深紅の冠 ~無幻碧環~

 

◆ 仮眠中には気を付けて

 

 

「え?」

 

凛花がその深紅の瞳を瞬かせた。

すると、釘崎と虎杖がうんうんと頷きながら、

 

「今、五条先生なら、仮眠中だってさー」

 

「まったく、生徒ほったらかしてなにやってんのかしらね、あの教師は」

 

と、2人は言うが……、伏黒は半分呆れた様に溜息を洩らし、

 

「仕方ないだろう。五条先生は今日まで徹夜で5連勤してたって言ってただろうが」

 

「え……連勤?」

 

伏黒の言葉に、凛花が首を傾げた。

そんな話、聞いていなかったからだ。

 

いつもなら、一言何か言ってきそうなのに、昨日逢った時はそんな素振りは全く見せなかった。

凛花は少し考えた後、

 

「……分かったわ、ありがとう」

 

少し視線を下に落とすと、凛花はくるっと来た道を戻ろうとした。

それを見た伏黒が、慌てて声を掛ける。

 

「凛花さん? 五条先生は――」

 

「……仮眠の邪魔はしないわ」

 

それだけ言うと、凛花はそのままその場を後にした。

 

 

   ****    ****

 

 

向かったのは、五条がよく仮眠に使う部屋だった。

凛花は少し扉を見た後、躊躇いつつもその扉を控えめに叩いた。

だが、返事はない。

 

凛花は少し考えた後、そっとその扉を開けた。

 

「……失礼、します。悟さん……?」

 

そっと、部屋の中を覗く。

その部屋は電気が消されており、奥のソファの方から規則正しい寝息が聞こえてきた。

 

五条なら、すぐ起きてしまうかと思ったが……。

幸い気付かれなかったのか、直ぐ起きる気配はなかった。

 

起こさなかった事にほっとして、凛花はゆっくりとした足取りでソファの方に向かった。

正面に回ると、疲れ切った様子の五条が寝ていた。

 

凛花は小さく息を吐くと、すとんっとソファの前に座る。

そして、そっと五条の頬に手を伸ばした。

 

顔色はよいとは言えないが、疲れているのだろう……ぐっすり眠っている様だった。

 

凛花は、手に持っていた物を見た後、もう一度 五条を見た。

頼まれていた資料を持ってきたのだが、置いて帰った方がよさそうだった。

 

凛花は机の上に資料を置くと、五条に触れていた手で、そのまま彼の髪に触れた。

柔らかい髪が手に当たる。

 

「……お疲れ様です、悟さん。ゆっくり休んで下さいね」

 

そう言って、五条の頭を一度だけ優しく撫でるとその場を去ろうとした。

瞬間――。

 

突然、ぐいっとその手を引っ張られた。

ぎょっとしたのは凛花だ。

 

「え……、きゃ……っ」

 

突然の事に、反応が遅れる。

気が付けば、凛花は五条の腕の中にいた。

 

何が起きたのか理解出来ず、凛花が「え!?」と声を上げる。

慌てて離れようとするが、五条の手が腰にがっちり回されていてびくともしない。

 

すると頭上から――、

 

「可愛い事するね、凛花ちゃんは」

 

と、五条の声が聞こえてきた。

驚いたのは、他ならぬ凛花だ。

 

「え……っ、あ、あの……っ? 悟さ……起きてらしたのですか!? いつから……っ」

 

顔を真っ赤に染め、慌ててそう言う凛花に、五条はしれっとしたまま、

 

「うん、凛花ちゃんがこの部屋に入った時からかな?」

 

「え、ええ……っ!?」

 

まさか、起きていたとは露とも知らず……。

凛花の顔がますます赤くなる。

 

「お、起きてらしたのなら、声を掛けて下されば――」

 

「そしたら、頭撫でてくれた?」

 

「う……っ、そ、それは……」

 

多分、いや、絶対してないと思う。

凛花が心の中でそう思っていると、五条はくすっと笑って、

 

「どうせなら、キスして欲しかったかなー」

 

「……しません」

 

そうきっぱり言う凛花に、五条が「へえ」と声を洩らしたかと思うと――、

そのままぐいっと五条に引き寄せられたと思うと、唇をあっという間に奪われた。

 

「ちょっ……さと……ぁ……っ」

 

「凛花ちゃんがしてくれないなら、僕からするから」

 

「……や、そう、いう問題で、は――んんっ」

 

凛花が反論する間もなく、その唇を再び塞がれてしまう。

そのまま、何度も繰り返される口付けに、次第に凛花の息が上がってくる。

 

「さと……っ、待っ……」

 

「駄目。ほら、凛花。もっと口開けて」

 

「え……んっ、ぁ……」

 

それはだんだん深くなり、ついには舌を絡ませてきた。

思わず目を閉じてしまう凛花に、五条が小さく笑う。

 

「さと……っ、ぁ、ん……っ」

 

ぴくんっと、微かに凛花の肩が震えた。

すると、五条が嬉しそうに笑いながら、

 

「凛花、やっぱ可愛い」

 

そう言って、そっと彼女の髪を撫でる。

それが酷く心地よくて、凛花は堪らず五条の衣を掴んだ。

 

それに気分をよくした五条は、更に深く口付けてきた。

そのまま五条の舌が凛花の咥内を犯していく。

 

「……っふ、ぁ……っ、ん……っ」

 

くちゅと水音が響く中、何度も角度を変えては繰り返される口付け――。

その度、凛花の身体が小さく震えた。

 

「さと、る、さ……んっ……」

 

強く抱きしめられたまま、深く、深く口付けられていく。

それでも、凛花は五条を拒む素振りは見せなかった。

 

むしろ……寧ろ――。

そのまま幾度目かの口付けを交わした後――そっと五条の唇が離される。

 

僅かに離れた唇と唇の間を銀糸が伝い、ぷつんっと切れた。

凛花はそれをぼんやりとした瞳で見つめていたが、はっと我に返った様に五条を見た。

すると、そこには少し意地悪そうな笑みを浮かべた五条の顔があった。

 

そんな五条の表情に、凛花が恥ずかしそうに視線を反らす。

 

「凛花」

 

その反応すら楽しいのか、くすっと笑みを零しながら、 五条の手がそっと凛花の頬に伸びる。

そして――その手は優しく彼女の頬を包み込むと、そのまま凛花の顔を上に向かせた。

 

自然と絡む視線――五条の碧色の瞳が楽しそうに揺れる。

 

そこに見えるのは、自分だけだという事実が堪らなく心地よいとさえ思う。

見つめ合う2人の間に流れる沈黙……だが、それは決して嫌な沈黙ではなかった。

 

凛花の綺麗な紅い双眸が、恥ずかしそうに五条を見上げている。

だが、決して拒絶する様子は見せていない。

その事が嬉しくて、思わず口元が緩む。

 

そんな五条を見た凛花が僅かに首を傾げながら、「あの……」と、小さく口を開く。

そして、五条の頬に手を伸ばし、ゆっくりと引き寄せたかと思うとそのまま自分の唇を五条のそれに重ねたのだ。

 

触れるだけの口付け……だが、それはとても甘い口付けに思えた。

そっと唇を離しながら、凛花が顔を真っ赤に染めたまま言う。

 

「そ、その……お返し、です……悟さん」

 

その途端、五条の口元が嬉しそうに弧を描いたかと思うと、凛花を再び抱き寄せた。

そのままぎゅっと抱きしめると、嬉しそうに笑いながら、

 

「凛花、可愛すぎでしょ」

 

そんな五条の言葉に、凛花も少しだけ恥ずかしそうに頬を朱に染める。

 

不意に2人の目が合うと――どちらともなく笑い合った。

 

「もう1回キスしたいけど……流石にこれ以上したら止まらなくなりそうだからやめとくよ」

 

「な……何を仰って……っ」

 

五条のその言葉に、凛花がかぁっと顔を真っ赤にして慌てた様に五条を見た。

まさか、そんな風に言われるとは思いもしなくて……。

 

すると、そんな凛花の反応を見ていたのか……くすくすと笑いながら、五条の手がそっと彼女の髪を撫でた。

そして――その頭を引き寄せ、優しく口付ける。

 

「……っ、ぁ……」

 

触れた唇が熱くて……凛花は思わずきゅっと目を瞑った。

先程のような深い口付けではなく、触れるだけの口付け。

 

唇が離れ、凛花がゆっくりと目を開けると、そこには優しい笑みを浮かべた五条の顔があった。

その顔があまりにも優しくて――凛花は思わず見惚れてしまった。

だが……直ぐにはっと我に返った様に慌てて視線を反らすと、離れようとした。

 

だが、いつの間にか腰に回された手にがっしり掴まれていて離れたくとも離れられない。

その事に焦っていると、五条の顔が再び近付いてきて……先程より深い口付けを交わした後、そっと離される。

 

それを何度か繰り返していると――やがて満足したのか、五条の唇が離れて行った。

 

すっかり息が上がってしまった凛花が、五条を睨むが……当の本人は嬉しそうに笑っているだけで反省する様子がない。

それどころか、今度はそのままぎゅっと抱きしめてきた。

 

「あーもう、可愛すぎでしょ、凛花。このまま連れて帰りたいんだけど」

 

「そ、それは――駄目です」

 

きっぱりと即答されてしまい、がっくりと項垂れる五条に凛花が慌てた様に言う。

 

「で、でも……その……」

 

言い淀む凛花に、五条が首を傾げる

すると、彼女は少し恥ずかしそうにしながら、

 

「……も、もう少しだけ、なら……一緒に居たい、です」

 

そんな可愛い彼女のお願いを聞かない訳がない。

五条が、くつくつと笑いながら

 

「ん、いいよ」

 

と、言いいながら凛花の頭を優しく撫でる。

 

そのまま2人で寄り添いながら、暫くの間、他愛もない話をしていたが……そのうちいつの間にか五条の手が凛花の肩を抱き寄せていた。

それに気付いた凛花が恥ずかしそうな仕草を見せるが、特に嫌がる様子は見せなかった。

 

そんな凛花に気を良くしたのか、五条は更に彼女の身体を引き寄せて自分の膝上に乗せると、ぎゅっと抱きしめる。

すると、最初は驚いた様な反応を見せていたものの……やがておずおずと五条の背中に手を回してきた。

 

そんな彼女の態度に満足しながら、そっとその額に口付ける。

そのまま何度も頬や瞼に唇を寄せていると、不意に凛花が口を開いた。

 

「……悟さん……」

 

「ん?」

 

「……その……もう、少しだけ……」

 

その声は少し震えていて……。

その声はとても小さかったが……五条にはしっかりと聞こえていた。

 

恥ずかしさのせいか、顔を真っ赤にしながら言う彼女の言葉に思わず笑みが零れた。

そんな可愛い事を言われたら、もっと触れたくなってしまうじゃないかと……そう思いながらも、これ以上は自分も我慢できないと悟ったのか、そっと彼女を抱きしめる手を緩めた。

 

そして、凛花の顔を上に向けると、彼女の唇に口付けを落とす。

 

「ん……っ」

 

触れるだけの口付けから、次第に深い口付けに変わっていく。

徐々に深くなっていく口付けに、凛花が堪らずぎゅっと背に回していた手に力を籠めた。

 

それが酷く心地よくて、五条は更に深く口付けた。

彼女の唇を割り、舌を絡ませる。

 

何度も何度も角度を変え、甘い口付けを交わしていく。

 

「凛花――」

 

甘く名を呼ばれ、凛花がぴくんっと肩を震わせた。

それでも、その手はしっかりと五条の背を掴んだまま離さない。

 

五条の大きな掌が、凛花の細い腰と背に回され……そしてぐっと引き寄せられる。

そのまま五条の膝の上で、より深く唇が合わさっていく。

 

咥内を犯されていく感覚に、凛花がふるりと肩を震わせた。

 

ゆっくりと離れていく唇に、名残惜しそうな銀糸が伝いぷつんっと切れた。

はぁ……と熱の籠った吐息を漏らしながら、蕩けた表情を浮かべる凛花に、五条も熱の籠った瞳で凛花を見つめた。

 

これ以上は流石に我慢出来そうになかった。

 

「凛花……このまま――」

 

五条が、そう言い掛けた時だった。

突然、がらっと扉が開いたかと思うと――。

 

「五条先生ーそろそろ、起き……あ」

 

 

 

し―――――ん……

 

 

 

一気に、空気が凍りつく。

瞬間、凛花が慌てて五条を押しのけて離れた。

 

開いた扉の方を見ると、1年の3人がぽかーんとこちらを見ていた。

 

「あ、あの……、こ、ここ、これは――」

 

凛花がしどろもどろになりながら、必死に言葉を紡ごうとするが……。

なんと言ったらいいのか分からなくて、上手く言葉が出てこない。

 

すると、五条が小さく息を吐きながら、

 

「ちょと、オマエ達。僕と凛花ちゃんの逢引邪魔しないでくれる?」

 

「あ、逢び……っ!!?」

 

五条の言葉に、凛花が真っ赤になって口をぱくぱくさせるが……、

当の3人は、「はぁぁぁぁ~~~」と呆れにも似た溜息を零しながら、

 

「先生、仮眠してるんじゃなかったん?」

 

「……凛花さん、困ってるじゃん」

 

と、虎杖と釘崎が。

そして、その後ろで無言の怒りオーラを放っている伏黒がいたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

元ネタはついったー君のリプ式呪プラ「仮眠」でーすw

これの、ガチ書き版

 

2024.03.26