華ノ嘔戀 外界ノ章
       ~紅姫竜胆編~

 

◆ 大倶利伽羅 「祈りと、誓いの言霊」

    (「華ノ嘔戀 外界ノ章 白花藤譚」より)

 

 

――――“本丸・白花藤しらふじ”・夜

 

 

それは、突然だった

その日、“白花藤の審神者”の藤雪つばさは 歌仙兼定や、燭台切光忠と一緒に夕飯の支度をしていた

 

そんな時、本丸の出入り口の方が俄かに騒がしくなる

 

「・・・・・・・・・・・・?」

 

つばさが首を傾げながらも、さして気にした様子もなくエンドウ豆のさやむきを黙々としていた

おそらく、出陣していた部隊が帰って来ただけだろうと――――その時は思っていた

 

つばさ自身が余り感情を表に出すタイプではなく

どちらかと言えば寡黙――――というか、あまり物事に関心を示す方ではなかった

 

だから、この時も未だ騒がしい出入り口の方など気にも留めていなかった

そんなつばさなので、燭台切も歌仙も気にはなったが、お互いに顔を見合わせては手を動かしてきた

 

そう――――獅子王が駆け込んでくるまでは

 

 

 

「――――主!!! 大変だ!!」

 

 

 

厨に入ってくるなり、鵺を連れている獅子王が叫んだ

一瞬、何事なのかと燭台切と歌仙がそちらを見る

だが、つばさは振り返る事すらなく

黙々とエンドウ豆のさやむきを続けていた

そして、小さな声で

 

「・・・・・・獅子王、出陣から帰った報告なら後で――――」

 

「そんな悠長な事言てる場合じゃないんだよ!!」

 

き―――んと、耳が痛くなるぐらい大きな声で叫ばれて、つばさが思わず耳を塞ごうとする

 

「ちょっ、落ち着いて! 獅子王君、一体どうしたんだい?」

 

燭台切が慌てて間に入る

歌仙も包丁を置くと

 

「獅子王、なにがあったんだい?」

 

そう、落ち着かせる様に優しく尋ねるが――――

獅子王はそんな余裕など持ち合わせていなかった

 

「大倶利伽羅が・・・・・・っ!!」

 

ぴくっと、つばさの手が止まる

そしてそこで初めてゆっくりと振り返った

 

「・・・・・・伽羅?」

 

「ちょ、ちょっと待って! 伽羅ちゃんがどうしたの!?」

 

慌てたのは、つばさではなく燭台切だった

 

「それが――――っ!」

 

瞬間、がたんっ! と、音を立ててつばさが立ち上がった

その顔は微かに青ざめていた

 

「あ! ちょっと、つばさ君!!!」

 

燭台切の制止も聞かず、気が付けば つばさは厨を飛び出していた

そのまま角を曲がり、本丸の出入り口の方へと向かう

 

瞬間――――

視界に入ったのは、鶴丸に抱えられていた傷だらけの大倶利伽羅の姿だった

鶴丸の白い衣は、大倶利伽羅の血で赤く染まっていて――――

 

薬研が素早く、大倶利伽羅を部屋へ運ぶように指示いている

 

「・・・・・・・・・・・・っ」

 

なにが、あったのか・・・・・・

 

つばさが真っ青にになって、口元を押さえてよろめく

 

「か、ら・・・・・・?」

 

声が震える

 

「一体何があったんだい!!?」

 

駆け寄っていた内の一人、石切丸がそう叫ぶ

 

「それが――――帰りに、検非違使に遭遇して・・・・・・大倶利伽羅が一人で――――」

 

「話は後だ!! 先に早く大倶利伽羅を部屋へ運んでくれ!!」

 

薬研がそう叫ぶ

素早く、日本号や石切丸などが鶴丸から大倶利伽羅を預かると、ばたばたと走っていく

 

つばさは――――

動けないまま、ただその光景を呆然と見ていた

 

すると、それに気づいた鶴丸がつばさの傍にやってきた

 

「つばさ・・・・・・すまん、俺がいたのに――――」

 

そう謝られて、つばさが「あ、いえ・・・・・・」と、小さな声で呟いた

ショックが大きかったか、未だ彼女は放心したままだった

 

「・・・・・・つばさ・・・」

 

名を呼ばれても、彼女は反応しなかった

否、出来なかった

 

なに、が、起きていた、のか・・・・・・

 

頭の整理が上手くまとまらない

その時だった――――不意に、鶴丸の手が伸びてきたかと思うと、そのまま片腕で抱きしめられた

 

「・・・・・・っ、つる、ま、る・・・・・・?」

 

「大倶利伽羅は大丈夫だ、だから・・・・・・そんな顔するな」

 

そう言って、優しく背中をぽんぽんっと叩かれた

 

「・・・・・・・・う、ん・・・」

 

つばさはそうとしか、答えられなかった

未だ現実が、受け入れ難かったのか・・・・・・つばさは、その場から動けなかった

 

「つばさ・・・・・・」

 

その時だった、不意に片腕で抱きしめていた鶴丸がつばさの頭をぐいっと引き寄せると

その髪に口付けた

 

「・・・・・・・・・っ、な、何!?」

 

突然の事に、つばさが反射的にはっと我に返る

すると、鶴丸は優しく微笑みながら

 

「・・・・・・落ち着いたか?」

 

「え・・・・・・?」

 

「身体、震えてる」

 

「え、あ・・・・・・」

 

言われて気付いた

つばさの身体は震えていた

 

「きみがしっかりしないでどうする。 きみは“審神者”だろう?」

 

「・・・・・・あ・・・」

 

そうだ

放心してる場合じゃない

 

「ごめん、鶴丸。 私――――あ、でも鶴丸も怪我を――――」

 

そうつばさが言い掛けたが、鶴丸は何でもない事の様に

 

「ああ、これは殆ど大倶利伽羅の血だ、俺のじゃない」

 

そう言って、両手を広げてみせた

その言葉に、つばさが少しほっとする

 

その時だった

 

「主!! 直ぐ手入部屋に―――――」

 

後藤が呼びに来た

 

「あ・・・・・・」

 

つばさが一瞬、鶴丸を見る

すると、鶴丸は微かに笑って

 

「・・・・・・早く行ってやれ」

 

「・・・・・・っ、ごめん・・・・・」

 

それだけ言うと、バタバタと後藤の後について走っていく

その様子を、鶴丸はただし静かに見守っていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

部屋の中は騒然としていた

 

「乱、お湯はまだか!!」

 

「今、やってる――――!」

 

「厚は、清潔なタオルを――――」

 

「わかった!!」

 

寝かされた大倶利伽羅の治療をしながら、薬研が指示を飛ばしていた

ばたばたと、短刀達が走っている

 

「薬研! お湯―――、あ! あるじさん!!」

 

つばさに気付いたのか、乱が慌てて叫ぶ

 

「薬研―――、あるじさん来たよ!!」

 

言われて薬研がこちらを見る

 

「大将!!」

 

「・・・・・・伽羅は――――っ」

 

そう言い掛けて大倶利伽羅を見た瞬間、つばさがぎくりと顔を強張らせた

大倶利伽羅の治療をしていた薬研の周りには、血で真っ赤に染まった布がいくつもあり、それでも、血が止まらないのか胸元にある大きな傷口を布で押さえている

 

その布も真っ赤で、薬研の手すら赤く染まっていた

 

「大将、とりあえず血が止まらない。 直ぐに治療に入れるか!?」

 

「あ・・・・・・」

 

治療、治療って何をすれば・・・・・・

そう思った瞬間、先程の鶴丸の言葉が脳裏をよぎった

 

『きみがしっかりしないでどうする。 きみは“審神者”だろう?』

 

そうだ

私は“審神者”なのだ この“本丸”の――――

 

「――――っ」

 

は・・・・・・っ と、息を吐くと意を決した様に、つばさが一度だけその菖蒲色の瞳を閉じて、そしてゆっくりと開けた

 

「こんのすけ、札を持ってきて。 それから、薬研は場所変わって」

 

「ああ」

 

そう言って、薬研のいた場所へと移動する

 

「――――伽羅、今、治してあげるから・・・・・・」

 

そう言って、そっと大倶利伽羅の傷に手を添える

瞬間、その手がどんどん赤く浸食されていった

 

目を逸らしたい気持ちを、なんとか必死に堪えながら

 

「――――っ」

 

瞬間、つばさの足下に“華号・白花藤”の紋が現出する

ぱあああああ、と眩いぐらいの光が放ちだす

 

「・・・・・・っ」

 

小さな傷はどんどん消えていくが――――

一番大きな傷が塞がらない

 

「・・・・・・こんのすけっ! もっと、札を!!」

 

「――――は、はい!!」

 

こんのすけが慌てて札をくわえてくる

それなのに――――

 

傷が塞がらない

血がどくどくと流れ出て、大倶利伽羅の身体がどんどん冷たくなっていく

 

――――だめ、私の霊力だけじゃ・・・・・・っ

 

こんなことなら、もっと治療の講習を受けておくのだったと、後悔の念が押し寄せるが

今は、そんな事悔やんでも仕方がない

 

でも

このままでは・・・・・・

 

そう思った時だった

 

「・・・・・・、・・・・・・つばさ・・・・・・」

 

微かに大倶利伽羅の声が聞こえた――――気がした

 

「伽羅!?」

 

大倶利伽羅が薄っすらと、その金の瞳を開ける

が、その声がとても小さく、今にも消えてしまいそうだった

 

「・・・・・・伽羅っ」

 

つばさが、大倶利伽羅の声を聞き取ろうと顔を近づける

微かに、彼の唇が動くが――――何を言っているのか上手く聞き取れない

 

「・・・・・・っ、は、・・・・・・んな、・・・・・・顔する、な」

 

そう言って、伸びてきた血まみれの手が優しくつばさの頭を撫でた

 

「・・・・・・、伽羅っ・・・・・・」

 

知らず、涙が零れる

泣いている場合ではないとわかっているのに、涙が止まらない

次から次へと零れては、落ちていく

 

お願い――――・・・・・・

私に、本当に“審神者”としての力があるのならば

 

 

 

どうか

 

  どうか彼を助けて――――・・・・・・!!!

 

 

 

そう強く願った瞬間だった

 

今まで、足元だけが光っていた光がちかちかと目を開けてられないぐらい、まばゆい光を放ちだす

 

「な、なんだ!?」

 

皆、目を開けていられないのか

思わず、目を逸らす様に手をかざす

 

だが、その光はとどまる事を知らず――――

 

刹那

どん!!! という音と共に、つばさと大倶利伽羅を中心に光の柱が上空へと立ち昇っていた

 

 

「これは―――――」

 

 

こんのすけが叫ぶ

 

どのくらい時間が経っただろうか

ずっと、光の柱が立ち昇っていたが、それが次第に収縮していく

そして、そのままふっ・・・・・・と、光の柱が消えた

 

やっと目を開けられると、薬研や乱が目を開けた時だった

 

「大将・・・・・・?」

 

そこには、つばさと大倶利伽羅がいた

 

「・・・・・・っ」

 

大倶利伽羅が起き上がろうと、身体を動かす

それを見た薬研が慌てて駆け寄った

 

「おい、まだ安静にしてないと駄目だ」

 

「いや、俺、は・・・・・・」

 

大倶利伽羅の胸元を見ると、あれだけ酷かった傷が塞がっていた

 

「傷が・・・・・・」

 

薬研が信じられないものを見たかの様に目を見開く

 

「大将! 大倶利伽羅の傷が――――・・・・・・たい、しょう?」

 

その異変に最初に気付いたのは薬研だった

薬研の視線の先には つばさがいた

いた、が・・・・・・

 

「主さま?」

 

こんのすけが、慌てて駆け寄ってくる

それでも、つばさはぴくりとも動かなかった

 

その顔に色はなく

まるで、人形の様に表情は消えていた

 

そう――――抜け殻の様に・・・・・・

 

瞬間、ぐらりとつばさの身体が揺れた

 

「――――大将!!」

 

薬研が慌てて駆け寄ろうとした矢先

様子を見ていた男士達の間から、さっと白い影が飛び出したかと思うと――――

 

「・・・・・・っと」

 

つばさの身体を支える影があった

それは――――

 

「鶴丸?」

 

それは、その衣を大倶利伽羅の血で真っ赤に染めた鶴丸だった

鶴丸は、つばさを見て何かに気付いたのか、さっと彼女を周りの目から隠す様に抱きかかえると

 

「――――少し、休ませる」

 

そう言って立ち上がった

 

「国永?」

 

大倶利伽羅が身体を起こしながら、鶴丸を見た

鶴丸は一度だけふり返ると

 

「大倶利伽羅は動けるようになったら、こいつの部屋に来てくれ」

 

それだけ言うと、そのままつばさを連れて出て行ってしまった

 

「ね、ねぇ薬研、あるじさまは・・・・・・?」

 

乱が不安そうにそう尋ねてくるが・・・・・・

薬研にも何が起きたのか分からなかった

 

「どけ」

 

不意にそう聞こえたかと思うと、大倶利伽羅が起き上がろうとしていた

 

「駄目だ、大倶利伽羅! あんたは重症だったんだ。 せめて1日は大人しく寝ててくれ」

 

と、薬研が制す

 

「傷はもう塞がった」

 

「それでも駄目だ。 大将の事が気になるだろうけど、頼むから安静にしててくれ。 大将の為にも――――」

 

「・・・・・・・・・っ」

 

つばさの為にと言われたら、流石の大倶利伽羅も強硬は出来なかったのか・・・・・・

ぐっと、押し黙る

 

それを見た後に薬研は

 

「じゃぁ、俺らはここの後片付けと――――」

 

「ああ、つばさ君のとこへは僕が行ってくるよ。 多分、鶴さんもいるだろうし」

 

そう言って、燭台切が手を上げてつばさの部屋の方へと歩いていく

そんな彼らの様子をただ見ているだけしか出来ない大倶利伽羅は、歯がゆさと、やるせなさと、悔しさで心が蝕まれそうだった

思わず、ぐっと握っていた拳に力を籠める

 

そんな大倶利伽羅を見て、薬研がそっと肩を叩いた

 

「まぁ、そんな風に感じなくても大将はあんたの事、嫌いになったりしないよ。 とにかく、今な安静に、な?」

 

それだけ言って、皆を連れて部屋を出ていく

ひとり残された大倶利伽羅は、ぐっと目を瞑る

 

さっきまで、意識も朦朧として自分はもう駄目だと思った瞬間、温かい光に包まれた

まるで誰かに優しく抱きしめられている様なその光は、とても心地よく、自分が知っているものと同じだった

 

それは――――・・・・・・

 

 

  ――――伽羅・・・大丈夫だから――――・・・・・・

 

 

そんな声が、あの時聞こえた気がした

 

「――――っ」

 

 

 

――――つばさ・・・・・・っ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ****    ****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――“本丸・白花藤”・つばさ私室

 

 

 

つばさはベッドに横になったまま、昏々っと眠り続けていた

その傍で、鶴丸がじっと彼女の手を握って見守っていた

 

「・・・・・・きみは、馬鹿か?」

 

そんな問いかけをするが、返事はない

握っている手に力が籠もる

 

「あんな風に力を使えば自身の身がどうなるか――――きみは知っていた筈だ。 それなのに・・・・・・」

 

霊力の制御

つばさは、霊力の制御が極端に不得意だった

その為、政府は暴走を危惧して彼女の霊力に制限を掛けた

強固な封印ともいうべきか

 

それを、無理やり一気に解放したのだ

その霊力に耐えられる程、まだつばさの心理状態は完全ではなかった

 

少しずつ、少しずつ解放して慣らしていく――――それが、政府の決めた決定だった

故に、霊力の封印を施された

 

彼女自身は気づいていなかったかもしれないが――――・・・・・・

本当は、ずっと政府に赴く度に行われる身体調査で、彼女の霊力は少しずつ解放されていたのだ

 

だが、今回

大倶利伽羅の重傷で、おそらく自身の霊力の限界に気付いてしまったのだろう

今のままでは無理だ・・・・・・・・・

 

その為、無意識化で封印された霊力が解放されたのだ――――強制的に 彼女の意思によって

 

そして――――今に至る

突然解放された巨大な霊力に耐えられる程、まだ心の成長はしていなかった

故に、心が壊れてしまったのだ

 

“虚無”

 

ひとはそう言うのかもしれない

もしくは、“殻の人形”

 

「・・・・・・・・」

 

鶴丸がそっと彼女に額に触れる

イチかバチかで自分が彼女の深層心理内に入るか、否か

 

正直決めかねていた

 

つばさが、心を開けば彼女を目覚めさせることは出来る

だが――――

 

はたして、俺にその役目が出来るだろうか・・・・・・?

 

その時だった

 

「鶴さん」

 

不意に、燭台切が部屋をノックするのと同時に入っていきた

 

「ああ、光忠か・・・・・・」

 

鶴丸はそう言うと、再び視線をつばさに向けた

燭台切が、そっと鶴丸の傍に近寄りつばさを見る

 

つばさの目は閉じられたままで、目覚める気配はなかった

 

「・・・・・・鶴さんは、知ってるんだよね? つばさ君の“力の制御”の話」

 

「ああ・・・・・・」

 

そう言って、そっと彼女の額に触れていた手を離す

 

「行くの?」

 

そう問われて、鶴丸は苦笑いを浮かべた

 

「正直、迷っている。 俺では、成功率は五分五分と言った所だからな・・・・」

 

「そっか・・・・・・」

 

静寂が部屋の中を支配する

二振とも、どう言葉を発していいのか迷っていた

 

その時だった

 

 

 

「・・・・・・どういうことだ?」

 

 

 

突然、声が聞こえてきた

はっとして振り返ると、安静にしていなければいけない筈の大倶利伽羅がそこにはいた

 

「伽羅ちゃん!? 駄目だよ、まだ寝てないと―――「どけ、光忠」

 

燭台切が止めようとしたが、大倶利伽羅がそれを振り払って鶴丸に近づく

 

「国永、あんたはこいつが・・・・・・こうなった理由を知っているのか?」

 

「・・・・・・・・・」

 

鶴丸は一度だけ、大倶利伽羅を見た後

小さな声で「ああ・・・・・・」と答えた

 

「だったら――――うっ」

 

叫ぼうとした瞬間、傷が痛んだのだろう

大倶利伽羅が胸元を押さえてよろめく

 

「伽羅ちゃん!!」

 

慌てて燭台切が大倶利伽羅を支える

だが、大倶利伽羅はその手を振り解くと、鶴丸の胸ぐらを掴み叫んだ

 

「――――どうすれば、目覚める! 答えろ、国永!!」

 

「伽羅ちゃん!!」

 

燭台切が止めようとするが、大倶利伽羅はそんな燭台切の言葉を無視して鶴丸を問い詰める様に睨みつけた

その金色の目に、鶴丸が「はぁ・・・・・・」と溜息を洩らした

 

「お前には知らせてなかったが――――こいつには、“霊力の制御”の封印が施されていた。 心がまだ彼女の力に耐えうるほど成長していなかったからだ。 だが、今回の一件でその封印を強制的に解除した。 ・・・・・・だから、こいつの心はついに壊れちまったのさ」

 

そう言って、そっと彼女の前髪を避ける

そして、鶴丸が少し力を送ると、その額に“華号・白花藤”紋様が現れた

だが、その紋様にはヒビが入っていた

 

「これが――――その“封印だった破片”だ。 この程度で・・・・・済んだことが幸いだった。 本当に全て壊れれば、もう二度と目覚めない所だった」

 

「・・・・・・目覚める、の、か・・・・・・?」

 

大倶利伽羅の言葉に、鶴丸は小さく首を振った

 

「いつ目覚めるかは俺にもわからん。 明日か、一ヶ月後か、一年後か――――」

 

「は・・・・・・?」

 

「少なくとも、今のままでは・・・・・・いつかは目覚めるとしか言えない状態なんだ。強制的に目覚めさせなければ――――」

 

「・・・・・・どういうことだ」

 

鶴丸は大倶利伽羅を見た後、再びつばさに視線を向け

 

「この封印から彼女の深層心理に入り、強制的に呼び覚ます。 それしか方法はない――――だが、万が一失敗すれば・・・・・・こいつも入ったやつも二度と目覚めない」

 

「な、ん・・・・・・」

 

「俺がやってもいいが――――俺だと、成功するか否は五分ってとこだな」

 

「・・・・・・他に、方法はないのか?」

 

もし他に方法があるのなら――――

そんな淡い期待も、鶴丸のひと言で打ち砕かれた

 

 

「――――ないんだよ。 他には」

 

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 

目の前が真っ暗になる様な感覚だった

 

こいつが・・・・・・つばさが居なくなる・・・・・・?

俺の前から・・・・・・?

 

俺の、せいで――――

 

「・・・・俺が・・・・・・俺が、行く」

 

気が付くとそう口にしていた

その言葉に、鶴丸が小さく首を振る

 

だが、大倶利伽羅は引き下がらなかった

 

 

 

「――――行かせてくれ! 俺のせいでこいつは――――・・・・・・っ」

 

 

 

「駄目だ。 お前は先に怪我をちゃんと治して――――「そんなこと言ってる場合なのかよ!!?」

 

大倶利伽羅の声に、鶴丸が少し驚いた様に目を見開いた

悔しい話だが、自分が入るよりも大倶利伽羅が入った方が成功率は高いとは思っていた

だが――――・・・・・・

 

「・・・・・・体調が万全でないお前を行かせられるような場所じゃない」

 

 

 

「だったら! ――――だったらどうしろっていうんだ!?」

 

 

 

大倶利伽羅がそう叫ぶ

 

「伽羅ちゃん・・・・・・」

 

「あいつは・・・・・・あいつは俺のせいで――――!!!」

 

「伽羅ちゃん、落ち着いて!」

 

いつもの冷静さは今の大倶利伽羅にはなかった

燭台切がなんとか大倶利伽羅を押さえているが、手を離せば今にも鶴丸を殴りそうな勢いだった

 

そんな大倶利伽羅を見た鶴丸は、小さく息を洩らすと

 

「・・・・・・はぁ、光忠 部屋の鍵を閉めて来い」

 

「え? で、でも・・・・・・」

 

「いいから、早く!!」

 

鶴丸に強く言われて、燭台切が慌てて部屋の鍵を内側から閉めに行く

 

「窓も全部だ。 カーテンも閉めてくれ」

 

「・・・・・・わ、わかったよ」

 

言われて、空いている窓も全て締め切ってカーテンを引く

 

「・・・・・・閉めて来たよ」

 

「ああ、ありがとう」

 

それだけ返事をすると、鶴丸は大倶利伽羅を見た

 

「決意は、固いんだな?」

 

鶴丸のその言葉に、大倶利伽羅が頷く

その反応に、また鶴丸が溜息を洩らした

 

「本当なら、明日まで体調を整えて来い――――と言いたいところだが、あまり時間がない。 こいつの意識を引き戻すのが遅くなればなるほど深く潜られて手が付けられなくなる。 そうなる前に、入って引き戻すしか方法はない。 ――――大倶利伽羅、ここに立て」

 

そう言って、鶴丸がつばさの横に大倶利伽羅を誘導する

 

「俺が外からサポートする。 お前はこいつの――――つばさの意識を追う事に集中しろ。 ただし、無理だけはするな」

 

「・・・・・・わかった」

 

「光忠は他の奴が入ってこない様に、そっちに意識を向けておいてくれ」

 

「う、うん」

 

二振の返事を確認すると、鶴丸は再びつばさの額に触れた

瞬間――――あのヒビの入った“華号・白花藤”の紋様が現れる

 

「大倶利伽羅、手を」

 

言われて、大倶利伽羅が鶴丸の手に自分の手を重ねた

 

「――――行くぞ!」

 

 

 

瞬間、世界が暗転した

一気に何処かへと引っ張られていく――――・・・・・・

 

ぐらり・・・・・・と、大倶利伽羅の身体が揺れたかと思うと、どさっとつばさの上に倒れた

 

「伽羅ちゃん!?」

 

「――――大丈夫だ。 今こいつの意識は・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぴちゃ――――ん・・・・・・

 

水音が聞こえる

 

大倶利伽羅は、ゆっくりと目を覚ました

 

「ここは・・・・・・」

 

そこは、真っ暗な世界だった

光が一切ない世界

 

「ここが、つばさの心、な、のか・・・・・・?」

 

一瞬の不安がよぎる

だが、鶴丸は何と言っていたか

 

“お前はこいつの――――つばさの意識を追う事に集中しろ”

 

そう言っていた

そうだ、今の自分に不安がっている暇はない

早くつばさを探さなければ――――・・・・・・

 

そう思った時だった

 

ぱしゃん! と、水の跳ねる音が聞こえた

はっとしてそちらの方を見ると、小さな女の子が1人、赤い傘に赤い長靴をはいたその子がとぼとぼと歩いていた

 

あれ、は・・・・・・?

 

ふと、その子が振り返る

菖蒲色の瞳に、長めの紫がかった漆黒の髪

 

「まさか・・・・・・つばさ、な、のか?」

 

その幼い少女は、一度だけ首を傾げるとそのまま走り出した

 

「・・・・・・っ、待ってくれ!」

 

大倶利伽羅が慌てて追いかけようとした時だった

 

後ろの方から、ばしん!と何かを殴る音が聞こえてきた

はっとして振り返ると――――

 

酒の入った瓶を持った派手な女性が目の前の十歳ぐらいの少女を殴っていた

 

「な・・・・・・」

 

『この――――! あんたのせいで、また客に逃げられたじゃない!! この疫病神が!!』

 

そう叫びながら派手な女は少女を責めた

だが、少女は殴られても蹴られても、一度も声を上げなかった

その菖蒲色の瞳でじっとその派手な女性を見ていた

 

『ふん! 生意気なその目は、あんたの父親とそっくりね! 腹が立つ!!』

 

 

なん、だ、これは・・・・・・

 

 

すると、また今度は横から音が聞こえてきた

そちら見ると、年の頃からして十二・三歳ぐらいだろうか・・・・・・

あの菖蒲色の瞳の少女が、去っていく車をじっと見つめていた

 

『ほら、あの子・・・・・・』

 

『ああ、藤雪さんの所の娘さんでしょう?』

 

『そうそう、挨拶しても返しもしないし、笑いもしなのよ? 気味悪いわ』

 

 

 

 

 

またシーンが変わった

 

今度は、十五歳ぐらいの菖蒲色の瞳の少女に四十代ぐらいの男がまたがっていた

 

『へへ・・・・・・年の割には女の身体してるじゃないか』

 

また、少女は無言だった

表情ひとつ動かさない

 

すると、またあの派手な女が酒をあおりながら

 

『早くやっちゃいなさいよ、人が来る前に――――言っておくけど、金はいつもの十倍だからね!』

 

『わかてるよ、ほら受け取んな!』

 

そう言って男が札束を派手な女に渡す

それを見て、派手な女はにやりと笑みを浮かべ

 

『じゃ、時間になったら迎えに来るから、後は宜しく。 しっかり相手すんのよ、つばさ!』

 

そう言って、どこかへ行ってしまった

 

 

 

 

 

またシーンが変わる

 

十七歳ぐらいになった菖蒲色の瞳の少女が、ぼんやりと座っていた

その顔や身体にはいくつもの痣があり、高校だろと思われる制服は着崩れしていた

 

そして、少女の前には服を着る男が三人

 

『ほら、約束の金だ! しっかり、お前の母親に渡すんだぞ』

 

そう言って、茶封筒が少女に投げつけられる

そして、男たちはそのままそこから消えていった

入れ違いに、あの派手な女が現れる

 

『ふん、思ったより高く売れるじゃない。 あんたを産んでおいてよかったわ』

 

 

 

 

 

またシーンが変わった

 

十八歳ぐらいだろうか、今のつばさに一番近かったその菖蒲色の瞳の少女が立つ横に、あの派手な女が座っていた

 

『“審神者”? この子を・・・・・・?』

 

そう女が問いかけると、政府官僚らしき男が頷いていた

 

『ええ、娘さんには素質があります。 是非、うちで預からせて頂きたい』

 

そういう官僚に女は『ふーん』と答えながら

 

『それで? 毎月幾らでこの子を買ってくれるんです?』

 

そういって、にやりと笑っていた

 

 

 

 

 

大倶利伽羅は自身の身体が震えているのを感じた

 

なん、だ、これは・・・・・・

まさか、これがあいつの過去、な、のか・・・・・・?

 

“本丸”では殆ど笑うというか感情の起伏の激しい方ではなかった

でも、そんな素振り一度も――――・・・・・・

 

 

瞬間、背後に気配を感じて大倶利伽羅が慌ててふり返る

そこには、あの菖蒲色の瞳の少女が立っていた

 

そしてひと言・・・・・・

 

 

 

『お母さん、私・・・・・・もう、要らない子なの・・・・・・?』

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

大倶利伽羅は書ける言葉が見つからなかった

なんと、言葉をかければいいのか・・・・・・

 

今までずっと、金の為にその身を母親のいう通り捧げ

最後には政府に売られた少女

 

じわりと、目の前の少女の瞳から大粒の涙が零れ出した

 

『どうして・・・・・・? ずっと言われた通りにしてきたのに・・・・・・どうして・・・・・・?』

 

 

『――――何か言ってよぉ!!!』

 

 

そして、そのまま大倶利伽羅の横をすり抜けて駆け出した

 

「――――待ってくれ! つばさ!!!」

 

大倶利伽羅は、慌ててその少女を追いかけた

瞬間、ざざざざっと映画のフィルムの様に幾つもの過去が目の前に立ちはだかる

 

その映像はどれを見ても、殴られているか、襲われているか、放置されて一人でいるかのどれかだった

 

「・・・・・・っ、邪魔を――――」

 

咄嗟に、腰の「大倶利伽羅」を抜こうとするが

 

 

――――駄目だ!!!

 

 

頭の中に鶴丸の声が響いてきた

瞬間、大倶利伽羅がはっとする

 

そうだ、これも全部彼女の記憶――――

傷付けては、いけないのだ

 

 

 

 

「――――つばさ!!!」

 

 

 

 

大倶利伽羅がそう叫んだ瞬間

ぱり――――ん と、ガラスが割れる様な音が聞こえてきたかと思うと

暗闇だった世界に光が差し込んできた

 

 

気が付くと、そこは“本丸”だった

遠くで、短刀達の遊ぶ声が聞こえる

 

ふと、目の前を見ると、つばさが縁側に座ってぼんやりとしていた

大倶利伽羅は息を呑むと、ゆっくりと彼女に近づいた

 

「・・・・・・つばさ」

 

名を呼ぶ

彼女の名を

 

すると、ふとそれに気づいたかのように つばさが顔を上げた

 

「・・・・・・誰か、いるの?」

 

彼女には大倶利伽羅が見えていないのか、そう呟く

 

「俺が、見えないの、か・・・・・・?」

 

そう声を洩らすが―――

つばさはふっと苦笑いを浮かべて

 

「・・・・・・誰もいない、よね。 私の傍になんて・・・・・・」

 

そう言って、そのまま膝を抱えた

 

きっと、この“記憶”は“審神者”になったばかりの頃なのだろう

だから、彼女には自分が見えていない

 

「・・・・・・つばさ」

 

大倶利伽羅は、そっとつばさと同じ目線になる様にその場にしゃがむと

そっと彼女の手に自身の手を重ねた

 

瞬間、ぴくっと彼女の肩が揺れた

 

「・・・・・・つばさ、迎えに来た。 一緒に帰ろう」

 

「誰?」

 

つばさと目が合う

 

「俺は、大倶利伽羅。 お前を迎えに来た」

 

そう名乗ると、つばさが首を傾げた

 

「迎え・・・・・・? どこに? 私の帰れる場所なんて何処にも――――」

 

「・・・・・・皆、お前の帰りを待っている」

 

そう語りかけるが、やはりこのつばさには通じないのか

不思議そうにその菖蒲色の瞳を一度だけ瞬かせた後――――静かに目を閉じた

 

 

刹那、世界がまた変わった

そこは“本丸”でもなく、“過去”でもなく

何もない真っ白な世界だった

その中央に足を抱えてしゃがみこんでいる小さな少女がいる

 

それは、過去の映像で見たつばさと同じだった

ただ一つ違うのは・・・・・・少女は泣いていた

 

声を押し殺して泣いていた

声を上げまいと必死に口元を抑えたまま、しゃくりを上げていた

 

『おかあさん・・・・・・、おかあさん・・・・・・っ』

 

まるで助けを乞うかの様にそう呟きながら泣いていた

そうだ、あんな仕打ちを受けて何も感じない筈はない

きっと心の中ではずっと泣いていたんだ

 

ただ、それを表にだせないまま――――

 

 

「つばさ」

 

 

大倶利伽羅がゆっくりと近づく

瞬間、つばさの肩がぴくりと揺れた

 

「―――つばさ、迎えに・・・・・・」

 

 

 

 

「――――こないで!!!!」

 

 

 

 

今まで聞いた事ないぐらいの大きな声で、つばさが叫んだ

それから、声を震わせながら

 

「だれ、も、こないで・・・・・・」

 

そう言って、膝を抱える手にぎゅっと力を籠めていた

一瞬、大倶利伽羅は行くのを躊躇ってしまった

 

自分が行って更に傷付けてしまったら?

もしかしたらもう、彼女は目覚める事を望んでないのでは――――

 

そんな思いが頭を過ぎる

 

そんな時だった

不意に、とんっと誰かに背を押された

 

はっとして振りかえるが、そこには誰もいなかった

だが、この気配は――――

 

「・・・・・・国永?」

 

行けと

まるでそう言われている様な気がして、大倶利伽羅は今一度つばさの方を見た

 

そこにいたのは、今のつばさだった

でも、先程と同じく膝を抱えたまましゃがんでいた

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

ごくりと大倶利伽羅は息を呑むと、ゆっくりとそのつばさに近づいた

彼女の目の前にいくと、ゆっくりと彼女に手を伸ばす

 

一瞬、ぴくりと彼女の肩が揺れた

 

「―――誰?」

 

震える声でそう聞いてくる

 

「・・・・・・俺だ」

 

大倶利伽羅は、静かにそう答えた

すると、ゆっくりとした仕草で彼女が顔を上げた

 

彼女の菖蒲色の瞳と目が合う

 

「伽、羅・・・・・・?」

 

「ああ・・・・・・」

 

すると、つばさはふいっと横向き

 

「・・・・・・ここに来たって事は、“全部”見たの・・・・?」

 

「ああ・・・・・・」

 

嘘は言えない

静かにそう答える

 

すると、つばさは苦笑いを浮かべながら

 

「見たなら分かってでしょう? 私はもう汚れているの、“審神者”の器じゃないのよ。 伽羅や他の皆に合わせる顔なんて――――」

 

「―――そんな事はない。 皆、待っている。 ・・・・・・一緒に、帰ろう」

 

 

 

「――――やめて!!!」

 

 

 

瞬間、つばさが叫んだ

刹那、ビシっとその白い空間にひびが入る

 

「つばさ、落ち着け!」

 

 

「――――なんで? 何で誰も放っておいてくれないの!?」

 

 

「つばさ!」

 

 

「――――私はもう、汚れきってるのよ!!! お母さんも誰も――――私の事なんて、どうでもよか――――」

 

瞬間、大倶利伽羅の腕が彼女の身体を抱きしめていた

 

「――――っ」

 

びくっと、つばさの身体が震える

 

「俺は――――!! 俺は・・・・・・、いや、俺だけじゃない。 国永も、光忠も、他の皆も――――お前を、待っている」

 

びくっと、またつばさの身体が震えた

それでも、大倶利伽羅は続けた

 

「もう、誰にも俺がお前を気付付けさせたりしない――――! 誓ってもいい!! 俺が! 俺が――――お前を護る! だから・・・・だから――――一緒に帰ろう・・・・・・つばさ」

 

「・・・・・・か、ら・・・」

 

つばさの瞳から一滴の涙が零れ落ちた

ぴちゃ―――ん・・・・・・と、その雫が波紋を描く

 

「帰ろう、つばさ――――」

 

「・・・・・・っ、ほんと、に? だれ、も、もう――――。 伽羅が、まもって、くれ、る・・・・・・の?」

 

 

「ああ・・・・・・俺が、お前を―――――」

 

 

 

 

 

 

    ―――――必ず 護るから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぱり――――――ん

 

世界が割れる音が聞こえた   気がした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・う・・・」

 

大倶利伽羅がゆっくりとその瞳を開ける

頭が痛い

全身が鉛の様に重たい

 

そう思いながら、なんとか身体を起こす

 

「――――大倶利伽羅!!!」

 

「伽羅ちゃん!! 無事!?」

 

大倶利伽羅の耳に入ってきた声は、よく聞き慣れた声だった

 

「くに、なが・・・・・・? みつた、だ・・・・・」

 

俺は・・・・・・現実に戻って来た、の、か・・・・・・?

 

ぐらぐらする頭を押さえながら起き上がりかけた瞬間

はっと我に返り飛び起きる

 

「――――つばさは!? 国永! つばさは――――・・・・・・っ」

 

「落ち着け」

 

そう言って、鶴丸がつばさの額から手を離す

すると、額に会った“華号・白花藤”の紋様がすぅ・・・・・・と消えていった

 

瞬間――――

ゆっくりと、眠っていたつばさの菖蒲色の瞳が開けられた

 

「・・・・・・か、ら・・・?」

 

「――――っ、つばさ・・・・・・っ」

 

それは無意識に近かった

大倶利伽羅の手が彼女を引き寄せると同時に、そのままその身体を抱きしめたのは

 

「・・・・・・よかった、つばさっ」

 

「・・・・・・わ、たし・・・?」

 

周りを見ると、鶴丸や燭台切が笑顔で迎えてくれた

それで気付いた

 

ああ、自分は“私の本丸に”戻って来たのか――――と

私の“唯一の帰る場所”に――――

 

自分を抱きしめる大倶利伽羅の心臓の音が聞こえてくる

とくん・・・・・・とくん・・・・・・と、生きているものの証が――――

 

「うん、ごめんね? ・・・・・・心配、掛けたみたいで――――」

 

そう言って、自分を抱きしめて離さない大倶利伽羅の背を撫でる

 

「・・・・・・伽羅、ありがとう」

 

もう一度、大倶利伽羅の背をぽんぽんっと叩く

すると、更に強く抱きしめられた

 

「――――約束、したからな。 俺が、お前を絶対に護ってやるって・・・・・・」

 

「うん・・・・・・」

 

その言葉に、つばさの瞳にじわりと涙が浮かぶ

それから、小さな声で「うん・・・・・・」と、もう一度頷いたのだった

 

 

「・・・・・・ありが、と、う・・・」

 

 

――――きっと、もう大丈夫

そう、私は一人じゃないから――――・・・・・・

 

 

皆も、伽羅もいる、から

 

  きっと、大丈夫――――・・・・・・

 

そう心に刻み付けて、静かに目を閉じたのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まさか、こんな展開になるとはwww

自分で書いててびっくりです笑

それにしても、どこの‟本丸”の鶴もなんか無駄に色々詳しいなぁww

 

 

2023.03.27