深紅の冠 ~無幻碧環~ 幕間

 

◆ ✖✖✖の後は、ご用心(ホワイトデー2024)

 

 

その日は、予想以上に忙しかった。

任務と報告が終わったと思ったら、実家から緊急の連絡が入り、

漸く一息付けたと思ったら、誰かに呼び止められる。

 

流石の凛花も、苛々が募りそろそろ嫌気がさしてきた頃だった。

〝それ〟が来たのは――。

 

「凛花ちゃーん」

 

能天気な声が背後から聞こえてきて、凛花が一瞬ぴたりとその足を止めた。

なんとなく、振り向いたら負けな気がして……、聞こえなかったフリをしてそのまま足を進める。

 

「凛花ちゃん? おーい、凛花ちゃーん」

 

凛花にしては、かなりの早足で歩いているというのに、何故かその声が一向に小さくならない。

それどころか、どんどん近くなっている気がする。

 

だが、凛花はそれでも無視して足を進めた。

最初は早足なだけだったが、次第に小走りに近い位の速度で歩き始める。

 

誰かは分からないけれども、もう今日はこれ以上振り回されるのはごめんだった。

もう、このまま走ってしまおうか――。

そこまで考えた時だった。

 

不意に、後ろから手が伸びてきたかと思うと――そのまま羽交い絞めの様に手を回されてて抱き締められる。

 

「い……」

 

変態!?

 

「嫌ぁ!!」

 

瞬間、凛花は反射的に叫びながら、持っていたバッグで後ろめがけて殴り飛ばすかの様に振り回した。

――が、そのバッグがぴたりと空中で止まる。

 

「――っ」

 

止められた!?

反射的に素早く足を引くと、そのまま後ろの相手の足めがけて蹴り上げた。

しかし――それすらも、あっさり避けられてしまう。

 

これも避けられた……っ!?

こうなったら最終奥義。急所の「あそこ」を蹴り飛ばして――!!

 

そう思って、足をそのまま上へ蹴り上げようとした時だった。

 

「ま、待って待って!! 僕だよ、凛花ちゃん!!」

 

「え……?」

 

近くで聞こえてきたその声に、はっとして凛花が慌てて振り返った。

そこにいたのは――。

 

「さ、悟……さん?」

 

そこにいたのは、五条悟だった。

五条は少し不貞腐れた様に顔を膨らませて、凛花を見ていた。

 

まさか、追い掛けてきていたのが五条とは思わず……凛花が少し気まずそうに視線を逸らす。

 

「さ、悟さん、その……普通に声掛けて下されば……」

 

「……掛けたんだけど、無視したのは凛花ちゃんだよね?」

 

「うっ……」

 

そこを突かれると痛い。

確かに、誰かが声を掛けてきていたのを無視したのは自分だが……。

それはそれで、深い理由があったからで……決して五条だから無視した訳ではないのだが。

 

それを言っても、後の祭りなのは明白だった。

 

もう、ここは素直に謝るしかないと思った凛花は、五条の腕の中でゆっくりと振り返ると、

 

「……す、すみません。その……少し考え事をしていて……」

 

嘘です。

誰かの相手をするのが煩わしかったので、逃げました。

 

とは言えず、とりあえずそう謝罪すると、五条が「ふーん?」と意味深に声を洩らして、じっと凛花の目を見てきた。

 

うっ……。

視線が痛い……。

 

じっと、あの全てを見透かす様な碧色の瞳で見つめられると、何だか居たたまれない気分になる。

 

「あ、あの……悟さんはどうしてここに?」

 

とりあえず、話を逸らそうとそう話しかけると、五条が持っていた紙袋を差し出してきた。

 

「これ、渡そうと思ったんだけど」

 

「……? なんですか、これ」

 

白いお洒落な紙袋に、五条の瞳と同じ碧色のリボンがしてあるそれを見て、凛花が首を傾げた。

すると、五条が半分呆れた様に、

 

「何って、バレンタインのお返し」

 

「え? あ……」

 

言われて初めて気づいた。

今日が、ホワイトデーだという事に。

 

「あ、ありがとう、ござい、ま、す……」

 

そう言って、凛花が受け取ろうとした時だった。

何故か、ひょいっと五条がその紙袋を上に上げた。

 

「あの……?」

 

ただでさえ五条は背が高いのに、その上その長い腕を上に上げられたら受け取れないのだが……。

そう突っ込みたいが、さっきの事もあり強く言えないでいると、五条がにやりと笑って、

 

「欲しかったら、凛花ちゃんからキスしてよ」

 

…………

………………

……………………

 

「………………はい?」

 

今、この男は何と言ったか……。

キス……?

ここで??

 

「……あ、だったら別に――」

 

と、凛花があっさり引き下がろうとしたので、五条が「ふーん?」と、また意味深に声を洩らした。

 

「いいのかな? これ、凛花ちゃんが好きな例の店のラスクだけど――」

 

ぴくっ。

 

「あの、いつも売切れてる限定の――」

 

ぴくぴくっ。

 

「……悟さんの、いじわる……」

 

むぅ……、と凛花がその頬を可愛らしく膨らませながら、五条を睨んだ。

凛花がその店のラスクが好きなのを知っていて、あえて五条はこんな事を言ってきているのだ。

断れないのを知っていて――。

 

すると、五条はにっこりと微笑んで、

 

「どうする? キスしてくれる?」

 

「~~~っ、ずるいです……」

 

「口にして欲しいかなー」

 

そう言って、五条が自身の口を指さす。

それを見た凛花が少し困った様に、周りを見た後、

 

「……す、少しだけですよ?」

 

そう言って、背伸びすると五条の頬に手を伸ばし、そのままそっと口付けた。

一瞬。

触れるだけの、口付け。

 

自分からするなんて、しかもこんな場所で……。

恥かしくて仕方ない。

 

凛花が恥ずかしさの余り、さっと慌てて五条から離れようとした時だった。

 

「足りない、かな」

 

「え……、あ……っ!」

 

そう言われたかと思うと、ぐいっと腰を引き寄せられ、あっという間に唇を奪われた。

五条のまさかの行動に、一瞬反応が遅れる。

 

「んんっ……さと……っ」

 

「ほら、もっと口開けて」

 

そう言って促されて、半強制的に上を向かせられると、そのまま五条の舌が割って入ってきた。

そしてそのまま、舌を絡め取られ貪られる様に口付けされる。

 

「……っ、ふ、ぁ……っ、さと、る……さ……っ」

 

ぴくんっと、凛花の肩が震えた。

息が苦しくなる程のその激しい口付けは――凛花が蕩けて力が抜けるまで続けられたのだった。

 

しかしその後――さすがに誰かに見られでもしたら、たまったものではないので、凛花が慌ててすぐに離れたのだが……。

それでもまだ足りないのか、今度は五条から何度もキスをされてしまい――。

 

そんな五条に、凛花が涙目になって訴えようとしたのだが――結局、上手く言いくるめられてしまい、そのまま五条所有のマンションで美味しくいただかれてしまう事を……この時の凛花はまだ知らなかったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今更の如く、ホワイトデーꉂ🤣w

遅くなりまして!!

 

 

2024.03.19