スノーホワイト

   ~Imperial force~

 

◆ ROMANTIC SYNDROME4

 

 

 

―――グリーンイーストヴィレッジ・ムービーシアター

 

 

「……」

 

アキラがウィルにお勧めされた映画を観ると言っていたので、食事の後、イーストのムービーシアターに来た。本来であれば、ウエストの方が大きいシアターがあるのだが、丁度よい時間がなかったのだ。

 

タイトルは『花より恋だと空に叫ぶ』

 

ウィルの――正確には、ウィルの妹が大絶賛してたらしい。なんでも、今、学生の間で流行っているという。ただ、タイトルと、目の前に広がる男と女が映っているビジョンを見る限り……。

 

「……恋愛映画。ですよね」

 

「その様だな」

 

と、アリスとブラッドが思わずぼやく。それは、どう見ても恋愛映画だった。アキラが言い出した映画が、まさかの恋愛映画で少し驚いていると、アキラは良く分かっていないのか……。

 

「一応、ネットで感想見たんだけどよ、なんか争うみたいだったから、アクションかもしれねーし、心理戦があるらしいからサスペンスかもしれねーんだよ」

 

「……」

 

いや、絶対違うと思います。最早、どこから突っ込んでいいのか分からない。アリスが困惑していると、流石にブラッドもそう思ったのか、

 

「……本当に、そう書いてあったのか?」

 

そう尋ねた。すると、アキラは自信満々に、

 

「おう! って、それがどうした?」

 

「いや、いい……」

 

というブラッドに、アリスが「あ……諦めたんだ」と思ったのは言うまでもない。だが、アキラは何故かわくわくしているようだった。

 

「ほら、オスカーみたいなムキムキの俳優が、ドンパチやるヤツがあるだろ? 今日のも、そういう映画ならいいんだけどな♪」

 

と、もう、本当にどう説明すればいいのか迷う。

 

「え、えっと……アキラ君。このタイトルで、そういう展開になるとはとても思えないのだけれど……」

 

何処をどう見ても、ばりばりの恋愛映画で、アクションを求めるのは無理があるのではないだろうか。いっその事、違う映画にしないか提案すべきか……。しかし、そうなるとウィルの厚意を無下にする事に……。

 

「あの……、本当にこのタイトルを観るのですか? どこをどう見ても、純粋な恋愛映画のようですけれど……。アキラ君はアクションを求めていますが、まずありませんよ?」

 

アリスはアキラに気付いかれないように、こっそりとブラッドに耳打ちした。すると、ブラッドもそれは気付いているようで……。

 

「……そうだな。だが、本人はこれを観る気のようだし。まあ、いい経験になるのではないか?」

 

「……」

 

とりあえず、これを観るのは確定らしい。アリスは小さく息を吐くと、

 

「……チケットは私が買ってきます。流石に、このタイトルの映画のチケットをブラッドさんに買いに行かす訳にはいきませんので」

 

「そうか、助かる」

 

カウンターで買う訳ではないが、それでも、ブラッドに買わす訳にはいかないと思ったのだ。もし、万が一、誰かに知られたら……ブラッドの沽券に関わる。

 

とりあえず、アリスはブラッドからわざと少し離れてから、チケットを購入する装置の方へと向かった。そして、『花より恋だと空に叫ぶ』の鑑賞チケットを3枚取る。データがスマホに転送されたのを確認すると、2人の元へと戻った。

すると、何故かアキラがポップコーンを買ってきているではないか。

 

「……アキラ君、さっきランチ食べたばかりなのに、よくお腹に入るわね」

 

思わず、突っ込んでしまうが、アキラはさも当然のように、

 

「ん? 何言ってんだ。映画のお供はポップコーンかホットドックに決まってんだろ?」

 

そういう問題なのだろうか。普段から、映画では何も口にしないアリスとしては、よく分からない感覚だった。だが、アキラには当たり前の様で。むしろ、何も買う気配を見せない、ブラッドとアリスに首を傾げた。

 

「ブラッドもアリスも、なんか買ってこなくていいのか?」

 

「え……」

 

思わず、アリスとブラッドが顔を見合わす。

 

「私は、いつも買わないから問題ないわ」

 

「俺も遠慮しておこう」

 

「ふーん、変わってんな」

 

いや、別に映画鑑賞中必ず飲食しなくてはいけない決まりはないのだが……。まあ、それは人それぞれなので、あえて追及しないでおく。

 

「よーし! 待ってろよ~ムキムキアクション!!」

 

「……」

 

 

 

 

 

 

 

 

『おもしれー女……俺にそんな口を聞いたのはお前が初めてだ』

 

「……」

 

『僕の方が、ずっと前からアイツの事好きだったんだ。僕から奪わないでくれ』

 

「……」

 

『ねぇ、そんな風に突き放すんだったら、最初から優しくしなでよ……!』

 

 

 

「……なぁ、ブラッド、アリス」

 

映画上映中に、何故かアキラが小声で話し掛けてきた。ブラッドは小さく息を吐くと、

 

「上映中に話しかけるな」

 

「いや、それは分かってるんだけどよ……てか、流行ってる割には周りオレらしかいねーし」

 

「いや、そういう問題ではない」

 

「アキラ君、公開日ならまだしも、もう公開してから大分日にち経ってるなら、こんなものだと思うわよ。というか、静かに」

 

むしろ、人がいない事に感謝しか感じなかった。これなら少なくとも、ブラッドが恋愛映画を観ていたという話が広がらなくて済む。

しかし、アキラはというと、なんだか難しい顔をして、更に話しかけてきた。

 

「や、アクションもサスペンスも全然ねーし。内容もわかんねぇ……」

 

「……争いも心理戦もあるだろう」

 

「ありますね」

 

というか、ここまでドロドロの恋愛映画だとは思わなかった。予想に反して、結構、いや、かなり、ドロ沼化している。

だが、やはりアキラには分からないらしく……。

 

「はぁ? どこがだよ」

 

「ヒロインを掛けて、男達が争っているだろう」

 

「? これのどこが争いなんだよ? もっと、こう、オスカーみたいなヤツが、泣いてるヒロインを助けに来たりしねーの?」

 

「あの、アキラ君。“戦う”の論点がそもそもそれ違うから……後、それだと恋愛映画にならないわ。ロマンチックな話とは程遠いものよ」

 

そうアリスが説明するが――。

 

「えーなんだよ。オスカーみたいな俳優が恋愛映画に出ててもいいだろ」

 

「……静かに観ろ。他の客に迷惑だ」

 

「うう~分かったよ」

 

 

 

 

 

「ぜんっぜん、意味わかんなかった……」

 

映画を観終わって、ムービーシアターを出る最中、アキラはずっとそうぼやいていた。アリスは苦笑いを浮かべながら、

 

「……アキラ君には、まだ少し早かったかしら」

 

三角関係の、結構心理描写を考えさせられる映画だった。まだ、1対1の恋愛も分からないアキラには、理解の及ばない内容なのかもしれない。

 

「……んで? この映画は結局何が面白かったんだよ?」

 

「……キャラクターの心理描写が巧みに表現されていたように思う。加えて、ストーリーを引き立てる演出も多かったと思うが?」

 

「そうですね、特に最後の告白のシーンはとても綺麗でしたし。ああいう、場所で告白とかは女の子なら憧れるかもしれませんね」

 

思わず、アリスがそう言いながらくすっと笑う。アリスのその言葉に、ブラッドがふっと笑い、そっとアリスの髪を掬う様に頬を撫でた。

 

「アリスはああいうのが好きなのか。覚えておこう」

 

「え……や、あの……それは……」

 

かぁ……っと、アリスが頬を赤く染める。

うう、何故か分からないが、凄く恥ずかしい……っ。

 

と、何やらブラッドとアリスは理解出来ているのが、不満だったのか……アキラがむ~と頬を膨らませてた。

 

「オレには、まったく、これっぽっちも理解できなかったけどな! つか、ヒロインかけて争うなら、スパーリングとか、アームレスリングとかで決着付ければいいのによー」

 

いや、それはアキラ君の好きなジャンルの話では?

と、アリスが思ったのは言うまでもなく……。ヒロインを掛けて、スパーリングなどで争っている時点で、もうそれはジャンルが違うと思った。

 

「なんだよ、2人して理解した振りしやがってよー。んじゃ聞くけど、ブラッドもアリスも、ああいうのが“ロマンチック”だって思うのか?」

 

「……一般的に、“ロマンチック”に分類される作品である、という事は理解出来る。だが、実際に“ロマンチック”と感じるかどうかはやはり人によると思うが」

 

「私は結構、“ロマンチック”な話だったと思うけれど……。ただ、どうしてもスクリーンの向こうの世界の話だから、実際に感じたかと言われると、難しい所ね」

 

実際に、“ロマンチック測定器”は鳴らなかった。それは恐らく、“自身が体験”しているからではないからだろう。あくまでも映画は映画という訳だ。

 

「ただ、結構参考になりそうなシーンは多かったと思うわよ?」

 

アリスのその言葉に、アキラが身を乗り出す。

 

「え!? どこらへんが!!?」

 

「中盤の雨のシーンとか……私は印象に残ってるけれど……」

 

「えー雨の中突っ立て話してただけじゃん。全然わかんねぇ……」

 

いや、突っ立て話してただけって……。根本的に、アキラにはこういうのは向いていないというのが、とても良く分かった。

 

「つか、結局、ドライブも高級レストランも映画も、測定器反応したの、アリスにだけじゃね? オレには全然反応しねーし。あ~まぁ、撮影所は他でもめちゃくちゃ反応してたけどよ」

 

「……そうだな」

 

いや、そこで認めないで欲しい。そもそも今日は、特にアキラの為に“ロマンチック”がどういうものか探しに来たのだというのに、肝心のアキラがまったく分かってないというのは、如何なものだろうか。

ただ、何をしてそれに対してときめくかは、人によって違うので、難しい所だ。少なくとも、アキラには今日のラインナップにときめく要素は無かったという事だろう。

 

「お前はなんかねーの? “ロマンチック”を感じられそうなこととか、そういう場所とか」

 

アキラがブラッドにそう尋ねる。すると、ブラッドは「それなら……」と口を開いたのだった。

そして―――。

 

 

 

 

 

ざざーん。

 

「……」

 

ざ―――ん。

 

「あの……」

 

何故か、3人はグリーンイーストヴィレッジの夜のビーチに来ていた。なんでもオスカーが昨夜、ロマンチック特集の雑誌を見つけたとかで買ってきて読んでいたらしい。そこに『夜の海』と書かれていたそうだが……。

 

ざざーん。

 

「……」

 

「さみぃ……」

 

「……風が強いな」

 

そうなのだ、真冬にこの潮風は流石に寒すぎる。『夏の夜の海』ならまだしも、『冬の夜の海』は寒いだけだ。

 

「あの……オスカー君の心遣いは嬉しいのですが、この場所は少し……くしゅん」

 

「アリス?」

 

「あ、すみません。寒すぎて少し……あ……」

 

その時だった。ふわりと、ブラッドが着ていた上着をアリスの肩に掛けてきたのだ。あまりにも自然だったので、思わず言葉を失ってしまう。が――。

 

「だ、駄目です……っ。これだとブラッドさんが風邪を引いてしまいます……っ」

 

「俺は普段から鍛えているから平気だ。それよりも、アリス、肩が冷えている」

 

「で、ですが……」

 

流石に、このままブラッドの上着をアリスが借りる訳にはいかない。しかし、ブラッドはそんなアリスの心情を察しているのか、いないのか……。

 

「お前が風邪を引く方が問題だ。だから、大人しく着ていろ。それに……俺はこうしていた方がいいんだが?」

 

そう言って、そっとアリスの手を握り締めてきた。

 

「……っ」

 

瞬間、アリスが息を吞む。知らず、顔がどんどん紅潮していくのが分かる。ブラッドは、そんなアリスを見て、小さく笑った。その顔が余りにも優しげで、またアリスの心臓が大きく跳ねた。

 

「あ……ブラッドさ……」

 

と、その時だった。

 

 

“シャララ~ン”

 

 

見事に“ロマンチック測定器”が鳴った。はっとして、測定器を持っているアキラの方を見ると、アキラが「お~冬の海でも鳴るじゃん」と喜んでいる。

 

「~~~~~っ、もう!!」

 

恥ずかしい……っ!!

今日鳴るたびに感じるこの羞恥心を何処かに捨ててきたい……っ。

 

だが、そんな事を知らないアキラは嬉々として、アリスの方を見ると、

 

「なぁ、なぁ、アリス! やっぱ海か!? 海効果すげぇええ」

 

違います……っ!!!

と言いたいが、もう何を言っても墓穴になりそうで、言いたくない。だが、アキラの目的を思えば、黙っているのは得策とは言えないだろう。

 

アリスは顔を真っ赤にしながらブラッドを見た。すると、何故かブラッドはふっと笑い、アリスの髪を優しく撫でてきたのだ。それが何だか、とてもくすぐったかった。が、同時に少し落ち着いてきた。ほっとしたとも言うのかもしれない。

 

アリスは覚悟を決めて、小さく息を吐くと、アキラの方を見た。心を落ち着ける様にして口を開く。

 

「アキラ君。本気で“ロマンチック”を探すなら真面目に聞いて欲しいのだけれど……。わ、私は、海にいるから測定器を鳴らした訳ではないわ」

 

「うん? どういうことだ?」

 

アキラが首を傾げる。恥かしい……でも、アキラの為を思うのならば言わなければ――。

 

「……私は、その……ブ、ブラッドさんの優しさに感動して、と、ときめいたのよ……だから、測定器が鳴ったの……っ」

 

言った!!

顔から火がでそうだ。穴があったら入りたいぐらい恥ずかしい……っ。

 

だが、アキラはというと――。くりっと不思議そうに首を傾げて、

 

「優しさ……? ブラッドの……???」

 

あ、伝わってない……っ。

 

「だから……っ、ブラッドさんが上着を貸して下さったり、手を握ってくれたりとか……そういう行動に私はときめいたの! わ、分かった!?」

 

「お、おお……はい」

 

「ならいいけれど……」

 

と、アリスが疲れたかのように肩を落とす。しかし、そんなアリスとは対照的にアキラは何故か嬉しそうに笑った。

 

「なんかよー今日見てて思ったんだけどさ、お前ら、やっぱ付き合ってんだろ?」

 

「え……」

 

え? 付き……?

 

…………

………………

……………………

 

えええええええええ……っ。

瞬間、アリスが顔を真っ赤に染める。それから、首をぶんぶんと思いっきり横に振って、

 

「つ、付き……付き合ってません……っ。ブラッドさんに失礼でしょう……っ。変な事言わないで……っ」

 

そう口では言うが、もう顔が赤くなり過ぎて説得力がなかった。しかし、アキラはそんなアリスにお構いなしに、

 

「でもよ~よく2人で出掛けてるだろ? それって、“デート”ってやつだよな! ウィルが言ってたんだ!」

 

ウィル君……っ!!

今ここにウィルがいたら、締めているところだった。

 

と、その時だった。不意に「アキラ」とブラッドが口を開いた。

 

「今日は、“ロマンチック”とやらを探す為にアリスまで巻き込んだんだろう? その成果は得られたのか?」

 

「ん? あーまぁ、海は“ロマンチック”な場所かもしれねーけど、流石に寒過ぎんだろ。これがオスカーだったら、ぜってー凍えて、小さくなってるだろうな」

 

オスカーは極度の寒がりだ。容易に想像できてしまう。すると、アキラがふと何かを考える様な仕草をした。そして、

 

「なぁ、なんでオスカーは上手くファンをときめかせられたんだ? アイツも“ロマンチック”が分からねーなら、オレらみたいに、苦戦してても不思議じゃないだろ?」

 

「それは……」

 

確かに、オスカーはそういう類は不得手だろう。だが、オスカーの場合は、

 

「……オスカー君が自然体だからよ」

 

「ん? 自然体?? どういう事だよ」

 

どうやらこの説明では通じないらしい。助け舟を求める様に、アリスがブラッドの方を見ると、ブラッドは小さく息を吐き、

 

「……あくまでも憶測だが、あいつはあまりリップサービスといった類は得意ではない。飾り立てた言葉ではないからこそ、オスカーの素直でひたむきな想いが、市民の心に刺さったのだろう。ましてや、オスカーに会いにきていた市民は、オスカーの人柄に惹かれて応援しているのだろうしな。だから、アリスが“自然体”だと言ったのだ」

 

「好きな人からの、飾らない自然とでる行動や言葉はぐっと刺さるものなのよ。だから、オスカー君は対処出来たの」

 

ブラッドとアリスの言葉に、アキラが「なるほど……」と考え込む。

 

「好き……。それもそうか! 集まったファンは、オレ達を好きだからファンになったんだもんな。って、ん? それが分かってんのに、ブラッドはなんでうまくいかなかったんだ?」

 

「それは……ブラッドさんを好きな市民が他の方よりも多かったから――」

 

「多いから?」

 

多いと何が問題なのか。そこがどうやら分からないらしい。すると、ブラッドは小さく息を吐いた。

 

「多ければ多いほど、相手に求めるものが多様化する。それを俺が捉えきれなかったことが原因だろう」

 

「それは、要はお前の顔とか、その効率ばっかな性格とか、ガミガミうるせーとことか、人によって好きな所が違うって事か?」

 

「……例えに悪意を感じるが、まあ、そういうことだ」

 

「ふーん」

 

アキラは少し考える素振りを見せた後、ふと、アリスの方を見た。

 

「ならよ、参考までに聞くけど、アリスはブラッドのどういうとこが好きなんだ?」

 

 

 

「………………え……」

 

 

 

唐突に、謎の話を振られアリスが固まる。だが、アキラはさも当然のように、

 

「あれだけ、ブラッドに“ロマンチック”な気分になってただろ? って事は、好きなんだよな? どういうとこがいいんだ?」

 

「いや、あの……っ」

 

その話題は、出来れば触れたくなかったのに……。と、アリスが頬を染めながら言い淀んだ。だが、アキラがそんなアリスを真っ直ぐに真剣な眼差しで見てくるので、アリスも観念した様に口を開く。

 

だが――いざ口に出そうとすると、言葉が出てこなかった。しかも、ブラッドがじっとこちらを見ているのが分かる。これは何か言わなければ終わらないだろう。

 

「う……そ、それ、は……」

 

顔が熱い。心臓がバクバク鳴っている。言葉にしようとすると、恥ずかし過ぎて出来ない。でも――ここで言わないと、きっと駄目なんだと思った。

 

「……さっきも言ったと思うけれど、その……ちょとした仕草や、厳しく見えるけれど本当は優しい所も、『ヒーロー』として戦う姿も、素敵だと、思う……から……」

 

「『ヒーロー』として戦う姿……?」

 

「そうよ。アキラ君だってジェイさんに、憧れて『ヒーロー』になったんでしょう? それならば、私の言っている意味分かると思うけれど――」

 

「それは……」

 

アキラがそう言った時だった。不意に、目の前にジャック02の通信が入って来た。

 

 

 

『――エマージェンシー、エマージェンシー。オリーブアベニュー付近に【イプリクス】が出現しマシタ。近くの『ヒーロー』は直ちに現場に急行してクダサイ・・・』

 

 

 

「【イプリクス】……っ」

 

「近いな……」

 

オリーブアベニューは、今いるグリーンイーストヴィレッジ内の区域だ。しかもこのビーチからかなり近い。

 

「ブラッドさん……っ」

 

アリスがブラッドを見る。ブラッドは小さく頷き、インカムのボタンを押すと、

 

「こちらサウスセクター所属のブラッド・ビームス。これよりオリーブアベニューに向かう」

 

ジャック02にそう伝える。するとジャック02がジジ……と音を鳴らした後、

 

『了解デス・・・パトロール中の『ヒーロー』に共有シマス』

 

そう言って、通信が切れる。ブラッドはアリスとアキラを見ると、

 

「よし、行くぞ。アリス、アキラ」

 

「はい」

 

「おう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2025.02.18