深紅の冠 ~無幻碧環~ 幕間

 

◆ 約束(クリスマス・イブ前日譚)

 

 

「え……?」

 

それは、唐突な質問だった。

凛花が、きょとんっとその深紅の瞳を瞬かせる。

 

すると、横に居た五条がにやにやしながら再度聞いてきた。

 

「だから、24日! 勿論空いてるよな?」

 

「えっと、何の話ですか……?」

 

彼の言う意味が分からない。

凛花が首を傾げながら、

 

「24日って……今月の?」

 

そう尋ねると、五条はさも当然の様に、

 

「決まってるだろ。12月24日!! まさか、凛花ちゃん何の日か知らないの!?」

 

12月24日……クリスマス・イブの事を言っているのだろうか?

凛花は、しれっと とぼける様に、少し考えるそぶりをしながら、

 

「イエス・キリストの生誕祭を日没から祝う日でしょう?」

 

「え……」

 

「だから、キリスト教では日没から次の日没までを1日の区切りとするらしいので、24日の日没から25日の日没までが―――」

 

「……凛花ちゃん、キリスト教徒だっけ?」

 

五条が一瞬言葉に詰まった後、そんな事を聞いてきたので、

 

「……違いますけど?」

 

「じゃぁ、関係ないじゃん!!!」

 

凛花があっさりと否定すると、素早く五条の突っ込みが入った。

 

「12月24日といったら、クリスマス・イブ!! 恋人たちが一緒に過ごす日だよ!! 凛花ちゃん!!」

 

そう名を呼ぶなり、いきなり がしいっと凛花の両手を掴んだ。

そして、ぐぐっと顔を近づけてきて、

 

「も・ち・ろ・ん! 僕との為に、予定は開けているよね!?」

 

「……私達、恋人でもなんでもありませんけど……?」

 

そう淡々と返す凛花に、五条がぐぐっと更に顔を近づけ、

 

「そんな事ありません!!!」

 

と、言い切った。

思わず、さっと凛花が視線を逸らす。

 

「……凛花ちゃん。視線は逸らした方が負けなんだよ」

 

と、訳の分からない事を言い出した。

そして、勝ち誇ったように、

 

「やっぱり、イリュミネーションは見たいよねえー。後は、夜景の綺麗なレストランでディナーとか! あ、なんなら、お部屋デートでも―――」

 

と、夢をはせる五条をぶった切る様に、凛花が一言。

 

「……悟さん。私、24日は約束があるんです」

 

…………

………………

 

「え………………?」

 

一瞬、五条が固まる。

 

「だから、24日は―――」

 

そこまで言いかけた時だった。

不意に、影が顔に掛かったかと思うと、いつの間にか壁際に追いやられていた。

そのまま どんっ! と、顔の真横に手を置かれて追いつめられる。

 

「あの……」

 

動けないのですけど……。

と、言おうとした時だった。

 

2トーンぐらい低い声で、

 

 

「誰、相手」

 

 

「……え?」

 

凛花が顔を上げると、今にも人を殺しそうなぐらい冷たい視線をした五条がそこにいた。

そして、淡々とした声で、

 

「言えよ、相手」

 

「あ、あの……」

 

「5秒待つ。その後、そいつ殺るから」

 

いや、待つ意味がそれ全くないではないか。

と、突っ込みたいのに、突っ込める雰囲気ではなかった。

そんな様子の五条に、凛花が小さく息を吐くと、

 

「……本気ですか? きっと悟さんでは勝てませんよ?」

 

そう言うと、五条はふっと不敵な笑みを浮かべ、

 

「俺を誰だと思ってるんだ? これでも、“最強”の名は伊達じゃないんだがな」

 

「……その方も、よく“最強”だと仰っていますので」

 

そう返すと、五条が「は?」と、素っ頓狂な声を上げた。

 

「まさか……傑か!? それとも、宿儺に変わった悠仁……とか言わないよな? はっ! 大穴で憂太か!」

 

「あの……」

 

この人は何を言っているのだろうか……。

夏油とは、そもそもほぼ直接的な関りはなかったし、虎杖は論外、乙骨は今 海外にいる。

しかもこの3人中2人は自身が“最強”とは一言も言っていない。

……夏油は知らないが。

 

ぐぐっと、五条が少し悩んだ後、

 

「仕方ない、3人とも殺ってしま―――「物騒な事言わないでください。……本当に、気付いていないのですか? 私の知る限り、自分で“最強”名乗る方はお1人しかいませんが」

 

「え?」

 

「しかも、その人 毎年24日に翌年の約束も無理やり取り付けるんですよ? 酷いと思いません? まぁ、ご本人は覚えていない様ですが――」

 

「ま、待った待った! 毎年って……まさか、凛花ちゃんの言う“約束の相手”って……僕?」

 

「……そうだったのですが、覚えてなかったようなので――その約束はなかった事で」

 

と、凛花がしれっと断ろうとした時だった。

五条が慌てて、凛花を抱き締めた。

 

「待って待って!! 覚えてる!! すごーく覚えてる!!」

 

「……今の今まで忘れていたくせに……」

 

「いや、忘れてたわけじゃないよ。本当に凛花ちゃんが覚えてくれてるとは思ってなくて……ごめん」

 

そう素直に謝られると、これ以上強く言えない。

そういう所が、凛花が五条に弱い所だった。

 

はぁ……と、凛花は小さく息を吐くと、

 

「あの、どさくさに紛れて抱き付かないでください」

 

そう言ったものの、五条は更に抱き締める手に力を籠めると、

 

「24日、楽しみにしてる」

 

こうして、なし崩しのまま今年の24日も五条と過ごす事になりそうなのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イブの前の話

どうやら、夏油生存if?かも?

※24日に本編あるかは未定ww

※べったーとXに上げていたSSです

 

2023.12.23