MARIKA

-Blue rose and Eternal vow-

 

  Act. Ⅱ アーロンパーク 13

 

 

 

「ベルメール? その人がお前とナミを育てたのか?」

 

ウソップの言葉にノジコが小さく頷く

 

「ええ。 そうよ」

 

ノジコは青く晴れた空を眺めながら呟いた

 

「何から話そうか……ベルメールさんの事――――………」

 

そう呟くノジコを見た瞬間、レウリアは はっとした

 

この人――――……

 

その表情は、凄く懐かしむ様な慈愛に満ちた顔だった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サァ……

風が吹く

 

ボロボロに破けたカーテンの影がナミの視界を横切った

 

「ん……」

 

ゆっくりと思い瞼を開けると、見慣れた部屋が目の前にあった

 

ああ、そうだ…

この家に来てたんだっけ……

 

ぼんやりとそう思いながら、眠い眼を擦る

 

「寝ちゃってたのか……」

 

ふと、自分以外の人の気配がない事に気付く

 

「あれ…ノジコ………?」

 

そこにいる筈の人物の名を呼ぶ

だが、風の音だけがそよそよと聴こえてくるだけで、ノジコからの返事はなかった

 

「……どこに行ったんだろ…」

 

ぽつりとそう呟き辺りを見回すと

破れたテーブルやイス、家具などと一緒にみかんの入った大きな籠が置いてあった

 

そのみかんを見ていると、自然とナミの表情が柔らかくなった

 

……もう少しだよ、ベルメールさん

もう少しで何もかも帰ってくる

 

そう、あと少し

あと少しで――――……

 

みんなの笑う声

幸せそうな笑顔

 

何もかもが帰ってくる

 

ココヤシ村も…

みかん畑も……

 

そして――――………

 

カサリと手元に置いていたあの宝物の地図を手に取る

他人にとっては他愛ない単なる島の地図

でも、ナミにとっては宝物の地図

 

 

 

―――――私の夢も―――……

 

 

 

 

 

 

 

全てが帰ってくるのだ

地図を見ていると、くすりと自然に笑みが浮かんだ

 

「8年…掛かったよ……」

 

8年掛かった

長かった……でも

もう少しでそれが全て報われる

 

 

もう少しで――――………

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 

 

――――8年前

    東の海(イーストブルー) コノミ諸島・ココヤシ村

 

 

ガシガシと、羽ペンを右手に持ち目の前の紙に×印を付ける

最後にその紙に“COCOYASHI”と名前を刻む

 

瞬間、オレンジ色の髪の幼い少女の顔に笑みが浮かんだ

 

「~~~っ できた!」

 

そう叫ぶな否や、両手を広げて喜んだ

 

「できたぁ~~! わーい」

 

嬉しかった

初めてここまで描けた

 

後は……

 

 

 

 

 

カラン……

“BOOK”と書かれた看板の店にこっそりと見つからない様に入って行く

きょろきょろと辺りを見回し、目的の品を探した

 

「あ……」

 

見ると、ずっと上の棚の方に積み重なって置いてあった

 

「あれがあれば……」

 

あの本があれば、完成する

 

もう一度念入りに辺りを見回した

人の気配はない

今がチャンスだ

 

横に掛かっていた梯子に足を掛けると、上段にある分厚い“NAVI”と書かれた本を手に取った

瞬間、ぱぁっと少女の顔に笑みが浮かぶ

 

その本を念入りにスカートの中に仕舞うと、そのまま梯子をそろっと降りた

傍には誰もいない

 

よし……

 

そのままそ~~~と、その場を後にしようとした時だった

 

「おや、なっちゃん? どうしたんだい?」

 

どきい!!

 

少女の心臓が跳ねあがった

ごくりと息を飲み恐る恐る振り返る

 

そこには、この本屋のおばあちゃんが立っていた

 

少女は苦笑いを浮かべながら

 

「あ、あはは、ははは、何でもない。 なんでも、ないの~~」

 

そう言いながらスカートの中の本を器用に背中に回すと、そのまま後退さった

そのまま出入り口の方へと下がって行く

その時だった

 

 

どん!

 

 

背中に何かが当たり、どさりとスカートの中の本が床に落ちた

 

「……………っ」

 

びくりと少女が肩を震わす

恐る恐る瞑っていた目を開けて後ろを見ると――――

 

 

「……………………」

 

 

 

そこにいたのは―――……

 

 

 

 

 

「こらぁ!! ナミィィィィ!!!!! またかぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

 

 

 

このココヤシ村の駐在のゲンゾウだった

ゲンゾウの怒りの鉄槌が落ちたのは言うまでも無かった

 

 

 

 

 

 

「もーはなしてよ~~~~!!!」

 

ずんずんと歩くゲンゾウに猫の様に襟首を掴まれながら、ナミと呼ばれたオレンジ髪の少女は足をバタつかせながら叫んだ

だが、その手にはしっかりとあの本を持って

 

そのまま村の中を歩いて行くものだから、村中の人が笑いながら

 

「おや、なっちゃん。 またかい?」

 

「懲りない子ね~~」

 

などと声を掛けてくる

 

だが、ナミはお構いなしに

 

「も~はなしてったら!! ネコじゃないんだからぁ!! いいじゃない、一冊ぐらい! いっぱいあるんだから!!」

 

と、ゲンゾウに向かって叫んだ

それを見たゲンゾウは怒り顔で

 

「バカたれ!! 本屋に本がいっぱいあるのは当たり前だ!! 商品(モノ)を盗っちゃあいかんと何度言わせるんだ!!」

 

ゲンゾウのその言葉に、ナミは反抗する様にべーと舌を出した

 

「だってウチはビンボーなんだもん。 仕方ないじゃん、ケチ!!!」

 

そう言い返すが―――……

 

案の定相手にされなかったのは言うまでもない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――村の外れ

 

そこは、みかん畑でいっぱいの風景だった

そんな中に、質素な一軒家があった

煙突から、煙がもくもくと出ている

 

そのみかん畑の中をゲンゾウはナミを猫掴みしたままずかずかと歩いて行った

そして、その一軒家の前まで来ると思いっきりそのドアを叩いた

 

 

 

 

「ベルメール! ベルメール!!! お前んとこの悪ネコがまたやらかしたぞ!!」

 

 

 

 

どん! どん!

と、白いドアを強く叩く

 

すると、数分もしない内に背の高い美人風の女性がタバコを吹かせたまま姿を現した

 

「なーに? うっさいわね」

 

そう言ってドアを開けた主はナミを見るとにっこりと笑い

 

「あら、ナミ。 お帰りっ」

 

女性が笑ってそう言うと、ナミも満面の笑みを浮かべて

 

「ただいまーベルメールさん」

 

「やまかしいっ!!!」

 

呑気に挨拶を繰り広げる2人にゲンゾウが思わず突っ込む

 

ゲンゾウは、ベルメールと呼ばれた女性にナミをぐいっと見せつけると

 

「見ろ! これで何度目だ!! 村でも評判だぞ!!」

 

そう言って、ナミの持っている本を指さす

それを見たベルメールはにこっと微笑み

 

「それがどうしたの~? ゲンさんだって、万引きぐらいした事あるでしょ?」

 

「お前がその調子だから……っ!!」

 

ゲンゾウが叫ぶと、ベルメールは口元に笑みを浮かべて

ゆっくりとゲンゾウの頬をぺちぺちとしていた手を、顎の方にずらした

そして、指を絡ませながら

 

「冗談よ~。 わかったわ、代金はゲンさんが払ってくれたんでしょ?」

 

そう言いながら、指をするりと動かす

ゲンゾウがその指の動きに、動揺の色を示しだした

 

半分慌てた様に息を飲む

それを見越したかのようにベルメールはそっとゲンゾウに寄りそうと

 

「ありがとね~、でも、今お金がないの。 だから今度払うわ、か・ら・だ・で」

 

「!!」

 

ひゅんっとゲンゾウがゆでダコの様に真っ赤になる

が――――……

 

すぐさまがに股で後退ると

 

 

 

 

 

「そ、そういう事を言っとるんじゃなーい!!!!」

 

 

 

 

 

 

が―と叫んだ

それを見たベルメールとナミが笑い出す

 

「あら、赤くなっちゃって」

 

ベルメールが笑いながらそう言う

その横でナミも大笑いしていた

 

ちらりと横目でそれを見たベルメールは ごほんと咳払いをして

 

「あら~? あんたは何で笑ってる訳~?」

 

「え?」

 

 

ゴン!!!

 

 

 

ベルメールの鉄拳制裁が落ちた

 

「今度やったら、おしり百叩きの刑だからね!!」

 

脳天に食らったゲンコツは流石に痛かったらしく…

ナミはコブになった頭を押さえながら、半分涙を浮かべ

 

「ううう…ごめんなさい~~。 でも、この本どうしても欲しかったの…」

 

「欲しかったら、どうして私に言わないの!」

 

ベルメールのその言葉に、ナミは俯きながら

 

「どうせ買ってくれないでしょ…」

 

「買ってあげるわよ。 多少のヘソクリはあるんだから」

 

「でも、村の人が言ってたよ! この頃、気候がよすぎてどこの畑もいっぱいみかんが取れるから、ウチのみかんは値も上がらないし…なかなか売れないって」

 

ナミのその言葉にベルメールが、小さく息を吐いた

 

「避けいな事を……」

 

その時だった

 

「ナミはドジねー。 私ならも~と上手く盗んでくるのに~」

 

「ノジコ!」

 

 

ゴン! ゴン!!

 

 

「だから、盗むなっつーの!!」

 

ナミより少し年上のノジコと呼ばれた少女そう言ったが…

案の定、ナミと一緒にベルメールの鉄拳制裁が下った

 

「冗談よォ~~私は~~!」

 

「いったいよぉ~~~!」

 

2人して、頭を押さえる

 

それを見ていたベルメールが突然笑い出した

 

「あっはははははは!」

 

突然笑い出したベルメールを見て、ナミとノジコがきょとんとする

 

「でも、これだけは言えるわねー、ナミの描いた地図ってホント凄いよ!」

 

そう言って、傍にあったあの“COCOYASHI”と書かれた紙を取り出した

そう―――それは地図だった

 

ナミが初めて描き上げた地図

 

「海図の次は地図の描き方も覚えたのねー」

 

そう言って、誇らしげにその地図を眺める

それを見た、ナミとノジコの顔にも笑みが浮かんでくる

 

「これ、この島の地図だよね?」

 

ノジコの言葉に、ナミが「うん!」と頷く

ベルメールくすっと笑みを浮かべて、ナミの頭を撫でた

 

「こ~んな小さな子が描いただなんて、誰も思わないよ」

 

そう褒められると嬉しいのか、ナミの顔に笑みが浮かぶ

 

「えへへー私、今、こうかい術もべんきょう中なんだ!」

 

「へぇ…航海術まで?」

 

その言葉に、ノジコが嬉しそうに

 

「ナミの夢だもんね」

 

「うん! 私は、私のこうかい術で世界中の海を旅するの! そして、自分の目で見た世界地図を作るんだ!!」

 

そう言って、ナミが二カッと笑った

 

「じゃぁ、初めて描いたこの地図は夢の一歩ね」

 

そう言って、ベリメールが笑うとナミは嬉しそうに「うん!」と答えた

 

「世界地図かぁ~! ナミ、あんたはいつか必ず夢を叶えるよ!! きっとね!」

 

そう言ったベルメールは、自分の事の様に嬉しそうだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日は、朝から雨が降り続いていた

じめじめとした空気が部屋中に広がっている

でも、ナミはこの空気は嫌いでは無かった

航海術を勉強するにあたって、天候を読む事は大切だ

ひとつひとつが経験となる

 

だから、雨ひとつであっても勉強になったのだ

 

ベルメールの家では早めの夕食の時間を迎えていた

テーブルには2人分の食事

 

ナミとノジコは豪華とはいえない、むしろ質素とも言えるその食事の時間が好きだった

ベルメール特製の料理に舌を包む

 

目の前の野菜炒めを口に含んだ時、ある事に気付いた

 

そういえば……

 

「ねぇ、ベルメールさん…近頃ごはん食べてないよね?」

 

そうなのだ

テーブルには、料理が2人分だけ

3人家族なのに

 

すると、ベルメールは何か縫物をしながら、さほど気にした様子もなく

 

「んー? みかん食べてるじゃない。 今、ダイエット中なの」

 

そう言ってナミの方を見て、にこりと微笑んだ

確かに、ベルメールの前には食べかけのみかんが置いてあった

 

その時だった

コトン…と、ノジコが食べていた手を止めた

 

「じゃぁ……あたしも ごはんいらない」

 

「な~~~に色気付いてんのよ。 子供はしっかり食べなきゃ駄目っ!!」

 

ベルメールがそう促すが―――……

ノジコは、反発する様に叫んだ

 

「うそばっかり! ウチはお金がないからベルメールさんの分がないんでしょ!?」

 

「ほんと!? ベルメールさん!!」

 

ノジコの言葉に、ナミがはっとする

だが、やはりベルメールはさほど気にした様子もなく

 

ダイエット!! あんた達、みかんの美容パワーをナメちゃイカンわよ。 私が30にしてこの艶やかな肌を保ってんのはみかんのおかげ」

 

そう言って、自分の頬を撫でた

 

「でも、手 黄色いよ」

 

「うっさい!! 黙って食べろ!!!」

 

そうこう言っている内に、ぱちんっとベルメールはハサミで糸を切ると…

 

「さぁ! ナミ~出来たよ!! ベルメールブランドのオートクチュール!!」

 

そう言って、バサッと縫い上がったばかりのお手製のスカートを広げて見せた

だが、それを見たナミは不満そうに

 

「…またノジコのお下がり」

 

「はいはい、ナミ~似合うじゃない」

 

そう言って、ベルメールがそのスカートをナミに合せる

だが、やはりナミは不服そうにそのスカートを掴むと

 

「このライオン、前はひまわりだった!」

 

確かに、スカートにアップリケされているライオンは、以前ノジコが着ていた時はひまわりの形をしていたものだった

 

「だって仕方ないでしょ! ナミはあたしよりも2つも年下なんだから!」

 

ナミに回ってくる服は、いつもノジコのお下がりだった

ナミにはそれが不満だったのだ

 

「年なんてかんけーないわ! 私も新しい服着たい!」

 

「でも、あたしのだって古着だよ!? あんたは妹なんだからあたしのがいくだけなの!」

 

いつものやり取りだった

ベルメールはくすっと笑みを浮かべると、キッチンの方へと歩いて行こうとした

その時だった

 

「でも、本当の妹じゃないじゃない!! 私達、血はつながってないんだもん!!」

 

「!?」

 

それは一瞬の出来事だった

 

 

 

 

  「ナミ!!!」

 

 

 

 

 

 

          ぱぁん!!!

 

 

 

 

 

 

ベルメールがそう叫ぶのと、ナミを引っ叩くのは同時だった

瞬間、自身の手に残る嫌な感触に、ベルメールがはっとする

だが、ぐっと息を飲みナミを見た

 

「ベルメールさん…っ」

 

溜まらず、ノジコが叫んだ

 

声が震えた

ナミを引っ叩いた手がじんじんする

それでもベルメールはわなわなと震えながら

 

「血が繋がってないから何!!? そんなバカな事二度と口にしないで!!」

 

「な、によ……」

 

ぶるぶると、ナミの小さな身体が震えた

叩かれた頬が痛い

ベルメールにぶたれた

その事が頭の中を支配していく

 

瞬間、ナミは目に涙をいっぱい浮かべながら叫んだ

 

「……なによ!! ベルメールさんだって本当のお母さんじゃないじゃない!! 私達なんて本当はいない方がいいんでしょ!!?」

 

「…………!!」

 

言っては駄目だ

頭の片隅で何かがそう囁く

だが、一度関を切った感情は止まらなかった

 

「そしたら、ちゃんとごはんも食べられるし!! 好きな服だって買えるし!! もっと自由になれるもんね!! 私……!! どうせ拾われるなら、もっとお金持ちの家が良かった!!!」

 

 

「……………っ!!」

 

 

ベルメールの表情が今度こそ変わった

だがナミがそれに気付く事は無かった

声を上げて泣きだして、ベルメールの変化に気付けなかった

 

「………そ、う……」

 

ベルメールの声が震える

ぐっと、握っていた拳を更に強く握りしめた

 

「いいわよ勝手にしなさい!! そんなにこの家がイヤならどこへでも出て行くといいわ!!」

 

「やめてよ、2人とも!!!」

 

たまらずノジコが叫ぶ

だが、ナミはキッとベルメールを睨むと

 

「わかったわよ!!!」

 

そう叫ぶと、泣きながら雨の外に飛び出して行った

 

 

 

 

「ナミ! ナミィ――――――!!!」

 

 

 

 

ノジコの声だけが、辺りに響き渡っていた

 

 

 

この時は、思いもしなかった

 

 

    まさか、ベルメールとの最期の別れが訪れようとは―――――……

 

 

 

 

 

            誰も――――想像などしていなかったのだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナミの過去編その1

なんか、キリのいい所で切れませんでした…(^◇^;)

 

これ…2話で収まるのかな~~~

 

2015/04/01