MARIKA
－Blue rose and Eternal vow－
◆ Act. Ⅱ アーロンパーク １
―――――東の海・コノミ諸島 近海
船旅は至って良好だった
海は穏やかで、魚が飛び跳ねキラキラしている
空には、カモメが飛び 天気もいい
ルフィは、船先に寝そべりながら「うひょー！」と気持ちよさそうに声を上げている
風は良好 波も良好
進路は―――――………
「いい天気だぜ――――――――！」
突然ルフィが起き上がると、バタバタと船先から、後ろまで翔って行った
「“偉大なる航路”はあっちかな～？」
そう叫ぶな否や、またバタバタと船先まで翔って来て
「いやいや～それとも、こっちのほうかなぁ～？」
また、バタバタと船内を駆けずり回りはじめ
「あっちな？」とか「いや、こっちの方かな？」とか
とにかく行ったり来たり―――――
「――――――静かにしなさいっ！！」
ゴンッ！！
お約束の様に、レウリアの鉄拳制裁が下った
だが、殴られたルフィはにやにやと嬉しそうに顔をにやつかせていた
「だってよ～、リア！！ついにコックが仲間になったし、お前まで仲間になっただろ！嬉しくってよ～」
そう言いながら、またバタバタと駆けずり回りはじめる
流石の、レウリアも二度目は呆れて溜息を付いた
見かねたサンジが、ふーと紫煙を吐きながら注意を促す
「リアさんが困ってるじゃねェか、少しはじっとしてろ」
すると、ルフィはにかっと笑みを浮かべたまま
「わりぃ、わりぃ。コックもリアも仲間になったし、後はナミを連れ戻して…いよいよ“偉大なる航路”に乗り込むぜ！！！」
その言葉に、レウリアが小さく息を吐いた
「でも、ナミを連れ戻してもまだたった６人でしょう？本当に６人で、“偉大なる航路”に行く気なの？」
今まで何度も“偉大なる航路”に挑むという海賊を見てきた
だが、どの海賊もこんな少数で挑もうという者達はいなかった
それを、ルフィは挑もうというのだ
普通に考えれば、どう考えても無謀な賭けである
レウリアの言葉に、サンジも小さく頷く
「海をナメてかかると痛い目みるぜ？」
だが、ルフィの意思は完全に“偉大なる航路”に向けられていた
それはもう、嬉しそうに
「仲間集めなら、“偉大なる航路”でも出来るさ！なんたって、“楽園”だもんなー」
「「楽園？」」
ルフィの言葉に、レウリアとサンジが顔を見合す
“偉大なる航路”＝楽園という発想は何処から出てきたのだろうか？
むしろ、“海賊の墓場”という言葉は、よく耳にするが
“楽園”と言った者は、流石のレウリアも聴いた事なかった
すると、ルフィはししししと笑みを浮かべながら
「レストラン出る前にさ、オーナーのおっさんが教えてくれたんだ！“偉大なる航路”を“楽園”と呼ぶ奴もいるんだと！！」
その言葉に、流石のレウリアもそのアイスブルーの瞳を瞬かせた
「オーナーさんが、そんな事を……？」
「……クソジジイがそんな事をねェ……」
直接、海軍本部には何度か足を踏み入れた事のあるレウリアでも、“偉大なる航路”は未知の世界だ
４つの海を横切る為に通過はした事あるものの、実際に航海をした事はほぼないに等しい
考え方によっては、“楽園”という人が居てもおかしくない…とも、言えるかもしれない
その時だった、サァッ…と風が吹いた
瞬間、レウリアのプラチナブロンドの髪が風に揺れる
それを見たサンジが、はぁ…と感嘆の溜息を付いた
「やっぱ、リアさんはいいなァ……」
「え……？」
一瞬、何が？という風に振り向いた瞬間、はうううっと、サンジが胸を押さえて蹲った
「え……？ちょっと、サンジさん？大丈―――――― がしぃ！！
「大丈夫」という前に、突然サンジの手がレウリアの腕をがしぃ！と掴んだのだ
「きゃっ……」
流石のレウリアもそれには驚いたのか、声を上げてしまう
だが、サンジにはそれもまた良かったのか…
にやけ顔を、キリッと真顔にしたと思うとレウリアに、迫る様に
「リアさん……、今夜二人っきりでディナーとか如何ですか？」
「は？」
ディナー？ここで？
もう一度言うが…
ここで？←ルフィが後ろで大騒ぎしている船の中
と、その言葉に、反応する様に、ルフィがはいはいと手を上げながら
「おれ、骨付き肉―！！」
「オメーにじゃねェ！！！」
と、サンジが吠えたのは言うまでもない
サンジの、吠えっぷりに、ルフィがむぅ～と頬を膨らませる
そして、足をパンパンと叩きながら
「いいじゃねェかよぉ～～リアばっかり、ずりぃぞ！」
「あら、ルフィ、じゃぁ、代わってあげる」
「え“！？」（注：サンジ）
「いいのか！？やったー骨付き肉！！！！」
ヒャッホーと飛び跳ねる傍らで、サンジが
「オメーには骨付きでもなんでもくれてやるから、おれとリアさんの恋路を邪魔するんじゃねェ！！！」
「……恋路はないです」
と、レウリアがきっぱり言い放ったのは、華麗にスルーされた様だった
ルフィがうきうき顔で
「でも、ナミ連れ戻して全員揃ったら宴だな！！骨付き肉、骨付き肉―！！」
と、小躍りする傍らでサンジがほぅっとナミを思い浮かべて顔をにやけさせていた
「ナミさんか…リアさんにも負けじと劣らないあの美貌…あの美しい姿を思い出すだけで、幸せになるぜェ……早く、またお目に掛かりたいものだ…」
と、うっとりと、語りだす紫煙がハートに見えるのは気のせいだろうか
「それはそうと、心配ね…ナミの向かった先っていうのが……」
あの島だというじゃないか
どうして、ナミはあの島に向かったのだろうか…
「とりあえず、賞金は頂戴ね」
と、そこははっきりさせておくべき所なので、はっきりさせておく
だが、ルフィは特に気にした様子もなく、どかっと船先に腰を下ろすと
「な、ヨサク。もうじきなんだろ？ナミのいる所」
と、その時だった
先程まで存在感ゼロで真っ青になっていたヨサクがパンッと膝を叩いた
「あんたら、甘い！甘すぎるッス！！！」
突然の剣幕に、３人がきょとんと顔を見合わせる
だが、ヨサクは止まらなかった
「大体、兄貴達は“偉大なる航路”を知らなさ過ぎる！！ 今回だって、その辺の認識があれば、ゾロのアニキ達もあっしと一緒に引き返してきた筈！！！ ナミの姉貴が向かった場所がどんなに恐ろしい奴のの元かって事ぐらい、理解出来た筈なんです！！！ あっし等は今……」
「…恐ろしい奴って……」
レウリアが言うよりも先に
「刻々とアーロンの所に向かってるんっすよ！！？」
「「「……………」」」
「メシにすっか」
「そうしよう！！」
「お腹すいちゃった……」
「そこになおれェェェェェェ！！！！！」
「あの時の姉貴の目は、アーロンに釘付けだった……ただ事じゃなかったっす」
今思い出しても、頭に過ぎる
アーロンの手配書を見た時のナミの反応
手配書を握り締め、とても話し掛けられる状況ではなかった
「ナミの姉貴は、アーロンを仕留めて、賞金の２０００万ベリーを手に入れるつもりなんです！こうしている間も、アーロンの屋敷に乗り込んでいるかもしれないんっすよ！！」
その言葉に反応んしたのは他ならぬレウリアだった
「そうかしら…そこまで無謀な事をする人には見えなかったけれど……？それに、アーロンの２０００万ベリーは私が貰うの！ナミでも、あげないわ！！」
「リアさん！素敵だｖｖｖ どこまでも、お供しますｖ」
そういうレウリアとは裏腹に、ルフィは興味なさ気に大きく欠伸をした後
「サンジ－骨付き肉―！！」
「うわあああああ～～～～～～！！！！」
余りの緊張感のなさの３人にヨサクが血の涙を流す
「あんたらまさか、あのアーロンを知らないんじゃないんでしょうねェ！！！」
「アーロンだれだそれ」
「知らん」
サンジの言葉に、ルフィもきっぱりそう言い放った
んがーと顎が抜けた様に、ヨサクが愕然とする
そして、一縷の望みの様にレウリアを見た
レウリアは、苦笑いを浮かべながら
「知ってるわよ？ 一応」
そう言うと、ヨサクがだーと血の涙を流し始めた
「よかった…話の分かる人がいて……」
「でも、アーロンの賞金は私が貰うから！」
「この人も、分かってなーい！！！」
最後の望みも消え、ヨサクがぷるぷると肩を震わせたかと思うと、
ピィ――――――――――！！！！
突然、何処から出したのか、笛を吹いた
「そこになおれェェェェ！！！こうなったら、とことん教えてさし上げるッす！」
そう言って、ヨサクが船の中を歩き始めた
「アーロンは、かつてあの“偉大なる航路”で大暴れしていた魚人なんっすよ！」
「魚人？」
「魚人かァ…おれ、まだ会った事ねェなァ」
「魚人、ね。 まぁ、は知ってはいるけれど――――」
ルフィと、レウリアがそう言うと、サンジはその横で目をハートにしながら
「魚人っていやァ、“偉大なる航路”の魚人島にはそれはもう美しい人魚がいるんだってなァ～」
「へぇ…人魚…会ってみたかも…」
「ですよねェ～でも、リアさんの美しさに敵う人魚はきっといませんよ」
と、何故かがしっと両手を掴まれて熱弁されてしまった
本人、きりっとしているつもりかもしれないが、下心丸見えで素直に喜べない
すると、ルフィが何処からかスケッチブックを取り出し…
何やら、ごそごそごと描きだした
そして――――
「魚人って―――――こんなやつか？」
その出した絵が、まさしく魚に手足が生えており
思わず…
「ぷっ………」
「あっはっはっはっは！傑作だなァ！」
「あんたらに、集中力はないのかァ！！！」
ヨサクは、はぁ…と溜息を洩らすと、どかっと船の中央に腰を下ろした
「わかりやした、最初から説明しましょう！そもそも、“偉大なる航路”が“海賊の墓場”と呼ばれるのは、君臨する三大勢力のせいやと思いやすが…その内の一つの勢力が、王下“七武海”」
「七ブカイ？」
「簡単に言うと、世界政府公認の七人の海賊達の事よ」
レウリアの説明に、サンジが眉をひそめた
「なんですかそれ。何で、海賊が政府に認められてるんですか？」
「それはですね、“七武海”は、未開の地や海賊を略奪のカモとし、その収穫の何割かを政府に収める事で、海賊行為を許された海賊達なんでやす。他の海賊達に言わせりゃ、“政府の狗”に他なりやせんが、奴らは強い！！」
「ほら、マリモさんを討ち敗かしたあの“鷹の目のミホーク”いたでしょう？彼も、王下“七武海”の一角を担う一人なのよ」
その言葉に、流石のルフィも興奮気味に足をパンパンと叩きながら
「そっりゃ、すげーっ！！あんなのが、７人もいんのかよ！！７ぶかいってすげェ！！！」
「………………」
「問題は、その七武海の中の一人、魚人海賊団の頭“ジンベエ“がいる！そのジンベエと肩を並べ、かつて”偉大なる航路“で残虐行為を繰り返していたのが、魚人・アーロンなんっす！！」
すると、またルフィがスケッチブックにペンを走らせた
そして出てきたのはやはり
「こんなやつか？」
「さっきの絵を立たせただけじゃねェか」
「そのまんまよ、ルフィ」
だが、ヨサクの話はまだ続いた
「ジンベエは“七武海”加盟と引き換えに、とんでもねェ奴をこの東の海へ解き放ちまいやがった。それが、魚人・アーロン。アーロンは、今、２０を超える町村を支配してやすそれが、今あっしらが向かっている“アーロンパーク”っす」
「アーロンパークね……」
実際、海軍も手を焼いている…
という事に報告ではなっていたけれど…
実際は、どうなのやら……
「“アーロン”の支配する土地です！！個人実力なら、首領・クリークをはるかにしのぎやす！！」
確かに、アーロンならあのクリークにも勝てるだろう
だが、実際の所はどの程度なのか……
「しかし、何でそんな奴の所に、ナミさんは一人で……」
「だから、奴の懸賞金を狙ってるんっすよ！」
「そうかしら？もっと、別に何か理由があるんじゃないの？」
懸賞金を狙うにせよ、そうでないにせよ、無謀過ぎる
あの頭のキレそうなナミが、果たしてそんな無謀な賭けに出るだろうか……
だが、サンジの中では違う妄想が膨れ上がっていた
「いや、ナミさんは、きっと人魚なのかもしれないぞ？あの可愛さだもんなァ～」
と、うっとりしている所へ――――
キュッキュッキュキュキュキュー
「こうか？」
と、ルフィが出した絵は、先程魚人（直立）に毛が生えて“なみ“と書かれた絵だった
「ブッコロスぞてめェ！！！」
サンジが叫んだのは言うまでもない
余りにも、緊張感のない３人にヨサクが必死になって叫んだ
「あんた方！あっしの話をちゃんと理解したんっすか！！？」
「ん？ああ、強い魚人がいるんだろ？分かったよ」
「いいえ、わかってやせん！！魚人の、強さを分かってない！！！」
「そんなもん、着きゃあ分かんだろうがよ」
「そうよ、心配し過ぎよ、ヨサクさん。しわ…増えるわよ？」
「あっしの話した意味がねェっ！！！！」
「とにかく、メシにしようぜ、何が食いたい？」
「そうだ！メシだ！骨の付いた肉のやつ！！！」
「あっしは、モヤシいため！！！」
と、先程までの空気？はどこへやら、すっかりご飯ムードになってしまった
あれほど、魚人はー魚人は―と言っていた、ヨサクですらこのありさまだ
その様子が可笑しくて、レウリアはくすくすと笑みを浮かべながら
「サンジさん、手伝うわ」
そう言って、サンジの後に続くのだった
◆ ◆
――――――東の海 コノミ諸島・北西部
バサバサと、ノコギリザメにドクロノマークの海賊旗が風に吹かれてはためく
その一角で、不穏な空気の取引が行われていた
「さァ、これが今月の分。収めてくれ」
そう言って、札束がずいっと男の前に差し出された
その男の名は、海軍第１６支部大佐・ネズミ
ネズミは「ちゅ」と声を洩らすと、その札束をすっと当たり前に様に懐に収めた
「アーロン君、君は、並の海賊達とは頭の出来がまるで違う。チチチチ…実に、世渡りが上手い…」
そう言って、懐に仕舞った札束を確認すると、にやりと笑みを浮かべた
瞬間、紫の肌をしたアーロンと呼ばれた男は笑い始めた
「シャハハハハハ！お互いにな！おれの友人になっておけば、この東の海でいくらでも甘い汁が吸える！！それが分かてるたァ…あんたも、かしこい海軍大佐だぜェ」
そう言って、ノコギリザメの様な鼻を鳴らしながら、にやりと微笑んだ
「いつも、悪いな」
「シャーッハッハハッハ！何を今更、水くせェ！！！いい世の中ってのは、金が上手くめぐるもんさ！！！！」
ノコギリザメの様な鼻を高く上げ高笑いをする
「金はいい、何よりも信頼できる…そうだろう？」
アーロンのその声に、ネズミがごくりと息を飲んだ
「…確かに」
「おれは、人間は嫌いだが、てめェみてェな話の分かる奴は話は別だ」
そういって高笑いをする、アーロンから早く離れようと、ネズミはすっと立ち上がると
「それでは、用が済んだので、私は帰らせてもらうよ」
「毎度、せわしねェんだな。たまには、飲んでけよ！！楽しく行こうぜ！！」
「いや、パトロール中の海軍船が、こんな所で泊まってちゃ流石にマズイんでね…」
「本部に、チクる様な奴ァ、おれが殺してやるよ」
そんなことされては、繋がっている事が本部にバレてしまう
冗談では無かった
ネズミは、そそくさと退散する道を選んだ
「いや、失礼する」
そう言って、アーロンの前を通り過ぎていく
すると、アーロンが叫んだ
「オーイ！大佐のお帰りだ！！船まで送って差し上げろ！！」
そう叫ぶな否や、目の前のプールからザバーンとタコ人間の様な魚人がタコ壺を持って現れた
「タコ壺乗んな、送るぜ！！」
そういって、８本ある手の内、一本をくいっと壺の方へと差し向けた
「ああ…悪いね、頼むよ」
「しかし、おめェいつみても、面白い顔だな！ネズミそっくりだ、あははははは」
ピクッとネズミの顔に亀裂が入り掛ける
が、それはアーロンによって止められた
「おい、ハチ！口は慎め、大佐は御得意さんだぜ」
その言葉に、ハチと呼ばれたタコの魚人は、驚いた様に
「おォ！！そうか、すまんな！！まァ、乗れよ！！」
「悪いな、大佐！そいつは、口が悪くてよ！！」
アーロンの言葉に、ネズミは気にした素振りは見せない様に
「いや…いいさ、……チチチチ！！」
ハチはプールに飛び込むと、「よし行くぜ！！」
そう叫ぶな否や、ばちゃばちゃとタコ壺を持って海へ向かって泳ぎ始めたのだった
ネズミは心底思った
……魚人共、薄気味悪い連中だぜ…
だが、いい金づるだ……
その頃――――アーロンパーク東口―――
一人の女が歩いていた
アーロンパークに向かって―――――･･････
アーロンパーク編開始です
でも、まだ序盤の序盤ですけどねー
次回から、本格的にナミの話に入りますよん
その前に、一個回収するけどな
2013/12/17