華ノ嘔戀 外界ノ章
       ~紅姫竜胆編~

 

◆ 膝丸 「まほろばの暁」

 (「華ノ嘔戀 外界ノ章 白花沙華譚」より)

 

 

うちの主・白規しらき 真冬の朝早い

本丸の皆で朝餉を取ると、身支度を整えいつも「大学」という所に通っている

本人曰はく、「単位をさっさと取って、“審神者”業に専念したから」だという

勿論、“審神者”業務もこなしながらなので、

かなりのハードスケジュールなのではないだろうか・・・・・・?

 

その辺の管理は、近侍のへし切長谷部がちゃんと行っているようだが・・・・・・

 

それにしても、ちょっとは休んだ方がいいのではないのか・・・・・・?

見ていて、そんなもやっとした気分になる

 

何かの役に立てればいいのだが・・・・・・

俺達は、所詮は刀

“審神者”である彼女の為に存在する――――・・・・・・

 

だから、余計な感情は持ってはいけない

そう、思っていた

その日までは――――・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日、真冬は珍しく午前中に帰って来た

 

「ただ今戻りました」

 

そう言って本丸の玄関を開けると、短刀たちがわっと駆け寄ってきた

 

「あるじ様、お帰りなさい!!」

 

「ねぇ、ねぇ、主様! さっきね・・・・・・」

 

と、次から次へと詰め寄ってくる短刀達に、苦笑いを浮かべながら真冬はひとりひとりの頭を撫でた

 

「話は、後から聞きいてもいいかしら? 一度部屋に戻って着替えてきたいの」

 

真冬からのお願いに、短刀たちが「はーい」と元気よく返事をする

その返事にほっとして真冬が玄関から部屋の方を歩いて行った

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・?」

 

膝丸はその様子を遠巻きに見ていた

彼女の美しいその顔色は微かに青かった

 

気のせいか、ふらふらしている様にも見える

 

「・・・・・・おい」

 

思い余って膝丸が真冬に声を掛けた時だった

 

「あ・・・・・・」

 

一瞬、真冬がこちらを見たかと思った瞬間――――・・・・・・

ぐらりと、目の前の彼女の身体が揺れた

 

「・・・・・・っ、主!!」

 

咄嗟に伸ばした手に真冬を支えるのと、真冬が倒れ込むのは同時だった

 

「お、おい!!」

 

膝丸が真冬に声を掛けるが反応がない

完全に意識を手放している様だった

 

「・・・・・・まったく・・・」

 

膝丸がおも~~~~い溜息を洩らした後、真冬を横抱きに抱き上げた

その様子をみていた、短刀たちが心配そうにこちらを見ていた

 

「あの、膝丸さん、あるじ様は・・・・・・」

 

「ああ、大丈夫だ。 単に疲れがでただけだろうから、休めばすぐに良くなる」

 

膝丸がそう答えると、短刀たちはほっとしたのか真冬の事を膝丸にお願いすると、そのまま部屋へと戻っていった

短刀たちが全員いなくなるのを見届けた後、膝丸は彼女の落とした鞄も持って、彼女の部屋の方へと歩き出した

 

部屋へ着くと、そっと真冬を彼女の寝台の上に下ろす

真冬は寝ているというよりも、ぐったりとしていた

 

彼女の、ほのかに薄緑色が混じった長く美しい銀糸の髪が、一層顔色を悪く見せた

 

「・・・真冬・・・・・・・・・」

 

ぽつりと、眠る彼女の名を呼ぶ

そっと、額に手を当てると、ほのかに熱を持っている様だった

 

「とりあえず、薬研――――は遠征中だったな。 なら、他の医者を・・・・・・」

 

とてもじゃないが、彼女の状態は普通ではなかった

熱もあるようだし・・・・・・こんな彼女を放っておけるほど、膝丸は出来た刀ではなかった

 

だが、医者は必要だ

とりあえず、膝丸は持っていた端末を取り出すと、自分の兄である髭切に真冬の状態と、医者を呼んできて欲しい旨のメッセージを送った

 

送信ボタンを押した時だった

 

「ん・・・・・・」

 

微かに、真冬の声が聞こえた気がした

 

「主?」

 

膝丸がそう問いかけると、薄っすらとその翡翠色の瞳が微かに開かれた

 

「ひざ、ま、るさ・・・・・・ん?」

 

状況が理解出来ないのか、真冬が朧気な頭で膝丸の名を呼んだ

 

なぜ、彼がここにいるのか

そして、どうして自分が寝台に寝かされているのか・・・・・・

 

「私・・・・・・」

 

ゆっくりと身体を起こそうとする

しかし、伸びてきた膝丸の手がそれを遮った

 

「あ、あの・・・・・・?」

 

真冬が困惑した様にその翡翠色の瞳を瞬かせる

すると、膝丸は小さく息を吐きながら

 

「寝ていろ。 主・・・・・・君はさっき廊下で倒れたのだぞ? 今、兄者に医師を頼んで――――って、おい!」

 

膝丸が安静にしていろと言うのに、真冬はよろよろと起き上がると

そのまま鞄の中から端末を取りだす、そしてコードを入力してパネルを開こうとした

 

「ま、待て! 主! 人の話を――――」

 

今にも“審神者”の仕事をしようとする彼女を膝丸が慌てて止めに入った

瞬間、立ち上げかけたパネルがブ―――・・・・・・ンと、音を立てて消えていく

 

「あの、邪魔をしないでいただけると・・・・・・」

 

真冬がそう口にした瞬間、膝丸がその端末を取り上げた

 

「ちょっ・・・・・・膝丸さ――――・・・・・・」

 

「これがあったら、君はまた仕事をしようとするから駄目だ。 俺が預かっておく」

 

「・・・・・・それは、横暴なのでは?」

 

むっと真冬が顔を膨らませるが、膝丸は「駄目だ」の一点張りだった

そんなやりとりをしている内に、髭切が医者を連れてやって来た

 

医者に真冬の状態を診察してもらっている間、別室待機していたが

膝丸は落ち着かなかった

 

何か悪い病気とかじゃなければいいのだが・・・・・・

そう思っていると、突然髭切からぽんっと頭を撫でられた

 

「まぁまぁ、真冬君の事が心配なのは分かるけれど。 彼女なら、きっと大丈夫だよ」

 

「兄者・・・・・・」

 

なんだか、髭切には見透かされている気がして、なんとなく恥ずかしい気分になる

そんな膝丸をみて、髭切が「あれぇ~?」と声を洩らした

 

「ピザ丸は、そんなに真冬君の事気に掛ける程、好きなのかな?」

 

「・・・・・・っ! ごほ、ごほごほっ!!」

 

突然の髭切の言葉に、飲みかけた茶を吹き出しそうになる

 

「な、ななな、なに言って――――」

 

「ふふ、顔。 真っ赤だよ?」

 

「・・・・・・・・っ、兄者、からかわないでくれ。 それにピザ丸じゃない」

 

顔が熱い

熱を帯びているのが自分でも分かる

 

俺が・・・・・・? 彼女を・・・・・・?

 

「そんな筈は――――・・・・・・」

 

「ない」と言おうとして、言葉を詰まらせた

た、たしかに、つい真冬がいたら目で追ってしまう事もあるし

彼女が笑っていると、自然と安心する

でも、それは彼女が自分の「主」だからであって――――「好き」とかそう言うのでは・・・・・・

 

ない、は、ず・・・・・・

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

黙りこくってしまった弟に、髭切がにっこりと微笑む

 

「もしかして、無自覚だったのかな?」

 

「・・・・・・それ、は・・・・」

 

無自覚? いや、自覚も何も――――・・・・・・

 

「兄者は・・・・・・」

 

「ん? なんだい?」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 

“兄者は真冬の事が好きなのか?”

 

 

とは聞けなかった

 

しん・・・・・・と、部屋の中が静まり返る

ぐっと、握る手に力が籠もった

 

その時だった、真冬を診察していた医師がやってきた

 

「過労と寝不足?」

 

「ええ、ゆっくり寝て、しっかり滋養のある物を食べさせてください。 後、二・三日は養生する様に――――」

 

それだけ言い残すと、薬を置いて、医師は帰り支度を始める

髭切が気を利かせたのか、医師を送ってくると言って、一緒に部屋を出て行った

 

残された、膝丸は、「はぁ・・・・・・」と溜息を洩らしながら真冬に部屋の前に来て立ち止まっていた

 

髭切が変な事をいうものだから、無駄に意識してしまう

 

主は、主だ

「好き」とか、そういうのではなく「主としてお仕えしているだけだ」

そう自分に言い聞かす

 

それから、軽く咳払いをして

 

「主、入るぞ」

 

ひと言そう言って、部屋の戸を開ける

部屋に入ると、真冬がすやすやと眠っていた

 

なんだか、彼女が起きていなかったことに少しほっとして

膝丸はそっと、寝台の端に座った

 

眠る彼女の額に触れる

さらり と、彼女の薄緑色が混じった銀糸の髪が落ちた

 

「・・・・・・驚かせないでくれ」

 

真冬が玄関で倒れた時は、心臓が止まるかと思った

今まで一度もそんな事なかたから――――・・・・・・

 

でも、よくよく考えれば学校と本丸の往復

学業と、審神者業の両立

それは、大変なことだったのかもしれない――――・・・・・・

 

夜遅くまで、部屋の灯りがついている事も多い

酷いときはそのまま朝になっている事もある

 

「無理・・・・・・し過ぎだ、君は・・・・・・」

 

もう少し・・・・・・

俺達を頼ってくれれば――――・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ****    ****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・ん・・・」

 

真冬がゆっくりと目を覚ました

微かに身体に残る倦怠感と、頭痛は少し収まった様な気がした

 

医者には、「過労と寝不足」だと言われた

焦っていたのかもしれない――――・・・・・・

早く、大学の今期の単位を取ってしまえば、後はレポート書くぐらいで行かなくて済む

だから、早く終わらそうと思って、スケジュールギリギリまで講義を詰め込んでいた

 

その反動が来たらしい

 

でも、処方された薬のお陰で大分よくなった気がした

 

「んん――――・・・・・・」

 

真冬が腕を伸ばした時だった

ふいに、こつんっと何かに当たった

 

「・・・・・・え?」

 

それを見た瞬間、真冬がその翡翠色の瞳を瞬かせた

そこには、膝丸が真冬の寝台に突っ伏す様に寝ていたからだ

 

え、ええ・・・・・・!?

 

思わず、パニックになりそうなのを必死に抑える

 

「な、なんで、膝丸さんが・・・・ここに・・・・・・・・・?」

 

起こすべきか否か

思わず、起こそうと手を伸ばしかけるが――――その手を途中で止めた

そのまますとん と、手を下ろすと眠る膝丸をじっと見た

 

綺麗な顔だった

まつ毛も長いし、鼻筋もすっと通っていて、こういう人を「美人」というのだろうな・・・・・・と、思った

 

真冬はそっと、膝丸を起こさない様に寝台から出た

汗で身体がべたべただ

こんな時になんだが、早く湯あみをしたい

 

そう思って、着替えを用意すると、そっと部屋を後にした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ****    ****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どのくらい時間が経っただろうか――――・・・・・・

膝丸が「ん・・・・・・?」と目を覚ます

 

「俺は・・・・・・」

 

あのまま寝てしまったのか・・・・・・?

そう思いながら、寝台で寝ているであろう真冬の様子を見ようとそちらに顔を向けた時だった

 

そこに居た筈の、真冬の姿はなかった

 

「・・・・・・は?・・・・」

 

一瞬、何が起きたのかと混乱する

 

「・・・・・・真冬?」

 

机の方を見ても、続き部屋の方を見ても、真冬の姿はなかった

まさか、真冬の身になにか・・・・・・っ

 

 

 「・・・・・・・・・・っ、真冬!!」

 

 

膝丸が慌てて立ち上がった時だった

不意に、部屋の戸が開いた

 

「え? 膝丸さ―――――きゃぁ!」

 

開いた戸から入って来た真冬と、寝台から立ち上がって戸から出ようとした膝丸がぶつかった

 

「――――っ」

 

二人して真冬の方に倒れそうになるが

膝丸がぐいっと無理やり彼女を自分の方に引っ張った

 

だが、膝丸も体勢を立て直せずに、そのまま二人して床に倒れ込む

 

がんっ! っと、膝丸の肩が椅子の脚に当たった

 

「――――っ!!!」

 

膝丸が一瞬顔を顰める

 

「膝丸さん・・・・・・っ!!」

 

「い・・・っ、う・・・・・・」

 

慌てて真冬が膝丸の上から起き上がろうとする

が、何故かぎゅっと背中に回された膝丸の腕に力が込められた

 

突然、抱きしめられる形になり、真冬がかぁ・・・っと、頬を朱に染めた

 

「あ、ああ、あの・・・・・・っ」

 

しどろもどろになりながら、真冬が真っ赤な顔で口をぱくぱくさせているが

膝丸は、「はぁ・・・・・・」と、溜息を洩らすと、自身の目を手で覆う

 

「あ、あの・・・・・・?」

 

真冬の不安そうな声が聞こえてくる

 

俺は・・・・・・何をやっているのだろうな・・・・・・

 

自分で自分の行動が分からない

瞬間、さきほど髭切と会話した内容が脳裏を過ぎった

 

『そんなに真冬君の事気に掛ける程、好きなのかな?』

 

「好き」という概念はよくわからない

ただ、もし髭切もそうだとしたら「嫌だな」と思ったのも事実だった

 

ゆっくりと、真冬を抱いたまま上半身だけ起き上がる

目を開けると、不安そうな真冬がこちらを見ていた

 

「・・・・・・主、怪我はないな?」

 

「あ、はい・・・・・・」

 

「そうか・・・・・・君に怪我がないならよか――――っ、す、すす、すまない!!」

 

「え?」

 

突然謝られて、真冬が首を傾げる

だが、膝丸はそれどころではなかった

彼女は湯浴みから帰って来たのだろう、夜着姿のままだったのだ

湯浴みで火照った彼女の身体は微かにピンク色の染まっていた

髪も上にアップにしていて、首元から少し垂れている部分がとても目のやり場に困った

 

 

お、おおお、落ち着け、俺!!!

 

 

心臓が無駄に早鐘の様に鳴り響いている気がする

 

「あ、あの・・・・・・」

 

真冬が困惑した様に、声を発した

 

「・・・・・・その、そろそろ放して頂けると・・・・・・」

 

 

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

はっ!!

 

そこで膝丸は我に返った

無意識下だったとはいえ、夜着姿の彼女を抱きしめたままだったのだ

 

「す、すまないっ!!!」

 

膝丸が慌てて手を離した

の、だが・・・・・・

真冬はその場から動こうとしなかった

 

なんだか、恥ずかしそうに顔を赤くしたまま俯いていた

 

「あ、主・・・・・・?」

 

「・・・・・・ので・・・」

 

「・・・は・・・?」

 

「ですから、・・・・・・な、ので」

 

「主・・・・・・?」

 

真冬が何かを言おうとしているが、よく聞き取れない

彼女も顔を真っ赤にしている

 

だが――――・・・・・・

 

「で、ですから! だ、誰にでもするわけではありませんので!」

 

「は? ある――――」

 

「主」と呼ぼうとした時だった

突然、真冬の顔が近づいたかと思うと――――膝丸の頬に何かが触れた

 

――――――え?

 

「・・・・・・・・・・」

 

真冬が目の前で真っ赤になっている

膝丸は膝丸で、触れられた頬を押さえていた

 

いま、の、は・・・・・・

 

「お、お礼です。 その・・・・・・今日は、色々とご迷惑をおかけしましたし・・・・・・だから、その謝罪と・・・・・・傍に居て下さった、お礼・・・・・・です」

 

彼女の精一杯なのだろう

そんな彼女を見ていると、どんどん膝丸の中に愛おしさが込み上げてきた

 

ああ・・・・・・兄者が言ってきた理由が今なら分かるかもしれない――――・・・・・・

 

『そんなに真冬君の事気に掛ける程、好きなのかな?』

 

今ならきっとこう答える

 

“彼女が――――真冬が、好きなのかもしれない” と

 

認めてしまえば、何てことはない

簡単だった

最初から答えなど出ていたのだ

 

それならば―――――・・・・・・

 

 

「主・・・・・・いや、真冬」

 

 

「え?」

 

真冬が呼ばれて顔を上げた瞬間、膝丸は彼女の唇に優しく口付けを落とした

ほんの一瞬 触れただけの口付け

 

だが、真冬には効果てきめんだったらしく

真冬がどんどん顔を真っ赤にしていく

 

「な、ななな、なにを――――・・・・・・」

 

「はは、ははは!」

 

「わ、笑い事じゃありません!!!」

 

真冬がそう言ったのは、言うまでもなく

それを膝丸はいつまでも笑っていたのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本日、2本目www

まぁ、1本目は昨日の深夜に書いてますがな~笑

というわけで、膝

膝メインは、初じゃね?って感じですが・・・・・・

やつは、ムズイという事がよくわかりましたwwww

後、まだ源氏審神者子ちゃんが上手く掴めてないな~

もう少し書き慣らさんと駄目やわ~~

 

 

2022.11.02