華ノ嘔戀 外界ノ章
       ~紅姫竜胆編~

 

◆ 山姥切国広 「雪の気配と、桜の願い」

     (「華ノ嘔戀 外界ノ章 竜胆譚」より)

 

 

――――ずっと、分かっていた

あいつが・・・・・・沙紀がいつも誰を見ていたかなんて

 

最初に初めて顕現したその瞬間、視界に入って来た彼女を見た時

息を呑んだのを今でも覚えている

 

流れる様な漆黒の髪

俺を見て、驚いた様に大きく見開かれた美しい躑躅色の瞳

その形の良い唇が紡ぐ音が、「言葉」となって現れた時――――

 

 

俺は、彼女に全てを――――奪われた

 

 

 

 

 

 

 

 

「え・・・・・・?」

 

不意に、沙紀が振り返った

 

「・・・・・・・っ」

 

まさか、そこで驚くとは思わず、山姥切国広が息を呑む

 

「あ、いや・・・・・・」

 

言い方を間違えただろうか?

一瞬、自分の言葉を思い返す

 

ただ、単に今日 鶴丸は手が離せないから、代わりに自分が現世のお役目について行く――――と言っただけだったのだが・・・・・・

 

いつもなら、普通に「わかりました」で終わっているのだが

今日の沙紀は少し違っていた

 

なんだ?

 

「・・・・・・俺だと、まずいのか?」

 

そう訊ねると、沙紀は慌てて首を横に振り

 

「あ、いえ、そういう訳では――――その、今日はりんさんが来るものとばかり思っていたので、少し驚いてしまっただけです」

 

そう言って、にっこりと微笑む

 

「・・・・・・なにか、いつもと違うのか?」

 

沙紀は現世では石上神宮の第185代“神凪”として神事の儀式への出席や、“神凪”として“神降”をした結果を神宮の巫覡達に伝えたりしている

平均して、月に最低でも二日

多ければ、四~五日通う時もある

 

今日の現世でのお役目も、それらだと思っていたが・・・・・・違ったのだろうか?

すると、沙紀は苦笑いを浮かべて

 

「あ・・・・・・今日は、“神楽舞”の奉納式だったので――――りんさんが以前“楽しみだ”と仰っていたので、それで――――」

 

「ああ・・・・・・そう言うことか」

 

彼女の中では鶴丸が来るのが当然と思っていたという事だ

 

「その――――すまない、俺で」

 

山姥切国広がそう言うと、沙紀は「いえ」と首を横に振り

 

「山姥切さん、本日は宜しくお願いします。 では、時間もありませんし行きましょうか」

 

そう言って、沙紀が歩き出す

 

「・・・・・・・」

 

山姥切国広は、少し躊躇ったがその後に続いて行った

転移装置の場所まで二人並んで歩く

 

そこはいつ見ても幻想的な世界だった

 

桜が舞い、雪の降る世界――――・・・・・・

絶対に、重ならない二つが重なって“結界”を成しているのだ

 

沙紀をちらりと見ると、まるでこの世界に溶け込んだ一枚の絵の様に綺麗だった

今、この瞬間を俺だけが・・・・、見ているんだ――――

 

そう思うと、知らず顔が熱を持つのが分かった

 

「・・・・・・・・っ」

 

な、なにを考えているんだ・・・・・・俺は

 

悟られまいと、慌てて被っている布を深く手繰り寄せる

 

「・・・・・・・? 山姥切さん、どうかしましたか?」

 

沙紀がふと、山姥切国広の異変に気付き、振り向く

が、山姥切国広は何でもない事の様に

 

「・・・・・・なんでもない。 早く行こう」

 

そういって、無意識に沙紀の手を取るとずんずんと歩き始めた

 

「あ、あの・・・・・・っ」

 

沙紀が慌てて後に続く

転移装置に着くと、山姥切国広は手慣れた手つきで操作をしていった

ブゥ――――ン・・・・・・と、パネルが現れる

 

山姥切国広は、そのパネルを操作しながら

 

「ほら、あんたも早く―――――」

 

そこまで言いかけて、沙紀の手をずっと握ったままだった事に気付く

ぱっと慌てて山姥切国広が手を離すと

 

「わ、悪い・・・・・・っ」

 

そう言って、少しばつが悪そうに視線を逸らした

そんな態度を取られると何だか沙紀まで恥ずかしくなり・・・・・・

「あ、いえ・・・・・・」といいつつ、ほのかに頬を朱に染めた

 

「「・・・・・・・・・・・・」」

 

何を話せばいいのか分からなくなり、二人して無言になってしまう

 

どのくらいそうしていただろうか

パネルを操作しながら、山姥切国広は酷く長く感じるこの時間に焦りを感じていた

 

操作音だけが、聞こえてくる

 

早く終わって欲しい思いと、このままこの時間が続いて欲しい思いが入り混じって

頭がどうにかなりそうだった

 

『認証します。 西暦2205年 場所“石上神宮”への時空を開きます』

 

瞬間、ぱあああっと、山姥切国広の足下が蒼白く光った

 

「おい」

 

山姥切国広が沙紀を呼ぶように手を伸ばした

沙紀がはっとしてその手を取ると、そっとパネルに触れた

 

『“華号・竜胆”認証しました。 ゲートを開放します』

 

瞬間――――二人の足下に“華号・竜胆”のマークが現出する

そして、その光の渦にのまれるように二人の姿が消えてゆく

 

刹那

 

 

 

り――――――ん・・・・・・

 

 

 

「・・・・・・・・・・っ」

 

何かの音が聞こえて、山姥切国広がはっと刀に手を掛ける

意識がそちらへ・・・・引っ張られたかと思うと――――

 

「駄目っ! 山姥切さん・・・・・・っ」

 

「―――――っ」

 

沙紀の声が何処からか響いてきた

 

しま・・・・・・っ

 

 

 

「―――――沙紀っ!!」

 

 

 

そのまま、二人の姿はその場から消えたのだった―――――・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ****    ****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――・・・・・・

――――――・・・・・・

―――――――・・・・・・

 

 

冷たい・・・・・・

全身が氷の上にいる様に冷たい

 

なんだ、これは・・・・・・

 

「なんで四月だっていうのに雪なんて・・・・・・」

 

「ほんとね」

 

そんな会話が聞こえてきて、山姥切国広は はっと目を開けた

 

 

「――――沙紀っ!!!」

 

 

慌てて飛び起きて、周りを見渡す

 

「ここは・・・・・・」

 

そこは、見覚えのある場所だが

自分の記憶より少し古く感じた

 

遠くに見えるのは――――石上神宮の大鳥居、か?

 

「沙紀?」

 

山姥切国広が辺りを見回して沙紀を探すが――――

沙紀の姿は何処にもいなかった

 

「・・・・・・おい、あんた――――」

 

通りすがりの巫覡に話しかけようとするが――――

するっと、手がすり抜ける

 

周りを見ても、誰も山姥切国広の存在に気付かない

 

「これ、は・・・・・・」

 

なんだ?

何が起きたんだ・・・・・・?

 

必死に、先ほどまでの記憶を呼び起こす

 

転移装置で、現世の石上神宮に飛ぼうとして――――

そしたら、鈴の音が聞こえて

 

「まさか・・・・・・」

 

はっと、以前聞いた話を思い出す

 

“時空の歪”

 

それは、時空移動中の事故により稀に起きるという

その歪に入ったものは、誰にも気づかれず、誰にも触れられず――――一人彷徨うのだと

 

そう、政府の官僚が説明していた気がする

ですので、くれぐれも“時空移動中は意識を他に飛ばさない様に――――”と

 

という事は――――俺は、どこかの時間軸の歪に飛ばされたという事か・・・・・・?

 

辺りを見渡すが、やはり石上神宮なのは間違いなさそうだった

問題は――――

 

いつの・・・石上神宮なのか、だ

 

それに、沙紀の姿がない事も気になった

万が一にも彼女までどこかの歪に飛ばされていたとしたら――――

 

その時だった

 

ざっざっ と、仰々しい行列が鳥居をくぐり楼門に向かっていた

近くを通った巫女や巫覡・参拝客も驚いた様にそれらを見て話している声が聞こえる

 

「あれが、今朝話にあった――――」

 

「そうみたい、再来月の神剣渡御祭に使われる神剣・七支刀が修復中じゃない? だから代わりの刀を今日決めるのだとか――――」

 

神剣渡御祭の代わりの刀・・・・・・?

 

何かが引っかかる

どこかでそんな話を聞いたような・・・・・・

 

その時だった

 

ざわりっと、その行列の方から悲鳴が上がった

はっとしてそちらの方を見ると――――

 

一振の刀が雪の中 投げ出されていた

 

あれは――――

 

その刀を見た瞬間、山姥切国広は はっとした

それは「鶴丸国永」だった

 

なぜ、鶴丸がここに・・・・・・?

 

そう思った瞬間、以前鶴丸が沙紀の手により初めて顕現した時の話をしていたのを思い出した

 

そうだ

確か、七年前だと――――

 

じゃぁ、ここは七年前の石上神宮!?

 

あの時の鶴丸の話だと、確か・・・・・・

 

その日は四月だというのに真っ白な雪の降る日だったと言っていた

 

毎年六月に行われる神剣渡御祭に使われる神剣・七支刀が修復中ということもあり、代りの神剣候補として御物である鶴丸と一期一振の二振りが候補に上がっていたのだと

 

二振りは厳重に箱に収められ宮庁を出た後、石上神宮の大鳥居をくぐり楼門に向かっていたが、鶴丸を運んでいた一人が足を雪に滑らせ体勢を崩したのだと

皆が驚く間もなく、鶴丸の入った箱はそのまま石畳に叩きつけられて、中の刀が布の中から転がり出てしまったのだ

 

それが、今、山姥切国広の目の前で起きていた

 

「・・・・・・・・・・・」

 

仮にも、皇室の御物である品を地に落としたあげく、その姿を一般人の前に晒したのだ

それに、もし傷や欠け・最悪折れていた場合責任問題となる

 

ざわざわとざわめく中、誰かが確かめなければと思うも、素手で触る訳にもいかず

又、確認した者の責任を問われるのを恐れ、誰も近づく事も動く事も出来なかった

 

鶴丸国永は、その姿を雪の中晒されたままになってしまっていて――――

 

誰も彼も、恐れて動こうとも触れようとしない

鶴丸国永はずっと雪の上に晒されたままだった

 

何故、誰も拾わないんだ!!?

 

そう思って触れられないと分かっているのに、山姥切国広は駆け出していた

 

「はぁ、はぁ・・・・・・鶴丸・・・・・・」

 

鶴丸国永の前まで来て、イチかバチかで拾おうとするが――――・・・・・・

やはり、触れられないのか

するりと、手がすり抜ける

 

くそ・・・・・・っ

 

歪のせいで触れられない

 

誰か

誰かいないのか!?

 

誰か――――・・・・・・!!!

 

そう思った時だった

 

ふわりとその鶴丸国永に触れる小さな手があった

 

はっとして、山姥切国広が顔を上げる

そこにいたのは――――

 

「・・・・・・まさ、か・・・・」

 

それは、幼いながらもどこか神秘的な雰囲気を持つ美しい少女だった

頭から雪避けなのか、白い着物を羽織った少女は、さらりと黒く艶やかな長い髪をなびかせ首を傾げた

 

一度だけ、その躑躅色の瞳を瞬かせた後、そっと袂からハンカチを取り出し、鶴丸国永に掛ける

そして、そっとその刀を持ち上げたのだ

 

 

 

「可哀想です」

 

 

 

――――沙紀!?

 

それは、幼いながらも今の面影のある沙紀だった

 

沙紀とおぼしき少女のその言葉で、周りの人たちが現実に引き戻される

少女は、鶴丸国永をそっと傍にあった白い布の上に置くとそのまま布を掛けた

 

「どうしてどなたも彼を雪の中放置されるのですか? 可哀想です」

 

「あ・・・・いえ、それは・・・・・・」

 

言い訳がましく運んでいた一人が口を開こうとしたが、何を言っていいのか分からず言い淀んだ

 

「あ、あの! 刀は無事・・・・・・でしょうか?」

 

恐る恐るそう尋ねると、少女はちょこんと首を傾げ、もう一度その布をめくった

そして、ゆっくりと鶴丸国永に触れる

 

数分間見た後、少女はにっこりと微笑んだ

 

「大丈夫の様ですよ? 特に、傷も欠けもありません」

 

その言葉に、皆がほっとした時だった

 

それは起きた

突然、鶴丸国永が淡い光を放ったと思った瞬間――――――そこに一人の銀髪に白い着物を纏った美しい青年が姿を現したのだ

 

それは間違いなく山姥切国広の知る「鶴丸国永」だった

 

「・・・・・・鶴丸・・・」

 

だが、誰しもが言葉を失っていた

それもそうだろう

目の前で、刀であった鶴丸国永が突然人の姿を纏ったのだ

 

今ならいざ知れず、七年前はまだ正式に“審神者”の発表がなかった頃だ

目の前の出来事が理解出来ず、皆が皆放心状態に陥っても仕方がなかったのかもしれない

 

だが、沙紀とおぼしき少女だけは違った

 

一度だけ、大きなその躑躅色の瞳を瞬かせた後、ふわりと微笑んだ

 

「こんにちは もしかして・・・刀さん・・・・・・?」

 

鶴丸にそう尋ねる

目の前の美しい少女の問いに鶴丸が、「ああ・・・・・・」とだけ答えた

 

すると、少女はくすりと笑みを浮かべ

 

「刀も美しかったですけれど、人の形もとても綺麗なのですね」

 

そう言って、自身の羽織っていた白い着物をふわりと鶴丸の肩に掛けた

 

「そのお姿では寒いでしょう? 私の使っていた物で申し訳ないのですけれど・・・・・・これを羽織ってください」

 

「お前は――――・・・・・・」

 

鶴丸がそう口を開いた時だった

 

 

「沙紀!!!」

 

 

少女を呼ぶ声が聞こえてきた

 

「あ・・・・・・」

 

沙紀と呼ばれた少女は、その声に反応する様に声を洩らすと苦笑いを浮かべた

 

「いけない・・・・・・お父様が呼んでいます。 気付かれてしまったみたい」

 

「沙紀! ここにいたのか!!」

 

そう言って、楼門の向こうから彼女を探しに来たのは、間違いなく沙紀の父・一誠だった

 

「お父様・・・・・・」

 

少女は立ち上がると、一瞬こちらを見た 気がした

 

え・・・・・・?

 

すると、沙紀とおぼしき少女はにこっと山姥切国広に向かって微笑んだ後、一誠と思わしき人物の元に駆け寄った

 

そして、一度だけ振り返ると、鶴丸と山姥切国広に向かって手を振って来たのだ

 

「・・・・・・また逢えると嬉しいです、お二人共・・・・

 

それだけ言い残すと、楼門の向こうへ姿を消して行ったのだった

 

「沙紀・・・・・・?」

 

俺が、見えて、い、た・・・・・・?

 

今、確かに二人・・と――――

 

「おい」

 

そんな、筈、は――――

 

「おい、おーい」

 

いや、でも・・・・・・

 

「おーい、そこの金髪!」

 

「は?」

 

その声が自分に掛けられているものだと気づくのに数分を要した

ふり返ると、箱の上に座っている鶴丸がこちらを見ていた

 

「つ、つる、まる・・・・・・?」

 

「ああ」

 

「俺が、見える、のか・・・・・・?」

 

「・・・・・・? 見えるが? 見た所、お前さんも俺と同じとみたが――――ああ、時間軸が違うのか」

 

と何か納得した様に、その鶴丸は頷くと

 

「ところで、さっきの嬢ちゃんは、お前の知り合いか?」

 

「そ、それは――――」

 

厳密には違う

この時期、まだ山姥切国広はひとがたには顕現していないし、そもそも沙紀の元へも行っていない

 

「ふぅん?」

 

と、鶴丸が何かに気付いたのか、「ああ、そう言うことか・・・・・・」と呟くと

 

「お前、名前は?」

 

「俺か? 俺は・・・・・・山姥切、国広だが・・・・・・」

 

その言葉に、鶴丸が「ああ、お前が・・・・・・」と呟くと

そのまますっと山姥切国広の額に指を当てて

 

「国広――――で、いいか。 なぁ、お前、そろそろ帰らないと本当に戻れなくなるぞ」

 

「帰る・・・・・・?」

 

「そうさ、俺が今送ってやるから―――――」

 

「ま、待っ・・・・・・」

 

「じゃぁ、またな国広・・・・・

 

「つ・・・・・・」

 

 

 

  ――――鶴丸・・・・・・っ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――ん」

 

声が・・・・・・聞こえる

 

「――――さん」

 

ずっと聞きたかった、あいつの声が・・・・・・

 

「――――んば・・・・・り・・・・さん!」

 

あいつの・・・・・・沙紀の声が・・・・・・

 

 

 

「――――山姥切さんっ!!」

 

 

 

「・・・・・・っ」

 

はっと一気に意識が現実に引き戻される

 

頭がずきずきする

記憶が朧気で、はっきりしない

 

「俺、は・・・・・・」

 

状況が見えないまま、ゆっくりと頭を押さえながら起き上がった瞬間――――

 

「――――っ、山姥切さんっ!!」

 

そう自分を呼んで誰かがしがみ付いてきた

 

「あんた・・・・・・」

 

沙紀・・・・・・?

 

それは、沙紀だった

あの少女の姿の沙紀ではなく、山姥切国広の知っている沙紀だった

 

沙紀はぽろぽろと涙を流しながら山姥切国広にしがみ付いていた

 

「・・・・・・よかっ、・・・・・・っ、もう、目覚めない、か、と・・・・・・」

 

そう言って、涙を零しながら山姥切国広にしがみ付く彼女を見て

ああ、俺は戻って来た、のか・・・・・・と、思った

 

あの七年前の歪から――――・・・・・・

 

「・・・・・・すまない、心配かけた、か・・・・・・?」

 

そう、たどたどしく尋ねると、沙紀が顔を上げて

 

「――――心配しましたっ! どれほど―――どれ、ほ、ど・・・っ、う・・・・っうぅ・・・・・・」

 

そう言って、山姥切国広にしがみ付いたまま嗚咽を洩らした

それで初めて実感した

 

本当に、戻って来たのだと

 

「その・・・・・・」

 

手を伸ばしかけて、一瞬 躊躇う

だが、自分にしがみ付いて泣きじゃくる沙紀を見ていたら、その身体を抱きしめてやりたいと思った

 

そっと、手を伸ばして彼女の肩に触れる

彼女の肩は震えていた

 

ああ、俺は・・・・・・

 

「・・・・・・っ」

 

そのまま、おそるおそる沙紀の身体を抱きしめる様に腕を回した

それに反応する様に、泣いている沙紀の手が山姥切国広の背に回される

 

本当に

 

「・・・・・・すまない」

 

戻って来たんだ・・・・・・

 

「・・・・・・ただいま・・・」

 

そう言って、ぐっと彼女を抱きしめる手に力を籠める

 

 

「――――ただいま、沙紀・・・・・」

 

 

一瞬、沙紀が大きく目を見開く

が次の瞬間、涙を流したまま嬉しそうに笑いながら

 

「・・・・・・おかえりなさい、山姥切さん」

 

そう言って、優しく寄り添うように――――

 

事情は聞かない

彼が何を見てきて、何を感じたのか・・・・・・

 

ただ沙紀は、山姥切国広が自分からいつか話してくれることがあったならば――――

その時は――――・・・・・・

 

そう、願いながら静かにその瞳を閉じたのだった――――・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

え~この話は、「本編 序章 6話目」の「追想」です

本編では、鶴が語るだけのシーンですが・・・・・・

それを、まんばが実体験したという話です

 

 

2023.03.27