MARIKA

-Blue rose and Eternal vow-

 

  Act. Ⅰ 海上レストラン 30

 

 

 

突然騒ぎ出したドア口に、ルフィとレウリアは顔を見合わせた

そして、コック達の間をぬって前へ出るとそこに居たのは―――――

 

「ん?何だ……?あれ?ヨサクじゃねェか!」

 

「ヨサクさん?何しているの……?」

 

何故、パンサメに食われているのだろうか…

謎であるが、それは紛れもなくナミを連れ戻しに行っていたヨサクだった

 

ヨサクは、ルフィとレウリアに気付くと

よろよろと、何とか声を振り絞る様に

 

「ああ…ルフィの兄貴に、リアの姐さん……!!」

 

「だから、姐さんは止めて」

 

「何でお前一人なんだ!?あいつらは?ナミは?」

 

「………………っ」

 

ヨサクは何かを言おうとしているが、寒さのあまり言葉にならないらしい

レウリアは、コック達に掛け合って毛布と温かいスープを持って来た

 

「ありがえてェ……」

 

ヨサクは毛布にくるまると、そのスープを一気飲みする

そして

 

「お代り!!」

 

と何度目か分からないお代りを要求しまくった

流石のレウリアも、呆れた様に

 

「少しは遠慮しないさいよ!」

 

と言ったのは言うまでもない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ****    ****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

落ち着いた所で、ヨサクはぽつぽつと語り始

 

「追いついた訳じゃねェんすけどね、ナミの姉貴の船の進路で大体の目的地が掴めたんす」

 

「ふーん。じゃぁ、連れ戻せるじゃん」

 

最もな意見だ

だが、ヨサクの話はそれだけではなかった

 

「それが…その…姉貴の目的地つうのが、あっしらの予想通りだとしたら、とんでもねェ場所で……!」

 

「…………?」

 

ルフィが意味が分からず、首を傾げる

レウリアも、ヨサクの言う意味が分からないのか、一度だけそのアイスブルーの瞳を瞬かせた後

 

「“とんでもない場所(・・・・・・・・)“って何処なの?」

 

レウリアのその言葉に、ヨサクが慌てた様に口を開いた

 

「まァ、詳しい事は後で話しやす!とにかく、ルフィの兄貴とリアの姐さんの力が必要なんです!あっしと来て下さい!!」

 

ルフィとレウリアが顔を見合す

どうやら、何か訳がありそうだ

 

「どうするの、ルフィ?」

 

レウリアの言葉に、ルフィが少しだけ考えた後

 

「よし!なんかわかんねェけど、分かった!行こう!!」

 

そう言って立ち上がると、ヨサクも立ち上がった

そして、そのまま食堂を出て行こうとする

 

レウリアは、オーナーやコック達に頭を下げると、足早にルフィの後を追った

と、その時だった

 

「待てよ」

 

不意に、サンジが声を上げた

煙草吹かし、小さく息を吐く

 

「……バカげた夢はお互い様だ……」

 

「サンジさん……?」

 

サンジが空を見上げる

 

「おれはおれの目的…“オールブルー”の為に――――」

 

「サンジ……?」

 

サンジがゆっくりとルフィを見る

そして――――……

 

「―――ああ! 付き合おうじゃねェか。“海賊王への航路(みち)”とやらに」

 

「……え………」

 

ルフィが驚いた様に目を大きく見開き振り返る

 

「サンジさん…それじゃぁ………」

 

レウリアも驚いた様に、そのアイスブルーの瞳を瞬かせた

 

「お前の船の“コック“おれが引き受ける。いいのか?悪いのか?」

 

「………………」

 

パティとカルネが驚きのあまり顔を見合わせる

と、同時にルフィの顔が今までにない位嬉しそうな顔になっていく

 

 

 

 

「いいさ!!! やったァ―――――――――っ!!!」

 

 

 

喜びのあまり、ヨサクと小躍りまでし始める

 

「良かったっすね!ルフィの兄貴!!」

 

「ああ!!」

 

「「やったやった!コックだ!飯だ!!」」

 

その様子が可笑しくて、レウリアはくすくすと笑っていた

 

「第一、 リアさんをお前らだけに預けておけねェしな」

 

そう言って、ニッとレウリアに笑みを送ってくる

レウリアは一瞬そのアイスブルーの瞳を瞬かせたが、次の瞬間「ありがとう」と言って、にっこりと微笑んだ

 

「―――――そういう訳だみんな、色々迷惑掛けたな」

 

サンジが仲間のコック達にそう声を掛けると、

パティが「けっ」と舌打ちをして

 

「気にくわねェ!てめェは、おれの手でここから追い出してやりたかったってのに、こうも簡単に決断しちまうとはよ!」

 

「……悪かったな、へたくそな演技までさせちまって」

 

「!? てめェ、知ってたのか!!?」

 

「筒抜けだよ、てめェらバカだから」

 

「何ィ!!!?」

 

「……つまり、そうまでしておれを追い出してェんだろ?なァ、クソジジイ」

 

サンジの言葉に、流石のパティもカチンと来たのか

突然、サンジに食って掛かる様に叫びだした

 

「!! てめェは、何でそういう口に聞き方しか出来ねェんだ、コラ!!!」

 

そう叫ぶパティをゼフの左手が止めに入った

そして、「フン」と鼻を鳴らすと

 

「そういう事だチビナス。元々おれはガキが嫌いなんだ。くだらねェもん生かしちまったと後悔しねェ日はなかったぜ、クソガキ」

 

その言葉に、サンジが「はっ」と息を吐いた

 

「上等だよ、クソジジイ。せいぜい、余生楽しめよ」

 

はたから見れば喧嘩別れ

だが、これが彼らのやり方なのだ

 

それが分かるレウリアもルフィも、何もその事に付いては触れなかったのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ****    ****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は―――いい船っすねー使っていいんすか!?」

 

ヨサクの前には、立派は船が用意してあった

コックの1人が用意を手伝いながら

 

「サンジの船だよ、当然だ」

 

そう言って、ロープを掛けて行く

 

その頃、ルフィは厨房で食糧を漁って…もとい、調達してた

 

「まだ持っていくのかよ!!」

 

コックが呆れた様に、厨房の冷蔵庫の中から食材を出しながら言う

だが、ルフィは遠慮という物を知らなかった

 

ズバズバと思いのままに

 

「うん、もっと肉をくれ」

 

「だいたい、おめェら何日航海するんだ?」

 

「知らねェ」

 

その時だった、コツンと音がすると同時に「小僧」とゼフの声が厨房に響いた

振り返ると、ゼフが何かを持ってそこに立っていた

 

「おっさん?」

 

すると、ゼフは持ってた古い書物を差し出した

 

「持ってくか?おれが“偉大なる航路(グランドライン)”に入ってからの1年間の記録だ」

 

クリークが欲しがった、航海日誌

偉大なる航路(グランドライン)”を目指す者なら誰しもが欲しがる“偉大なる航路(グランドライン)”の航海日誌

 

だが、ルフィの出した答えはいたって短調だった

ただ、一言

 

「いらねぇ」

 

きっぱりと、そう言い切るルフィにゼフがくっと笑みを浮かべる

 

「はっはっは、やはりな」

 

予想通りの答えにゼフが笑うと、ルフィもニシシシシと笑みを浮かべた

それだけ言うと、ゼフはそのまま厨房を後にしていった

 

瞬間――――

 

「そっちのしもふり肉もほしぃ~~~~!!!」

 

「いい加減にしとけェ!!!」

 

とコックが叫んだのは言うまでもない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ****    ****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サンジは愛用の包丁を鞄に仕舞うと、鍵を掛けた

包丁はコックの命だ

これだけは、持ってかない訳にはいかない

 

ふと、視界を上げた先にゼフと二人でこのバラティエを立ち上げた時の写真が視界に入った

 

『スゲェなァ!クシジジイ!!これが、海上レストランか!?』

 

そう言って声を上げて喜んだのは何年前の事だっただろうか……

ひとつひとつ見ていく

 

食堂・調理場・そして――――

 

ギシッとホールに降りたサンジはその椅子を引くと、腰かけた

そしてそのまま煙草を口にしたまま、ホールの天井を見る

 

『例えばだ、サンジ……!どんな大悪党だろうと、脱獄囚だろうと…食いたくて、食いたくてこの店にたどり着いたクソ野郎がいたとしたら……おれ達が、この店で戦い続ける意味はあるんじゃねェだろうか』

 

『ああ!』

 

『これから忙しくなるぜ!』

 

『大丈夫さ!おれが、いるんだ!!』

 

「………………」

 

ジジ…と、煙草の火が小さくなっていく

 

『いつまでもチビナスなんて呼ぶんじゃねェよクソジジイ!!』

 

『悪かったな、クソチビナス』

 

早く、大人になりたくて

早く、認めて欲しくて

初めて煙草を口にした時

 

『ゲホッゲホッゲホッ……』

 

『やめとけ、煙草なんざ舌が狂うぜ』

 

『へへ…大人だろ…!!』

 

真っ青な顔でそう言ったサンジをゼフはどう思っただろうか

 

「…………………」

 

ふーと紫煙を吐いた時だった

ふと、煙草を持つ手にある傷が視界に入る

 

ジャガイモの皮むきをしていた時、過って切った傷だ

その皮を見て、ゼフは呆れていた

 

『ったく、皮が厚すぎだチビナス!!!』

 

ボカッ!とゼフの右足が脳天に直撃した

 

『いってェなぁ!!人が真剣に料理を作っている時は、黙って見てろよなァ!!』

 

『なぁにが、真剣だ!生意気言うな!チビナス!!』

 

『おれは、チビナスじゃねェ!!!クシジジイ!!!』

 

初めて自分一人の力でスープを作った時

 

『へへ…食ってみてくれ!』

 

『お前が一人で作ったのか?』

 

『ああ、どうだ!?』

 

ゼフが一口飲んで、一言

 

『ったく!クソマズイぞ!チビナス!!』

 

ボカボカッと、長いコック帽で何度も叩かれた

 

『このクソジジイ!!!』

 

全部、全部、大切な想い出だ―――――

大切な―――――

 

「サンジさん」

 

その時だった、ふと顔を上げるといつの間にか着替えたレウリアがそこに立っていた

 

「リアさん……」

 

サンジも倒れる様に座っていた椅子を直すとレウリアを見る

 

「ごめんなさい、お邪魔だった?」

 

レウリアのその言葉に、サンジは「いえ…」とだけ答えた

そして、もう一度辺りを見渡す

 

ここには、色々な想い出があった

パティやカルネが飛び込みでコック志願してきたり

乱闘騒ぎや、ゼフとのやり取り

 

どれもこれもすべて、ここでの出来事だ

そう―――過去の出来事なのだ

 

「ここには、色々とあったなっとちょっと思ってただけですよ……」

 

少し、感傷的になっているのかもしれない

それを悟られまいと、サンジは立ち上がると

 

「じゃぁ、行きましょうか」

 

そう言って、荷物を持った

と、その時だった

ふと、レウリアの手がサンジの手に重ねられた

 

「サンジさん……もう、忘れ物は無い?」

 

「え………?」

 

一瞬、サンジは何を言われているのか分からなかった

が、次の瞬間、じわりと微かに涙が浮かびそうになってきた

だが、サンジはそれをぐいっと拭うと

 

「おれはもう、先を見る事に決めたんで」

 

それだけ言うと、ぐいっとレウリアを抱き寄せた

この時ばかりはレウリアも抵抗しなかった

されるがままに静かにサンジを見る

 

「でも、少しだけ……」

 

そう言ってぎゅっとレウリアを抱きしめる手に力を込める

レウリアは「はい……」と答えると、静かにそのサンジの背に手を回したのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遅いッスね、コックの兄貴とリアの姐さん」

 

「ああ」

 

ヨサクの言葉に、ルフィが答えたその時だった

コツッという音と共に、サンジとレウリアがバラティエの中から出てきた

まるで花道の様にコック達の間に、船へと続く道が開かれている

サンジはゆっくりとその道を進み始めた

 

と、その時だった

突然背後から――――

 

「積年の恨みだ!!!」

 

「覚悟しろサンジ!!!」

 

パティとカルネが襲い掛かって来たのだったが――――

見事なまでに瞬殺された

 

「お前らじゃ、勝てねェって……」

 

しゅ~~~~~~と蹴り倒されたパティとカルネに、コック達が呆れた様に声を洩らす

 

サンジはそのまま振り返る事無く、コック達の間の道を真っ直ぐ船に向かって歩いて行った

誰も、振り返らない

真っ直ぐ前を見据えたまま

 

船の前までやってくると、レウリアの手を取った

そのままレウリアを先に船に乗せる

 

「行こう」

 

サンジも、荷物を船に乗せるとそう言った

 

「? いいのか?…あいさつ」

 

ルフィの言葉に、サンジはふと笑みを浮かべ

 

「いいんだ」

 

そう言って、自身も船に乗ろうとした時だった

 

「おい、サンジ」

 

不意に、3階のオーナー室のベランダからあの人の声が聴こえてきた

 

「風邪…ひくなよ」

 

「…………!!」

 

その一言が、最後だった

今まで、堪えて堪えてきた物が、堪えきれなくなってサンジを襲ってきた

 

認めて欲しかった

恩を返したかった

 

この人には感謝してもしきれない程の事を教えてもらった

 

「………………!!」

 

堪えていた涙が、ボロボロと溢れだす

しみったれた別れなど、望んでいないのに

それなのに――――――

 

こんなガキの為に自分の足を犠牲にしてまで助けてくれた

無人島に流された時も、食糧を全部くれた

全部、全部、サンジの――――――……

 

 

「……っ、オーナーゼフ!!!」

 

 

 

 

 

「………長い間!!くそお世話になりました!!!! このご恩は、一生忘れません!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

サンジは、床に頭を擦りつけながら泣いた

泣いて泣いて、泣き続けた

 

この人がいたから

この人が助けてくれたから、今の自分はある

 

そして、オールブルーを

この人の夢を自分に託してくれた

 

この人がいたから、おれは――――――

 

ゼフの目にもじわりと涙が溢れてきた

その時だった

 

 

「くそったれがァ!!!さみしいぞぉ畜生ォ!!!」

 

「ざびじいぞ―――――――っ」

 

あのパティとカルネまでもが泣き叫びだした

「寂しい」と訴えながら泣き叫んだのだ

 

「……………!!」

 

それだけではなかった

他のコック達意「ざびじいぞォ!!」「哀しいぞ、畜生ォ!!!」と声を上げて泣き出したのだ

 

嫌われていると思っていた

なのに、皆サンジがいなくなって「寂しい」と「哀しい」と涙をながしているのだ

 

不意に、ゼフがぐいっと涙を拭きながら

 

「バカ野郎どもが……!男は黙って別れるもんだぜ」

 

そう言って、また流れ出てきた涙をぬぐう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いくぞー出航――――――!!!」

 

 

バサッと、ルフィの掛け声と共に、船の帆が張られる

 

 

 

「また逢おうぜ!!!クソ野郎ども!!!!」

 

 

 

そう言って、大きく手を振るのだった

コック達も、声を掛けながら大きく手を振ってくる

 

その様子をゼフはただ満足気に見守っていた

 

死をも恐れぬ信念さえあれば

必ず見つかる筈さ…オールブルーがな……

 


「野郎ども、そろそろ客が来る!さっさと仕事をしくさらせ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      ◆      ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――東の海 (イーストブルー)コノミ諸島・東の沖

 

パタパタと、ノコギリザメにドクロノマークの旗が風に吹かれてはためいていた

ザザーンと波がゆっくりと動き、辺りを静かにしていく

そこへ向かう一隻の船があった

 

 

ゴーイング・メリー号

 

 

それは、あの時ナミに奪われたゴーイング・メリー号だった

 

不意にガチャリと扉が開くと、船の中からナミが姿を現した

そのままゆっくりと、船の先端の方に歩いて行く

 

目の前には、はためくノコギリザメにドクロマークの旗

 

ナミはゆっくりとその旗を眺めながら呟いたのだった

 

「帰って来た」 と

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これにて、バラティエ編終了でーす

以外と、時間掛かりましたなww

 

次回より、Act.Ⅱのアーロンパーク編へ進みます

 

2013/12/05