◆ 鶴丸国永&大包平&山姥切国広
「クリスマス・デート(?)」
(「華ノ嘔戀 外界ノ章 竜胆譚」より)
―――――12月24日 “本丸・竜胆”
その日、“本丸”内では大掃除をしている、短刀達の姿があちらこちらで見て取れた
元気に動くその行動力は、流石だと思ってしまう
沙紀は、とりあえず年内に溜まった仕事を片付けるべく、机の上で端末を立ち上げてパネルを操作しながら、資料と照らし合わせをしていた
一個一個丁寧にズレている個所を調整していく
どのくらいそうしていただろうか・・・・・・
時計を見ると、最初は長針が9の値を指していたのに、既に12の値を過ぎていた
「ん・・・・・・」
約3時間と言った所だろうか
ぐぐっと凝り固まった肩をほごす様にぐいっと手を伸ばす
と、その時だった
不意に、伸ばした手に誰かの手が重なった
「え?!」
一瞬、何かと思い、沙紀が慌てて手を引っ込めようとする
が――――・・・・・・
そのままぐいっと手を引かれた
「きゃっ・・・・・・!」
突然の事に、沙紀が体制を崩した
倒れる―――――
そう思った時だった
力強い腕が沙紀を後ろから抱きしめた
「――――っと、悪い悪い。 そんなに驚くとは思わなくてな!」
え・・・・・・?
その声を聞いた瞬間、沙紀が慌ててふり返る
そこにいたのは――――・・・・・・
「お、お、大包平さ、ん・・・・・・?」
この“本丸”にいる筈のない大包平だった
だが、当の本人はそんな事気にした様子もなく
「沙紀、今日今から時間あるか?」
笑いながらそう言う
「今から、ですか・・・・・・? それなら、仕事が片付いたら短刀さん達の手伝いをしようと――――」
「あ~それキャンセルしろ。 今日は今から俺と現世へ行くぞ!」
「え? あ,あの・・・・・・? 話がよく――――」
「わからないのですが」と言い終わる前に、そのままぐいっと立たされた
「ほら、さっさと着替えて来い! 外で、待っててやるから」
「え? えっと・・・・・・」
それだけ言い残すと、大包平が部屋から出ていく
困ったのは沙紀だ
いきなり現世へ行くと言われても、何のために何しに行くのか・・・・・・
さっぱりわからない
かといってこのまま他の“本丸”の大包平を蔑ろにする訳にもいかない
沙紀はとりあえず、巫女装族から着物に着替える
髪を少し整えてから、廊下で待っているであろう大包平の元へ行った
「お待たせいたしました」
そう言って、声を掛けると
短刀と遊んでいた大包平が振り返る
「ああ、来たか――――って、沙紀? お前、洋服は持っていないのか?」
「え・・・・・・?」
まさかそこを追求されるとは思わず、沙紀がまじ・・・・・・と自身の恰好を見る
白地に淡雪模様の着物だ
差し色に、赤い帯紐をしている
そんな沙紀をじっと見て
「ふむ・・・・・・和装も悪くない、いやむしろ良いが・・・・・・」
「・・・・・・?」
大包平の言わんとする事が分からず、沙紀が首を傾げる
すると、何か思いついたかのように大包平がぽんっと手を叩いた
「まぁ、そこは任せておけ! この俺様が一緒だからな!!」
「・・・・・・・・?」
結局、訳が分からないまま沙紀は大包平に連れられて現世に行く事になったのだ
**** ****
―――― 現世・東京
「で?」
大包平が顔を引き攣らせながら、目の前の2人を見た
そう――――なぜか、沙紀だけ誘ったのに
いつ、どこで知ったのか鶴丸と山姥切国広もいたのだ
しかも、ちゃっかり現世の服装に着替えている
「なんで貴様らがいる!!?」
怒りの沸点が頂点に達したのか、大包平がそう叫んだ
すると、鶴丸と山姥切国広はけろっとしたまま
「お前と、沙紀だけ現世に行かせる訳ないだろう。 魂胆見え見えなんだよ」
「・・・・・・俺は、こいつの護衛だからな」
と、さも当然の様にさらっと答えてきた
「デートにこんなデカイこぶつきがあるかぁぁぁぁぁぁ!!!!」
大包平その悲痛なまでの叫びに、鶴丸が「へぇ・・・・・・」とその口元に笑みを浮かべ
「デート? 俺が沙紀とお前の2人だけでデートに行くのを許すと思うか?」
「お前こそ、何度も二人で出かけた事あるだろうが! ここは、俺に譲れ!!!」
「嫌だと言ったら?」
「貴様ぁ・・・・・・!」
まさかに、一触即発
と、言うシーンを山姥切国広が気を利かせて買ってきたクレープを沙紀に渡していた
「そこ!! 勝手に、デート気分を味わってるんじゃなあああい!!」
という、大包平の鋭い突っ込みが入る
沙紀は沙紀で、初めて口にしたクレープという品に、感動していた
「山姥切さん、これとっても美味しいのですね」
「・・・・・・そうか、こっちも食うか?」
そう言って、もう一つ自分用に持っていたクレープを差し出す
山姥切国広が持っていたのはクリームと苺がふんだんに使われたクレープだった
「でも、それは・・・・・・」
「安心しろ、まだ口は付けていない。 あんたが食べたがると思って」
「・・・・・・え・・」
そう言われると、なんか断り辛い
「あの・・・・・・では、ひと口だけ・・・」
恥ずかしいが
そう言って、そっと髪を避けて山姥切国広の持つクレームに口付ける
「・・・・・・っ、美味しい」
余りの美味しさに思わず言葉が洩れた
沙紀のその言葉に満足した様に、山姥切国広がふっと笑う
あ・・・・・・
初めて見た山姥切国広の笑顔に、思わず沙紀がかぁっと頬を赤らめた
思わず、視線を逸らしてしまう
「・・・・・・? どうした?」
突然視線を逸らした沙紀に、山姥切国広が首を傾げる
そんな二人の様子をみていた大包平と鶴丸が、何だか納得いかないという風に顔を顰めた
いかん! このままでは俺様の考えに考えぬいたデートコースが!!!
と、そんな事を考えている大包平とは裏腹に、鶴丸はにやりと笑みを浮かべ
山姥切国広に近づくと、その肩に手を置き
「国広? 抜け駆けは感心しないぞ・・・・・・勿論、この後は俺に任せてくれるよな?」
有無を言わさない鶴丸からの威圧に、一瞬山姥切国広がたじろぎそうになるが・・・・・・
「鶴丸、あんたは――――」
と何か言い掛けた時だった
「ちょ――――――と、待て!!!」
と、大包平が二人の間に割って入った
「貴様ら、俺と沙紀のデートをどれだけ邪魔すれば――――!」
「だから、二人でデートなんて俺が許すはずないだろうが」
「俺はこいつの護衛だ。 いついかなる時も傍にいるのが俺の使命だ」
と、三者三様の押し問答状態だった
慌てて沙紀が口を開く
「あ、あの・・・・・・、大包平さん。 その、皆で一緒では駄目ですか・・・・・・?」
そう言って、ちょこんと小首を傾げる
「~~~~~っ」
その仕草が余りにも可愛かったものだからか、大包平が悶絶していた
すると、すかさず鶴丸は ぱんっと手を叩き
「よし、じゃぁ、仕方ないから大包平も含めた4人で出かけようじゃないか」
「ぐ・・・・・・っ、お前ら・・・・・、覚えとけよ」
と、大包平が悔しそうに拳を握りしめたのは言うまでもない
**** ****
「ここは・・・・・・?」
最初に大包平に連れて来られたのは、沙紀でも知っている高級ブランドのショップだった
流石に躊躇われる場所に、沙紀が戸惑っていると
大包平がすかさず沙紀の肩を抱き
「ほら、沙紀。 行くぞ」
そう言って、平然としたまま中へと入っていく
「え、あ、あの・・・・・・大包平さ――――」
「ああ、お前らは好きにしろ」
そう言って、鶴丸と山姥切国広にそう言うが
鶴丸は躊躇うことなく、平然と入っていく
残された、山姥切国広は少し躊躇ながら頭のフードを深くかぶると鶴丸に続いた
「・・・・・・・・・・」
中に入ると、いかにも高そうです! という服が所狭しと並んでいた
大包平を見つけたスタッフがにっこりと微笑み
「まぁ、大包平様。 いらっしゃいませ。 本日は―――」
「ああ、こいつを頼む」
そう言って、ぐいっと沙紀の背を押した
「え? あ、あの・・・・・・?」
沙紀が戸惑っていると、スタッフはにっこりと微笑み
「こちらのお嬢様ですね。 畏まりました」
そう言って大包平に一礼すると、沙紀の方を見て
「さ、こちらへどうぞ」
そう言って、すっとさりげなく沙紀の背に手を回し奥の部屋へと連れていく
その様子を一部始終見ていた鶴丸と山姥切国広は唖然としたまま
「お前、手慣れ過ぎてないか?」
思わず、鶴丸が突っ込む
だが、大包平はさも当然の様に
「まぁ、よく連れて来られてるからな、こういう店には」
「ああ・・・・・・」
それで、言わんとする事が分かったのか、鶴丸が小さく息を吐いた
「お前の所は難儀だな。 気に入られ過ぎってのも。 まぁ、あの“審神者”じゃ仕方ないか・・・・・・」
「いつでも、変わってやれるぞ? 鶴丸」
「冗談だろ、俺は沙紀以外に仕える気はないからな」
と、きっぱりと言い切る
その時だった
「・・・・・・俺は外で待ってもいいか? こういう店は落ち着かない」
と、山姥切国広がそう言い残すと、店の外に出た
それを見た、大包平と鶴丸が
「あいつも、難儀だな・・・・・・慣れとくに越した事はないんだがな」
「まぁ、国広だからな、仕方ない」
その時だった
「お待たせいたしました」
先ほどのスタッフが戻って来た
沙紀を連れて
沙紀の姿を見た瞬間、大包平と鶴丸が驚いた様にその目を見開いた
いつのも沙紀とは異なり、赤いワンピースドレスに白いショールを羽織っていて
髪はハーフアップにされていて、軽く巻いてあった
白の蝶をあしらった髪飾りに、白い花びらが舞っている
そして、髪飾りと同じ蝶のモチーフのプラチナにガーネットがあしらわれたイヤリングと、ネックレス
いつもの薄化粧ではなく、ピンクグラデーションのアイシャドウに、
形の良い唇に塗られたピンクレッドの口紅が一層彼女の美しさを引き立てていた
「「・・・・・・・・・」」
二人が、言葉を失っていると
スタッフは自信ありげに
「如何ですか? 今日は、クリスマス・イブですし。 赤と白のコーディネートに致しました」
「いい・・・・・」
大包平がそう呟くと、つかつかと沙紀の元へ歩み寄る
「沙紀、凄く似合っている。 綺麗だ」
「・・・・・・・・っ」
大包平の真正面からの言葉に、沙紀がかぁっと頬を赤くさせる
「これはこのまま着ていく」
そう言って、カードをスタッフに渡す
スタッフはトレイにそのカードを預かると
「ありがとうございます」
そう言って、奥の部屋に入って行った
それを見ていた沙紀が慌てて
「あ、あの・・・・・・! ここのお品物はどれも高くて・・・・・・」
「ああ、気にするな。 俺からのささやかなプレゼントだ」
「ですが――――」
桁が違いすぎる
ここのショップの服はタグを見て驚いた
0がいったい幾つ付いていたであろうか・・・・・・
とても、買っていただくには高価すぎだった
確かに、沙紀の着る着物もそれなりに値段は張る
しかし、ここは次元が違った
それ以上の値段だったのだ
まるで、助け舟を求めるかのように沙紀が鶴丸を見た
すると、鶴丸は小さく息を吐き
「まぁ、こいつなりに考えたんだろう。 素直に受け取ってやれ」
「りんさんまで・・・・・・っ」
「その代わり―――――」
そう言って、鶴丸までもがカードを取り出した
「ここの払いの半分は俺ので落とせ」
そう言って、近くにいたスタッフにカードを渡す
スタッフが頭を下げて、慌てて奥へと入って行った
「このくらいならいいだろう? 大包平」
「・・・・・・ふん、俺様のだけで充分払えるがな!」
「まぁ、そう言うなって。 ここは、俺にも花を持たせろよ」
そう言って、沙紀を見る
沙紀はというと、困惑した様にその躑躅色の瞳落としていた
それを見た、鶴丸はくすっと笑いながら沙紀に近づくと
「沙紀、こういう時は素直に受け取れっていっただろう? それとも何か? 俺と大包平からだと不満か?」
鶴丸のその言葉に、沙紀が慌てて首を振る
「あ、いえ、そういう訳では・・・・・・ただ、その」
「ん?」
「どう、お二人にお返しすればいいのかと・・・・・・」
「ああ、そんな事か――――なら、キス1つで許してやるよ。 ああ、大包平には別のものな」
という鶴丸の言葉に、大包平がストップをかけた
「ちょっと待て、鶴丸! 貴様が後なのだから先に俺が沙紀から褒美を貰うのが常というものだろうが!」
と、また揉めそうだったので
沙紀が慌てて二人の間に入り
「も、もう、喧嘩したらキスも何もしません!!!」
し―――――ん・・・・・・
辺りが一気に静まり返る
周りのお客もスタッフも、どうなるのか興味半分、好奇心半分でこちらを見ている
「う・・・・・・」
自分で墓穴を掘った事に気付き、沙紀が真っ赤になる
恥ずかしい・・・・・・っ
恥ずかしさのあまり、早くこのショップから出たくて仕方なかった
「あ、ああ、あの・・・・・・っ、わ、私、山姥切さんが心配なので先に出ますね!」
そう言い残すと、足早にショップの外へ出た
逃げた・・・・・・
と、周りのお客とスタッフが思ったのは言うまでもない
**** ****
ショップの外に出ると、山姥切国広を探した
が、見当たらない
「山姥切さん・・・・・・?」
何処へ行ったのかと、辺りを見回している時だった
「あっれ~~? キレーなおねえさん一人~?」
「彼氏と逸れたのかな?」
と、突然チャラそうな男二人に声を掛けられた
一瞬、何が起きたのかと、沙紀が困惑していると
男達はにやりと笑みを浮かべ
「こんな日に、おねえさんみたいなキレーな人,放ってる彼氏なんて無視って俺らと遊ばない?」
「一緒に、飯行こうよ」
と、ぐいぐい押してきて、あっという間に壁際に追い込まれた
「あ、あの・・・・・・」
すると、男の1人が沙紀の髪に顔を寄せた
「おねえさん、すげぇいい匂いする。 俺これ、好きかも~」
「まじで? 俺も気になるな~」
そう言って、もう一人も顔を近づけてきた
「や、やめ・・・・・・っ」
誰か・・・・・・っ
その時だった
突然、ひゅんっと男たちの前に何かが飛んできた
「な、なんだ!?」
男たちが慌ててそちらを見ると
殺気だった山姥切国広がその手に刀を持って立っていた
「・・・・・・それ以上、こいつに近づいたら斬る」
「山姥切さん・・・・・・っ!!」
沙紀が、咄嗟に男の手から逃れ山姥切国広の方へと駆け寄る
すかさず、山姥切国広は沙紀の手を取ると自分の背に庇った
男たちは一瞬、唖然としていたが
突然、声を上げて笑い出した
「ははははは! 斬るだって! おにーさん、この国じゃ銃刀法違反って知ってる~?」
「斬れるなら斬ってみろよ」
男たちの子バカにするその言葉に、山姥切国広の翡翠の瞳が冷たく細められたかともうと
すらっと手に持っていた「山姥切国広」を抜きかけた
と、その時だった
「はい、そこまで―――お前さん達、死にたくなけりゃ、とっとと何処か行きな」
怒気の混じった声が背後から聞こえてきた
ぎょっとして男達が振り向くと、そこには鶴丸と大包平が立っていた
「貴様ら、俺の女に手を出そうとするとは・・・・・・命が惜しくないらしいな」
と、大包平は殺る気満々だ
「で?」
三人が沙紀の前に庇う様に立ちはだかる
「まだ、やろうってのかい?」
鶴丸がにやりと笑みを浮かべた
男たちが顔を震え上がって逃げたのは言うまでもない
彼らの姿が見えなくなったところで、鶴丸は、「はぁ・・・・・・」と溜息を洩らし
「国広、とりあえずそれは仕舞え。 流石に街中だと目立つ」
「・・・・・・わかった」
「でも、お前が居てくれて助かった。 ありがとな」
「別に、礼を言われる様な理由はない。 俺は、俺のすべきことをしたまでだ」
そんなやりとりと見ていた大包平は、半分呆れた様に
「お前ら、いつもこんなことしてナンパを追い払ってるのか?」
すると、その言葉に鶴丸はあっけらかんと
「仕方ないだろう? 沙紀は世間知らずだし、見た目はこれだし? 多いんだよ、こういう事」
だから、迂闊に現世に一人で出歩かせられない――――と
まぁ、それは大包平にもよく理解出来た
だが、何だかそんな彼らが羨ましくも感じた
もし、自分があの“本丸”を出られたら――――・・・・・・
そう、思ってしまう
そんな事、不可能だと分かっていても
願わずにはいられなかった
「おーい、大包平! 行くぞ―――?」
鶴丸が大包平を呼ぶ
その先には山姥切国広と沙紀もいた
まぁ、こんな日も悪くないか・・・・・・
そう思いつつ
「待て! 俺が沙紀をエスコートするんだ!!」
と言いながら、翔っていった
いつか、この“想い”が叶う事を願いながら――――・・・・・・
クリスマス・デート(?)なのかな?ですwww
時期的には、今本編で書いている弐ノ章終了後・参ノ章で‟華号”を授与された後~大侵寇前ぐらいです
元々、連隊戦がノーカネヒラだったので、
イエスカネヒラ祈願で書きましたww
結果・・・・・・・・・・・・
たぬきが大量発生しただけでしたwww
意味ねえええええええ
2022.12.25