深紅の冠 ~無幻碧環~

 

◆ 聖なる日の贈り物(クリスマス・イブ)

 

 

その日は、朝からばたばただった。

シャワーを浴びて、肌を整え、化粧をする。

それから、珍しく髪も巻いてみた。

 

淡いブラックのニットワンピースに、プラチナの小さなピンクダイヤの付いたネックレスをする。

いつもの紅いピアスを外し、今日だけネックレスと同じピンクダイヤにファーの付いたピアスをする。

少し肩が出ているが、コートを着るから問題はないだろう。

 

上からファー付きコートを羽織って、バックを持つと、鏡を見た。

 

「……変な所は、ない、わ、よね?」

 

少し派手過ぎないだろうか?

そんな風に思って、少し考え込む。

 

だが、時計を見ればもう出なければ遅刻する時間だった。

 

「いけない、出ないと……」

 

凛花は、もう一度だけ鏡を見直して髪を整えると、そのままブラックのショートブーツを履いて慌ててマンションを出た。

 

 

 

 

 

待ち合わせ時間より少し早めに、渋谷ヒカリエに着く。

当たりを見渡すと、何故か一カ所に行き交う女性の視線が集中していた。

 

「……?」

 

凛花が首を傾げて、そちらを見ると――。

そこには、いつもの黒一色の服ではなく、グレーのハイネックのトップスにダークグレーのチェスターコートを着て、サングラスもせずに立っている五条悟がいた。

 

その五条を、行き交う女性がチラチラ見ている。

 

「……なんで、サングラスしてないのよ……」

 

目立つ訳である。

いや、サングラスしていても目立つが――。

 

今日は、いつにも増して目立っている。

あそこに近づくのかと思うと、少し遠慮したい気分だった。

 

すると、2人で歩いていた綺麗な女性が五条に話しかけていた。

 

「あの、お1人ですか? よかったら私達と一緒に――」

 

いわゆる、逆ナンというやつである。

いや、うん、なんとなく、そんな気はしてたけれど――。

 

あそこに割って入るのか……。

それは、少し嫌だな……と思っていた時だった。

 

「ねぇ、君1人~?」

 

「うっわ、めっちゃキレーな子じゃん!」

 

と、突然肩をぐいっと誰かに抱かれたと思ったら、背後から見知らぬ男性に話しかけられた。

 

「え……、あの……」

 

凛花が、あまりにも突然過ぎて戸惑っていると、男性たちは凛花を見るなり嬉しそうに歓喜の声を上げた。

 

「俺達付いてるな! こんな美人を今日捕まえられるなんて!」

 

「な、今からさ、そこの―――」

 

と、勝手にどんどん話が進みそうになっているので慌てて凛花が口を開いた。

 

「す、すみません、人と待ち合わせしているので――」

 

そう返すと、男性達は気にした様子もなく、

 

「ああ、友達? 丁度いいじゃん! ダブルデートしようぜ」

 

「え、いえ、そうではなく――」

 

「いいから、いいから」

 

どんどん話が進んで行く。

どうしようと、慌てて五条がいた方を見るが――。

 

え? いない……?

 

まさか、あのまま逆ナンの女性に付いて行ってしまったのだろうか?

そんな不安がよぎった時だった。

 

「おい」

 

不意に、背後から絶対零度の声が響いてきた。

はっとして振り返ると、そこには不愉快そうな五条が立っていた。

 

「あ、悟さ……」

 

「悟さん」と言い終わる前に、ぱしっと五条が凛花の肩を抱いていた男の手を掴かむと、そのまま捻り上げた。

 

「いてえええ!!」

 

「て、てめー! 何しやが――「何? 俺の女に手を出しておいて、タダで済むと思ってんの? オマエら」

 

ぎょっとしたのは、男性達だ。

だが、今にも人を殺しそうな五条に、慌てて凛花が五条の腕を掴んで止めに入る。

 

「さ、悟さん!! 駄目です!! 彼らは一般人なんですよ!?」

 

「分かってるさ。だから半殺し程度に――」

 

五条のその眼光と言葉に、男性達が「ひぃ」と声を上げると、慌てて脱兎の如く逃げだしていった。

無事、彼らが逃げたことに凛花がほっとすると、五条は不満そうに少しだけ頬を膨らませた。

 

「何? 凛花ちゃんはアイツらが無事でよかったって思ってんの?」

 

「いや、そういう意味じゃなくてですね……その……あまり目立つのは――」

 

と言いたい所だが、既に十分目立っていた。

それはそうだろう。

今日は、12月24日 クリスマス・イブなのだから、人の多さは普段の倍以上なのだ。

向こうの方で、五条に話しかけていた女性たちも唖然としている。

 

だが、五条はそんな彼女らには目もくれず、

 

「じゃ、行こうか」

 

そう言って五条が凛花の肩を抱く。

 

「あ……」

 

一瞬、戸惑う凛花だったが――結局そのまま受け入れる事にした。

そのまま五条と一緒に渋谷の街並みを歩く。

 

凛花が、ちらりと五条の方を見た。

普段はアイマクスやサングラスでその目を隠しているのに、今日に限って何もしていなかった。

その目――六眼を常時発動している五条としては、情報量が多すぎて裸眼だと疲労が溜まるので、普段からアイマスクやサングラスで眼を覆う事で情報量をセーブしていると言っていたのに……

 

「悟さん」

 

「んー?」

 

「その……、疲れないんですか? 目」

 

凛花のその言葉に、一瞬五条が驚いたかのようにその碧色の瞳を瞬かせた。

が、次の瞬間くすと笑みを零し、

 

「何? 凛花ちゃん、僕の事 心配してくれるんだ?」

 

五条の言葉に、凛花が かぁっとその頬を朱に染めると、恥ずかしそうにふいっと視線を逸らした。

 

「べ、別にそういう訳では……」

 

「可愛い」

 

「なっ……何言って……」

 

凛花が、ますますその頬を赤くした。

すると、五条はやっぱりくすくすと笑いながら、

 

「やっぱ可愛いよ、今日の凛花ちゃん。いつもより凄く可愛い。惚れ直しちゃうな」

 

そう言って笑いながら、凛花の髪を撫でてきた。

それが、凛花には余計恥ずかしかったのか……今度こそ今までにないくらい顔を真っ赤にして、

 

「も、もう知りません!」

 

そう言って、そっぽを向いたのだった。

すると、今度は五条がにやにやしながら、凛花の顔を覗き込んできた。

 

「僕は?」

 

「……え?」

 

何が? と、凛花が首を傾げると、五条がニッと笑って、

 

「今日の僕は、一段とカッコいいでしょ?」

 

「……う……」

 

悔しい。

認めるのは悔しいが――。

 

凛花は顔を真っ赤にして、

 

「きょ、今日の悟さんも、その……いつもより、かっこいい……です」

 

凛花のその言葉に、満足したのか、五条が嬉しそうに笑った。

 

う……。

その顔は、反則だわ……。

 

凛花は熱くなった頬を抑えると、そのまま黙り込んでしまった。

その時だった。

 

「それに――」

 

不意に五条の手が伸びてきたかと思うと、そのままくいっと顎を持ち上げられて、

 

「サングラスしてない方が、こういう時楽なんだよね」

 

そう言ったかと思うと、そのまま凛花の唇にちゅっとキスを落としてきた。

 

「……っ」

 

まさかの不意打ちに、凛花がこれでもかという位 顔を真っ赤にして、

 

「な、なん……っ、ま、街中でなにしてるんですかっ!」

 

「えー何って、凛花ちゃんがあまりにも可愛すぎるから、キスしたくなったんだよね」

 

「だからって……っ」

 

凛花が、ゆでタコの様に真っ赤になって、口をぱくぱくさせている。

周りの視線が痛い。

恥ずかしすぎる……っ!!

 

「僕の為に、髪まで巻いてくれちゃって。いじらしいな」

 

「……もう、二度とやりません」

 

「えー何で? 似合ってるのに」

 

「何ででもです!!」

 

凛花のその言葉に、五条がまた笑いだす。

そんなやり取りをしている時だった。

 

「あれ? 悟?」

 

不意に、後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。

五条が「ん?」と振り返った瞬間、“それ”を見て「げっ」と声を上げた。

 

「……?」

 

凛花が不思議に思って振り返ると、そこには少し長めの髪を一つに纏めた男性が立っていた。

あの方は……。

 

直接的な関りはあまりなかったが、何度か見た事はあった。

確か悟さんの親友の――。

 

「傑! オマエ、なんでこんな所にいるんだよ」

 

「何だい? 私が街中にいちゃあいけないかな、悟」

 

と、何やらお互いに睨み合いの様に、バチバチと始めだした。

凛花が唖然としていると、その男性は凛花に気付くなり、にっこりと微笑んだ。

 

「やぁ、こんにちは。悟、随分可愛らしい子を連れてるんだね」

 

男性がそう言うと、五条がばっと凛花を庇う様に抱き締める。

 

「凛花に近づくんじゃねえよ!! コイツは俺のだ!」

 

「凛花? ああ、見覚えがあると思ったら、君は確か昴の――」

 

そう言われて、凛花が慌てて頭を下げる。

 

「あ、は、はい。妹の神妻凛花と申します」

 

「そう。私は、悟の友人の夏油傑というんだ。君の事は昴からよく聞いたよ。宜しくね? 凛花ちゃん」

 

と、夏油傑と名乗った男性が言った時だった。

五条が何か気に入らなかったらしく、

 

「気安く凛花の名前呼んでんじゃねえよ、傑!」

 

と、噛み付いた。

だが、夏油はすました顔で両手を上げると、

 

「仕方ないだろう? “神妻”だと昴を呼んでるみたいに感じるんだ。駄目だったかな? 凛花ちゃん」

 

「え……」

 

と、何故か矛先が自分に向き、一瞬 凛花が五条を見る。

五条が首を振っていたが――どう考えても、仕方がない気がした。

 

「構いませんけれど……」

 

「凛花!!」

 

と、五条が止めたが、もう了承してしまったものだから、どうにもならない。

夏油が勝ち誇ったように笑いながら、

 

「だってさ、悟。本人の了承は得たんだ。文句はないだろう?」

 

「ぐっ……」

 

悔しがる五条を他所に、夏油はにっこりと微笑むと、

 

「それで、2人は何処へ行く予定だったんだい?」

 

「え……それは――」

 

行き先を知らない凛花が、思わず五条を見る。

すると、五条は凛花をぎゅっと再び抱き締めると、

 

「デートだよ! で・え・と!! だから、オマエは帰れ!」

 

「ああ、今日はクリスマス・イブだもんな。そうか、なら私も一緒に行こうかな。丁度、暇していたんだ」

 

「え……」

 

と、突然 夏油が爆弾発言したものだから、凛花は唖然としてしまった。

が……、五条はというと……。

 

 

「はああああああ!!!?」

 

 

と、キレたのは言うまでもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

   ****    ****

 

 

 

 

 

 

 

 

―――渋谷公園通り

 

 

その日は、渋谷公園通りから代々木公園のケヤキ並木に沢山の電飾が飾られていた。

まだ時間的に点灯前だが、それでも、その姿は圧巻だった。

そして、点灯前から開かれているクリスマス・マーケットはとても人で賑わっていた。

 

「ほら、凛花。これなんていいんじゃないか?」

 

「悟、分かってないな。凛花ちゃんならこちらだろう?」

 

「えっと……」

 

そこに異様な雰囲気の男が2人と、女が1人……。

 

「傑、オマエには聞いてないんだけど?」

 

「おや、奇遇だね 悟。私も君には聞いてないよ」

 

と、行く先々で張り合うものだから、凛花は困ったように苦笑いを浮かべながら溜息を付いた。

 

「あの、お2人共……恥ずかしいですし、お店の方も困っていらっしゃるのでやめて下さい」

 

そう言うのも、何度目だろうか……。

正直、いや、そろそろ本気で怒りそうである。

 

お店の店員は「気にしなくていいよ」といつも言ってくれるが、最早そういう問題ではない気がした。

 

「っていうか、傑! オマエ、いつまで付いてくる気だよ」

 

「そうだなぁ……イルミネーションが点灯するまでかな?」

 

「は!? いや、マジで言ってんの? それ」

 

「そうだよ?」

 

夏油のその言葉に、五条が「はぁ~~~~」と重い溜息を付いた。

 

「ったく、何が目的か知らねえけど、仕方ねえなぁ」

 

と、どうやら諦めたらしい。

正確には、終わりが見えたので、少し安心したのかもしれない。

 

凛花が少し困惑したかのように、五条と夏油を見る。

すると、五条は凛花を見て、ふっと笑い、

 

「ま、独り身には悲しい日だしな。少しぐらい付き合ってやるよ。な? 凛花」

 

「え……? あ、悟さんがそれでいいなら構いませんけど――」

 

と、2人が言うと、夏油はにっこりと微笑んで、

 

「流石は悟と、昴の妹だね。宜しく頼むよ」

 

そう言って、何故か凛花の手をぎゅっと握った。

一瞬、凛花が「え?」となる。

だが、夏油は構わずそのまま凛花の手を引っ張った。

 

「じゃぁ、行こうか凛花ちゃん」

 

「あ、あの……?」

 

凛花が、訳が分からず戸惑っていると、

今度は五条が反対の手を取ろうと手を伸ばしてきた。

 

「ちょっと待て! なんで傑が凛花を連れて行こうとするんだ!!」

 

だが――。

 

「少しぐらい、いいじゃないか。後で返すからさ」

 

それだけ言うと、そのまま夏油がぐいっと凛花の肩を抱く。

 

「悟さ――」

 

「凛花!!」

 

2人が手を互いに伸ばす。

だが、その手が重なる前に、夏油は凛花を連れて人ごみの中に消えてしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

   ****    ****

 

 

 

 

 

 

 

 

―――渋谷公園・ケヤキ並木道

 

「あの……」

 

夏油と歩きながら、凛花が夏油に話しかけた。

 

「どうしてこんな事を……?」

 

どう考えても、何かあるとしか思えなかった。

ただ五条をからかう為なら、ここまでする必要はない。

 

それに――。

 

すると、夏油は何でもない事の様に、

 

「ん? まぁ、少し君と話がしたくてね。悟の事は心配しなくてもいいよ。どうせ直ぐ見つかるだろうし」

 

そうなのだ。

五条の六眼なら、きっと凛花や夏油の場所など直ぐに見つけてしまうだろう。

つまり、夏油に取ってこの行動の意味があまり無いに等しいのだ。

 

それでも、あえて五条を少しの間だけでも引き離したという事は――。

 

「あの、悟さんに聞かれたくない話ですか?」

 

凛花がそう尋ねると、夏油は苦笑いを浮かべて、

 

「流石は昴の妹だね。そういう鋭い所は、昴そっくりだ」

 

そう言って笑った。

それから少し天を仰ぐと――。

 

「そうだね、何から話したらいいかな――」

 

「……?」

 

夏油は一体何の話をしようとしているのだろうか?

凛花が首を傾げていると、夏油がこちらを見た。

それから微かに笑い、

 

「悟から、私達の高専時代の話は聞いた?」

 

「え……」

 

高専時代――まだ、兄である昴が生きていた時代―――。

 

「いえ……」

 

五条は凛花に気を遣ってか、高専時代の話はしようとはしない。

それは、五条の優しさなのは理解している。

でも……。

 

「そっか、やっぱり話してないんだね。そうだと思ったよ」

 

そう言って、夏油は昔を懐かしむような眼差しで空を見た。

 

「私と悟と昴はいつも一緒だったんだ。何をするにもいつも3人で行動してたよ。そんな昴がいつも持ち歩いているものがあってね。何だと思う?」

 

「……? お兄様が持ち歩いていた物、ですか?」

 

「そう、今でも思い出すと笑えるけれど、何処へ行くにも必ず持ってくるんだ。ある意味命よりも大事にしてたね」

 

命よりも大事そうなもの……。

そんな物、遺品の中には何もなかった。

 

あったのは―――。

 

「君だよ」

 

「え?」

 

「君の写真。君の写真を何枚も大切そうに持ち歩いていたよ。私達に自慢するぐらいにね」

 

『俺の大事な妹なんだ。可愛いだろう?』

 

『まだガキじゃないか』

 

最初はそう言って、笑い飛ばしていた五条がその写真を見るたびに、その目がどんどん変わっていったのはいつ頃からだっただろうか。

凛花が、中学に入った頃からだろうか――。

 

子供だった女の子の姿が、一気に少女へと変わった。

そして、自分たちが高専を卒業して、凛花が高校に上がる頃には、五条の凛花の写真を見る目はすっかり変わっていた。

 

やたらと、昴に凛花の事を聞いたり、写真をくれと言ったり。

とにかく見ていて、夏油は笑いそうになった程だ。

 

「少なくとも、君と悟が直に会う前に、悟は君に完全に惚れていたよ」

 

「え……」

 

夏油の意外な言葉に、凛花の頬がかぁっと赤くなる。

慌ててぱっと視線を逸らすと、両の手で頬を押さえながら、

 

「そ、そんな、こ、と……」

 

「はは、やっぱり悟は話してなかったんだ。どうせ、初めて逢った時も興味無さそうな振りでもしてたんだろう?」

 

「それは――」

 

その通りだった。

「ふーん」で終わらせられた記憶しかない。

 

「それはねー照れ隠しだよ。悟は、かっこつけたがりだからね」

 

「そ……そんな、急に、言われ、て、も……」

 

そう言って赤くなる凛花の反応を見て、夏油がくすっと笑う。

 

「少し、心配してたんだ。まだ悟が片想いだったら、どうにかしてやろうって思ってたけれど――私の勘違いみたいでよかったよ」

 

その言葉の意味を理解したのか、凛花がますます赤くなる。

すると、夏油は笑いながら、

 

「好きなんだろう? 悟の事」

 

「……」

 

その言葉に、ぴくんっと凛花の肩が跳ねた。

だが、「はい」とは言わなかった。

 

理由は分かっていた。

きっと彼女の兄・昴が死んだときの事が引っかかっているのだ。

 

「――あの時は、どうしようもなかったんだ。悟以外で対応出来る者がいなかった。それは君も分かってるんだろう?」

 

「それは……」

 

分かっている。

あの状況下で、五条以外であの昴に対抗出来る者は存在しなかった。

五条だって好きでその役をやった訳ではない。

 

頭では分かっている。

でも――。

 

その時だった。

不意に、夏油が凛花の頭を撫でた。

 

「……? 夏油さん……?」

 

「君の気持は分かるよ。けれど、そろそろ悟を許してやってくれないかな? 君も本当は分かってるんだろう? 悟自身は何も悪くないって……。だから、悟を許してやって欲しい。そして、君の本当の気持ちを悟に伝えてくれないかな」

 

「……そ、れは……」

 

その時だった。

 

 

 

「――凛花!!!」

 

 

 

はっとして声のした方を見ると、走って来たのか……息を切らせながらこちらに向かって来る五条の姿があった。

 

「おっと、もう見つかってしまったか」

 

夏油がそう言うなり、ぱっと凛花から手を離す。

そして、「じゃぁ、後は悟を宜しくね」とだけ言い残すと、そのまま去っていった。

と、入れ違いに五条が凛花の傍にやってきた。

 

「凛花! よかった……っ。見つかって……!」

 

そう言うなり、五条が凛花を抱き締めてきた。

その手は微かに、震えていて……、

 

あ……。

 

それで気付いてしまった。

心配を掛けてしまった事に。

 

「……」

 

夏油の言葉が脳裏をよぎる。

 

『悟を許してやって欲しい。そして、君の本当の気持ちを悟に伝えてくれないかな』

 

分かっている。

本当は、私だって……。

 

「傑は? 一緒じゃなかったのか?」

 

「あ、夏油さんなら――もう行かれましたよ」

 

「行った? アイツ、本当に何しに来たんだ?」

 

「……」

 

私だって、ずっと――。

 

初めて逢った高校2年の時よりも前から、知っていた――五条悟という人を。

昴が長期休暇で実家に帰ってくるたびに、高専の話をしてくれていた。

その中にいつも登場する、“五条悟”という人。

 

話の中の“五条悟”は、とても破天荒な人だったが、逆に惹かれた。

楽しそうで、自由で、羨ましかった。

 

だから、昴が紹介してくれた時、とても緊張した。

でも――その時の五条の反応はとても淡白だった。

 

落胆した。

ああ、この人は自分に興味はないのだと思った。

 

けれど―――。

 

違った。

本当は……。

 

『少なくとも、君と悟が直に会う前に、悟は君に完全に惚れていたよ』

 

 

 

「悟さん……ずっと、好き」

 

 

 

ポ――――ンと、17時を知らせる鐘の音が聞こえてきた。

瞬間―――。

 

ぱぁああっと、ケヤキ並木が一斉に点灯した。

蒼と白のコントラストのイリュミネーションが世界を包み込むように、光り輝きだす。

 

「……っ」

 

辺り一面、光の世界へと変わる。

 

「綺麗……」

 

思わず、言葉が零れた。

それぐらい、その世界は美しかった。

 

その時だった。

ふいに、五条がそっと凛花の髪に触れた。

 

「……悟さん?」

 

凛花が、その深紅の瞳を瞬かせる。

すると、五条の碧色の瞳と目が合った。

 

「あ……」

 

そっと、五条の手が凛花の頬に添えられた。

 

「凛花……俺も、ずっと最初に逢う前から――好きだったよ」

 

そのまま自然と唇が重なった。

 

世界が光に包まれていく―――。

 

この先の事は分からない。

それでも、最期の瞬間までこの人の傍にいようと――そう思えるぐらい。

 

 

世界が終わっても、この命が尽きても、

 

      ずっと、ずっとただ傍に――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遅れてのクリスマスでーす(わざとです ※そこは察して)

24とか25は無理なんや――

え!? 無理よ? 24日とか特に

いや、五条せんせはきっと生きてると信じてますけど!!!

※あ、今回夏油生存ifなので、余計に24日無理

 

 

2023.12.26