MARIKA

-Blue rose and Eternal vow-

 

  Act. Ⅱ アーロンパーク 29

 

 

 

――――アーロンパーク・プール内

 

 

「――――死ねェ! 小娘!!! 恨むんだったら貴様の愚かさを恨むんだな!!!」

 

 

 

クロオビが、レウリア目掛けてその拳を振り下ろしてくる。

 

「―――――くっ」

 

武器も結界の維持でない。

仮契約の精霊を呼び出す銀のナイフも、同じく結界の維持でない。

 

残っているのは、この身体のみ。

 

ゲンゾウを殺させるわけにも、ネフェルティを消滅させる訳にもいかない。

レウリアの後ろには、海域と海域を区切った断絶結界が張られている。

今避ければその結界は愚か、ゲンゾウまで危険な身に合わせてしまう。

 

――避ける訳には、いかないっ!!

 

覚悟を決めたかのようなレウリアに、クロオビがその口元に笑みを浮かべる

 

 

 

「―――――捕った!!!」

 

 

 

クロオビの声と、レウリアがぎゅっと目を瞑るのは同時だった。

 

―――エース! 私に、力をっ!!

 

拳風が一気に襲ってくると同時に、レウリアの腹部にクロオビの拳がめり込んだ。

瞬間、どごおおん! という轟音と共にレウリアが拳に押されて断絶結界ギリギリのラインまで吹き飛ばされる。

 

 

「――――っ」

 

 

しゅううううっと、クロオビの拳がめり込んだレウリアの腹部付近から風が巻き上がっていた。

 

「―――っ、かはっ!」

 

レウリアが耐えきれず、血を吐いた。

その血はじわりと、周りに広がっていく。

 

「ほォ、よく耐えたものだな。そんな小細工で・・・・・・・

 

そう言って、クロオビが自身の拳をめり込ませたレウリアの腹部に視線を向ける。

そこには彼女の片手があり、その片手を護る様に風の壁が出来ていたのだ。

 

だが、完全に防ぎきれなかったのか、レウリアはもうボロボロだった。

それを見たゲンゾウが慌てて声を発しようとするが―――、さっとレウリアがそれを制止する様にもう片方の手を広げ、

 

「へい、き、です……か、ら。は、やく……ルフィ、を――――」

 

かすれる様な声でそう言うと、目の前の敵・クロオビを睨みつけた。

 

「……っ、この程度、なの? 魚人も、た……した、事……ないわ、ね……」

 

そう言って虚勢を張る。

ここで「負け」を認めるのは、「死」と同じだ。

それだけは――絶対に、出来ない。

 

エースと約束した。

その約束はまだ果たされていない。

 

だから――――。

 

すると、クロオビは面白いものでも見たかのように、

 

「ふん、この状態で貴様に何が出来る。安心しろ。お前の後に、あの駐在も、ゴム人間もあの世へ送ってやる」

 

ぴくっと微かに、レウリアの肩が動いた。

だが、クロオビは露とも気にすることなく―――、

 

 

「このままくたばれ、小娘ェ!!!!」

 

 

そう言って、レウリアの首目掛けてその腕にあるエイの刃を一気に振り下ろした。

 

「―――嬢ちゃん!!!!」

 

ゲンゾウの声が遠くで聞こえた 気がした。

 

いけない……意識が―――。

そう思った時瞬間、レウリアのアイスブルーの瞳の色が、美しいエメラルドの瞳に変わった―――様に見えたかと思った時だった。

 

 

「(―――――リアさ――ん!!!)」

 

 

聞き覚えのある声が聞こえてきたかと思うと、クロオビ目掛けて黒い何かが振り下ろされた。

だが、クロオビはそれをたやすく受け流すと――――、

 

「……ふん、たかが人間ごとの攻撃効くはずが――――」

 

と、クロオビが言い終わる前に、二発目のそれが降ってくる。

否、二発だけではない。

何発ものそれが、クロオビ目掛けて放たれた。

 

「ちぃ! うっとおしいわ!!!」

 

クロオビが、黒いそれに向かって拳を振り上げる。

すると、黒いそれは紙一重でその拳を避けると、そのままくるっと回転してクロオビの上空に移動すると、ぶん! という音と共に、渾身の一撃を放った。

 

が―――浮力が邪魔をして、いつもの威力は無かった。

クロオビはあっさりそれを避けると、イライラしたかの様に、その目が充血していく。

 

レウリアはその瞬間見逃さなかった。

 

「ネフェ、ル、ティ……」

 

小さな声で、精霊の名を呼ぶ。

瞬間―――ネフェルティがしゃららんっと、レウリアの上空を回ると、クロオビと自分たちの間に竜巻の壁を作ったのだ。

 

一瞬、視界からクロオビの姿が消える。

その合間に、黒い影がレウリアの傍にやってきた。

 

「(リアさん!! リアさん、しっかりしてください!!)」

 

「…………」

 

この声、は……

薄っすらとレウリアがその瞳を開けると―――そこには、いつ来たのかサンジがいた。

 

サンジさん……?

どうしてここに……。

 

いや、今はそんな事を考えている暇はない。

レウリアは、震える手で断絶結界の外のゲンゾウの方を指さした。

 

「(あっちにいけばいんですか?!)」

 

サンジの問いに、こくりと何とか頷く。

すると、サンジはボロボロのレウリアを横抱きに抱え上げると、そのままゲンゾウ側に結界を超えてやってきた。

 

「息が……なんだ、ここ……」

 

そこから見ると、プールが真っ二つに割れており、丁度自分たちのいる区域だけ、地上と同じだったのだ。

 

「げほっ! げほ、げほっ」

 

不意に腕の中のレウリアが咽る様に咳き込んだ。

瞬間、口を押えていた彼女の手から血が流れ出てくる。

 

「リアさん!!」

 

サンジはレウリアの状態を見て、絶句した。

レウリアはボロボロだったのだ。

 

いつも綺麗に整えている髪も、服も、何もかも――――。

 

「おい、嬢ちゃんは大丈夫か!?」

 

その時だった、ゲンゾウが慌ててサンジの方に駈け寄って来た。

 

「あんたはたしか、ココヤシ村の―――」

 

「いかん! さっきから何発もあの魚人の攻撃を受けていたんだ! 早く医者に見せた方がいい」

 

ゲンゾウはそう言うが、レウリアは小さく首を振ると、ぐいっとサンジの胸を押した。

 

「リアさん……?」

 

「時間が……ごほっ、な、いの」

 

「リアさん、喋ったら―――」

 

そうサンジが止めるが、やはりレウリアは小さく首を振り、

 

「ネフェルティの、あれは……長くはもたな、い、わ。だから……、げほっ、げほっ!」

 

「リアさん!?」

 

「いいから聞いて!!!」

 

レウリアがぐいっとサンジの胸ぐらをつかむと、引っ張った。

 

「サンジさん、は……ルフィの、あれ……を、砕い、て! 今す、ぐに!!」

 

言われてルフィの方を見ると、ルフィの首だけがびよ~んと地上とおぼしき所に伸びていて、身体だけがここにあった。

そして、その足元には例の床岩ががっちりついていた。

 

レウリアはそれを壊せと訴えてきているが―――、

その瞳が、アイスブルーから美しいエメラルドへと変わろうとしていた。

 

「リアさん、瞳が――――」

 

「私の事は、どうでもいい……か、らっ!! はや、くっ!!」

 

そう叫ぶ彼女の顔から脂汗が滲み出ていた。

つらいのを耐えているのだ。

 

本当なら今すぐにでも、医者に連れていきたい。

だが、それは彼女が望むものではなかった。

 

サンジはごくりと息を呑み、

 

「……あれを、壊せばいいんですね?」

 

サンジのその言葉に、レウリアが小さく頷くがその顔色は血の気も失せ蒼白く、とても良いとはいえなかった。

 

急がねェと―――。

 

サンジが、レウリアをそっとその場に寝かせると、ルフィの脚に付いている床岩を壊そうと地を蹴ろうとした時だった。

 

 

「――――話は終わったか? 脆弱な人間ども」

 

 

「――――――っ」

 

突如、後ろから声が聞こえたかと思うと、断絶結界を超えてクロオビの手がサンジに向かって伸びてきたかと思うと、そのまま海域の方へと引っ張られた。

 

「ちっ! 首肉コリエシュ――――」

 

咄嗟に、サンジが回転して後ろ蹴りをクロオビに向かって放った―――が、しかし、

クロオビは、その身を半分海水側に置いておいたのだ。

サンジの放った蹴りが海水側に入った瞬間、浮力で減速する。

 

クロオビは、まるでそれを狙っていたかのように、減速したサンジの足をその手でつかむと、そのままぐいっと引っ張ったのだ。

 

「うぉ!?」

 

「サンジ、さ―――っ」

 

レウリアが、慌てて身体を起こそうとするが、瞬間全身に激痛が走り、身体が揺れる。

それでも阻止しようと、軋む身体を無理やり動かして――――、

 

「ネフェ、ル、ティ……っ!」

 

その名を呼ぶ。

瞬間、海域に連れていかれそうなサンジの身体をネフェルティの風が阻止するために、取り巻こうとするが――――クロオビの方が早かった。

 

「リアさ―――」

 

そのまま、サンジが断絶結界を超えて魚人に有利な方の海域へ連れ込まれていく―――。

 

「―――――っ」

 

間に合わなかったっ……!!!

 

ネフェルティが、困ったかのようにレウリアの周りをくるくると回っていた。

レウリアは「はぁ、はぁ……」と息も絶え絶えに、サンジをつかみ損ねた自身の手をみる。

 

自分は何て無力なのだろうか……。

ルフィを助けるどころか、サンジまで危険な目に合わせている。

 

私にもっと、力があれば……っ!!!

 

よろりとよろめきながら、立ち上がると、この断絶結界の主軸になっている、両サイドに投げた武器と、銀のナイフを見る。

もう、それらはヒビが入り始めていた。

 

もって、10分ってところかしら……。

 

つまり、10分以内にルフィの床岩を破壊し、ゲンゾウと一緒に地上へ上がらなくてはならない。

それに、サンジも放ってはおけない。

あのままでは間違いなく、クロオビに殺されてしまう。

 

その時だった、ぐっと内臓に溜まっていた血が一気に上がってきた。

 

「―――っ、げほっ、げほっ!」

 

咽る様に咳き込む。

口の中が血の味で頭がおかしくなりそうだ。

 

「……、は、や、……けれ、ば……」

 

声も耐え耐えにそう呟きながら、サンジと、ルフィを見る。

もう―――時間は無い。

 

「おい、あんた。 それ以上無理したら死んでしまうぞ!」

 

心配そうに、ゲンゾウがレウリアの元へ駆け寄ってくる。

だが、レウリアは首を小さく振ると、

 

「駐、在……さ……は、げほっ! ルフィ、の……い、わ……破壊に、集、中……て」

 

「いや、しかし―――」

 

ゲンゾウがそう言うが、やはりレウリアは小さく首を振ると、

 

「か、れ……が、アーロン……を……か、ぎ……。げほっ、げほっ!」

 

掌がどんどん血で滲んでいく。

もう、方法を選んでいる余裕は無かった。

 

アーロンを倒すか、それともこちらが全滅するか。

これは、そういう戦いだ。

 

レウリアはよろよろとよろめきながら、この結界の主軸になっている銀のナイフの方へと歩き出す。

 

「おい! 嬢ちゃん、そんな体でどこへ―――」

 

ゲンゾウの声が遠くで頭に響く様に聞こえる。

意識が遠のいていく感覚――。

 

それでもレウリアは、ぽた……ぽた……と、血を流しながら、銀のナイフの方へと向かった。

ネフェルティが心配そうに、自分の周りをくるくる回っている。

 

「ネフェ、ル……ティ、サン……ジさ、ん。加勢、を―――」

 

ネフェルティにサンジの元へ行くように言うが、ネフェルティがいやいやっという風に、首を振った。

そんなネフェルティの様子に、レウリアはくすっと笑うと、血で汚れていない方の手でネフェルティの頭を撫でる。

 

「いい子、に……して、て……ね?」

 

その言葉に、ネフェルティが何かを叫んでいたが、その言葉はレウリアには聞こえなかった。

でも、心配してくれているのだけは伝わってきた。

 

レウリアは、もう一度ネフェルティの頭を撫でると、

 

「ほら、行きな、さ……い……」

 

そう言って、サンジの元へと行くように再度促す。

すると、ネフェルティは少し困ったかのように、くるくるとその場で回ると、一度だけこちらを見た後、サンジの引き込まれた海域の方へと飛んでいった。

 

それを見届けた後、レウリアは再びよろめきながら歩き始めた。

 

早く……、早くしないと―――。

 

もう時間は無い。

海域に引き込まれたサンジも、動けないままのルフィも、

そしてゲンゾウを助けられるのも、すべてを一発で優位にするには……、

 

 

 

    ――――この方法しかないのだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 続

 

 

さて、と

夢主、瀕死中wwww

まぁ、流れ的にクロオビ倒しちゃうと駄目ですからね~夢主が

そこは、サンジの見せ場なんでww

……そういえば、そろそろウソップの方も出さないとなぁ~

 

2023.07.18