MARIK
-The Another Side ‟L”-
◆ Another Memory ”L” 2
――――“北の海”
ハート海賊団・甲板
「・・・・・・やっぱり、“北の海”は、“東の海”より、寒いのね・・・・・・紅茶が直ぐに冷めてしまうわ」
そう言って、呑気に甲板で紅茶を飲むプラチナ・ブロンドの髪の女が一人―――――
それは、先日突然「挨拶」と称してやってきた、“東の海”管轄の海軍大佐、リディ・レウリアだった
レウリアは何故か、このくそ寒い外で優雅に紅茶を嗜んでいた
さくっと、一緒にここのコックが作ったというクッキーを一口かじる
「・・・・・・このクッキー美味しいわ。 さっくりしていて、それでいて一緒に入っている小さくカットされたフルーツが絶品ね」
そう言って、もう一枚口に運ぶ
その様子を、シャチとペンギンがレウリアにじ――――と見惚れていた
それに気づいたレウリアが、にっこりと微笑む
どき――――んと、二人の心臓が大きく高鳴る
「い、いいいま、おれみて笑ったよな?」
「何言ってんだ、おれだよ」
と、何故か不毛な争いが始まった
その時だった、船長室へ続く扉が開いたかと思うと、大太刀を持ったローが現れた
「・・・・・・なにやってんだ、お前ら」
明らかにレウリアを見て不機嫌そうに睨みつける
だが、レウリアは気にした様子もなく、紅茶を楽しんでいた
それとは逆に、ローに気付いたシャチとペンギンがあわあわとなりながら
「あ、いや、これは―――――」
と、言い訳がましく口を開こうとするが、ローの鋭い視線で一括されて、口を閉じる
ローはつかつかとレウリアの前まで来ると、そのテーブルをばんっ! と叩いた
そしてその鋭い目でレウリアを睨みつけると
「おい、あんた。 ここで何している。 ことと次第によっては―――――」
と、すらっと大太刀を抜こうとする
「「船長!!!」」
シャチとペンギンの声が重なった
だが、当のレウリア本人は微塵も動揺の色すら見せず、さくっとクッキーを食べながら
「そんなに、カリカリしなくてもいいんじゃないかしら? ローさん」
そう言って、優雅に紅茶を飲む
その仕草が余計に癪に障ったのか・・・・・・
ローが大太刀を抜き切ると、ぴたっとレウリアの首の横に突き付けた
「・・・・・・とっとと失せろ、海軍」
し―――――ん・・・・・・
と、甲板の上に緊張感が走る
シャチとペンギンもごくりと息を呑んだ
ベポですら、右へ左へとおろおろとしていた
レウリアが小さく息を吐くと、かたんっとソーサーをテーブルに置いた
そして、何でもない事の世にローを見ると
「“リア”。 “あんた”じゃないわ。 名前で呼んで頂戴って、以前言ったわよね?」
そう言って、レウリアがにっこりと微笑む
それがローの癪に余計に障った
その手の大太刀をそのままレウリアの今度こそ首に突き付けた
「失せろ」
だが、やはりレウリアは動揺のひとつもしなかった
すっと、突き付けられている大太刀の刃を素手で――――いや、微かに風を発生させて逸らす
「この程度の脅しで引き下がると思う?」
そう言って笑ってみせる
それから、かたんっと席を立つと、カツカツとローに近づいた
さらりと、彼女のプラチナ・ブロンドの髪が海風で揺れる
「ねぇ、ローさん。 何をそんなに警戒しているの? 私が海軍だから? それとも――――」
レウリアが、そっとローの耳元に唇を近づけ
「――――私が“女”だから?」
「――――っ」
ばっと、ローが慌ててレウリアから距離を取る
こいつ・・・・・・っ
いつの間に、あの距離を――――っ
レウリアがくすっと笑う
「ああ、こっちには伝わっていないのね。 私の異名は“翔風”――――風を主に使うからそう呼ばれているの」
“翔風”
その名なら聞き覚えがあった
入隊して、たった4年で大佐まで上りつめたっていう凄腕の海軍将校の名だ
それが、この女・・・・・・だと?
ローが信じられないものを見る様にレウリアを見る
すると、レウリアはにっこりと微笑み
「まぁ、噂には若干尾鰭が付いているみたいだけれど、大体事実よ」
そう言って、くすくすと笑うが――――
ハート海賊団のクルー達は、ぞっとしていた
彼らの聞いた話では、“翔風”と言えば
狙った海賊は逃がさない、とか
残虐非道で、どんな手段も厭わない、とか
厄介な“力”を使う、とか
とにかく、良い噂はほぼなかった
その“翔風”が目の前にいるあの、彼女だという
「せ、船長・・・・・・っ」
クルーがおろおろしながら、ローを見る
だが、ローは鋭い目つきをしたまま
「あんたが“翔風”だったとしても、俺には関係ない」
そう言って、抜いていた大太刀の妖刀「鬼哭」を仕舞うと、背を向けて船室へ去ろうとした
それを見た、レウリアは一度だけそのアイスブルーの瞳を瞬かせると――――
「ドンキホーテ・ドフラミンゴ」
その名を聞いた瞬間、ローの持つ気配が変わるのが分かった
怒気の混じった――――いや、殺気というべきか
禍々しい気配――――
ローの足がゆっくりとレウリアの方に向かう
その身に纏う覇気とも呼べるそれは、一介のルーキーの持つものではなかった
「おい、女」
そう言って、ぐいっとレウリアの襟首を掴み上げると引っ張った
だが、レウリアは抵抗しなかった
せずに、じっとローのグレー・ブラックの瞳を見た
「貴様、どこまで知ってやがる・・・・・・っ」
ギリっと、奥歯を噛みしめる音が響いた
すると、レウリアはすいっとローの腕を払うと、乱れた髪を整える等にプラチナ・ブロンドの髪を後ろへと流し
「どこまで――――? 少なくとも、貴方よりは知っていると思うわよ?」
そう言って、くすっと笑って見せる
そして、レウリアがぱちんっと指を鳴らした時だった、しゃららん・・・・・・と、1匹の謎の生物が姿を現した
「な、なんだあれ!?」
「小人!!!?」
シャチとペンギン達がそれを見てざわめき出す
だが、ローは違った
それを見るなり、そのグレー・ブラックの瞳を大きく見開いた
「まさか、お前・・・・・・“精霊操士”か!!?」
ローのその言葉に、レウリアがにっこりと微笑む
「この子は、風の精霊の“ネフェルティ”。 情報収取能力に長けたとっても優秀な子よ」
レウリアがそう言うと、“ネフェルティ”が嬉しそうにレウリアの周りをくるくると回る
しかし、ローはそれどころではなかった
“精霊操士”
それは、“精霊”に愛されないと得られない力
人間がどんなに望んでも、“精霊”の愛を得られなければ決して手に入らない力――――
故に、“精霊操士”自体が希少な存在なのだ
そして、愛されるだけではない
“精霊”の最も好む色を身体に宿している事
“精霊”に勝てるほどの力を保持している事
これらが揃わないと、彼らとは“契約”出来ないのだ
「は・・・・・・なるほどな」
ローが渇いたような笑みを浮かべてレウリアを見た
「たかが、16か17やそこらの娘程度が海軍大佐になるなんておかしいと思ったんだ」
「・・・・・・私が、“精霊操士”だから、特別待遇を受けたと言いたのかしら?」
レウリアのその言葉に、ローがくっと喉の奥で笑った
「その逆だな、どうせお前の事だ。 その力を行使したのはもっと前だろう。 単にお堅い上層部が若すぎると、昇給を遅らせていた――――の間違いじゃないか?」
ローのその言葉に、レウリアが一瞬そのアイスブルーの瞳を大きく見開いた
それから、くすっと笑みを浮かべ
「まぁ、当たらずと雖も遠からずって所かしら」
そう言って、“ネフェルティ”の頭を撫でる
「――――私はね、“目的”があるの。 本当ならば、もっと早く“大佐”の地位に上がって即刻海軍を脱隊するつもりだったけれど――――なかなか、そういう訳にもいかなくてね」
そう言って、レウリアが少し寂しそうに遠くを見た
「だから、人脈作りしておこうと思って」
「は?」
突然言い出した、彼女の訳の分からない言葉に、ローが呆れた様な声を洩らす
だが、レウリアは至極当然の様に
「だから、海軍抜けたら“目的”の為に人脈があった方がいいのよ。 その方が色々と都合がいいでしょう? だから――――」
そう言って、カツカツとレウリアがローに近づく
そして、小さな声で
「貴方ならば信用に足ると思ったのよ。 トラファルガー・D・ワーテル・ローさん?」
「・・・・・・っ!?」
こいつ、今、なん、って・・・・・・
その名は、誰にも明かしていない
彼ら以外には――――
それなのに
「――――来い!!!」
ローはそう叫ぶなり、レウリアの腕を掴んだ
そして、誰も来るなと言って、そのまま船長室へと向かう
船長室に着くなり、ローはレウリアを思いっきり壁に叩きつけた
そして持っていた「鬼哭」を抜刀すると、その刃をレウリアの首を突き付けた
「貴様・・・・・・どこまで知っている!?」
怒気の混じった声でそう叫んだ
だが、レウリアは平然としたまま
「さぁ? 少なくともあなたが知っている事より多いと思うわ」
「――――話せ。 話さないなら、この首飛ばす」
「・・・・・・・・・・・・」
しかし、レウリアは口を開かなかった
それどころか、くすっと笑みを浮かべ
「首を、ね。 それでもいいけれど――――知りたい事は二度と手に入らないわよ」
「何・・・・・・?」
「よく考えて。 この事を知っている者は、当事者の彼と・・・・・・後は、私の様な“力”を行使出来る者だけだと。 貴方も散々探したけれど、今以上の情報は得られなかったのでしょう? ならば、もっと有効利用するべきではなくて?」
「有効利用、だと?」
ローの言葉に、レウリアがにっこりと微笑む
「そうよ。 私の“お願い”をきいて欲しいの。 その代わり、対価として貴方の知りたい情報を教えるわ。 いわば“同盟”ね。 こういうのは、持ちつ持たれつでしょう?」
「・・・・・・・・・・・・」
確かに、彼女の言う事は一理ある
ここで無理に吐き出させるという選択もあるが――――
恩を売っておけば、今後役に立つ可能性もある
「はぁ・・・・・・」
ローが半分呆れた様な溜息を洩らしながら「鬼哭」を下げ鞘に仕舞う
「・・・・・・良いだろう、お前の条件のんでやる。 ――――だが、もし嘘をいえばどうなるか、分かっているだろうな」
ローのその言葉に、レウリアは少しだけ切れた首を抑えながら
「ええ、約束するわ。 もし、私が嘘の情報を流した時は――――貴方の好きにしたらいいわ」
そう言って、にっこりと微笑んだ
それを見たローは呆れにも似た溜息を再度洩らし
「ここに座れ」
そう言って、ベッドを指さした
「・・・・・・? なに?」
レウリアが言われるままにベッドに腰かける
すると、ローが何処からともなく救急箱を持ってきた
それを見たレウリアが少しだけ驚いた様に
「なに? 治療してくれるの? 自分で傷付けたのに?」
「煩い、静かにしていろ」
それだけ言うと、手際よくレウリアの首に出来た切り傷を治療していく
レウリアは思う所もあったが、大人しく治療を受ける事にした
“ネフェルティ”が心配そうにレウリアの周りをくるくると回っている
それを見たレウリアがくすっと笑って
「大丈夫よ、“ネフェルティ”。 この人は、安全だから――――」
と言ったものの、“ネフェルティ”にとっては大事な主を傷付けた人物だ
しゃー!!!と、ローに威嚇の体制を取る
が・・・・・・
それが、まるで子猫が威嚇しているようで、ローがぷっと吹き出したかと思うと
「は、はは、ははははは!」
大声で笑いだした
「ローさん、笑い過ぎよ」
何だか恥ずかしくなって、レウリアが“ネフェルティ”の頭を撫でながらこほんっと、少し赤くなりながら咳払いをする
それでも、まだローは笑っていた
レウリアは小さく息を吐くと、持っていた契約書を出す様に“ネフェルティ”に指示を出す
すると、“ネフェルティ”がしゃららん・・・・・・と回転したかと思うと、レウリアの手の中の1枚の契約書が落ちてきた
「これに契約条件が書いてあるわ、しっかり読んで納得出来たらサインして頂戴。 本名で」
「本名?」
「ええ、“本名”じゃないと、意味がないのよ これ。 私も本当の名前を書くわ」
まるで含みのあるような言葉でレウリアがそう言った
「・・・・・・・・・・・・?」
おかしな感じだった
まるで、別に名がある様に聞こえる
まぁ、おれには関係ない
そう思うと、ローはざっと契約内容を読んでサインした
そして、それをレウリアに渡す
レウリアはそれを受け取ると、さらさらとそこに名を書いた
“シルヴェスタ・S・ローザ・レティシリア” と
それを見たローが大きくそのグレー・ブラックの瞳を見開いた
「シルヴェスタ・・・・・・? それってまさか――――」
「ローさん、静かに」
レウリアがそう言った瞬間、カッ!と、二人の足下に八芒星の魔法陣が現出した
そして、その紋様が双方の身体に這いあがってくる
「な、ん――――」
そして、その紋様が胸の心臓の辺りに入れ墨の様に八芒星の紋となって出現した
それは、レウリアも同様だった
「これで、契約は成立したわ」
「待て! 今のは一体――――」
「これは“盟約の証”よ。 破れば、それ相応の痛みが走るから気を付けて」
「は!? そんな事、聞いてな――――」
「じゃぁ、これからよろしくね、ローさん。 勿論、こういう仲になったのだから私の事、“リア”って呼んでくれるわよね?」
そう言って、レウリアがにっこりと微笑む
完全に既成事実に近かった
「ふ、ふざけるなあああああああ!!!!!」
と、ローの雄叫びが船室の外まで聞こえたのは言うまでもない
超久々に書いた🤣🤣🤣
言葉使い合ってるかなぁ~~ローの
心配・・・・・・
後、こっそり夢主の本名出てます(本編では出てないぞw)
2023.02.18