華ノ嘔戀 外界ノ章
       ~紅姫竜胆編~

 

◆ 鶴丸国永&大包平名 「てぃーたいむ」

     (「華ノ嘔戀 外界ノ章 竜胆譚」より)

 

 

 

――――“本丸・竜胆”

 

沙紀はいつも通り“審神者”の業務を終わらせて、机の上の後片付けをしていた

端末を閉じ、ノートやペンなどを仕舞う

 

それから、窓を開けて室内の空気を入れ替えた

さあああっと、風が吹き 沙紀の長い漆黒の髪が揺れた

 

「後は――――・・・・・・」

 

確か、遠征に出ている第二部隊がそろそろ帰ってくる頃だった

沙紀の“本丸”はまだ顕現している“刀剣男士”が少ない為、第二部隊までが限界だった

それでも、足りていないぐらいだ

 

鍛刀しなくては――――とは思うものの

未だ 今、政府で確認されている“刀剣男士”にどの刀がいて、どの刀がいないのかはっきりとした情報を頂けていないのが現状である

 

その辺の情報は共有して欲しい、というのが正直な意見だが――――

沙紀にその権限はなく、通達が来るのを待つしかない

 

手あたり次第鍛刀するという手もなくはないが・・・・・・

あまり効率的とは言えなかった

 

そもそも政府の使っている鍛刀とは、沙紀の“神降”を模した略式のまがい物の“神降”だった

霊力を高め、その差を埋める為と、

神との対話をする術式を“鍛刀部屋”に模して作ってある

“システムありき”の方法なのだ

 

偽物の“神降”

 

それが、今“審神者”達が行っている“鍛刀”だった

そして――――“神降”とは、素人が簡単に出来る代物ではない

 

下手に手を出せば、“神”ではなく“悪しきモノ”を呼び込んでしまうほど危険なものなのだ

 

故に、今では“神降”を行える“神凪”とは表向きは、神宮を護る“日ノ本一の巫女姫”とされているが、実の所“隠し巫女”と呼ばれる存在となっている

その身に“神代三剣”を宿す事により、自身の身を護っているのだ

 

沙紀の前は室町時代まで遡らなければ、“神降”を出来る程の霊力を持った娘は生まれていないという――――

そして、“神凪になり損ねた巫達”は、早くしてその命を落としている

 

その為、沙紀を“審神者”へと推挙した政府官僚の小野瀬は、沙紀に“審神者達の為に”協力を要請してきた

 

沙紀の持つ“神凪”としての力を解明し、この“鍛刀というシステム”を完成さるのだと

 

「・・・・・・・・・はぁ」

 

沙紀は小さく息を吐きながら、目の前でぱらぱらと風でめくられていくノートをぱたん・・・・と、閉じた

 

正直な話、気は進まない

要は実験に協力しろと言っている様な物だ

あの時、鶴丸が怒ったのも頷ける

 

だが――――・・・・・・

 

自分が協力する事により、他の“審神者達の為”になるのならば――――・・・・・・

そう思って、その件を承諾した

 

それから毎月、定期的な身体検査と、簡単な実験・血液の提供

そして、毎日の体調管理

 

全てを記録しなければならない

 

別に、記録していくのは構わない

構わないのだが――――・・・・・・

 

「たまには、気分をすっきりしたいわ・・・・・・」

 

そんな風にぽつりと呟いた時だった

突然、端末の通知音がピピ…ピピ……と鳴った

 

「・・・・・・え?」

 

今日は別に、誰からも連絡の予定はなかった筈だ

新しい任務ならば、こんのすけを通して通信してくるはずである

 

なのに、鳴ったのは沙紀個人の端末だった

暗号を見ると、知らない番号だった

 

誰・・・・・・?

 

思わず、首を捻ってしまう

 

一瞬、無視しよかとも思ったが――――

流石にそれは、少し罪悪感が残りそうな気がしてとりあえず、端末を立ち上げる

すると、“an incoming call” いうボタンがチカチカと光っていた

 

誰かが沙紀に通信を送ってきている様だった

 

沙紀は小さく息を吐くと、その赤く光る“an incoming call”を押す

すると、数秒もしない内にパネルが立ち上がると、一人の男性の顔が映った

 

『沙紀! 元気にしていたか?』

 

「え・・・・・・?」

 

そこに映った男性には見覚えがあった

それは―――――

 

「お、大包平、さん・・・・・・?」

 

それは、沙紀の“本丸”にはいない

先の任務で協力してくれた他の“本丸”に属する大包平だったのだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ****    ****

 

 

 

 

 

 

 

 

――――現世・某国際ホテル内・バー&ラウンジ

 

「・・・・・・・・・・・」

 

沙紀は紅茶を口にしながらちらりと隣と前を見た

目の前には赤褐色の髪に灰銀色の瞳の不機嫌そうな青年

そして、横には美しい銀髪に金色の瞳をした青年がいた

 

大包平と鶴丸である

 

不機嫌そうに珈琲を口にする大包平とは違い、沙紀の隣に鶴丸はそんな大包平が目に入っていないという風に、沙紀に向かって

 

「沙紀、ほらこっちも食ってみろ」

 

そう言って、ケーキスタンドに載っているマカロンを取ると、沙紀に差し出した

 

「あ、ありがとうございます」

 

沙紀は苦笑いをしつつ、そのマカロンの乗った皿を受け取ろうとした

が、さっと何故か鶴丸に避けられていしまった

 

「あ、あの・・・・・・、りんさん?」

 

何故、勧められたのに避けられるのか

そう思っていると、鶴丸がそのマカロンを手に取り

 

「ほら、口開けろ」

 

「え、あ、あの・・・・・・っ」

 

流石にここでそれは・・・・・・と、沙紀が口籠もる

ちらりと、横目で大包平を見ると、眉間のしわがぴくぴくと動いていた

 

だが、目の前の鶴丸はまるで大包平など目に入っていないという風に

 

「いいから、口開けろよ」

 

「は、はい・・・・・・」

 

そう言って、流されるままに鶴丸の手で口の中にマカロンが入れられる

 

「あ・・・・・・」

 

瞬間、甘い苺の香りと味が口の中に広がった

 

「美味いだろう?」

 

そう嬉しそうに言う鶴丸に、沙紀がこくこくと頷きながら、恥ずかしそうにかぁっと頬を朱に染める

 

「もう一つ、食べるか?」

 

そう言って、また鶴丸が別のマカロンを手に取ると、沙紀に差し出した

それを見た沙紀が慌てて

 

「あ、あの、自分で食べられますので――――」

 

そう言うが

 

「俺が、沙紀に食べさせてやりたいんだ」

 

と、あっさりと返してくる

が・・・・・・沙紀はそれどころではなかった

 

周りの目もちらちらとこちらを見ているのも気になるし

なによりも、目の前に座って眉間のしわを深くさせている大包平が一番気になった

 

「あ、あの、りんさん・・・・・・? その、大包平さんが――――」

 

「大包平? ああ、気にするな。 あれは単なる置き物だと思えばいい」

 

ぴくっ

 

「え、あ・・・・・・、いえ、その・・・・・・」

 

「それとも、何か? 沙紀は俺よりもあんな置き物の方が気になるのか?」

 

ぴくくっ

 

「そ・・・・・っ、そういうことではなく――――」

 

「ほら、口開けろ。 あーん」

 

「・・・・・・りんさっ―――――」

 

その時だった

突然、沙紀の前に座っていた大包平が ばんっ!とテーブルを叩いたかと思うと

 

「つ~る~ま~るうううううう!!! 何故、貴様がここにいる!!?」

 

「あ、置き物が喋った」

 

「だぁれが、置き物だ、こらぁ!! そもそも、何故貴様がここにいる!? 俺は、沙紀だけしか誘っていなああい!!」

 

そうなのだ

実はあの通信は、大包平からのお茶のお誘いだったのだ

 

少し気晴らしがしたかったのもあり、沙紀はその誘いを受けた

が――――なぜか、鶴丸にバレた

 

そして、今に至るのである

 

二人(正確には大包平だけ)が、ぎゃんぎゃん言い合いをしているのを見て

沙紀が「帰りたい・・・・・・」と、思ったのは言うまでもなく――――・・・・・・

 

周りの客たちが皆こちらを見ているのだ

恥ずかしすぎる・・・・・・っ!!

 

穴があたら入りたい気分だ

 

怒鳴っている大包平とは裏腹に、鶴丸はけろっとした顔でサンドイッチを食べていた

 

流石に、見ていられなかった・・・・・・

というか、収めないと周りに迷惑になるので沙紀は慌てて口を開き

 

「あの、大包平さん、“睡蓮”様はよく許可を出してくださいましたね?」

 

“睡蓮”というのは、“睡蓮の本丸の審神者”の事を指す

“睡蓮の審神者”とは、“華号・睡蓮”を授与された、国に5人しかいないとされる特SSランクの“審神者”だ

彼女は、この目の前に居る大包平が大のお気に入りで、何処へ行くのにも彼を連れだっていくのだという

 

正直言うと、沙紀は“睡蓮の審神者”が少し苦手だった

何故か、いつも顔を合わせると突っかかってくるのだ

 

直接的な、面識はないにも拘わらず――――だ

 

すると、大包平は小さく息を吐くと、椅子にがたんっと座り

 

「そんな許可なんて貰っていない! 何故この俺が、あの女の許可をいちいち得なければならないのだ?!」

 

「そ、それは――――・・・・・・」

 

なんとも答え辛い問いだった

答えに困っていると、鶴丸が見かねた様に

 

「お前な、まだ気づいていないのか? お前のせいであの“睡蓮”の女が沙紀にきつく当たるんだろうが。 少しは自重しろよな」

 

そう言って、食べていたサンドイッチの最後の欠片を口に放り込む

すると、大包平は「・・・・・・は?」と素っ頓狂な声を上げて

 

「あんな女などどうでもいい。 俺なら沙紀を護ってやれる。 もし、あの女が沙紀に手を出したらただではおかん! それで、充分だろうが」

 

「いや、そう言う問題じゃないだろ?」

 

えっと・・・・・・なんというか、話の内容につていけないのだが・・・・・・

 

「あの、大包平さんは“睡蓮”様と上手くいっていないのですか?」

 

「ん? ああ、沙紀は知らないんだったか。 鶴丸、話してないのか?」

 

大包平にそう問われて、鶴丸がアイスティーを飲みながら溜息をつく

 

「話す訳ないだろう? 話す理由がない」

 

ときっぱり言い放つ鶴丸に、「お前な・・・・・・」と大包平が半分呆れた様な声を洩らした

すると、鶴丸がやはり溜息を付き

 

「こいつは、元々あの“睡蓮”って女が顕現させたわけじゃないんだ」

 

「え・・・・・・?」

 

ふと、あの噂が過ぎった

大包平は彼女が顕現させたのではなく、政府預かりの大包平をひと目で気に入り、その権力を持って無理やり自分の本丸へ異動させた――――という一部で噂になってる件だ

 

「ほら、前に政府機関で一時期一緒に仕事したって言っただろう? 別の男の“審神者”の“本丸”で顕現して、その主である“審神者”が病気でその地位を返上したから、そこの“本丸”の刀剣男士は皆政府預かりになって、色々別の“本丸”に派遣されたってだけだ」

 

「では・・・・・・それで、大包平さんは“睡蓮”様の元に・・・・・・?」

 

「まぁ・・・・・・ざっくり言うとそうだが、俺の本位ではない!」

 

「こいつ、他の“本丸”に行くのを拒否って“刀解”されそうになってたから、俺が拾ったんだよ」

 

「と、刀解!?」

 

突然出てきた物騒な言葉に、沙紀がさっと顔を青ざめる

 

「まぁ、確かにあの瞬間まではそれでもいいと思っていた。 他の主に仕える気なんてさらさらなかったからな! ・・・・・・だが、鶴丸が主に会わせてくれるというから俺は――――」

 

「んだよ、ちゃんと俺は約束を守ったぜ?」

 

「――――その件については感謝、している」

 

大包平のその言葉に、鶴丸が少し驚いたような顔をした後、「へぇ」と笑った

 

「それは、初耳だな。 なら、この場は俺に譲れ」

 

そう言って、話を聞いていた沙紀の肩を抱き寄せる

 

「お~ま~え~な~~~!! それとこれは話が別だ!! 俺は――――・・・・・・」

 

そこで、ふと沙紀は気づいていしまった

大包平が「主」と認めているのは最初の方だけなのだと

自分を顕現してくれた、“審神者”だけ――――・・・・・・

 

「大包平さんは、自分を顕現してくださった“審神者”様の事がお好きだったのですね。 そんな風に思ってもらえるなんて、きっとその方も幸せだったでしょう」

 

「そう―――だ、ろうか・・・・・・」

 

「はい、きっとそうですよ」

 

「・・・・・・・・・・・・そう、か」

 

沙紀のその言葉に、大包平が少し顔を赤らめて口元を抑えた

 

そんな風に言って貰えるなど――――思いもよらなかったからだ

今の“審神者”は正直、自分最優先で身勝手過ぎて、大包平にとって“いい審神者”ではなかった

 

「は・・・・・・同じ“審神者”でも、あの女と沙紀は随分違うんだな・・・・・・。 雲泥の差だ」

 

「“睡蓮”様、です、か・・・・・・?」

 

「ああ――――あの女は周りを蹴落とす事しか考えてないからな。 “審神者”としての力はあるのかもしれんが、それを笠に着て圧制する悪代官みたいなもんだ」

 

「ぶっ・・・・・・!」

 

大包平のその例えに、鶴丸が吹き出した

 

「は、はは! お前、言う様になったなぁ~、大包平」

 

「ふ、我ながら良い例えだと思ってな」

 

なんだか・・・・・・

先歩まであんなにぴりぴりしていたのに・・・・・・

 

「ふふ・・・・・・」

 

沙紀が思わず笑ってしまう

 

「沙紀?」

 

「いえ、お二方とも、何だかんだで仲が宜しんだなって、思いまして」

 

「「・・・・・・・・・・・・」」

 

沙紀の言葉に、二振が思わず押し黙る

それから、お互いに顔を見合わせて笑いだした

 

「ふ・・・・・、今日は沙紀を慰労してやろうと思っていたのに、俺の方が助けてもらったみたいな気分だ」

 

「まぁ、うちの・・・“審神者”だからな、沙紀は」

 

「おい・・・・・・っ!」

 

と、そこまで言い掛けて――――大包平がふと、その怒りを収めると

 

「ま、ここは沙紀の顔に免じて許してやるよ。 俺様は寛大だからな」

 

「はいはい」

 

「もう、りんさん、あまり変な事言わないでください・・・・・・。 恥ずかしいので・・・・・・」

 

そう言って、そんな事で顔を赤らめる沙紀はやはり可愛く見えて

 

正直、お前が羨ましいよ・・・・・・鶴丸

お前の様に、俺にもあの時“力”があれば、未来は変わっていたのだろうか――――

 

そんな事をふと考えてしまう

 

だが、もし、この先――――

沙紀・・・・・・お前に仕える事が出来たならば

 

 

   俺は、きっと――――・・・・・・

 

 

そう考えずにはいられなかったのだった――――・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

うちの大包平は夢主さんの“本丸”の子ではないでーす

なんだかんだで、仲良いなお前ら

って感じです

 

2023.06.13