◆ 少しの間に……
『どうかな? 悟は止めて私にしないかい?』
あの日――夏油が言った言葉の後……。
「凛花ちゃん、今度の休み空いてるかな? 私と一緒に美味しいケーキ屋さんに行かないかい?」
「その日は、凛花は俺と出掛ける事になってるから駄目だ」
「じゃぁ、私も一緒しようかな」
「はあ!? デートに付いて来るなよ!!」
「……」
と、凛花の後ろが毎日の様に煩くなった。
最早、相手をするのも疲れたのか……凛花は完全スルーである。
「はぁ……」と、諦めにも似た溜息を零しながら、凛花は振り向く事なく、
「悟さんと約束した覚えはありませんし、夏油さんとは一緒に出掛ける程親しくないかと……」
とだけ、突っ込むと、すたすたと歩き始めた。
そもそも、こうも毎日毎日毎日人の後付いて回っているが……、五条は仕事をどうしたのだろうか?
こんな暇な人ではない筈だ。
むしろ、ハードスケジュール過ぎて、頭がおかしくなってしまったのだろうか……。
なんとなく……伊地知が胃を痛めいるのが想像出来て、凛花は心の中で合唱した。
夏油の方はよく分からない。
五条と同じ特級呪術師だとは聞いてはいるが、五条程忙しくは無さそうだった。
その時だった、凛花の携帯がピピピと着信音を鳴らした。
画面を見ると、そこには〝伊地知潔高〟の名前が表示されていた。
噂をすれば何とやら……。
「はい、もしもし」
凛花が電話に出ると、伊地知の泣きそうな声が聞こえてきた。
どうやら、ひとつ前の仕事の後 五条が消えたので、行方を知らないかという内容だった。
「行方も何も……」
そこまで言って、ちらりと後ろにいる五条と夏油を見た。
ここにいるんですが……。
「……はい、はい。分かりました、何とかします」
それだけ言うと、凛花は携帯の通話終了ボタンを押して、振り返った。
「悟さん」
凛花が自分の名だけ呼んだことに、五条が嬉しそうにぱっと顔を綻ばせる。
「凛花ちゃん! やっぱり、僕と一緒に――」
「いえ、仕事はどうしたんですか?」
凛花のその言葉に、五条が軽く首を傾げた。
そして、何でも無いことの様に、
「ん? ああ、伊地知? もしかして、さっきの電話。……後で絞めるか」
後で絞めるって……。
凛花は、「はぁ……」と溜息を洩らすと、
「そうじゃなくてですね。仕事はちゃんとやって下さい。仕事片づけるまで、悟さんとは出掛けません」
「ええええ!?」
がーんと、ショックを受けた様に五条があからさまに落ち込む。
すると、その瞬間を見逃さなかったのか……夏油がにっこりと微笑みながら、凛花の肩に手を回すと、
「じゃぁ、凛花ちゃんは私と出掛けようか」
「え? あ、いえ……そうではなく……」
と、凛花が遠回しに断ろうとした時だった。
五条が、ばしっと夏油の手を弾くと、凛花を自分の方に抱き寄せた。
そして、さも当然の様に――。
「凛花に触るな! 傑!!」
「何故だい? 別に彼女は悟のものではないだろう?」
「俺のだよ!!」
「あの……」
再び勃発しそうな言い争いに、凛花が呆れた様に溜息を洩らすと、
「悟さんが仕事なさっているのに、夏油さんと出掛ける理由にはなりません。後、私、悟さんのものじゃありません」
そうきっぱりはっきり言ったのだが……、
「ほら、悟。彼女が自分は君のものでは無いと言っているよ」
「都合のいい所だけ、抜粋してんじゃねーよ」
「……」
どうしたら、彼らに通じるのか……。
凛花は、疲れ果てて言葉を発するのも面倒になって来た。
「あのですね……」
凛花が、何度目か分からない溜息を洩らしながら、
「悟さんはとりあえず――」
「仕事に……」と言い掛けた時だった。
突然、五条が凛花を抱き締める手に力を籠めたかと思うと、そのまま首に顔を埋めてきた。
「悟さん……?」
様子が少しおかしい五条に、凛花が首を傾げた。
すると、五条は更にぎゅっと抱き締める手に力を籠めたかと思うと……。
「ちゃんと戻るから、少しだけ充電させて……僕、徹夜で連勤4日目なんだよね」
「……」
そう言われてしまっては、強く出られない。
凛花は小さく息を吐くと、
「もう……、少しだけですよ?」
そう言って、五条の背中をぽんぽんと叩いた。
すると、それを見ていた夏油がくつくつと笑い出した。
「やっぱり、凛花ちゃんは悟には甘いんだね」
そう言われて、凛花が「え?」となる。
それから、自分にしがみ付いてる五条を見て、
「そう――ですか? まぁ、徹夜で連勤なら仕方ないかと思うのですが……」
そう言った時だった。
不意に、夏油の手が伸びてきたかと思うと――そのまま反対の首に顔を埋められた。
ぎょっとしたのは、凛花だ。
夏油のまさかの行動に、知らず顔がかぁっと朱に染まる。
「あ、あの……っ、夏油さ……」
「私も、凛花ちゃんで充電。させて貰おうかな」
「え、ええ……!?」
長身の男2人に寄り掛かられて、凛花が耐えられる筈もなく……。
あっという間に、その場に押し倒されてしまう。
「ちょ、ちょっと……待っ……!」
抵抗虚しく……。
気が付けば凛花の上には、男が2人。
「あ、あの……っ!」
慌てて凛花が口を開くが……、双方から伸びてきた手が、凛花の頬に触れた。
「凛花……」
「凛花ちゃん」
甘く名を呼ばれ、凛花の顔が益々赤くなる。
「い、いや、あの……ま、待っ……!」
待って――――っ!!
と、心の中で叫ぶ凛花の声が木霊するが……。
当然、そんな願いは聞き届けられる筈も無く。
結局、その後……。
2人に充電と称して暫く散々弄ばれた挙句、明け方近くまで一緒に過ごす羽目になるのだった。
勿論、仕事に戻ったのは五条だけだったのは言うまでもない。
最強サンド~
リハビリwww
ラストはご想像にお任せします笑
2024.03.02