深紅の冠 ~鈺神朱冥~

 

 第1話 紅玉 14

 

 

「――特級呪物・“獄門疆”を使う」

 

袈裟に額に傷のある男が、そう言いながら口元を微かに歪ませる。

すると、頭が火山の様になっている異形がその言葉に、反応する様にそのひとつ目を大きく見開いた。

 

「……獄門疆……だと?」

 

瞬間、ぼぼぼ……と、異形の頭の火山が噴火するかの様に、炎を纏い出したかと思うと――。

 

「持っているのか!? あの、忌み物を!!!」

 

まるで、異形が興奮するかの様に叫んだ。

だが、目の前の男は至極冷静で、溶けかけた氷の入ったグラスを見ながら、

 

「漏瑚、興奮するな。暑くなる」

 

そう、火山の異形に促すが――その異形の興奮は収まらなかった。

どんどん、頭の火山から火を発して散らしだす。

と、その時だった。

 

「お客様、ご注文はお決まりで―――」

 

ウェイターが男のいるテーブルに注文を伺いに来てしまった。

刹那。

 

 

―――ボゥ!!!

 

 

そのウェイターが異形の炎に捲かれて、一瞬にして火だるまと化したのだ。

そして、そのままよろけたかと思うと、横にいたウェイトレスの前に倒れる。

その瞬間、ファミレスの中が一気に叫び声で騒がしくなった。

 

それを見た、男は冷淡な眼差して、驚くでもなく、半分呆れにも似た様な溜息を洩らして、

 

「……あまり騒ぎを起こさないで欲しいな」

 

そう異形に注意を促した。

すると、異形はにたりとそのひとつ目を細めると、片指を2本上げて――、

 

「ふん、これでいいだろう……?」

 

そう言ったかと思うと、にやりと笑みを浮かべ、その指をクンッと横へ凪った――瞬間。

ファミレス内にいた客の身体が、次から次へと炎に包まれたのだ。

 

至る所から、恐怖におののく声と、悲鳴が辺り一帯に響き渡る。

それと同時に、人の焼ける嫌な臭いと、燃えた煤、そして火の粉が舞って、一気に店内の熱が上がった。

 

男は、片手で煤を払いながら軽く咳込み、

 

「高い店にしなくて良かったよ」

 

と、人が燃えた事など露とも思わない様な台詞を吐きながら、平然とそうぼやいた。

その時だった、火山の異形が男を見て、

 

「夏油。儂は宿儺の指、何本分の強さだ?」

 

「ん? ……甘く見積もって、8、9本分って所かな」

 

男のその言葉に、異形がにたりと笑った。

 

「充分!! 獄門疆を儂にくれ!! 蒐集に加える。――その代わり」

 

異形がその口元を歪ませると、もう一度その指を横にゆっくりと凪った。

刹那――。

 

ファミレスの全ての客・店員・店の何もかもが炎に包まれた。

そして、その炎の中で異形は楽しそうに笑みを浮かべ、

 

 

「――五条悟は、儂が殺す」

 

 

そう――言ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      ◆      ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――都内・五条家本家 門前

 

 

「……伊地知ぃ」

 

「は、はい……」

 

五条家の本家の門前に止まった車を見て、五条が運転席の伊地知を見た。

伊地知は、びくびくしながら息を吞む。

 

だが、五条は一瞬だけ横にいる凛花を見た後、

 

「僕、何て言ったっけ?」

 

「は……その、ご自宅に送る様に、と……」

 

「違うでしょ? 僕のマンション・・・・・に送ってって言ったんだけど?」

 

五条のその笑ってない声音に、伊地知がびくびくと肩を震わせながら、冷や汗を流した。

 

「そ、それは……その……」

 

しどろもどろしながら、バックミラーでちらりと凛花を見る。

すると、凛花が小さく首を横に振りながら、

 

「あ、あの悟さん。どうせご自宅には顔を出さないといけなかったのでしょう? 丁度良かったのでは――」

 

そう、五条を諫める様に言うが……、五条は凛花と伊地知を見た後「ふーん」と声を洩らして、

 

「……ま、いいけどね。何処だろうと変わらないし?」

 

そう言ったかと思うと、ぐいっと凛花の腰を抱き寄せた。

ぎょっとしたのは、凛花だ。

「あ、あの……」と、慌てて五条から離れようとするが、腰をがっちり掴まれていて、びくともしない。

そうこうしている内に、五条は凛花を連れて車を降りた。

 

すると、門が内側から開いたかと思うと、ずらっと五条を出迎える様に、使用人達が並んでおり、そして―――。

 

 

「お帰りなさいませ、悟様」

 

 

まるで、五条がこの時間に帰って来るのを知っていたかの様に、出迎えの挨拶をしてきたのだ。

それを見た五条は、一度だけ視線を伊地知に向けた後、

 

「うん、ただいまー」

 

そう言って、凛花を連れたまま本家の中に入っていった。

その姿を最後まで見送った後、伊地知は「はああああ」と、重い溜息を零し、

 

「……すみません、神妻さん。私に出来るのはここまでですっ」

 

そう言って、そのまま車に乗って去って行ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あの……悟さ、ん……」

 

この時、凛花は逆に色々ミスったかもしれない、と思った。

いつもなら、五条家本家に来た場合、凛花用の部屋に通されるのだが……。

何故か、今日は五条と一緒に五条の私室に通されていた。

 

しかも、どうしてか人払いまでされてしまった。

絶体絶命とは、まさにこの事である。

 

「凛花ちゃんさ、マンションじゃなくて本家なら、僕から逃れられると思った?」

 

そう言って、どんどん後ろへと追いやられる。

気が付けば、凛花の後ろには最早壁しか無かった。

 

「そ、そういう、訳、で……は……」

 

しどろもどろになりながら、凛花が視線を思わず逸らす。

すると、五条が「ふーん」と言いながら、どんっと凛花の横の壁に、手を付いた。

そして、ゆっくりと顔を近づけると、

 

「甘いよ、凛花ちゃん。本家ここの主は僕だよ?」

 

「さ、悟さ――んんっ」

 

「悟さん」と呼ぼうとしたが、その言葉は、五条の唇によって塞がれてしまった。

ぐっと、腰に回された手に、力が籠もる。

そのまま、五条は凛花を抱き寄せると、その唇を貪った。

 

「……っ、ぁ……は、ン……っ、さ、とる、さ……っ」

 

角度を変えて、何度も何度も凛花の唇に口付けを落としてくる。

堪らず、凛花が五条の上着を掴むと、五条は気分を良くした様に、くすっと笑みを浮かべ、

 

「ほら、もっと口開けて」

 

「え……?」

 

頭がぼうっとして、言われる意味が分からない。

すると、五条は凛花の頭を押さえると、上を向かせた。

必然的に唇が開く。

そこを狙ったかの様に、五条の舌が凛花の唇を割って入ってきた。

 

「……ぁ……っ、ふ、ぁ……ンン、ま、待っ……」

 

凛花が、「待って」と言おうとするが、五条は待ってはくれなかった。

凛花の口内を犯す様に、舌を絡める。

 

激しく吸われて、舌先が痺れてくるが、五条の口付けは止まらなかった。

何度も角度を変えて、凛花の唇を貪ってくるそれに、次第に凛花の意識が朦朧としてきた。

 

だが、それだけでは終わらなかった。

五条が、凛花の脚の間に自分の片足を入れてきたのだ。

まるで、脚を割り入れてくる様な動きに、凛花はぎょっとした。

 

まさか……とは思ったが、五条の足は止まらなかった。

ぐっと凛花の股に自分の片足を押し付けてくると。凛花の脚の間を刺激してきたのだ。

 

「……っ、は……ん……っ」

 

その刺激に、凛花の腰がびくっと跳ねる。

必死に五条の胸を押して、何とか離れようとするが、五条の力に勝てる訳がなく……。

しかも、口付けは更に深くなり、口内を蹂躙される様に犯してくる。

 

そして、とうとう立っていられなくなったのか、凛花がずるずると床に座り込みそうになった時だった。

だが、それすらも許さないかの様に、五条の手が凛花の後頭部に回り、ぐっと押さえ付けられる。

そして、凛花の脚の間に差し込んでいた片足を、ぐいっと突き上げる様に力を入れたかと思うと、更に強く刺激してきたのだ。

 

「……ぁ、ンン……っ」

 

その瞬間、びくりと凛花の身体が強張ると同時に、がくっと膝の力が抜けたのが分かったのか、五条の足が離れた。

 

そして、しゃがみ込みそうな凛花の身体を五条が抱き留める様にして支えると、口付けていた唇を漸く離した。

その途端――がくっ 凛花の身体から力が抜ける。

そのまま、五条に寄り掛かる様に倒れこんだ。

 

肩で息をする凛花を見て、五条がふっと微かにその口元に笑みを浮かべると、凛花の耳元で囁く様に、

 

「ねぇ、凛花ちゃん――言ったでしょ? おしおきするって」

 

「……っ、そ、んな……ぁ……っ」

 

それ以上は言葉には出来なかった。

何故なら、凛花が抗議の声を上げようとした瞬間、五条の指先が凛花の太腿をつーっと伝い始めたのだ。

しかも、ゆっくりと太腿を愛撫しながら……。

そして、その指先は徐々に内腿へと入って来る。

 

まるで、今から何をされるか分かってしまった様な気分になり、一気に凛花の顔に熱が集まった気がした。

しかも……いつの間にか着ていたインナーが捲られている事にも気付き……更に頭に血が上るのが分かった。

そんな凛花に構わず、五条の手が更に内腿を伝い、脚の付け根へと伸びていく。

 

「……っ、ま、待って……っ、悟さ――」

 

慌てた凛花が、五条から離れようと胸を押すが、やはり五条の身体はびくともしなかった。

それ所か、逆にその手を掴まれて、壁に縫い付けられる様に押し付けられてしまう。

そして、もう片方の手が凛花の顎を掴むと、上向かされたかと思うと、五条の唇が再び凛花の唇を塞いだ。

 

「ぁ……っ」

 

ぴくんっと、凛花の肩が震えた。

だが、五条に唇を塞がれてしまって、上手く声が出せない。

 

「ン……っ、は、ぁ……っ」

 

五条の舌が凛花の口内を蹂躙する様に動き回ると、また身体の力が抜けていくのが分かった。

そして、その隙を狙っていたかの様に、五条の指先が凛花の下着の線をなぞる様にして触れてきたかと思うと、ぐっと指の腹で押してきたのだ。

 

「……っ」

 

その瞬間――びくんっと凛花の身体が跳ねる。

だが、そんな凛花を宥める様に、今度は優しく何度もそこを撫でてきた。

 

「っ、さと……」

 

恥かしさの余り、慌てて凛花が声を上げようとするが、瞬く間に口付けが深くなる。

そのまま、何度も口付けを交わしながら、五条の指先は下着越しに凛花の奥を刺激してきた。

そして、もう片方の手で器用に凛花の上着のボタンを外していく。

すると、露になった下着の線を今度はゆっくりなぞる様にして触れてきたのだ。

 

「ン、ぁ……っ、は、ぁ……ンん……っ。だ、だめ……っ、こんな、明るい、の、に……っ」

 

今は、まだ昼間だ。

しかも、ここは五条家本家の敷地内で、目の前の戸も開いている。

 

凛花が顔を真っ赤にして拒否する様にそう言うと、五条はやはりくすっと笑みを浮かべて、

 

「なんで駄目なの? 言ったでしょ。本家ここの主は僕だって。それに――」

 

次の瞬間、耳元に唇を寄せられたかと思うと、その場所に舌を這わされたのだ。

 

「ぁ……っ」

 

びくんっと、凛花の身体が震えた。

くちゅっと濡れた音がダイレクトに鼓膜を揺さぶって来て、思わず首をすくめてしまう。

すると、今度は首筋に唇を落とされて、強く吸い付かれた。

まるで所有印を付けるかの様に何度も強く吸い上げられるそれに、凛花の身体が震える。

 

「皆、本家うちの者は知ってるから気にしなくていいよ。僕と凛花ちゃんの関係――」

 

そう言ったかと思うと、再び五条の唇が凛花のそれに重なった。

今度は、最初から深い口付けだった。

 

「……っ、ぁ……ふ、ぁ……っ、は……ン……っ」

 

舌と舌が絡み合い、唾液が混ざり合う。

逃れられない――。

 

そう、凛花は思った。

 

五条の手が凛花の胸の膨らみに触れてくる。

下着の上から触れていただけの指先は、下着の下に入り込むと、直接その柔らかなふくらみに触れてきたのだ。

それと同時に、五条の指先は突起を見つけると、きゅっとそれを摘み上げてきた。

 

「ンン……っ」

 

その瞬間――びくんっと凛花の身体が揺れる。

だが、それでも五条の口付けから逃れる術もなく、されるがままだった。

五条の指先が凛花の突起を摘み上げ、くりくりと指の腹で転がしてくる。

 

「ぁ……っ、は、ぁ……ん……っ、ゃ……、だ、だめ……、待っ……」

 

その度に、凛花の口からは甘い吐息が零れた。

そして、その口付けも更に深くなっていく。

 

次第に、頭がぼんやりしてきて、思考が上手く纏まらない。

脳がとろとろに溶かされていく様で、凛花はただただ、五条からの行為を受け入れるしかなかったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      ◆      ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――都内・某集合団地

 

 

「自分達が、現場に着いた時には……既に、息子さんは亡くなっていました」

 

伏黒の言葉に、その女性はただ静かに聞いていた。

それは、あの日――あの少年院で息子の安否を心配して駆け付けていた母親だった。

 

伏黒は、一度だけ目を伏せると、

 

「……正直、自分は少年院あそこの人達を助ける事に、懐疑的でした。でも――」

 

ぐっと、握っていた拳に力が入る。

脳裏に、あの時の虎杖や釘崎の姿が過ぎった。

 

「でも、仲間達は違います。……成し得ませんでしたが、息子さんの生死を確認した後も、遺体を持ち帰ろうとしたんです」

 

最初にそう言い出したのは、虎杖だった気がする。

「持って帰ろう」――と、「遺族」の為に。

そう言っていた。

 

でも――自分は……。

 

「せめて、これを――」

 

そう言って、伏黒が女性に差し出したのは、遺体の服に縫い付いていた名前の書かれたものだった。

そこには「岡崎正」と書かれていた。

 

遺体は、特級の生得領域と共に、消滅した。

だから残っているのは、去り際に破り取ったその名札だけだった。

 

「……正さんを助けられず、申し訳ありませんでした」

 

そう言って、母親である女性に向かって頭を下げる。

その手は、微かに震えていた。

 

自分が――こうして遺族に謝罪するのが、正しいのか、間違っているのか。

そんな事は分からない。

けれど、虎杖の死を間近に見て、そうせずにはいられなかった。

 

偽善と言われても、打算的だと言われても。

ただ、伏黒はそうせずにはいられなかったのだった――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

生徒が謝罪に行ってるときに……。

とか、思ったのは私ですww

 

2024.04.24