深紅の冠 ~白夜影曜~ 幕間

 

◆ 少し遅くなったバースディ(伏黒恵BD:2023)

 

 

12月23日 0時10分

 

伏黒恵はスマホの時間を見ながら、小さく息を吐いた。

 

「……過ぎたか」

 

小さな声でそう呟く。

それから、壁に寄りかかったまま天井を仰いだ。

 

別に、特別に何かして欲しかった訳じゃない。

ただ……ただ毎年この日だけは、いつも自分を優先してくれていたから……。

だから、少し期待してしまった。

 

昨日――22日は伏黒の誕生日だった。

別段、誰かに祝ってほしいとか、贈り物が欲しいとか思った事は生まれてから一度も思った事はない。

津美紀の母親と伏黒の父である甚爾が結婚した時、義姉の津美紀が、

 

『誕生日ならお祝いしなきゃ』

 

と言われたのが、最初だった。

それから甚爾がいなくなり、津美紀の母も蒸発して津美紀と2人になった後。

突然、伏黒の前にやってきた五条悟。

 

五条は、伏黒だけ禪院家に売られそうになったのを阻止し、津美紀と一緒に後見人として、伏黒達を引き取った。

それから、4年後―――桜の咲く季節。

初めて五条に凛花を紹介された。

 

そして、津美紀が“呪い”で目を覚まさなくなるまでの間、凛花は毎年12月22日に津美紀と一緒に伏黒の誕生日を祝ってくれた。

たまに、五条も任務が無ければいた。

津美紀が目を覚まさなくなってから、凛花はこの日だけは伏黒を優先する様になった。

 

でも、今年は違った。

勿論、伏黒の誕生日を知った虎杖や釘崎はお祝いをしてくれた。

 

けれど、俺が一番欲しいのは―――。

 

「はぁ……情けない」

 

子供じゃあるまいし、何をやっているのだろうか……俺は。

そう思いながら、スマホをポケットに仕舞い寮の部屋へと向かう。

 

と、その時だった。

建物の入り口の方から、かつかつかつっと、ヒールの走る音が聞こえた。

 

「……?」

 

不思議に思って伏黒が振り返った時だった。

 

 

 

「―――恵君!!」

 

 

 

―――え?

 

それは、昨日逢いたくても逢えなかった筈の人だった。

 

凛花は、伏黒の傍まで走って来ると、息を整えながらスマホを見た。

 

「ああ……10分過ぎてる……。ごめんなさい」

 

そう言いながら、凛花が申し訳なさそうに頭を下げた。

一瞬、意味が分からず 伏黒がその瞳を瞬かせる。

 

凛花を見ると、慌てて来たのか……いつも整えている髪も乱れていて、その唇からは白い息が上がっていた。

 

「あの……凛花さん? 任務だったんじゃ……」

 

一昨日、急な任務で22日は凛花が大阪に行くというのを聞いていた。

てっきり泊りになると思っていたのに、まさか急いで片して帰ってきたのだろうか……?

 

「…………」

 

俺の……為、に……?

 

「本当に、ごめんなさい。なんとか昨日中に片づけたんだけれど、雪で新幹線が遅延してしまって……。なんとか、22日中に帰ってきたかったんだけれど――」

 

「…………」

 

言葉が出なかった。

彼女は俺の為だけに、そんな無理して当日に間に合わせようとしてくれていたなんて――。

 

「あの……恵君? 怒ってる?」

 

反応のない伏黒に、凛花が恐る恐るそう尋ねてくる。

その言葉に、伏黒は知らず顔が熱くなるのが分かった。

 

慌てて知られまいと、口元を抑えると、

 

「……あ、いえ、怒っていません」

 

そう答えるのが精一杯だった。

 

どうしたらいいのか分からなかった。

けれど、凄く心の中が嬉しくて暖かくなるのが分かった。

 

五条の為でもない、他の誰の為でもない、自分の為に急いでくれた。

自分の誕生日に逢いに来てくれようとしたその事実が、たまらなく嬉しかった。

 

「えっと、その……ね。時間なくて誕生日プレゼントも用意出来なかったの。それで――少し考えたんだけれど、よかったら代わりに恵君のお願いひとつ聞くっていうのはどうかしら?」

 

…………

………………

 

「え?」

 

突然、降って沸いたかの様なその言葉に、伏黒がその瞳を瞬かせた。

 

「何でもいいわよ。私の出来る範囲の事なら――」

 

「……何でも、って。いいんですか? そんなこと言って」

 

伏黒がそう尋ねると、凛花は少し笑いながら、

 

「恵君の事は信じられるし。……悟さんと違って、変な事言わなさそうだし――」

 

後半余計な情報が聞こえてきたが、聞かなかったことにする。

伏黒は少し考える素振りをした後、

 

「じゃぁ――」

 

もし、叶うのならば――。

 

「その……25日でいいんで、クリスマス。俺に凛花さんの時間くれませんか?」

 

「え……?」

 

まさかの伏黒の言葉に、凛花が一瞬その瞳を瞬かせた。

 

「……そんな事でいいの?」

 

思わず、そう尋ねてくる凛花に伏黒が小さく頷く。

 

「はい……凛花さんが嫌じゃなければ―――駄目、ですか?」

 

伏黒のその言葉に、凛花が慌てて首を振る。

 

「ううん、駄目って事はないわよ。分かったわ。じゃぁ、25日ね?」

 

「……はい」

 

凛花がそう言うと、伏黒は嬉しそうに笑いながら答えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

恵の誕生日の話(日付をずらしたのはわざとです)

※25日に本編があるかは未定※

※Xに上げていたSSです

 

2023.12.23