀糸。もうどちらのものなのか分からない程、混ざり合ったそれが床に落ちる。それだけでも頭がくらくらしてくるというのに――今度は大倶利伽羅の指が下着越しに秘所に触れてきたのが分かった。
「んん……っ」
その瞬間、審神者の身体がびくっと大きく震えた。そして同時にまた熱が込み上げてくる。すると、大倶利伽羅の手が割れ目をなぞる様に上下に動いたのだ。
「ふ、ぁ……っ、ぁン……んっ」
立っていられなくなり、堪らず鶴丸にしがみ付いた。ぴちゃっと水音が耳に入ってくる。その音を聞いただけで、恥ずかしさに顔が赤くなるのが分かった。だが、それでも止める事が出来ない――寧ろもっと欲しいと思ってしまう。
「あぁ……っ、ん……」
大倶利伽羅の手が動く度に、審神者の身体がぴくんと跳ねる。それを楽しそうに鶴丸は見ていたかと思うと――再び深く口付けてきた。そして今度は布越しに触れていた手の動きが速くなる。その刺激に堪らず身体をのけ反らせると、大倶利伽羅の手が下着の中へと入り込んできたのが分かった。
「ぁ……っ、んん……、は、ぁ……あぁっ」
ぬるりとした感触——それと同時に甘い快感が襲ってくる。それが気持ち良くて……堪らなかった。だが、それでもまだ足りない。もっと欲しいと思ってしまう自分が居る事に審神者は気付いた。
あぁ……駄目なのに……っ。
頭では、分かっているのだ。こんな事、おかしいと――それなのに、止めるとこが出来ない。そんな審神者を知ってか知らでか、大倶利伽羅は止まらなかった。それどころか更に奥へと入り込み、指を動かし始めたのだ。その感覚に思わず声を上げそうになったが、鶴丸に口を塞がれている所為でそれも出来ず……ただされるがままになっていた。
暫くして、ようやく鶴丸が唇を離してくれたのだが――その時の表情はとても妖艶で、審神者は不覚にも見惚れてしまった。
すると、今度は大倶利伽羅の指が秘所の奥に入り込んできたのが分かった。
「ぁっ……、ま、待っ……ああっ!」
その瞬間、審神者は身体をのけ反らせたのだが、それが気に入ったのか、何度も何度も繰り返してきたのだ。その度に審神者の身体は反応してびくびくと跳ねてしまう――そして、それに伴って愛液が溢れ出していくのが分かると、大倶利伽羅は満足気に目を細めた。
「ふ……もうこんなになっているのか……」
「ぁっ、あ……そ、んな事っ……」
審神者が否定しようとすると、大倶利伽羅は更に指の動きを速めた。すると、それに合わせるようにして審神者の口から嬌声が上がる。
もう駄目——これ以上されたら……おかしくなる……。そう頭では思うものの、身体の方はもっと欲しいと訴えていて……どうしようもない。
「随分と、大倶利伽羅に感じているようだな」
その時だった。耳元で囁かれたかと思うと、鶴丸の指が下着にかかり、ゆっくりと中に侵入してきた。そして、そのまま秘所に指が触れてきたかと思うと、彼の指までも中に入ってきた。
「あぁ……っ、りん、さ……っ、だ、めぇ……っ」
審神者が必死に鶴丸にしがみ付きながら、その口から堪らず歓声を上げる。すると、鶴丸は嬉しそうな表情を浮かべ、耳元に唇を寄せてきたかと思うと、耳たぶを食んできたり首筋を舐めてきたりしてきたのだ。
片方は秘所の奥深くまで入り込み、もう片方は耳を甘噛みしながら、指を奥まで侵入させてくる――そんな二振の責めに耐えられる筈も無く……気が付けば絶頂を迎えてしまっていたのだった。
審神者の身体が痙攣したように小刻みに震える。そして、大倶利伽羅の指をきゅうっと締め付けてきた。その感触に大倶利伽羅がふっと微笑むと、ゆっくりと引き抜いていく。
だが、その間も審神者はずっとぴくぴくと震えており、絶頂の余韻に浸っていた――そんな審神者を見て、二振は満足そうに笑みを浮かべると……今度は鶴丸の指が奥深く入り込んできたのが分かった。
「……っ、ぁ……は、んン……っ、あぁ……っ」
その瞬間、審神者の身体がびくんと跳ねたかと思うと、また甘い声が上がる――その様子を見ていた鶴丸が耳元へ顔を寄せて来て囁いた。
「きみは、ここが弱いよな」
そう言いながら、鶴丸の指がある一点を擦り上げた。
「ああっ……!!」
その瞬間、審神者の身体が大きく跳ね上がる。すると今度は大倶利伽羅が胸の突起を甘噛みしてきた。
「ぁ……ああぁ……っ!」
その瞬間、頭の中で何かが弾けたような感じがしたかと思うと、全身がびくびくと痙攣したのが分かった。そしてそれと同時に審神者はぐったりとする。だがそれでも二振の動きは止まらず、今度は舌で舐めてきたり強く吸い上げたりしてきのだ。
「あぁっ、ぁ……や、やめっ……あぁんっ!」
あまりの快感に耐えられず審神者が声を上げると、今度は同時に両方の胸の先を摘まんできた。その瞬間、審神者の身体が大きく仰け反り――そのまま果ててしまったのだった。
はぁはぁ、と荒い呼吸を繰り返す審神者だったが、それでもまだ足りなかったのか――今度は大倶利伽羅が審神者の両足を掴み左右に大きく広げてきたかと思うと、その間に入ってきたのだ。そして鶴丸もまた同じように審神者の足を左右に広げさせると、その間に顔を埋めてきた。鶴丸の手が太腿の内側を撫でてくる。大倶利伽羅の手が腰を掴み、固定してくる。審神者が嫌な予感に身を震わせていると、次の瞬間には熱いものが秘所に触れているのが分かった。そしてそれが何なのか分かった瞬間、審神者は大きく目を見開き息を呑んだ。
だが、それに気付いた鶴丸が安心させるようにゆっくりと顔を近づけてくる。ちゅっと軽く口付けてきたかと思うと、舌で唇を割り開いてきた。それと同時に、そのまま腰をぐっと進めてきたのだ。
「あぁっ――!!」
熱いそれが侵入してくる感触に審神者は思わず悲鳴を上げた。だが、それも束の間の事で、直ぐに激しい律動が始まったのである。
「あっ! あぁ……っ!! ゃ……、だ、だめええっ、動い、ちゃ……っ、あぁ……っ!!」
膣壁を擦り上げられる感覚に、審神者の口から声にならない悲鳴が上がる。だが、それでも鶴丸は止めてくれなかった。それどころか更に奥へと入り込んでくる。そしてついに最奥まで到達したのか、今度はゆっくりと引き抜いていった。瞬間、また甘い声を上げてしまった。
だがそれも束の間の事で、今度は勢いよく突き上げられたかと思うと、そのまま激しく抽挿を繰り返すようになったのだ。審神者の身体が何度も小刻みに震えると、そのまま絶頂を迎えてしまった。
だが、それでも鶴丸の動きが止まる事はない。それどころかどんどん激しさを増していくばかりだった。
「あっ、あぁ……っ、は、あンン……っ!!」
何度も何度も突き上げられ、その度に審神者の身体が大きく跳ね上がる。だが、それでもまだ足りないというように鶴丸の動きは止まらない。それどころか更に速くなっていく一方だった。そしてとうとう限界に達したのか、大倶利伽羅もまた動き出したかと思うと、審神者の足を抱え上げるようにして持ち上げてくる。そしてそのまま上から叩きつけるようにして挿入してきたのだ。
「あぁ……っ!! や……は、ぁ……っ、あ――っ!!」
審神者の身体が弓なりに反る。もはや呼吸すらままならない状態だった。だがそれでも二振の動きが止まる事はない。寧ろ激しさを増すばかりだった。
鶴丸と大倶利伽羅。二振のそれがそれぞれ違う動きで審神者を責め立ててくるものだから堪らない。気が狂いそうだった。
だが、それでもまだ足りないという様に鶴丸も大倶利伽羅も、腰の動きを速めてきたものだから堪らない。——もう何も考えられなくなってくる程だった。そしてそのまま絶頂を迎えたかと思うと、一気に引き抜かれ、熱い飛沫が身体にかかるのを感じた。
それから暫くして、漸く解放された頃には既に意識を飛ばしてしまっていたのか、審神者の記憶はそこで途切れたのだった。
「ん……」
審神者が、ぼんやりとする意識の中、目を覚ますと、そこはあの部屋の寝台だった。
「わ、たし……」
薬の後遺症か、頭がはっきりしない。だが、起き上がろうとした瞬間、身体を襲った痛みで現実を思い知らされる事になった。
あ、私……。
そうだ、鶴丸と大倶利伽羅はどうしたのだろうか? 無事なのか。そう思って、慌てて辺りを見回すと――。
「あ……」
そこには、消えた筈の扉があった。それはつまり、結局 政府の思惑通りになったという事を示していた。その時だった。
「きみ……っ。目が覚めたんだな」
鶴丸の声にはっと顔を上げると、直ぐ傍に鶴丸がいた。
「りんさん……」
鶴丸の無事な姿に、ほっとする。よく見ると、寝台を挟んだ反対側に大倶利伽羅もいた。
「良かった、お二人共。薬はもう抜けたんですね」
「ああ、きみのお陰でな」
そう言いながら、鶴丸が審神者の頬を撫でる。なんだが、それがむず痒くて、審神者の頬がほのかに朱に染まった。すると、鶴丸はくすっと笑って、サイドテーブルにある水差しからグラスに水を注ぐと、すっと審神者に差し出した。
「普通の水だ。喉、辛いだろう?」
「あ……」
すると、大倶利伽羅が、反対側に座ると、
「飲んでおけ。あんたはあれだけ声を出したんだ。喉がからからだろう」
「そ、それは……」
事実だが、事実をはっきりと言われると、恥ずかしい。審神者が真っ赤になりながら、鶴丸からグラスを受け取ろうとした時だった。手に力が入らなくて、グラスがするっと手から落ちた。
「おっと」
瞬間、鶴丸がそのグラスを支える。
「どうした? 手の感覚がまだおかしいのか?」
「す、すみません……」
なんだか、申し訳なくて審神者が謝ると、鶴丸は何でもない事の様に小さくかぶりを振る。
「気にするな。きみは何も悪くない」
そう言ったかと思うと、何故か鶴丸がグラスの水を一気に口に含んだ。一瞬、審神者が「え?」と、首を捻った瞬間、突然 鶴丸の手が審神者の頭の後ろに回された。
「あ、あの……っ」
「ほら、こっち向け」
そう言うなり、そのままぐいっと頭を引き寄せられたかと思うと――唇を重ねられた。
「……っ」
突然の口付けに、審神者が動揺の色を示す。が、その瞬間 何かが喉の中に入ってきた。
「ん、っ……」
思わず声が漏れる。どうやら鶴丸が口に含んだ水を口移しで飲ませてくれた様だった。だが、飲みきれなかった水が唇から零れると、それを拭うかの様に鶴丸の舌が絡め取られてしまった。そしてそのまま深い口付けへと変わっていく。
「んっ……ぁ……っ、は、ぁ……り、ん――っ」
そうして唇が離れる頃にはすっかり息が上がってしまっていた。それに気付いたのか、鶴丸がくすっと笑ったのが分かった。
「……ぁ……っ」
なんだか恥ずかしくなって俯いていると、
「国永、貸せ。そんなんじゃ、飲めてないだろうが」
大倶利伽羅がそう言ったかと思うと、今度は大倶利伽羅が審神者の顎に手を添えてきた。そしてそのまま上向かせると、鶴丸と同様に水を口移しで飲ませてきたのだ。
その後も二振は何度も口移しで水を飲ませてくれたのだが――それは全て水だけではなかったという事に、審神者はすぐに気付いてしまった。だがそれを咎める余裕すら与えて貰えないまま、何度も口移しで水と唾液を飲まされ続けた。
審神者には、もう抵抗する力など残っておらず、漸く解放された時には、鶴丸と大倶利伽羅に寄りかかる形でぐったりしていたのだった。そんな審神者を、二つの優しげな金色の瞳が見つめていた。背に腕を回され抱き締められると、ゆっくりと背を撫でられる。
「もう少し休んでていいぞ」
「……あんたは、休息が必要だ」
二振からの優しい言葉に、審神者は無意識に小さく頷いた。そして、そのまま眠り淵へとゆっくりと落ちていったのだった。
通称:「出られない部屋」です~
※こちらは、2024年発行予定の鶴さにサンド本「蒼花竜胆 ~雪夜の曄は白き結晶~」の書き下ろし先行公開分です
2023.10.21