◆ 髭切 「うつつの黄昏」
(「華ノ嘔戀 外界ノ章 白花沙華譚」より)
うちの本丸の“審神者”である白規 真冬が倒れた
髭切が丁度その事を知ったのは、弟である膝丸からのメッセージだった
どうやら、薬研が遠征でいない為、医者を呼んで欲しいという旨だった
「ふぅ~ん? 真冬君、倒れたんだ?」
それ事態はさして驚く様な事ではなかった
彼女の生活を見ていれば、遅かれ早かれ、いつかはこうなるだろうと予想していたからだ
「・・・・・・まぁ、思ったより粘った方かな」
そうぼやきつつ、医者の手配をする
普段、必要品の買い物や、娯楽施設してある「街」に行って呼んできてもいいが・・・・・・
それはそれで、面倒なので手っ取り早く傍に居たこんのすけを捕まえると
「なんか、主が倒れたらしいんだけど、医者。 すぐ呼べるよね?」
肯定文でそう言う髭切に、こんのすけが自信満々に
「は、はい! 大至急政府から派遣していただきますね」
そう言って、首にぶら下げている鈴をくりくりっと回した
瞬間、りりん・・・・・・と、鈴が鳴ったかと思うと、ブゥ――――・・・・・・ンと、モニターが現れる
数秒もしない内にそのモニターに政府の人間が写った
こんのすけが、相手と会話している間、髭切はじっと空を眺めていた
「髭切殿!!」
こんのすけが通信が終わったのか、てててっと走ってくる
「お医者殿は、直ぐに転送装置から来るそうです」
こんのすけのその言葉に、髭切がにっこりと笑ってぽんぽんっとこんのすけの頭を撫でた
「ありがとう、厨で油揚げでも貰っておいて。 僕は医者を迎えに行ってくるから」
そう言って、ひらひらっと手を振りながら本丸の転送装置のある方に向かった
基本、本丸の転送装置は外にある
なんでも、万が一外敵からの侵入を防ぐためらしいが――――・・・・・・
転送装置から敵が来たら、政府のセキュリティ絶対おかしいよね
などと思いつつ、周りに白い曼殊沙華が咲き誇る外へと出る
いつ見ても、綺麗と言うか不気味と言うか、見慣れない光景だった
そもそも曼殊沙華は“死”を象徴とする花だ
特に、赤い曼殊沙華は「天上の花」とも呼ばれる
なんでも
天界に咲き、今は亡き死者と現世に生きる生者とがあいまみえる
その時、降り来たり この世に花を咲かせると云われる花だ
とてもじゃないが、あまり縁起の良いものには見えなかった
その中でも白い曼殊沙華は別で、赤いものより弱いらしい
赤いものは「諦め・悲しい思い出」という意を持つとされるのに対し
白いものは「また会う日を楽しみに・想うはあなたひとり」と清楚でしとやかな意を持つとされている
だからと言って、いい花とは思えないけどね・・・・・・
だが、この本丸には白い曼殊沙華が結界の役割もしている為、伐採する事は出来ない
何よりもこの本丸の象徴とも呼べる“華号”が“白花沙華”なのだ
“華号”とは、“審神者”就任と同時に、その本丸と“審神者”に与えられる“号”――――つまり、名前である
“審神者”は“華号”を授与される事により、初めて“審神者”としての力を行使することが出来る様になるのである
つまり、“審神者”と“華号”は切っても切れない関係なのだ
そんな事を考えていると、転送装置の方から医師らしき人物が現れた
髭切はにっこり微笑むと
「ああ、やっときたね。 じゃぁ、案内するよ」
そう言って、その医師を真冬の部屋へと連れて行った
診察中、流石に男として顕現している自分達が真冬が診察されるのをじっと見ている訳にもいかず、弟の膝丸と一緒に別室に移動する
膝丸は落ち着かないのか、そわそわしていた
きっと、真冬が心配なのだろう
少し悪戯心が浮かんだ
だから――――・・・・・・
「ピザ丸は、そんなに真冬君の事気に掛ける程、好きなのかな?」
唐突にそんな事を聞いてみた
瞬間、膝丸が呑みかけていたお茶を吹き出しそうになる
「な、ななな、なに言って――――」
そう言う膝丸の顔は曼殊沙華よりも真っ赤だった
「ふふ、顔。 真っ赤だよ?」
「・・・・・・・・っ、兄者、からかわないでくれ。 それにピザ丸じゃない」
そう言って、顔をますます赤くさせた
そんな膝丸を見ていて、髭切は内心「・・・・・・やっぱりね」と思った
前々から、薄々膝丸の気持ちには気づいていた
本人は――――まぁ、無自覚なのだろうが・・・・・・
膝丸が真冬をよく見ているのを知っていたから
きっと、そうなのではないかと思って吐いた
だが・・・・・・
う~ん、弟とはいえ・・・・・・こればっかりは、応援は出来ないかなぁ~
そんな事を思っていると、医者が別室へやってきた
医者の見解は「過労と寝不足」だった
まぁ、予想取りと言うか・・・・・・やっぱりね、という風にしか思えなかった
髭切は、そのまま医者が転送装置で帰る所を見届けた後
小さく息を吐いた
「少し、お灸が必要かな・・・・・・」
ぽつりと、そう呟くと
何も無かったかのように、本丸の方へと戻っていく
きっと、今頃 膝丸が真冬の傍に居るだろう
今、行って 膝丸に会うと色々面倒くさいので、髭切はあえて真冬の見舞いにはいかなかった
それから数日後――――・・・・・・
「主様~~~~!!!」
短刀たちが、回復した真冬の傍に群がっていた
そんな短刀達に、真冬は笑いながらひとりひとりの頭を撫でていく
「もう、大丈夫なのですか?」
「また無理はしていませんか?」
短刀たちからの質問攻めに、真冬が半分苦笑いをしながら
「大丈夫よ、していないわ」と応えている
その様子に、髭切は微かに笑みを浮かべると
「ねぇ、真冬君。 ちょっといいかな?」
そう言って、真冬を呼んだ
一瞬、真冬が「え?」と声を発するが、相手が髭切と分かると短刀達に手を振ってこちらへやって来た
「髭切さん、先日はありがとうございました」
そう言って、丁寧に頭を下げる
だが、髭切は真っ直ぐに真冬を見たまま
「してない・・・・・・ねぇ?」
小さな声でそうぼやいた
「え・・・・・・?」
聴き取れなかったのか、真冬がその翡翠色の瞳を瞬かせる
「髭切さ・・・・・・きゃっ!」
瞬間、髭切がぐいっと真冬を引っ張ったかと思うと、そのまま傍にあった小部屋に入る
そして、そのまま錠を掛けた
「あ、あの・・・・・・?」
状況がいまいち理解出来ていないのか、真冬がきょとんっとしている
すると、髭切は有無を言わさずに、彼女を引っ張るとそのまま壁際に追い詰めた
流石の真冬もこれには驚いたのか、焦った様に視線を泳がせる
「ひ、髭切さ・・・・・・んんっ!」
だが、髭切はそのままぐいっと彼女の顎を持ち上げると、その唇を奪った
突然の髭切からの口付けに、真冬がぎょっとする
慌てて抵抗しようと手を振り上げたが
その手はあっという間に髭切の片腕に抑え込まれた
「ひ、ひげ、り、さ・・・・・っ・・・・ぁ」
ぎりっと捻り上げられた腕が軋む音を立てる
「ねぇ・・・・・・」
髭切がその口元に微かに笑みを浮かべて尋ねる
「誰が、“無理してない”って・・・・・・?」
「え・・・・・っ、ぁ・・・・・・ンン・・・はぁ・・・・・」
真冬が答える間も与えずに、再び唇を重ねる
その行為はどんどん激しくなっていき
いつの間に回したのか、髭切の腕が真冬の腰を抱き寄せていた
「んぁ・・・・ま、待っ・・・・・ぁ・・・・」
「だ~め・・・・・・待たないよ」
そう言って、角度を変えて何度も何度も貪るように口付をする
「だって、“嘘つき”にはお仕置きしなくちゃ・・・・・・」
そう言って、そのままぐいっと真冬の腰を更に抱き寄せた
ぐっと、深くなった口付けに真冬がぴくんっと肩を震わす
「ほら、口上げて」
「え・・・・・・?」
意識が朦朧していて判断が鈍っているのか
真冬が上を向いた瞬間――――・・・・・・
「んんっ・・・・・・ぁ・・・・は、ぁ・・・・・・ン・・・」
口付けが更に深くなった
「そう―――いい子だね・・・・・・」
髭切の舌が絡まってきて、逃れようにも逃れられない
「ふぁ・・・・あ・・・んん、ひ、げき・・・さ・・・・・・」
「大丈夫だよ、僕に任せて―――」
「で、でも・・・・・・ぁ・・・・は、んん・・・・・・」
真冬がなんとか、抵抗しようと試みていたが
脚に力が入らなくなったのか――――
がくっと膝を折りかける
「おっと・・・・・・」
だが、直ぐに髭切の腕が伸びてきて真冬を支えた
「駄目だよ、まだ“お仕置き”終わってないんだから――――・・・・・・」
「お、おしお、き・・・・・・?」
やっとの思いでその言葉を紡ぐと、髭切はにっこりと微笑み
「そうだよ・・・・・・“お仕置き”」
そう言ったかと思うと、そのまま髭切の手がするっと背中に回されたかと思うと―――
ぷちんと、ボタンを外す音が聞こえた
ぎょっとしたのは真冬だ
「ちょ、ちょっと待ってくださ――――んんっ」
慌ててそう言い募るが
その言葉は、すぐさま髭切の唇によって塞がれた
「ひげっ・・・・・さ、だ、だめ・・・・・・っ」
ぷちんと、2つ目のボタンが外される
髭切はくすっと笑みを浮かべ
「なにが、だめなのかな?」
そう言いながら、3つめのボタンを外す
流石に3つも外されると、露になった真冬の背中に髭切の手がすっと触れた
「・・・・・・っ、ぁ・・・・」
びくんっと真冬が肩を震わせた
背中を触られただけなのに、ぞくぞくと感じてしまう―――――
「ねぇ、どうして欲しい? このまま、僕に抱かれる? それとも、もっと焦らして欲しい?」
「そ・・・・・・」
真冬が言葉を発しようとした時だった
「兄者――――? 主――――? どこにいるんだ―――?」
部屋の外の廊下の方から膝丸の声が聞こえた
びくんっと真冬が身体を強張らせた
それを見た、髭切はくすっと笑みを浮かべ
「どうかした? 真冬君は、誰かに聞かれている方が興奮するのかな?」
「ちがっ・・・・・・んっ・・・・ぁ・・・」
「違う」と言おうとしたが、その言葉は髭切の口づけによりあっさり塞がれた
「何が違うのかな? こんなに・・・・・・口付けを交わしているだけなのに、興奮・・・・・・してるよね?」
真冬、薄っすらその翡翠色の瞳に涙を浮かべて首を振る
そんな真冬の反応も髭切にとっては、些細な事だった
そっと彼女に耳元に唇を近づけ
「ねぇ、声・・・・・・だしていいんだよ? 真冬君・・・・・・。 それとも、出させてほしいのかな?」
真冬が抵抗する様に、また首を横に振った
出せる筈がない
こんな・・・・・・こんな状況を誰かに見られたりなんて・・・・・・
耐えられるはずがなかった
「おねが・・・・・・っ、髭切さ・・・やめっ・・・・・・」
「やめないよ」
そう言って、すっと彼女の首筋に口付けを落とす
「あ・・・・・・っ」
「やめてあげない」
そのまま、その首筋を吸った
そして、ゆっくりと顔を離す
そこには、くっきりと髭切の付けた花の跡があった
「・・・・・・こ、こんな所にあったら・・・・・・」
真冬がわなわなと震える
だが、髭切は面白いものでも見る様に満面の笑みで
「うん、きっと怪しまれちゃうね~~」
「ひ、髭切さんっ!!」
「あ、いいのかな? 大声出しちゃうと、外にいる膝丸に聞こえちゃうかも」
「・・・・・・っ、そんな卑怯な――――」
尚も真冬が抗議しようとすると、髭切はやっぱりにっこりと微笑み
「だから、言ったでしょ? “やめてあげない”って――――」
そう言って、真冬の露になっている背中からすっと手を動かす
「・・・・・・ぁ・・・っ、や、んん・・・・・」
「こんな事で反応しちゃうんだ? 可愛いね」
そう言って、そのまま真冬を抱きしめると、再びその唇に自身のそれを重ねた
「ん・・・・・・ンっ・・・・ぁ・・・・・・」
「ねぇ、君はさ・・・・・・、僕と弟とどっちが好きなのかな?」
「え・・・・・・?」
突然の問いかけに、真冬一瞬混乱する
「わ、わたし、は・・・・・・」
「まぁ、どっちでもいいけど――――どうせ、僕の方が君を貰うし」
「なっ・・・・・・」
その時だった
「兄者―――? いないのか?」
外の膝丸の声が更に大きくなってきた
もうすぐ近くにいるのだ
真冬がそれに気づいてか、微かに身体を震わせた
それを見た、髭切は小さく息を吐くと
「まぁ、今日はここまでにしておいてあげる」
そう言って、自身の羽織っていた上着をふわりと真冬にかけた
「・・・・・・髭切、さ、ん・・・?」
事態がまだ呑み込めていないのか、真冬がその翡翠色の瞳を瞬かせた
すると、髭切がぽんっと真冬の頭に手を乗せてぽんぽんっと撫でると
「君は、少し落ち着てからここから出ておいで」
それだけ言うと、そのまま小部屋から出て行ってしまった
「・・・・・・・・・・」
急に安心してしまったのか、ずるずると真冬がその場に崩れ落ちる
遠くの方で、髭切が膝丸に声を掛けているのが聞こえてくる
上着がどうとか言っているが
今の真冬には、何も頭に入ってこなかった――――・・・・・・
真冬の脳裏に先ほどの髭切の言葉が木霊する
『ねぇ、君はさ・・・・・・、僕と弟とどっちが好きなのかな?』
「わた、し、は・・・・・・」
ぎゅっと、真冬は両の腕を抱きしめた
微かに残る、髭切の香り――――・・・・・・
それが、酷く心地よく感じる気がして
それでも、認める事は出来なくて
『まぁ、どっちでもいいけど――――どうせ、僕の方が君を貰うし』
ただただ、その場にしゃがんだまま
動く事が出来なかった―――――・・・・・・
数日前に更新した膝夢の兄者Sideでーす笑
タイトルも「まほろば」の対義語で「うつつ」
「暁」の対義語で「黄昏」ですwww
兄者には、少し「自重」して頂きたいwww
2022.10.06