華ノ嘔戀 ~神漣奇譚~

 

 弐ノ章 出陣 30

 

 

 

「んっ・・・・・・ぁ、り、りんさ・・・・・・」

 

話をしていたのにいつの間にこんな事になったのか・・・・・・

何故か、沙紀は鶴丸に壁に押し倒される形で彼からの口付けを受けていた

 

「沙紀・・・・・・」

 

甘く名を囁かれて、沙紀がかぁ・・・っと、微かに頬を朱に染める

 

「・・・・・・んん、待っ・・・・は、なし、を――――」

 

しなければならないのに

沙紀がそう思っていると、鶴丸がくすっと笑みを浮かべながら

 

「ちゃんと聞いてるから、話していいぞ」

 

そう言って、何度も口付けをしてくる鶴丸に沙紀が慌てて手で鶴丸を押し返そうとするが――――

力で鶴丸に敵う訳もなく

結局なし崩しのまま、彼からの口付けを受け入れていた

 

「んん・・・っ、は、ぁ・・・・・・ン・・・り、んさ・・・・・・」

 

舌が絡まり、熱帯びてくる

頭が朦朧としてきて、このまま彼のものになってしまうのでは――――

などと、錯覚しそうになる

 

「は、ぁ・・・・っ、ん・・・・・・」

 

鶴丸からの求められているような口付けが、沙紀の思考を徐々に麻痺させていった

 

「沙紀――――・・・・・悪い、そんな顔されたら止めてやれない」

 

「え・・・・・・? あっ・・・・んん」

 

いつの間に回されたのか、鶴丸の手が沙紀の腰をぐいっと抱き寄せた

 

「あ、だ、だめっ・・・・・・!」

 

沙紀が慌てて、抵抗しようと鶴丸の手を抑えた

だが、鶴丸にはお見通しだったのか

 

「何か駄目なんだ? 沙紀・・・・・・」

 

そう言って、再び沙紀の唇を塞いだ

 

「ん、ぁ・・・・・ま、待っ・・・・・・」

 

「待たない」

 

そう言っている間にも、ぐいっと更に抱き腰を抱き寄せられる

そして、首、鎖骨、胸元と どんどん鶴丸の口付けが沙紀の白い肌に赤い花を残していく

なんとか、押さえていた白衣が気付けば緩められ、その隙間からするっと鶴丸の唇が沙紀の柔肌に直に触れてきた

 

「・・・・あっ・・・・・・、り、りんさ――――」

 

「言ったろ? 待たないって」

 

「そ、そうではなくて――――あっ・・・・・」

 

沙紀が慌ててはだけられた白衣を抑えようとするが、その手はあっさり鶴丸の手に遮られた

 

「ほら、沙紀・・・・・・こっち向け」

 

「え?」

 

不意に、言われて顔を上げた瞬間――――そのまま、ぐいっと引き寄せられたかと思うと、鶴丸が沙紀の耳たぶを甘噛みしてきた

 

「んっ・・・・・・」

 

ぴくんっと、沙紀が肩を震わす

 

「あ・・・・、り、りんさ・・・・・・んっ」

 

鶴丸の唇が沙紀の首元に触れた

そのまま跡を残すかのように強く吸われる

 

「きみが、居なくなったと知った時、俺がどれだけ不安だったか分かるか? もし、一生逢えなかったら――――俺はきっと一時でも傍を離れた俺を許せなかったと思う。 だから、確かめたいんだ――――今、この俺の腕の中にいるのは本物の沙紀だという事を―――――」

 

「りんさ、ん・・・・・・」

 

そう言われると、抵抗出来ない

少なくとも、自分が彼の不安を作ってしまったのだとしたら・・・・・・

きっと、沙紀自身も己が許せない

 

彼が・・・・・・鶴丸が望むのならば、なんでもしてあげたい

けれど――――急にこんな風に障られると、どうしても緊張から身体が頑なってしまう

 

「で? 話って? 話せよ・・・・・・聞いてやるから・・・」

 

そう言われるが・・・・・・

こんな状態でまともに話を出来るわけがなかった

 

「だ、だったら、少し待ってくだ―――あっ・・・・・・ンン・・・っ」

 

不意に、鶴丸の手が後ろから伸びてきたかと思うと、沙紀のかろうじて白衣で隠れていた胸元に触れてきた

そのまま胸を優しく揉まれると、沙紀がぴくんっと身体を震わせた

 

「あ、ああ・・・・・・ま、待っ・・・・・・ん、ぁ・・・・あ・・・・・・」

 

ぞくぞくと、全身で感じる

ただ胸を攻められているだけなのに、まるで身体の全てを触られている様な感覚に襲われる

 

「沙紀、こっち向け」

 

「え・・・・・・? あ、んん・・・・っ」

 

鶴丸の声のした方を見た瞬間、そのまま口付けが降り注いできた

 

「は、ぁ・・・・・、りん、さ・・・・・・ンン」

 

何度も何度も角度を変えて繰り返される口付けに、感覚も思考も麻痺していく

その間も鶴丸の手が胸に触れられていて、それが余計に過敏に感じてしまう

 

「沙紀・・・・・可愛い」

 

「な、なに、言って・・・・・・」

 

“可愛い”のひと言で、沙紀がかぁ・・・・っと、ますます顔を赤くした

それが余計に可愛く見えるのか、鶴丸が嬉しそうに笑う

 

「・・・・・・・・っ」

 

そんな風に笑うのは、反則だ

そんな顔見せられたら、許してしまいたくなる

 

「どうした?」

 

「あ、あの・・・・・・」

 

沙紀のその反応で気付いたのか、鶴丸が突然顔を沙紀の肩に突っ伏して自身の肩を震わした

突然の、鶴丸のそれに沙紀がその躑躅色の瞳を瞬かせる

 

「りんさん? あの・・・どうし――――・・・・・・」

 

「いや、沙紀お前。 やっぱ、可愛すぎ」

 

「え、ええ!?」

 

「可愛すぎて――――」

 

するっと、鶴丸の手が後ろから沙紀の顎に触れたかと思うと、

そのままぐいっと持ち上げられた

 

「あ・・・・・・」

 

「もう――――抑えてやれそうにない」

 

そう言って、沙紀の唇を奪うかのように鶴丸からの口付けが降ってくる

 

「り、りん、さ・・・・・・ン・・っ」

 

鶴丸の舌が沙紀の舌に絡まる様に入ってくる

 

「ふ、ぁ・・・・・・っ、んん・・・・」

 

どんどん攻めてくる鶴丸の口付けに、沙紀がどうしていいのか分からず

それでも、なんとか応え様としているのが感じられ、鶴丸が気分を良くしたのか

 

「馬鹿・・・・そんな顔されたら、本当に抑えられないぞ?」

 

たまらず、沙紀が鶴丸の袖を掴む

そんな仕草すら可愛く思えてしまう自分は、もう末期だなっと鶴丸は思った

 

それぐらい、彼女に――――沙紀に溺れてる

そんな彼女が愛おしくてたまらない

 

「沙紀――――・・・・・・」

 

鶴丸に甘く名を呼ばれ、沙紀がちょこんっと小さく小首を傾げる

やっぱり末期かもしれないと、鶴丸は思った

 

でも――――

そんな彼女だからこそ、惹かれた

ひとの身体を得て、初めて“欲しい”と思えた

“護ってやりたい”と、“傍にいたい”と、彼女だからそう思えたんだ

 

確かに、一時期は沙紀の為に身を引こうと思った

それが、彼女の為だと思ったし

所詮自分はひとの形を模しただけの刀だ

だから、彼女には不釣り合いだと思おうとした

 

影から見護るだけでいいと――――・・・・・・

彼女が・・・・・・沙紀が“見知らぬ誰か”と、“人間”と、一緒に幸せになってくれればそれでよいと――――・・・・・・

 

でも、現実は違った

沙紀が誰かのものになるなんて耐えられそうになかった

だから、距離を置いた

二度と逢えなくても、それがいいと思った

 

なのに――――・・・・・・

彼女は俺を・・・・・・刀である俺を選んでくれた

 

傍にいて欲しいと

他の誰でもない

刀とかひととか関係なく、俺と一緒に居たいと言ってくれた

 

嬉しかった

ああ、彼女の・・・・・・沙紀の傍にいて良いのだと

そう思えた

それが、たまらなく嬉しかった

 

だから――――・・・・・・

 

不意に、鶴丸がぎゅっと沙紀を抱きしめた

 

「りん、さ、ん・・・・・・?」

 

突然の鶴丸からの抱擁に、沙紀がその躑躅色の瞳を瞬かせる

 

「・・・・・・、いや、あの時・・・きみが俺を選んでくれて嬉しかった。 だから――――ありがとう、な」

 

「りんさん・・・・・・」

 

いつの事を言われているのか気付き、沙紀がすっと振り返ると鶴丸の頬をその両の手で優しく包み込んだ

そして、そっと自分から口付ける

 

「沙紀・・・・・・?」

 

沙紀からの口付けに、鶴丸が驚いた様にその金の瞳を見開いた

すると、沙紀はにっこりと微笑み

 

「・・・・・・また同じような事があったとしても、私の気持ちはかわりません。 何十回でも何百回でも言います」 

 

「“私はりんさんと居られればそれで充分なのです。 付喪神とか人じゃないとか関係ない。 私の目の前にいる、りんさんが……鶴丸国永が傍に居てさえくれれば、私は…それ以上は望みません”」

 

「沙紀・・・・・・」

 

「“私の目の前にいるのは、鶴丸国永という男の“人”です。 “モノ”ではありません。 そして、ずっと傍に居て下さったのも―――貴方です”」

 

「“りんさん・・・・・・傍にいさせて? 離れるなんて言わないで・・・・・・お願いです”」

 

「・・・・・・・・・・っ」

 

涙が零れた

沙紀が・・・・・・

あの時に言ってくれた言葉――――・・・・・・

 

あれがどれほど嬉しかったか

どれほど、心強かったか――――

 

「・・・・・・泣かないでください」

 

沙紀が、そっと鶴丸の涙を袖で拭う

自分が涙を流した時はいつも、鶴丸が拭ってくれた

だから――――・・・・・・

 

彼が涙を流すなら、自分が拭う番だと思った

 

「沙紀・・・・・・沙紀が俺を本刀から“顕現させた人”でよかった・・・・・・」

 

他の誰でもない――――・・・・・・

彼女が、この“鶴丸国永”をひととして顕現させた人物でよかったと

 

そう思えた

きっと、他の奴に顕現させられていたら――――

こんな気持ちにはならなかたかもしれない

 

彼女だったからこそ、こんな気持ちになれたのだと

そう思った

 

 

 

 

 

 

 

 

***  ***

 

 

 

 

 

 

 

 

「本霊?」

 

唐突に出された言葉に、沙紀は首を傾げた

すると、鶴丸は沙紀を抱きしめたまま「ああ」と答えた

 

「本当なら“審神者”就任後に“華号”を受けて初めて“審神者”は“審神者”としての力を行使できるんだ」

 

「“華号”・・・・・・」

 

それは、本来 “審神者”就任と同時に、その“本丸”と“審神者”に与えられる“号”=名前である

基本、政府内では“審神者”は“華号”で呼ばれる

そして重要なのは、“華号”授与されて初めて“審神者”は“審神者”としての力を行使することが出来る様になる

つまりは、刀剣の付喪神を顕現させる事ができる様になるのだ

 

だが――――・・・・・・

 

「私にはその“華号”は――――・・・・・・」

 

沙紀の“華号”授与式は意図的に先延ばしされ、未だ授与されていなかった

にもかかわらず、沙紀は既に刀剣の顕現を行っていたのだ

 

「普通なら不可能。 でも、きみは――――」

 

そう言って鶴丸がそっと沙紀の髪を撫でた

 

「きみは、俺を本刀から7年前に顕現させた。 僅か十歳の少女だったのにだ。 それがどんなに凄い事かわかるか?」

 

「それは・・・・・」

 

きっと、それは“審神者”の力ではなく、“神凪”としての力だ

元々、“審神者”が刀剣を顕現させる法則は、神降の簡略版だ

そして、“神凪”とは、神の依り代

または神の憑依、または神との交信をする行為や、その役割を務める人を表す

つまりは、“神凪”は神降を出来る巫女を指すのだ

そして、沙紀は室町時代以降現れなかった“神凪”の号を引き継ぐ存在であり

当代・第185代“神凪”

それが、沙紀だ

 

「ま、そのおかげで俺は沙紀に逢えたんだけどな」

 

「りんさん・・・・・・」

 

「俺だけじゃない、国広も、光忠も、大倶利伽羅も、一期もそうだ。 皆、本刀から顕現してる。 あ~俺が何を言いたいかというと、俺達本刀から顕現したやつらは“本霊”なんだ」

 

鶴丸の話だとこうだ

“本霊”とは大元となる付喪神の事で、本刀より顕現するという

逆に、一般的に“審神者”が顕現させているのは“分霊”という、“本霊”の分身なのだという

 

「普通は、“華号”授与の後に用意された刀身に神降をするんだ。 そして、その刀剣に“分霊”が宿って形となる。 俺達の“本丸”だと長谷部とかそうだろ?」

 

確かに、長谷部は用意されていた刀身に降下させた

薬研や、膝丸、髭切もそうだ

あらかじめ用意された刀身に降下させてある

 

「“本霊”は1体しかいなが、“分霊”はそれこそ“審神者”の数ほどいると思ったほうがいい。 そして、個体差もあるから、同じ“鶴丸国永”でも、皆違う」

 

「・・・・・・・・・」

 

「その・・・・・・」

 

どこから尋ねてよいものか・・・・・・

 

「“本霊”だと何か不都合でもあるのでしょうか? 本当なら皆様は、その・・・・・・“分霊”なのでしょう?」

 

「ん? いや、何がどう変わるって訳でもないが――――俺達“本霊”の場合は、本刀から顕現しているだろう? だから、それが折れたりしたら――――・・・・・・」

 

「・・・・・・それは、色々問題になりますね」

 

鶴丸国永と一期一振は皇室所持の御物

山姥切国広は重要文化財

大倶利伽羅は重要美術品

燭台切光忠は、未鑑定の為不明だが 焼失されたと思われていたものをわざわざ沙紀に“復活”までさせたという事は、かなりの重要品なのだろう

 

もし、それが折れでもしたら――――・・・・・・

考えただけで、恐ろしい

 

沙紀が難しそうに考え込んでしまったのを見て、鶴丸はふっと笑みを浮かべ

 

「大丈夫だ、沙紀。 俺は折れる気なんてさらさらないし――――勿論、他の奴らもだ。 だから安心しろ、な?」

 

そう言って、ぽんぽんっと沙紀の頭を撫でた

 

「さて、きみの話だと“一期一振”と“大包平”をその、明智光秀が持ってたという事だったな?」

 

「はい・・・・・・それが、刀だけなのか、それとも本人達なのかはわかりませんが――――・・・・・・」

 

一瞬だったので、そこまで判断出来なかった

すると、すっと鶴丸の手が伸びてきて、ちゅっと音がするような口付けをしてきた

 

「り、りんさ――――」

 

「本当はもっと沙紀に触れていたいが――――・・・・・・」

 

「こ、こんな時に何を――――」

 

「分かってる、そろそろ真面目にこの空間の主・・・・・・に会いに行かないとな。 ―――――こんのすけ、解析は終わったか?」

 

鶴丸がそう声を掛けると、部屋の片隅で解析をしていたこんのすけが、「はい!」と答えた

鶴丸が沙紀の手を取り、こんのすけの方へ行く

 

すると、こんのすけは何枚ものパネルと器用にささっと、動かしながら――――・・・・・・

 

「おそらく、鶴丸殿の推測で間違いないかと――――この迷宮の主は、その“明智光秀”です」

 

「・・・・・・人間か?」

 

「わかりません。 実際に会ってみないと――――。 後、主さまの仰られていた一期一振殿と大包平殿の所在もこの迷宮内にいらっしゃるようです。 何処かまでは特定できませんが――――・・・・・・合流するならば、早めが良いかと」

 

鶴丸はMAPを見ながら少し考え

 

「そうだな・・・・・・もしかしたら、その“明智光秀”を倒した瞬間、この世界は崩壊を始めるかもしれないからな。 直ぐに時空転移しないといけない状態になる筈だ。 まぁ・・・・・・」

 

鶴丸の顔が見えない敵を威嚇する様に鋭くなる

 

「沙紀を明智家の姫にして細川家に嫁がせるとか馬鹿な事をしようとしたんだ。 お仕置きしてやらないとなぁ・・・・・・」

 

そう言って、にやりと笑う鶴丸の表情は今までにないくらい怒りに満ちていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ****    ****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――― 天正7年7月・京 三日月宗近部隊

 

翌日――――・・・・・・

三日月は昨日と同じ様に茶屋の縁台に腰かけて団子と抹茶に舌を包んでいた

燭台切光忠はというと、今日は大倶利伽羅に付いて行くと言って沙紀を探しに行ってしまった

 

三日月は、それも良しと思い、普通に許可をだした

否、むしろ好都合だった

 

京の都は今日も祇園祭で賑わっていた

そんな時だった、少し先の方からざわざわと俄かに騒がしい声が聞こえてきた

そちらを見ると――――

三日月は微かにその口元に笑みを浮かべた

 

「・・・・・・やっとか、待った甲斐・・・・・があったというものだ」

 

 

 

 “やすらはで 寝なましものを さ夜ふけて

 

          かたぶくまでの 月を見しかな”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 続

 

 

実はこの話、本編用ではありませんでした

しかし・・・・・・なぜか、流れが途中で変わってしまって

軌道修正も出来そうになっかったので、中途半端にR15になるくらいなら(18は続行不可)

もう、本編に折り込ませるか・・・・・・となった次第の結果でーす笑

 

 

2022.11.20