華ノ嘔戀 外界ノ章
       ~紅姫竜胆編~

 

◆ 一期一振 「ブルースターの花言葉」

    (「華ノ嘔戀 外界ノ章 瑠璃唐譚」より)

 

 

「ねぇねぇ、どう思う?」

 

時間は、昼間のうららかな時――――・・・・・・

今日は非番だった乱藤四郎は、呑気にお茶を飲みながら

傍で薬の調合をしている薬研藤四郎と、その手伝いをしていた後藤藤四郎に声を掛けた

 

「どうって・・・・・・何の話だよ?」

 

後藤が、首を傾げながら乱に尋ねる

すると、乱が身を乗り出して

 

「だ~か~ら!! いち兄とあるじさん!!」

 

「大将?」

 

「そう!! 絶対、いち兄はあるじさんの事、好きなんじゃないかなぁ~って思うの!! だってさ~あるじさんの事よく見てるし、何かあると、直ぐ駆けつけてるし、後ね後ね~~」

 

乱がぐっと力説する様に語りだす

 

とりあえず、乱の話を聞くとこうだ

乱達の兄である“いち兄”こと一期一振は、この本丸の主である、柚浅ゆあさ 椛音の事をよく見ているというのだ

 

ただ、廊下をすれ違うだけ

遠目にいた時

弟達に聞かせる話だったり

お酒の席では、酒に弱いが呑みたがる椛音に良く付き合って、そして世話しているという

 

「どう!? どうどう!!?」

 

こんなに、証拠があるのよ!!

と言わんばかりに、乱が二人に言い募るが・・・・・・

二人は顔を見合わせると

 

「普通じゃね?」

 

「普通じゃないか・・・・・・?」

 

と、至って冷静に答えた

その答えが不服だったのか・・・・・・乱がむぅっと頬を膨らませた

 

「も~~!! 二人とも人の話聞いてないでしょ――――!!!」

 

「乱、薬の調合中だから静かにしてくれ」

 

と、薬研に淡々と返されて 乱れが「うっ・・・・・・!!」と、口籠もる

確かに、いつも薬研は薬の調合中は、話しかけるなと言われている

1つミスれば、それは毒にもなりかねないからだ

 

「うう~~~」

 

薬研の言う事は正しい

でも、話を聞いて欲しい乱としては不服だった

 

すくっと、立ち上がるとすたすたと部屋を出て行こうとした

 

「おい、乱。 どこに行くんだよ?」

 

後藤が、慌てて乱に声を掛ける

すると、乱は

 

「あるじさんの所!! こうなったら、もう直接あるじさんにいち兄の事どう思ってるか聞いちゃうんだから!!」

 

「え!? お、おい・・・・・・っ!」

 

後藤が止めようとしたら、乱はそのまま部屋を飛び出していった

 

「いいのか、薬研・・・・・・あいつ、行っちゃったぞ?」

 

後藤が少し困ったかのように薬研に尋ねる

だが、薬研はどうでもよさそうに

 

「放っておけ。 乱も大将の所に行って答えを聞ければ満足するだろ」

 

「いや、そうだけどさ~」

 

う~ん、と困った様な顔をしながら、後藤が乱の去って行った方を見る

 

「なんか、厄介な事にならなけりゃぁいいけど・・・・・・」

 

この時――――

後藤が危惧した事が、まさかあんな事になるとは誰も思っていなかったのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ****    ****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「も~なんなのよ! 二人ともちっとも話聞いてくれる気ないんじゃん!!」

 

乱はぷりぷりと怒りながら廊下を歩いていた

行き先は、椛音の部屋だ

今の時間なら、きっと椛音は部屋で休憩している頃だろう

 

そう思って、椛音の部屋へと続く廊下の角を曲がった時だった

 

 

 

「椛音殿!!」

 

 

 

不意に、一期一振の声が聞こえてきて、乱が慌てて隠れた

そっと様子を窺う様に廊下の影から覗き見る

 

一期一振と椛音が何か言い争いをしている様だった

いつもは、大人しい椛音が何かを叫んでいて、それに対して一期一振が何か言っている

一期一振が彼女の手を取るが、椛音はそれを振りほどくとそのまま何処かへ行ってしまった

 

乱は思わず口元を押さえて、陰に隠れた

 

なんだか、見てはいけないものを見てしまった気がしたからだ

早くこの場を去らなければ――――

 

そう思ったのに、動揺のあまり肘が壁に当たった

かたんっと、小さく音が鳴る

 

やばっ!!

 

乱が慌てて息を潜めた

一期一振がこちらに気付かない様に願いながら

 

だが、一期一振にそれが通じる訳もなく――――・・・・・・

 

「――――誰か、いるのか?」

 

いつもより少し低めの声が廊下に響いた

 

ぎくりと、乱の身体が強張る

このままでは盗み見していたのがバレてしまう

 

「・・・・・・・・・・」

 

一期一振が一瞬、音のした方を見たが――――そのままその場を去って行った

一期一振が去ったのを確認した後、乱は一気に緊張が解けたのか、へなへな・・・・とその場に崩れ落ちた

 

「どうしよう・・・・・・」

 

まさか、喧嘩現場に居合わすなどとは思わなかったので、この後どうしたらいいのかが分からない

 

「いち兄、怒るかな・・・・・・」

 

事情を聞きに行きたいが、聞いたら聞いたで「何故、知ってるんだい?」と問われれば返答に困る

でも、このままにしておくのも――――・・・・・・

 

一期一振には聞けない

ならば・・・・・・

 

「よ、よし!!」

 

ばしっと自分の頬を叩き活を入れると、乱は椛音が去っていた方へと走って行った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ****    ****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・」

 

椛音は、小さく息を吐くと目の前で咲き誇る、ブルースターの花を見つめていた

この本丸の華号でもある花だ

 

一期一振と喧嘩した

最初は些細な理由だった

 

それなのに、気が付けば声を荒らげてしまった

でも、一期一振に言葉で諭されて、言い返す事が出来なくて

それが何だか悔しくて、逃げる様にその場から去った

 

「はぁ・・・・・」

 

思わず、溜息が出てしまう

 

私、何をしているのだろう・・・・・・

 

つまらない意地から、一期一振にあんな態度を取ってしまった事が悔やまれる

いつもそうだ

些細な事で、意固地になって一期一振に迷惑をかけている

 

「そろそろ、近侍・・・・・・変えた方がいいのかな・・・」

 

いつも、嫌な顔ひとつせずに近侍をしてくれている一期一振に申し訳がない

それならば、いっその事 近侍を変えて距離を置いた方が――――・・・・・・

 

そう思った時だった

 

「あるじさん・・・・・・いち兄、近侍から外しちゃうの・・・・?」

 

「え・・・・・・?」

 

不意に聞こえてきた声に、はっとして顔を上げると――――・・・・・・

いつの間に傍まで来たのか、乱が不安そうな顔でこちらを見ていた

 

「乱ちゃん・・・・・・?」

 

椛音が驚いてその青藤色瞳を瞬かせた

だが、乱はそれ気付かずに

 

「いち兄の事、嫌いになっちゃったの・・・・・・?」

 

今にも泣きそうな、顔でそういう乱に

椛音が慌てて口を開く

 

「あ、ち、違うの・・・・・・っ! そういう意味ではなくて――――その、ただ・・・・・・」

 

そう、ただ・・・・・・

 

「・・・・・・これ以上、一期さんに迷惑かけるのは・・・・・・って、思って・・・」

 

「そんなっ! いち兄は、あるじさんの事を迷惑だなんて思ってないよ!!」

 

「でも・・・・・今日も、その・・・・・・迷惑かけてしまったし・・・・・・」

 

今日だけじゃない

いつもいつも、そうだった

 

椛音が意固地になると、一期一振が優しく諭してくれる

それが、嬉しくもあり、申し訳なくもあった

そして、いつもそんな態度を取ってしまう自分が嫌になる・・・・・・

 

椛音は、ふいっと乱から顔を背けると

 

「・・・・・・きっと、一期さんは私に呆れているわ・・・・」

 

「呆れてなんて・・・・・・っ!」

 

「ううん、呆れてる・・・・・・、きっともう、私は傍にはいない方がいいのよ・・・・・」

 

そう言って、そのまま椛音は膝を抱えて顔を埋めてしまった

 

「あるじさん・・・・・・」

 

乱は椛音になんと言葉を掛けていいのか分からなかった

ただ、分かる事はこのままでは駄目だという事だった

 

どうしよう、どうすれば・・・・・・

 

乱が何かに助けを求めるかのように辺りを見渡した

瞬間――――

 

「あ」

 

視界にブルースターの花が入った

 

「ねぇ、あるじさん・・・・・・この間本で読んだんだけど、花って“花言葉”って言うのがあるんだね」

 

「え・・・・・・?」

 

唐突にそう言われて椛音が、思わず顔を上げる

だが、乱はブルースターを見ながら

 

「ボクさ、最初にこの本丸の華号にもなってるブルースターの花言葉調べたんだ。 そしたらさ・・・・・・」

 

「・・・・・・ブルースターの花言葉・・・?」

 

「うん、そしたらその中の一つに“信じあう心”って書いてあったの! これってそういうことなんじゃないかな? だから、もう一度信じてみない? いち兄の事」

 

「・・・・・・“信じあう心”・・・」

 

「ボクは、ブルースター。 あるじさんにぴったりだと思うよ! だから――――・・・・・・」

 

そこで一旦乱が言葉を切り、にこっと笑うと

 

「後は、いち兄と話してみて! ボクは行くからさ」

 

「え? あ、あの・・・・・・?」

 

突然、何を言われたのかともうと、乱の後ろに一期一振が立っていた

 

「一期さん・・・・・・?」

 

え・・・・いつから・・・・・・?

って、今の話聞かれ――――・・・・・・

 

そう思った瞬間、椛音の顔がかぁっと熱を帯びるのが分かった

そんな椛音を見て、乱がにんまりと笑うと

 

「じゃぁ、後はいち兄 お願いね!!」

 

そう言って、とんっと一期一振の背を叩くと乱が去って行った

 

「・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・」

 

残された二人は思わず無言になってしまう

 

「あ・・・・・その・・・・」

 

沈黙に耐えかねた椛音が何かを言おうとするが、何を言っていいのか分からず、言葉に出来なかった

熱を帯びた顔が、さらに赤くなる

 

と、その時だった

不意に一期一振が口を開いた

 

「椛音殿、傍に行っても宜しいですか?」

 

「え・・・・・・、あ、は、はい・・・・」

 

なんとかそう答えると、一期一振の気配がすぐ傍まで近づいてきたのが分かった

すっと、一期一振が膝を折り椛音のすぐ横に来る

 

「・・・・・・・・っ」

 

まさか、真横に来られるとは思っていなかったのか・・・・・・

椛音がますます顔を赤くして俯いた

 

「椛音殿・・・・・・お顔を見せてください」

 

「・・・・・・っ、そ、れは―――」

 

「顔が、見たいのです。 貴女の顔が――――」

 

そう言って、そっと一期一振の手が椛音の手に触れた

ぴくりっと、椛音が肩を震わす

 

「椛音殿・・・・・・」

 

「・・・・・・っ、あ、の・・・」

 

一期一振に促されるように、顔を上げた椛音の顔は真っ赤に染まっていた

一期一振の綺麗な瞳が視界に入る

 

「・・・・・・・・・っ」

 

見ていられなくて、思わず視線を逸らした

すると、すっと一期一振の手が椛音の長い漆黒の髪に触れた

 

「・・・・・・っ、ぁ・・・」

 

「顔を見せて下さらないのですか・・・・・・?」

 

「あ、あの、待っ・・・・・・」

 

「私は、貴女の今の顔が見たいです」

 

「や、その・・・・・・っ」

 

顔が上げられない

恥ずかしい・・・・・・

 

どんどん、顔が火照っていくのが分かる

 

「ま・・・・・・、って・・・・」

 

なんとかそう絞り出すが、一期一振がくすっと笑みを浮かべ

 

「待ちません」

 

そう言って、すいっと椛音の顔に一期一振の手が触れる

 

「ぁ・・・・・・」

 

そのままついっと、一期一振の方に顔を向けさせられた

一期一振は椛音の顔を見ると、またくすっと笑みを浮かべ

 

「真っ赤・・・・・・ですね」

 

「だ、だ・・・・・・から、待っ・・・・・て・・・・」

 

「どうしてこんなに顔を赤くなされているのですか? もしや、私を意識して下さっているのですか? そうだと、嬉しいのですが・・・・・・」

 

「・・・・・・・っ」

 

反則だと思った

そんな事言われたら・・・・・・こんなの肯定しているのも同然ではないか

 

何も言い返せなくて、顔だけじゃない

耳まで赤くなっているのが自分でも分かる

 

その時だった

 

「椛音殿――――今から私がする非礼をお許しください」

 

「え・・・・・・?」

 

何を言って――――

そう思った時だった

一期一振の顔が近づいてきたかと思うと、そっと椛音を引き寄せた

 

 

瞬間―――唇が、触れた 気がした

 

 

――――え?

 

何が起きたのか分からなかった

 

「いち、ご、さ・・・・・・ぁ・・・・っ」

 

また、唇が触れた

そのまま、ぐいっと抱き寄せられる

 

「椛音殿・・・・・・嫌なら、私を押し退けてください」

 

「そ、んな・・・・・・と、・・・・・・ん」

 

触れられた箇所が熱い

 

「ン・・・・・・っ、ぁ・・・い、ちご、さ・・・・・・」

 

思わず、後退りそうになる が――――

一期一振がそれを許すはずもなく

 

「椛音殿・・・・・・、逃げないで・・・・・・」

 

「・・・・・・っ、待っ・・・・・んん・・・・・・」

 

「待って」と口を開こうとした瞬間、口付けが更に深くなった

そのまま、壁際まで追いやられる

 

「椛音殿・・・・・、こんな事を言う私をお許しください。 私は・・・・・・」

 

「・・・・・・っ、ぁ・・・ン・・・・」

 

「私は、貴女が何よりも大事なのです・・・・・・、この本丸の中で、貴女が一番大切なのです」

 

え・・・・・・?

 

「他の誰でもない、貴女だけが――――貴方だけを、愛してしまったのです」

 

「・・・・・・っ、いち、ご、さ・・・・・・」

 

「ただの刀の付喪神である、私などが“審神者”である貴女様を愛するなど―――おこがましいのは分かっています。 ですが――――」

 

一期一振が一瞬、目を細める

そして、ゆっくりと椛音の両の頬に手を添えると

 

「もう、貴女のいない世界など考えられないのです。 貴女だけが、私の“心”を満たしてくださる――――。 貴女が・・・・・・椛音殿が、好きなのです」

 

「・・・・・・一期さ、ん・・・・」

 

「貴女が例え他の誰かを想っていたとしても、構いません。 それでも、私をお傍に置いてくださるのならば――――」

 

「・・・・・・・・・・っ」

 

顔が熱い

 

「ぁ、や・・・・・・そ、の・・・・・・」

 

言葉が上手く紡げない

 

「・・・・・・いで・・・・」

 

なんと返せばいいのか分からない

 

「わ、たし、・・・・・・は・・・」

 

どう返せばいいのか―――・・・・・・

 

言葉に詰まった椛音を見て、一期一振が少し寂し気に笑った

 

「すみません、困らせるのはわかっていました。 ですが、貴女様にだけは嫌われたくないのです。 私を好いてくれなどとは言いません。 ただ、お傍に置いてくださるだけで良いのです。 それでも――――駄目でしょうか?」

 

「あ・・・・・・」

 

違う

こんな顔をさせたいんじゃない

 

私は・・・・・・

私は、ただ・・・・・・

 

「・・・・・・ん、で、すか・・・・?」

 

「・・・・・・・・・」

 

「私、な、んかで、いいのです・・・・・・か・・・?」

 

声が震える

 

「私が、一期さん・・・・・・に、て欲しいと、願っても・・・・い、・・・・・・で、すか・・・?」

 

でも、言わなければいけない

 

「私は・・・・・・っ、わた、し、は・・・・・・」

 

ぎゅっと、一期一振の袖を掴む

 

「傍に・・・・・・いて、欲しい、で、す・・・・・・」

 

他でもない、貴方に――――・・・・・・

そう思って、ゆっくりと一期一振の方を見る

 

すると、一期一振が嬉しそうに微笑んだ

 

「一期一振――――主である柚浅椛音殿にこの残りの刀生の全てを掛けて、いつ、いかなる時もお傍に―――・・・・・・」

 

「・・・・・・っ、は、い・・・・」

 

そう言って、椛音の顔は恥ずかしそうに頬を染めて頷いたのだった

 

 

 

 

後日――――・・・・・・

このやり取りを実は、出刃亀していた乱と薬研と後藤がいた事が発覚し

一期一振にお仕置き食らっていたのと

二人の関係が本丸中に一瞬にして広まったのは、言うまでもない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いち兄~~~~

需要があるかは、果たして謎ですが・・・・・・🤣🤣

私的、いち兄はこんなイメージです

丁寧だけど、攻める!!!www

 

余談:これ書いてる最中、最後の戦力拡充計画の普やっていたんですが・・・・・・(他は終わってる)

いち兄が泥しまくって大変www

流石に、1周して2振泥ったのは、ビビりましたwwww

 

 

2022.11.15