MARIK

  -The Another Side ‟L”-

 

 

 Another Memory ”L” 1

 

 

 

――――北の海(ノースブルー)

 

北の海(ノースブルー)

4つある海の中で、一番寒いこの海は生きていくのも過酷な場所だった

 

460年ほど前、死亡率30%を超える疫病「樹熱」により10万人の命が奪われた国まであった

それぐらい、この北の海(ノースブルー)は過酷な海だった

その中を一隻の海賊船が航海していた

 

海賊の名は、ハート海賊団

船長・トラファルガー・ロー率いる海賊船である

 

基本、ハート海賊団は潜水艦仕様になっている為、戦闘を避ける事が多い

だが、この日は運が悪かった

 

珍しく空も晴れていて温かい日だった

だから、浮上して航行していた

 

そしたら、ローの賞金を狙った賞金稼ぎや海賊達がここぞとばかりに襲ってきたのだ

勿論、そんなものハート海賊団の敵ではない

あっという間に、戦闘は終了

逆に、返り討ちにした海賊や賞金稼ぎを海へ放ってきたぐらいだ

 

だが、流石の連戦にクルー達にも疲れが出てきた

そろそろ、勘弁して欲しい

 

だが、それだけローが賞金首として名が上がっているという証拠だ

それはそれで、誇らしい気がした

 

「はー疲れたな~~」

 

「ホントだよな」

 

シャチとペンギンは、ようやく落ち着いた戦闘に、やっと終わったとばかりにその場にへたり込んだ

ふと、その時辺りを見渡してローがいない事に気付いた

 

「あれ? 船長は?」

 

先程まで、戦闘に参加していたと思っていたのに、いつのまにかローは姿を消していた

すると、二人の横でシュッシュッとファイティングポーズをしていたベポが

 

「キャプテンなら、部屋 戻った」

 

そう答えながら、戦い足りないとばかりに、またシュッとパンチをかます

それを見ていた、シャチはははっと笑いながら

 

「ベポは元気だな」

 

「アイアイ!」

 

シャチに言葉に、ベポはガッツポーズをしながら、二カッと笑った

 

このベポ

クマのなりをしているが、戦闘はめっぽう強い

特に、体術に長けているが…

何故か、メンタル面は弱かったりと、中々面白いやつだったりする

「クマのくせに」は禁句である

 

「しかし…船長の名が売れてるのはうれしいけど…」

 

「だな、こうも連戦だと腹減った~~」

 

と、ぐぅ~~~~となるお腹を押さえながら、シャチとペンギンはうなった

いつもは、専属のコックが料理をしてくれるハート海賊団だが

コックも戦闘にも参加していた為、メシの用意などしている筈もなく…

 

すると、コックが呆れた様に

 

「しかたねぇなぁ~今から作ってやるから少し待ってろよ」

 

そう言って、キッチンに入ろうとした時だった

 

見張り台で見張りをしていたクルーの一人が叫んだ

 

 

「やばい!海軍だ!!」

 

 

 

 

「「はぁ!!?」」

 

 

 

このタイミングで!?

と皆が思ったのは言うまでもない

 

だが、その海軍船はどんどんこちらに近づいて来ていた

 

「おいおい、マジかよー」

 

「次は、海軍か……もう、おれ、腹減って動けねェよ……」

 

シャチとペンギンがげんなりしている時だった

ふと、二人の後ろに人影が、見えた

 

はっとして慌てて振り返ると、いつの間にかローが大太刀を持って立っていた

 

「せ、船長……っ」

 

泣き言を言っていたのを聞かれた!

と、ペンギンが慌てて立ち上がる

シャチも、焦って立ち上がろうとして足が言う事を聞かずにすっ転びそうになった

 

瞬間、がしっとローに腕を掴まれた

 

「あ、ありがとうございます」

 

ローの優しさにじぃぃんと感動しながら、シャチもようやく立ち上がった

だが、皆身体はへとへとだった

 

それは、ローから見ても明らかだった

ローは小さく息を吐くと

 

「お前達は休んでろ。おれ一人でやる」

 

「「ええ!?」」

 

驚いたのは、クルー達だ

まさか、船長一人で戦わず訳にもいかず、慌てて「大丈夫です!!」と口を揃えて言い張る

 

それが余りにも意気があっていて、ローは面白いものを見た様に、くっと喉の奥で笑った

 

「無理するなよ」

 

「「はい!!」」

 

船長からの激励の言葉に、皆が元気よく返事をする

だが、実際の所 腹も減っているし、へとへとなのも事実だった

 

いっその事こっちに気付かずにいってくれないかなぁ~などと淡い期待をするものの

海軍船は一直線にこちらに向かって来ていた

 

だが―――――……

 

「撃って…こないな?」

 

シャチが首を傾げながらそう言った

 

確かに、海軍だったらもう砲弾を撃ち込んできてもいい頃だ

こっちは、そう来るとばかり思ていたし、今までの海軍は皆そうだった

 

だが、目の前の海軍船は撃ち込む所か、攻撃してくる気配すらない

 

「「…………?」」

 

なんか変だな?

と、シャチとペンギンが顔を見合わせた時だった

 

海軍船はどんどんこちらへ向かってきた

 

「船長、沈みませんか?」

 

ペンギンがそう進言した

この調子なら、戦わずとも逃げられそうな雰囲気だった

 

だが、ローは真っ直ぐに海軍船を見据えたまま

 

「いや、待て」

 

とだけ、答えた

恐らく、ローも海軍船の異変に気付いたのだろう

 

近づいてくる海軍船から、戦意がまったく感じられないのだった

 

気が付けば、海軍船は、ロー達ハート海賊団のほぼ真横に横づけしてきた

しん…と静まり返った海軍船に、ハート海賊団のクルー達がごくりと息を飲んだ

 

ローは、その海軍船をみながら静かに首を傾げた

この北の海(ノースブルー)では見覚えの無い海軍船だった

 

新顔か?とも思う

だが、そういう雰囲気でもなかった

 

海軍船も真新しい訳でもない、航海を何度もしてきた後もある

そして、何よりも引っかかったのが

“艦風”と書かれた文字だった

 

聞き覚えのない、海軍船だった

 

するとその時だった

ザッと海軍船の甲板がざわめいた

 

来るかと思い、ハート海賊団が身構える

だが、やはり襲ってくる気配はなかった

 

すると、コツリ…とヒールの音が響いてきたと思った瞬間だった

海軍船から一人の女が現れた

 

その女は、そのままふわりと甲板から、柵の上に上がるとローを真っ直ぐに見据え

 

「ハート海賊団船長・トラファルガー・ローさん?」

 

透き通る様な声が聴こえてきた

 

名指しの指名に、シャチとペンギンがローを見る

だが、ローもその女を真っ直ぐに見据えると、静かに「ああ…」と答えた

 

すると、女はにっこりと微笑んだかと思うと、ふわっとそのまま海へ飛び込んだ

 

「「ああ!」」

 

ぎょっとしたのは、シャチとペンギンだった

海へ落ちる――――――

 

そう思った時だった、彼女はまるで羽根でも生えているかの様に、ふわりと浮かぶとそのままハート海賊団の船に着地した

 

皆、唖然と目の前で起きた怪奇現象に目を瞬かせた

 

 

能力者!?

一瞬、緊張感が走る

 

だが、その女は周りをぐるっと見渡すとにっこりと微笑んだ

 

「初めまして、皆さん」

 

そう言って、微笑む彼女にクルー達は息を飲んだ

 

長い金にも見えるプラチナブロンドの髪

吸いこまれそうなアイスブルーの瞳

透き通る様な白い肌に左手首に結ばれた蒼いリボンが印象的だった

そして、細身のその身体に似つかわしくない様な海軍の白いコートがパタパタとはためいていた

 

彼女が、ゆっくりとローに近づくとにっこりと微笑んだ

 

「貴方が、トラファルガー・ローさん? 噂のルーキーの」

 

「……噂かどうかは知らん」

 

ローの淡々とした回答に周りははらはらとするが、彼女は気にした様子はなかった

それどころか、友好的な笑みを浮かべたまま

 

「私は、リディ・レウリア。 親しい者はリアと呼ぶわ」

 

そう言って、甲板を歩きはじめる

コツコツと、ハート海賊団にはないヒールの音が甲板に響き渡った

 

「皆さん、お疲れの様だけれど…どうかしたの?」

 

余りにも自然にそう聞かれたので、思わずペンギンが

 

「いや…ちょっと連戦で疲れてるだけなんで…」

 

「バカ!なにしゃべってんだよ!!」

 

バシッと、シャチが殴ったのは言うまでもない

 

「連戦?」

 

レウリアと名乗った海軍の女が首を傾げる

その言葉に、ローが諦めにも似た溜息を付いた

 

「単に、腹が減ってるだけだ」

 

その言葉と、船上の様子で納得したのか、レウリアは「ああ…」とだけ答えると、子電伝虫を取り出して何かを伝えだした

 

まさか、襲ってくるのか!?

と甲板に緊張が走る

 

だが、数分もしない内に大量の料理が船内に運ばれてきた

余りにも美味しそうなその料理に思わずクルーの皆が「おお!」と声を洩らす

 

だが、シャチだけは警戒した様に

 

「……毒とか入ってたりしないよな?」

 

その言葉に、レウリアはにっこりと微笑んだ

 

「あら、そんなもの入れる位なら最初から攻撃しているわよ」

 

そう言って、くつくつと笑い出す

 

「遠慮なく食べて? お腹空いてたら襲われた時困るでしょう? うちのコックの腕は絶品なの」

 

そう言って、自らも手を伸ばす

まるで、皆を安心させるかの様に

 

平気な顔をして食事をするレウリアに安心したのか、皆ごくりと唾を飲んだ

が、ローが何と言うか分からない

思わず皆してローを見る

 

それを見たローは呆れた様に溜息付き

 

「好きにしろ」

 

船長のOKがでたと、皆がわっと料理にかぶり付きはじめる

 

「うっめー!」

 

「ああ!すきっ腹に、このメシは反則だろぉ!!」

 

余りにもいい食べっぷりにレウリアはくすっと笑みを零した

 

「楽しい船員さんね、ローさん?」

 

だが、ローは訝しげにレウリアを見た

 

「で?あんたは、何の用があっておれらの所に来た」

 

淡々と話すローに、レウリアがにっこりと微笑む

 

「連れないのね、わざわざ東の海(イーストブルー)から来たっていうのに」

 

 

「「東の海(イーストブルー)!?」」

 

 

レウリアのその言葉に、シャチとペンギンががばっと顔を上げる

 

東の海(イーストブルー)といったら、4つの海で最弱と言われる海で、普通にはこちらには渡ってはこれない

凪の帯(カームベルト)を越えても来られない

東の海(イーストブルー)北の海(ノースブルー)赤い土の大陸(レッドライン)に阻まれている

来れる手段は一つ、“偉大なる航路(グランドライン)”を越えて来る事だ

 

「もしかして…“偉大なる航路(グランドライン)”を越えて来たのか!?」

 

シャチのその問いに、レウリアはにっこりと微笑んだ

 

「ええ…といっても、本当に北の海(ノースブルー)に来る為だけに越えたから、通り抜けただけよ」

 

「すげー!!!」

 

おおおお!!!と、クルー達の中に歓声が上がる

偉大なる航路(グランドライン)”は海賊達の憧れの場所だ

いつか、自分達も入るつもりの夢の場所

彼女はそこを通ってきたのだという

 

だが、ローの不信感は益々強くなった

 

そこまでして越えてきた理由はなんだ?

用もなくそんな面倒な事をする筈が無い

ローに会う為だけに来たとは考えにくかった

 

だが、それとは裏腹にレウリアはローの前までやってくるとまじまじとローを見た

 

「ふふ…ローさんは不信感一杯って感じね?」

 

「……当たり前だ」

 

その回答に、逆にレウリアはにっこりと微笑んだ

 

「安心して、北の海(ノースブルー)に来たのは別の仕事で来ただけなの。ただ、ローさんの噂は東の海(イーストブルー)でも聴いていたから、せっかくだし是非ご挨拶しておこうかと思ったのよ」

 

「挨拶?」

 

「そう、挨拶」

 

その言葉に、ローがくっと喉の奥で笑った

 

「戦う前の挨拶か?」

 

冗談めかしてそう問うローにレウリアは、一度だけアイスブルーの瞳を瞬かせた後 ぷっと吹き出した

突然、くつくつと笑い出したレウリアに、ローがむっとする

 

「何がおかしい」

 

ローの鋭い言葉に、レウリアは笑いながら

 

「ああ、ごめんなさい。 そう警戒心全開で来られるとおかしくって」

 

そう言いながら、手を振る

 

「安心して、襲ったりしないから。 ここは管轄外だもの手は出さないわ」

 

「管轄? そんなもの海軍に関係ないだろ」

 

「………そうかもね、でも、個人的にローさんの船を襲う気はないから安心して?」

 

そう言って、にっこりと微笑んだ

 

「………………」

 

なんだか、調子の狂う女だった

こうも、戦う気はありませんと真っ向から言われても、相手は海軍だ信用出来ない

しかも、艦隊を率いているという事は、大佐以上の地位を持っているという事他ならない

その海軍大佐が、自分達は襲わないという

 

何を根拠に信じればいいというのだ

 

不信感一杯で、レウリアを見ているとふと、彼女は胸元から懐中時計を取り出した

 

「あ、ごめんなさい、そろそろ任務にいかないといけない時間だわ」

 

それだけ言うと、コートを翻してコツコツと歩き始めた

 

「おい!」

 

思わず、ローが声を上げる

すると、レウリアはゆっくりと振り返り

 

「今度は、名前を呼んでくれると嬉しいわ」

 

それだけ言うと、来た時と同じようにふわりと宙に浮かぶとそのまま艦風の影に消えてしまった

 

 

 

それが彼女 リディ・レウリアとの出逢いだった―――――………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロー番外編です

海軍時代にローと出会ってます設定でお送りしまーす

 

2013/12/24