華ノ嘔戀 外界ノ章
       ~紅姫竜胆編~

 

◆ 鶴丸国永夢

  「‟初”デートしないか?」

    (「華ノ嘔戀 外界ノ章 竜胆譚」より)

 

 

 

 

――――春季皇霊祭遙拝式の翌日

 

 

沙紀は春分の日に石上神宮で行われる“春季皇霊祭遙拝式”の為に、現世に赴いていた

これは、毎年“春分の日”に行われる式典であり、宮中では皇霊殿で歴代天皇・皇族の御霊に対し式典が行われる

各社その日に合わせて、遙拝式が行われるのだ

 

遙拝式とは参列できない皇族ではない者達が、故人を偲びお別れをしていただくためのものである

故に、沙紀は石上神宮の“神凪”として出席せねばならなかったのだ

 

そして、その式典も無事に終わり、ほっとする

奥の宮の屋敷で、久方ぶりに父である一誠と話をしていた時だった

 

「・・・・・・ああ、分かった。 気を付けて帰れよ」

 

そんな声が聞こえてきて、何かあったのかと沙紀が居間からひょっこり顔を出すと

廊下の端で鶴丸と山姥切国広が話しをしていた

 

この2振は、護衛の為について来たのだが・・・・・・

どうやら、山姥切国広が先に“本丸”に帰るらしい

 

「・・・・・・・・・・・・?」

 

何かあったのだろうか?

そう思って沙紀が首を傾げていると、鶴丸が小さく息を吐きながらこちらへやって来た

 

「あの、りんさん? 何か問題でも――――」

 

「あったのですか?」と、問おうとした所、鶴丸が何でもない事の様に

 

「ああ、ちょっとな。 光忠から近侍への救援要請ってやつだ」

 

本来、沙紀の“本丸”はいつも山姥切国広が近侍を務めている

近侍とは、“審神者”を補佐する役目で、他の刀剣男士の統括などもしていた

 

今回、山姥切国広こちらへ同行すると決まった時、臨時で燭台切が近侍をしているのだ

その燭台切からの要はヘルプ要請である

 

「・・・・・・それなら、私達も戻った方がいいのでは?」

 

本当なら明日戻る筈だったが、1日前倒してもさして問題はない

すると、鶴丸は何でもない事の様に

 

「ああ、いや、平気だ。 国広が対応出来る案件だったから任せた。 俺達は明日の夕方にでも戻ってくればいいってさ」

 

「そう、ですか・・・・・・」

 

そう言われてしまっては、無理に「戻ります」とは言えない

沙紀が少し「頼られていない」事に対し、落ち込んだ仕草をすると、鶴丸が不意に彼女の顔を覗き込むと―――――

 

「沙紀、明日は“デート”しないか?」

 

そう言って笑ったのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――翌日

 

沙紀にしては珍しく洋装をしてみた

いつもの和装でもよかったのだが・・・・・・それだと、鶴丸と一緒に歩いていて浮いてしまいそうだったからだ

 

駅の近くの改札から出た場所で待ち合わせをする事になった

そう――――鶴丸曰はく

 

「まずは、“待ち合わせ”だ」

 

と言って、少し早い時間に自身のマンションに帰って行ったのだ

沙紀は、一誠に挨拶をした後、そのまま石上神宮の奥宮の屋敷から出てきた

 

よくよく考えたら、誰かと待ち合わせなんてした事はなく――――

少し緊張してしまう

 

「・・・・・・変じゃない、わ、よね・・・・?」

 

後ろのショーウィンドウに映る自分の姿を見て、今一度確認する

余り洋装自体着慣れなれていないので、おかしいのか、合っているのかよくわからない

 

そんな風にそわそわしている時だった

 

「あれぇ~? 君ひとり?」

 

「暇なら、俺達と遊ばない?」

 

不意に、見知らぬ二人組の男に話しかけられた

 

「え・・・・・・?」

 

沙紀は何が起きたのか理解できず、その躑躅色の瞳を瞬かせた

 

「あの、何か御用でしょうか?」

 

そう訊ねると、男たちは顔を見合わせるとぷはっと笑いながら、突然沙紀の肩を抱いてきた

 

「あ、あの・・・・・・っ」

 

「そうそう、“ご用”があるんだよね~君に」

 

「だから、今からお兄さんたちと一緒に行こ?」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

明らかに普通ではないと思われるこの状況に、流石の沙紀も気づいた

沙紀は相手をキッと睨むと

 

「申し訳ございませんが、連れを待っている最中ですので―――――」

 

そう言うが、男たちはにやにやしたまま

 

「じゃぁ、その連れさんも一緒にでいいじゃん」

 

「っていうか、それ、すごんでるの? 超可愛い~~」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

言葉が通じない人種とは、まさにこの事だ

沙紀は、小さく息を吐いた

 

こんな事で、“呼び出す”事はしたくなかったが―――――

 

「や・・・・・・」

 

山姥切国広の名を口にしようとした時だった

 

「――――おっと、悪いな。 こいつ、俺の連れ・・・・なんだ。 折角だが――――お前らに用はねえよ」

 

聞き覚えのある声が聞こえてきて、沙紀がはっと顔を上げた

するとそこには、黒いジャケットを羽織った鶴丸がいた

 

鶴丸は、ばしっと沙紀の肩を抱く男の手を払いのけると

 

「とっとと失せな。 ――――あと数秒遅かったらお前らの首飛んでたぞ。 俺に感謝するんだな」

 

そう言って、沙紀の肩を抱くとそのまま後ろ背に庇う様に立ちはだかった

 

「は? なに言ってんだこいつ」

 

「頭おかしいんじゃねえの?」

 

“首が飛ぶ”の意味を理解していないらしい

 

「――――はっ、これだから低能なやつは嫌いなんだ。 言葉通りに受け取れよ」

 

その言葉がカチンと来たのか

 

「色男の兄ちゃん、そっちこそことば選びな!!」

 

そう言って、殴りかかってきた

が――――鶴丸はあっさりそれを受け流すと

 

「沙紀、これは正当防衛な」

 

ひと言、そう付け加えた瞬間―――――

男の腕をそのまま がしっとつかむとぐっと上に捻り上げた

 

「いってえええええ!!!」

 

腕を捻り上げられた男が叫ぶ

だが、鶴丸は容赦なかった

そのままその男の腹を蹴り飛ばす

 

「―――うっわっ」

 

その蹴り飛ばした男が、もう一人の男にぶつかり 二人の身体が後方へ吹っ飛んでいき電柱にぶつかる

 

「――――ま、この程度のしておいてやるよ。 感謝するんだな」

 

鶴丸がそう言った時だった

 

「おおおおおおお!! すげぇ兄ちゃん!!」

 

「かっこいい!!!」

 

と、いつの間に出来たのか

ギャラリーの人たりが歓声を上げていた

 

「りんさん・・・・・・」

 

沙紀が慌てて鶴丸に話しかける

 

「っと、こりやぁ悪目立ちし過ぎたな。 小野瀬にバレたらどやされる。 ――――沙紀、行こう」

 

そう言って、沙紀の手を掴むと、早々とその場から離れたのだった

 

 

 

 

 

 

   ****    ****

 

 

 

 

何とか、ギャラリーの輪から抜け出し、人の少なさそうな歩道を歩く

鶴丸は歩調を下げると、沙紀に合わせて歩き始めた

 

「悪かったな、怖い思いさせて――――」

 

鶴丸がそう謝るが、沙紀は小さく首を振り

 

「いえ、大丈夫です。 それに――――りんさんが、来てくださいましたし。 でも、少しびっくりしました。 りんさん、体術も取得なさっているのですか?」

 

「ん? あ――――あれな。 ほら、俺は政府で長い事SPの依頼請け負ってたからな、まさか毎回 刀振り回す訳にはいかないだろう? だから、一通りは出来るぜ?」

 

そう言って、銃を撃つ真似もしてみせる

 

「そう――――なのですね・・・・・・すみません、私があの時りんさんを顕現させてしまったからですよね?」

 

沙紀は、少し申し訳なさそうにそう言うが

鶴丸は「いや」と横に首を振り

 

「俺は、あの時沙紀が顕現させたのが俺で良かったと思ってる。 でなければ、ここに俺はいなかったからな――――」

 

「あ・・・・・・」

 

ざあああああ と、風が吹いた

沙紀の長い漆黒の髪が揺れる

 

「俺は――――沙紀に逢えてよかったと思ってる。 もし、あの時落ちたのが俺ではなく一期だった場合、ここにいるのは一期だったかもしれないと思うと、ぞっとするな。 だから、これで良かったんだよ」

 

そう言って、そっと沙紀の頬に触れる

 

「りんさん・・・・・・」

 

鶴丸はこつんっと、そのまま沙紀の額に自身の額をくっ付けると

 

「だから沙紀――――俺をこの世界に顕現させてくれて、ありがとな」

 

そう言って、鶴丸の手がそっと沙紀の唇に触れた

 

「あ・・・・・・」

 

そのまま口付けが降ってくる

沙紀はそのままその口付けを受け入れると、ぎゅっと鶴丸のジャケットを掴んだ

 

「り、りんさ・・・・・・ひと、が――――」

 

見ているのに

それでも、構わず鶴丸は口付けの角度を変えて何度もしてくる

 

行き交う人が気になったが、それでも鶴丸はそのままぎゅっと沙紀を抱きしめると、深く口付けてきた

 

「・・・・・・っ、ぁ・・・り、りんさ・・・・・・」

 

やっと解放された頃には、もう頭がくらくらしていた

 

「悪い、ついな。 今日の恰好も可愛すぎて、抑えが効かなかった」

 

そう言って、沙紀の頭を撫でる

そう言われてしまうと、反論するに出来ない

 

「もう・・・・・・」

 

沙紀は、赤くなった顔を押さえながらそう呟いた

そして、ちらっと鶴丸を見て少し恥ずかしそうに

 

「その・・・・・・りんさんも、素敵です。 今日のお姿・・・・もちろん、いつものお姿も素敵ですが・・・・・・」

 

言っていて恥ずかしくなり、顔がどんどん赤くなる

そんな沙紀を見て、鶴丸がふっと笑うと沙紀の頭を撫でた

 

「ありがとな、嬉しいよ」

 

そう言って、鶴丸がすっと手を出した

その仕草に沙紀がくすっと笑って手を乗せる

そしてそのまま指を絡め合うと歩き始めた

 

「とりあえず、もう昼だし食事にでもいくか。 何が食いたい?」

 

改めて何が食べたいかと問われると悩む

 

「そう、ですね・・・・・・。 “本丸”も奥の宮も基本和食が多いので、それ以外でしょうか」

 

「確かにな・・・・・・それなら、いっその事中華でも行くか?」

 

「え? 中華料理ですか? その、お高くないです?」

 

「ああ、たまにはいだろう」

 

 

そう言って、向かったのは有名な中華料理の店だった

店構えからして明らかに高そうである

 

だが、鶴丸は平気な顔して沙紀の手を引いて入った

入ると店員が挨拶をしてくる

そして、そのまま2人しかいないのに円形のターンテーブルのある個室へ案内された

 

メニューを見ると、一皿の単価が既にいい値段を超えている

 

「こういうのは、一人で一皿じゃなくて皆で取り分けるんだよ」

 

そう言って、いくつか店員に頼む

すると、最初に頼んでおいた中国茶が運ばれてきた

 

それはガラスの器に入っていて、お湯を注ぐと綺麗な桜色の花が開いていった

 

「綺麗・・・・・・」

 

思わず、沙紀がそう呟くと

鶴丸は笑いながら

 

「工芸茶は、見ても楽しめる茶だからな」

 

そう言って、店員に先に沙紀に渡す様に促す

杯を受け取ってひと口飲むと、茉莉花茶の香りと味がした

 

「・・・・・飲みやすいのですね。 少し意外です」

 

沙紀がそう答えると、鶴丸が「あ~」と声を洩らした

 

「茉莉花茶は、飲みにくいって苦手意識持ってる奴は多いけど、本物の茉莉花茶は美味いんだよな」

 

そういいながら、鶴丸も茶を口に含む

そうしている内に、料理が次々と運ばれてきた

 

定番の、青椒肉絲から、黒酢酢豚 他には白湯拉麺や、油淋鶏など

2人で食べるのは充分な量だった

 

食後のお茶に高級鉄観音を頼む

お茶なのになぜか甘味を感じる不思議な茶だった

お茶の甘味が、胃の中を整えてくれるようで、すっと入ってくる

 

そして、デザートは杏仁豆腐と黒胡麻団子を頼んで2人で分け合った

 

初めて食べるそれらはとても美味しく、沙紀は嬉しそうに笑っていた

 

「今度、光忠に頼んでみるか」

 

「・・・・・・燭台切さんなら作ってしまいそうですね」

 

「だろ?」

 

そんな会話をしながら清算をして店を出る

店の外へ出ると、太陽の眩しい日差しが目に入った

 

思わず目を細めると、鶴丸は沙紀が日陰になる様に立つ

 

「きみは、こっちだ」

 

そう言って、日差しのあまり当たらない方向にいかされる

そんな鶴丸の気遣いが、ひどく嬉しく感じた

 

そうして食後の散歩がてらウィンドウショッピングをしながら、誰に似合いそうだとか、あれが可愛いだとか、他愛ない話をする

 

まるで、本当に“普通のデート”の様で少し恥ずかしい気もちもあったが、楽しい気持ちの方が勝っていた

 

その後、公園のベンチに座って休憩をする

鶴丸が気を利かせた様に自販機から飲み物を買ってきて沙紀に渡した

 

「ありがとうございます」

 

まるで、沙紀の心を読んだかのようなタイミングに、思わず笑みがこぼれてしまう

 

ふと、鶴丸が何かを思い出したかのようにポケットから端末を取り出して

 

「ちょと、ごめんな」

 

そう沙紀に断って誰かに通話を繋げた

 

『あ! 鶴さん!! 丁度良かった~~~』

 

え・・・・・・? この声・・・・・・

 

それは、“本丸”の燭台切の声だった

なんか問題でもあったのだろうかと、沙紀が首を傾げるが

そういえば、昨夜 山姥切国広が先に帰ったのを思い出す

 

鶴丸は、一度だけ沙紀を見た後

 

「光忠、国広に頼んだ物は手に入ったのか?」

 

『それがさ~~万屋も売切れててないままなんだよ! だから、現世いた山姥切くんに頼もうと思ったのに――――いう前に戻って来ちゃって・・・・・・』

 

「あ~分かった分かった、買って帰るから」

 

『ほんと!? 助かるよ~じゃぁ、よろしくね!』

 

そこで通話がっきれた

 

「・・・・・・えっと?」

 

イマイチ話が掴めず、沙紀が首を傾げる

すると、鶴丸がさらっと

 

「ん? ああ、光忠が足りない物があるから、帰りにこっちで買ってきてほしいってさ」

 

「え、ええ? それなら急いだほうがいのでは――――」

 

「まぁ、スーパーが閉まる前に行けばいいさ」

 

「す、すーぱー?」

 

初めて聞くその言葉に、沙紀が首を傾げる

それで気付いたのか、鶴丸が「ああ・・・・・・」と声を洩らし

 

「そっか、沙紀はスーパーとは無縁だったもんな。 要は、色々な食料品とか売ってたりする店だよ」

 

「・・・・・・その様なお店が?」

 

心なしか、沙紀の目がきらきらしている

鶴丸が少し考え

 

「行くか? スーパー」

 

「はい」

 

デート中にスーパーマーケットに行くのもどうかと思うが・・・・・・

まぁ、沙紀が喜ぶならいいかという結論に達したようである

 

それから、近くのスーパーマーケットによると目的の物を探す

沙紀はというと、終始目をきらきらさせて、鶴丸の腕を掴んだままあちらこちらを見ていた

 

そんな感じで“初デート”は終わったのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――“竜胆の本丸”内・厨

 

 

「ほら、お望みのものだ!!」

 

そう言って帰ってくるなり、鶴丸が光忠の前にどんっと「醤油」のボトルを置いた

すると、光忠は嬉しそうに

 

「よかったぁ~、無くなってて困ってたんだよ!!」

 

そう言って、醤油に合掌する

 

「っていうか、国広が現世離れる前に伝えろよな」

 

鶴丸が半分怒り調子でそういうものだから

燭台切も慌てて弁明する様に

 

「ほんっとごめん!! 言おうとしたら、もう目の前に居たんだよね~山姥切くんが・・・・・・」

 

無駄に機動が速くて困るとはこの事である

これが長谷部だったならば、もっと速かったであろう

 

「ったく、まさかデートの締めがスーパーマーケットとか、あるか!? 普通!!」

 

鶴丸の言い分はもっともだが・・・・・・

 

「そ、それは、本当にごめんよ。 で、でもほら! 醤油ないと出来るものが限られちゃうし・・・・・・」

 

「あ~はいはい、ソウデスネ」

 

鶴丸の反応に、燭台切が苦笑いしか浮かべられな方のは、いうまでもない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

予定の品が急遽「サンド」になった仕舞った為、

ノーマルを用意しましたwww

 

2023.03.24